亜種特異点 架空氷丘幻想 アイスエイジに関する記録 作:天城黒猫
……申し訳ありません。前話から一ヶ月以上が経過しています……いや、車の免許取得やら、会社に入ったことやらでこの春、色々とリアルが慌ただしくてなかなか小説を書く時間が取れなかったのです。投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません。本当に……
私が少しの間散歩に出ている間に、衝撃的であると同時に悲しい出来事があった。というのも、あの勇敢なセイバー、ダルタニャンが氷礫のバーサーカーにやられたというのだ。これは氷海のシールダーから聞いた話であり、あの森から飛び出てきたバーサーカーは、この砦の壁を叩き壊そうとしていたので、見張りをしていたセイバーはそれを止めようとするのと、撃退しようとるために氷礫のバーサーカーと交戦したのである。その戦いの跡地の地面はあちこちが酷く抉れていたり、砕かれたりしており、これらからその戦いがいかに激しいものだったということが分かった。そして、その戦いの末にセイバーはバーサーカーの元に敗れたというのだ。老人はこの様子を、偶然砦の窓から見たというのだった。現在、バーサーカーはセイバーを撃破したものの、彼女も手痛い一撃を貰ったため、森の中に引きこもっているという。
立香少年は、夕飯後この知らせを聞くと驚き、悲しんだものの、帝都のキャスターと氷海のシールダーとの慰めによって、元気な様子を取り戻した。しかし、ランサーの様子は相変わらずのままであり、彼女が戦力になることは無いというわけで、現在我々の戦力はほぼ皆無といっても良い状態であった。私は言うまでもなく、帝都のキャスターは使い魔を造ることはできても、サーヴァント相手ではその力はいささか頼りないものだし、氷海のシールダーもその姿そのままに、能力は老人そのものであり戦う力は無いのである。我々はこうした状況を重く見、食後はこれを議題にし、話し合いを始めた。
「私が直接戦うことは難しいです」と帝都のキャスターは言った。
「私はキャスターのクラスではありますが、魔術という物はあまり得意ではありません。正直、今作っているオートマタも専門ではないので、そこらの魔術師が造ったものと比べると、性能は落ちます」
「そうですな。儂も戦うことはできませぬ」とシールダーも続けていった。
「儂は見ての通りの老いぼれであります。いえ、この銃剣を使うことはできますが、サーヴァントと戦うとなると、これは棒切れ同然のものですじゃ」
「氷海のランサーは?」と立香少年は言った。
「未だにあの状態ですよ」とキャスターは答えた。「何とか、彼女を元の様子に戻せないか、色々と実験してみましたが、やはり宝具の力なだけあって元に戻すのは不可能でした。理性の消失に加え、ステータスも前よりダウンした状態では、戦力としては我々以下でしょうね。状況は絶望的と言っても良いでしょう」
「そうか……そういえば、ワトスンは戦えるの?」
「私ですか?」と私は言った。
「銃こそは持っていますがそれもサーヴァントに通じるとは思えません。なんせ、この氷の大陸に潜む怪物たちにですらも効かなかったのですから。私にできるのは、生前と同じように、誰かの活躍を記録することぐらいでしょう。それすらも宝具としての能力を持ちませんが。私という存在は、貧弱な幻霊にすぎませんから」
この場にいる全員は沈黙した。しばらくして口を開いたのは、シールダーであった。
「一つ言えることがある。それは、この砦に籠ってさえいれば、敵はやってくることがないということでありますな。そう、この砦にいる限り、敵はやってくることはないのですじゃ。永遠に。このことは誓いますじゃ。神に誓って、敵はやってくることはないのですじゃ。ですから、この砦にいれば、身の安全は保障されるのであります」
「そうだね」と少年は言った。「ここにいれば安全だ。暫くはこの砦で過ごそう」
「それが賢い選択ですじゃ。この砦にいる限り、敵はやってこないのであります……そう、敵はやってこない……未来永劫……敵と戦うことはないのであります……」
と老人はどこか遠くを見つめるような目で天井を見つめながら、こうしたことを繰り返し呟いた。続いて、帝都のキャスターが口を開いたが。その言葉はこの部屋の扉を勢いよく開き、入ってきた氷海のランサーによって語られることはなかった。仮面をかぶった狂乱の騎士は踊るようにしながら、やかましい声で言った。
「おお、皆さま! ごきげんよう、気分はいかがで? 本日の天候は快晴! ですが、明日はきっと吹雪! きっとそんな気がするのですよ。吹雪とあっては、外を出ることはできず、この薄暗く、埃臭い砦のなかで引きこもっていることになるのですが、それではさぞ陰鬱な気分になること請け合い! ですがご安心を、この私が来たからには陰気の魔物などこれこの通り、吹き飛ばしてごらんにいれましょう! と、その前にこの部屋の半分を占領しているその長机をどかせてもらいます! よろしい、それでは始めましょう!」
道化は、長机を部屋の端に寄せ、空いた場所には椅子を並べ、我々は並べられたそれに座った。ここまで、我々はなすがままであった。次に、彼女は机の上にカーテンやらシーツやらを被せ、その上に立った。その様子はさながら即席の舞台であった。役者は舞台の上で一例し、舞台の端から端まで移動したり、踊ったりしながら言った。
「我が名はドン・キホーテ! 騎士道物語を飾る幾多の騎士の一人である! さあ、お客様たちよ。今、この城の外は悪しき魔女の吐息が吹き荒れている! その吐息に触れた者はたちまちのうちに全身が氷づけになり、やがてはいくつもの氷の像が並べられている部屋へと連れ去られ、魔女のコレクションの一つになってしまう! おお、これでは幾多もの困難を乗り越えた私といえどもこの息吹の中を超えるのは流石に厳しい! 普段ならば、この困難を乗り越えるために道具やら何やらを探すのですが、今は新しい私の従者がいる──ならば、今宵は特別に私の今までの活躍を語るとしましょう! さあ、さあ! 御覧なさい、今宵は特別な時間となります! 皆さま、どうか客席にお座りください! 桟敷の皆さまは、体を乗り出すあまり落ちないようにご注意くださいませ! では、開演といたしましょう──これは、一人の騎士の物語! 円卓の騎士やシャルルマーニュの騎士たちと引けをとらないその活躍をいざご覧くださいませ! まず、私は初めに騎士となるために荘厳なる城にて、鎧をあらゆる悪鬼羅刹から守り──」
それから、彼女は『ドン・キホーテ』に書かれている主人公の活躍、すなわち狂乱の騎士による目線による活躍というものを、口と体とで表現した。その様は、シェイクスピアやデュマといった面々を始めとした、あらゆる劇作家が創り出したシナリオに、一流の名役者が演じる演劇そのものであった。しかし、その演劇の種類は単純な英雄譚とも、あるいはコメディーともとれた。それはすなわち、主人公の語る数々の活躍が、あの小説に書かれているような、主人公の妄想によるものであると我々が理解しているからであった。
私がそうしたことを考えているうちに、劇はいつの間にか佳境へと突入していた。そして、役者は演目をすべて終えると、拍手の中、私たちに一礼しこう言った。
「このように、私は誰よりも強く、誰よりも勇敢な騎士なのです。このことはこうして私自身が語り聞かせるのはもちろんですが、実際にその活躍を示すことによって、それは証明されるでしょう! 明日になれば、魔女も疲れ果て、吹雪も収まるでしょう。その際には、私はあの恐るべき森の中に突入し、その中に潜む数々の魔物を無双の槍裁きで蹴散らしてごらんに入れましょう!」
「それはだめだ」と藤丸立香少年は言った。
「それは危険だ。ランサー、今は動くことはやめよう」
「臆病風に吹かれましたか! おお、我が主よ、なんと情けない。御覧なさい、あの森を。あの木々の下に広がる暗闇を。なるほど、確かにあの森の不気味な形をした木々や草花、そして怪物の口のような暗闇を見ると、森の中に入ろうという気持ちなど、なくなってしまうでしょう。ですが、それがどうしたことか! 私は誰よりも勇敢で、誰よりも強き騎士! あのような森、恐れる必要はないのです!」
「いいや、駄目だ」と少年は繰り返した。
「ランサー、君は狂っているからこそ、恐れをしらないんだ。あの森には、立ち入ってはいけない」
「そうですね、私も同じ意見です」と帝都のキャスターは言った。
「あの森には、入らないが吉でしょう。この未知の氷の大陸に突然現れた未知の森、我々には戦力、数、情報──そのほか、あらゆるものが足りていないのです。ですから、今は行動を起こすべきではないでしょう。我々が死ねば、この特異点を始末することはできないのですから。ランサー、あなたが勇敢な騎士だというのは、まぎれもない事実でしょう。ですが、勇敢は一歩間違えれば無謀へと変わります。無謀な行いをするものは、騎士とは呼べません。それは騎士などではなく、ただの愚者なのです。本物の騎士ならば、今はこの砦で、変化が来るのを、敵がくるのを待つのが良いでしょう」
こうしたキャスターの言葉に、ランサーはさきほどのような元気にあふれた状態から、何かを考えこむような様子を見せた。実際、彼は「なるほど……それは最もだ。愚者ではなく騎士……この場では……」と呟いていた。続いて、氷海のシールダーが言った。
「儂も、皆と同じ意見でありますじゃ。セイバーがいなくなった今や、我々にできるのはただただ耐え忍ぶだけですじゃ。なあに、儂は耐え忍ぶという行為、待つという行為には慣れておりますじゃ。今は待ち続けましょう。いつかはランサーが正気に戻って、十全の力を発揮するかもしれないですし、あるいは新たなる強力な力を持つサーヴァントが召喚され、我々の味方になるかもしれませぬしな。何……この吹雪が収まれば、何かが起こるかもしれませぬ……そうでなくとも、きっと変化はいずれ訪れるでありましょう……今は待つのですじゃ……そう、どのくらいでも……」
彼は後半になると、天井、あるいはその先を見上げて、そうつぶやいた。この老人は時折このような様子を見せるのであった。私は精神的な医学にはいささか精通してはいないものの、この老人の症状は彼の言葉の通り、何かを待望する、あるいは昔を思い出すという、老人に時々見られるというものであったから、私は何かしらの処置を行う必要はないと判断した。それに、精神的な病という面では、ランサーの方がよほどの重症であった。彼女がこのようになってから、あまり時間は経っていないものの、我々は彼女の症状がどのようなものであるか理解できていた。そのうで、私はさらなる観察によって、彼女の症状がどういうものか、十分な考察ができるまでの材料をすべて拾い集めたのであった。とはいえども、私は君のように賢くもなく、ここで私の考えを披露してもおおよそ見当違いの事を述べてしまうだろう。しかし、唯一確実なことは、彼女は彼女の宝具の力によってこのようになっているということである。ドン・キホーテという英霊が持つ宝具の名は、『
ランサーは、しばらくの間考え事をするかのように、何かをつぶやきながら机の上を歩き回っていた。しかし、ふとした瞬間に彼女は足を滑らせ、机の上から転がり落ち、我々が叫ぶ暇もなく地面にその体をぶつけた。私が駆け寄ってみると、彼女は気を失っていた。我々は、彼女を藤丸少年の部屋に担ぎ込み、ベッドに寝かせると、その場でお開きとなりそれぞれが自分の部屋へと帰っていった。私もまた、彼らと同じように自分の部屋へと戻った。ランサーの演劇によって、いつもよりも寝る時刻が遅かったため、私は今日の分の記録は明日の朝に行おうと思い、枕元についた。しかし、目を閉じていると、暗闇の中であらゆる考え事が浮かび、なかなか眠ることができなかった。どこかで水漏れでもしているのか、一定の間隔で雫が落ちる音もそれを助けていた。こうなっては、すぐさま眠ることができないと判断したので、私は起き上がり、このまんじりともしない夜を、眠くなるまで部屋の中をうろついて過ごすことにした。
最近は落ち着いてきており、小説を書く時間もある程度確保できているので、来週あたりまでには投稿できると思います。
それと、この話で前回から場面が飛んでいるというか、変わっていますが、これで正常です。
次回予告!
【真夜中のささやき声】