亜種特異点 架空氷丘幻想 アイスエイジに関する記録   作:天城黒猫

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銃士と怪談話

 氷礫のライダーという戦力を得た代償として、凛々しい騎士を喪った我々は砦へと戻った。

 道化の仮面をかぶり、騎士としての矜持を捨て、その代わりに道化として人々を笑わせるための存在として生まれ変わった──この場合はドン・キホーテという物語の性質上、正しい姿へと戻ったというべきか──ランサーを見た、砦の面々は、それぞれ違った反応を見せた。セイバーは歯を食いしばり、こう言った。

 

「何という愚かな! 僕は怒りを禁じえません。彼女のような素晴らしい騎士を、ただ嫉妬という感情のみで、陥れ、道化として見立てる──下賤な人間と言うのは、なんという愚かな生き物なのでしょうか。おお、ランサー! 正気を取り戻してください! 美しく、勇敢なあなたはどこに行ってしまったのですか?」

「勇敢、そうですね!」と道化は答えた。

「ええ、私は誰よりも勇敢です──そう、この大蛇に食われようとも、私は諦めません! そら、そら、ご覧なさい! 我が槍裁きは、大蛇の腹をかき回し、硬いうろこを内側から貫いてみせます!」

 

 と彼女は砦の壁めがけて、槍を滅茶苦茶に振り回した。その槍さばきは、お世辞にも上手なものではなく、その重量に彼女の体が振り回されているという形であった。彼女は足を滑らせ、壁に頭をぶつけて気絶した。立香少年は、横たわったランサーを介抱した。

 キャスターは、興味深げな様子で言った。

 

「『道化行進曲・騎士道物語(パリアッチョ・ドン・キホーテ)』でしたか。聞いた話では、気が付いたら氷礫のライダーを撃退していたと。どのような宝具なのかはわかりませんが、ふむ、なるほど。ランサーは、ドン・キホーテという真名に従った行動(ロール)を行うようになったのでしょう。今までのランサーは、この宝具の力に抵抗していたため、生前の通りの彼女であれたのでしょう。ですが、この宝具の真名開放を行ったことにより、ドン・キホーテとして正しい行動をするようになったのでしょうね。つまり、幻に惑わされ、滑稽な行動で観客を笑わせる、道化の騎士(ドン・キホーテ)という英霊として振舞うようになったということでしょうか。いやはや、人の想いというのは恐ろしいですね。事実を捻じ曲げ、ありもしない存在を生み出してしまうのですから」

 

 シールダーはため息を吐くと、次のような言葉を漏らした。

 

「ううむ、お気の毒にのう……これも、呪いというものでありますか。ドン・キホーテという物語に縛られた存在……ふむう、何はともあれ、まずはベッドに寝かせた方がよろしいでしょう」

 

 我々は老人の提案に従い、彼女をベッドに寝かせることにした。藤丸少年は、ベッドのそばで彼女を見守ることにし、キャスターは工房へ、シールダーは自分の部屋へと移動した。また、セイバーは森を監視する任務へと戻った。私は、セイバーの様子を見ようと、彼の元へ移動した。彼は、見張り台に座りながら森を見据えていた。森はは広がる様子はなく、この植物が存在することのできないほどの寒さのなかで、青々しい木々が広がるばかりであった。

 

「どうですか? 何か変化はありましたか?」と私は彼の隣に座ると、言った。

「いえ、特にありませんね」とセイバーは答えた。

「時々、あの氷礫のバーサーカーのものと思わしき声が聞こえてくるだけですよ。やつが攻めてくるような様子はありません。時々、逆にこちらから攻撃してやろうとも思うときもありましたが、あの森に立ち入る気にはなれませんね。あの森にどのような罠があるのかわからないので、危険ですからね──それに、こうやって森を眺めていると、なんだか気分が高揚してくるのです。このまま、この砦で待っていれば、あの森から──あの竜巻の中から敵がやってくる──華々しい敵との戦いが待っていると──そんな思いが湧いてくるのです。僕は、銃士として素晴らしい活躍ができればよいのです。ああ、僕は敵がやってきて、いの一番に飛び出して、戦いたいという思いが湧いてきます。いけませんね、すこし同じ景色を見続けたせいで、妙な妄想をしてしまっているようです。どうですか? しばらく変化もなさそうですし、気分転換に散歩でもしましょう」

「それは良いですね、私も少しの間だけですが、視界が緑ばかりで気が滅入ってしまいましたよ」

 

 とこのようなわけで、私たちは森が広がっている反対側の場所を出歩くことにした。あらためて、この大陸の事を観察してみるとかなり過酷な環境だということがよく分かるのであった。動物や昆虫、植物は魔物やあの森以外に見られず、おおよそ生物がまともに暮らすことができないということが分かるし、時々吹き荒れる吹雪はすさまじく、激しい風や、その風に乗って飛んでくる氷礫の中を移動するのは、たとえサーヴァントといえども難しいだろうし、氷の地面には、時々降り積もった雪によって隠された氷の裂け目があり、その裂け目はかなり深いものなので、落ちたらひとたまりもないということがよくわかる。これらのほかにも、この氷の大陸を過酷なものとしている要因は様々であった。

 こうした環境を移動するときは、様々な用心を行わないといけなかった。今まで、藤丸少年とランサーが移動するときは、少年が様々な旅で培った経験や、カルデアにいるサーヴァントたちからの教え、そして君が渡した礼装の力と、ランサーの鋭い直感によってこうした自然の中に潜む危険を何とかやり過ごしてきたのであった。

 ところで、セイバーことダルタニャンは、『三銃士』に書かれている通り猪突猛進な人間であり、そうした危険があるのならば、回避するようなことは無くガスコーニュ生まれならではの、気性の激しさ、勇敢さで立ち向かおうとするのであった。そうした性質は、英雄としては素晴らしいものなのだろうが、時には自らに危険をもたらす、まさに諸刃の刃なのであった。

 そして、今まさにその諸刃の刃によって我々は傷つけられていた。私とセイバーは、氷の上を適当に歩いていたのだが、降り積もった雪によって隠されていた、深い氷の裂け目に落ちてしまったのである。落下中、私は悲鳴を上げるばかりであったが、セイバーはとっさの判断で私を抱えると、壁に手を伸ばして落下の速度を緩めた。それによって、我々は裂け目の底まで落ちても、無傷でいられた。それは幸いであったが、よじ登ろうにも崖は微妙な角度で、内側に反り返っているのと、あまりにも高いため、この壁を上るのはライヘンバッハよりも難易度が高いのは明らかであった。そのため、我々は崖の中を移動して、上に上がれる道、あるいは登れそうな場所が無いか移動することにした。

 道中、我々と同じように落ちたのか、魔物たちとたくさんであった。彼らは知性があまり発達していないため、こうした氷の隙間に落ちる確率が高いようであった。これらについては、セイバー・ダルタニャンという勇敢なるお伴が軽々と撃退してみせた。そうして、しばらく歩いていると、我々は壁の横に広がる洞窟らしきものを発見した。この洞窟の天井は低いところでも1メートル半、高いところで3メートルほどの高さであり、横幅は狭いところで1メートルということを、ダルタニャンが少しだけ入って調べてくれた。彼は言った。

 

「この洞窟に入ってみるのはどうでしょうか? このまま外を進んでいても、登れそうなところは無いから、()()()()()()で入ってみるのもいいかもしれません」

「そうですな。時にはこうした挑戦も必要でしょう。私には銃がありますが、この攻撃手段は怪物相手ではいささか心もとない──私の身の安全が保証されるならば、それも良いでしょう」

「では決定ですね。ご安心を、護衛は心得たものですから。あなたの身の安全は保障しましょう」

 

 こうして、我々は洞窟の中に入ることにした。ダルタニャンが先頭を歩き、十分に用心しながら進んだが魔物と遭遇するようなことはなかった。また、洞窟をつくっている氷の透明度は非常に高いのか、それとも何かしらの特殊な性質を持ち合わせているのか、洞窟の中は常に明るかった。曲がりくねった洞窟の中をどのくらいの時間、どのくらいの距離を進んだのかはわからないが、一本道だったため戻ろうと思えばいつでも戻れるという安心感があった。

 しばらく進むと、天井から一本の、茶色い棒のようなものがぶら下がっているのが見えた。それは木の根のようで、我々はあの森の真下にまで移動していることが分かった。ダルタニャンは「もう少し進んでみましょう。なにかあるかもしれません」と言った。私はそれに頷いた。果たして、少しばかり進むと洞窟は少しずつ広くなり、やがて縦、横ともに4,5メートル程の広さとなっていた。我々がその空間に突入し始めると、天井から無数の木の根が格子のように絡まり、我々の行く手を遮った。そして、このような歌声が聞こえ始めた。その声は、氷礫のバーサーカーのものであった。

 

「森の中に入ってはいけない 入った子供たちは皆獣に食われた 骨だけになって帰ってきた 薄暗い森の中はワタシの腹の中 入るやつは皆ワタシの養分となり果てる!」

 

 彼女は根の中から姿を現した。片手にはあの斧を持っており、ぎらつく目で我々を睨んでいた。氷海のセイバーは、私の前に立ち、抜刀した。

 

「バーサーカーよ、幼子に手を出すのは気が進まないが、戦うというのならば、敵として立ちふさがるというのならば、容赦はせぬ!」

「ぎゃはははハハハハハ! 愚か 愚か ワタシの前では皆人は肉塊に成り果てる! 森の中 皆 死 斧でぶっ叩いて 何度も 何度も 叩いて ミンチ グシャグシャのバラバラにしてやる!」

 

 彼女は言い終えると、斧を振るってセイバーへと襲い掛かった。彼は、斧による一撃を剣で弾き返した。氷礫のバーサーカーは斧を自由自在に振り回して、セイバーへと襲い掛かるが、彼は素晴らしい剣裁きによって弾き返したり、俊敏さをいかして回避したりしていた。さらに、バーサーカーの武芸はセイバーのものより劣っているのか、彼の攻撃を次々と受けていた。彼女の全身には切り傷が少しずつ増えていっているが、よろけたり、動きが衰えたりするような様子はなかった。攻防の中で、数えきれないほどお互いの武器が交わり合っていた。そうするうちに、やがて変化が訪れた。セイバーの全身に無数の切り傷が発生し、そこからいくつもの血が噴出したのだ。

 セイバーは膝を着いて、言った。

 

「これは……宝具の……能力か……?」

「ギャ、ハハハハハハハ! 終わり これで セイバー、死んだ──これでお前は終わりだ!」

「いいや、いいや! まだだ、まだ、戦えるぞ! 全身の傷などどうということは無い! おお、我が友よ、我が勇敢なる仲間よ! すなわちアトス、ポルトス、アラミス! 君たちの力をここに! 我等、莫逆の四友なり! 『三銃士の四重奏(クロワイヤン・オブ・フォール)』!」

 

 それこそは彼、ダルタニャンの宝具であった。彼がその名を叫ぶと、彼はばね仕掛けのように素早く立ち上がると、傷のことなどお構いなしといった調子で、動き始めた。そのうえ、その動きはこれまでに見せた彼の動きとは全く別物であった。剣裁きはより鋭く、力はより強く、動きはより早くなっていた。彼は次々とバーサーカーの体に剣を突き立てていった。この状況で有利不利を決定するのならば、明らかにダルタニャンの方が優勢であった。とうとう、バーサーカーの体は壁に激しく叩き付けられた。銃士は最後の一撃を加えようとしたところで、木の檻の向こうから一人の女性がこちらに歩いてきた。その女性もまた、サーヴァントのようだった。

 彼女の姿は美しいものだった。腰まで伸びた金の髪、その髪を彩る髪飾り、純白のドレス、見るものを惚れされる、鋭く細い目に、蠱惑的な笑みを浮かべていた。彼女は言った。

 

「あら、バーサーカー。やられてしまったのね。いえ、まだ生きていますわね──それに、お久しぶりです。ダルタニャン。まさかこうして再会するとは思いませんでしたわ。ごきげんよう。そして、出会ったばかりなのだけれども、さようならね」

「貴様……貴様は! なぜ、ここにいる! おのれ、お前は邪悪なる魔女だ! 生かしてはおけぬ!」

 

 ダルタニャンは血相を変えて、彼女に襲い掛かった。しかし、彼女は片手を突き出して小さく何かをつぶやくのみであった。すると、彼女の手のひらから、黒い百合の花が出現した。それは紫色の──不気味とも、魅力的とも、どちらともいえない、幻想的とでもいうべきか、そのような印象を持つ光を放った。私はの光を浴びると、たちまちのうちに意識が遠のいてしまった。それはダルタニャンも同じだったようで、私の意識が完全に失われる直前に、彼の倒れる姿が見えた。やがて、私の意識は全くの暗闇となった。

 

 

 




 

この4月、高校を卒業して春休みとなるのですが、自動車教習所に通うため毎週投稿ができるかどうか、少し怪しい状態です。申し訳ありませんが、次回の投稿は来週、あるいは再来週になると思います。

次回予告!
【食堂にて】
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