ホウエンからのパートナーと共に自立目指して試練に挑戦中。しかしアローラの島巡りは過酷そのもの、言うことを聞かないパートナーにも苦労しながら少女は段々と成長していく。
pc整理したら出てきたので供養がてら公開しときます。
アーロラ地方。温暖な気候が特徴四つの島からなるこの地で独自の姿と力を得たポケモンたちもまた人間と共存し、力を合わせて生活していた。
他の地方と異なりジムもポケモンリーグもまだ存在しない土地ではポケモントレーナーとなった少年少女たちは『島巡り』と呼ばれる風習に挑み、成長していく。
そんなアローラ地方の島の一つ、メレメレ島の大地に今一人の少女が降り立つ。
「眩しい……船の上もそうだったけど、日差しキツい……」
黒の日傘で日光を遮りながら見送る船が遠ざかっていく海の照り返しに手で視界を覆い隠して嘆息する。船上では今も付添人だった女性が手をひらひらと振っていたが少女にはもう見えない。
やがて日傘の影から木陰、乗船所近くの建物の影へと影から陰へと移動しながら少女は手元のメモ書きに目を落とす。
地図とその上にデフォルメされた人の顔の絵が描かれ、伸びたフキダシに『君のお家だよ』とコメントが付いており、その下には箇条書きでいくつかの単語が並んでいる。
「あの人、世間知らずっぽいのによく家とか用意出来たなあ」
乗船所ーーハウオリシティ ポートエリアを抜け、ショッピングエリアを少女は進む。白銀の長髪が太陽に透けて煌めきながら、ファーのついたパーカーの赤いフードと共に首の下で揺れていた。
興味なさげな口調とは裏腹に道行く人々とポケモンたちを日傘で顔を隠しながら伺うその瞳は確かな輝きが宿っている。
目的地に向かう途中で通り掛かった観光案内所の前に置かれていたパンフレットをさっと抜き取り、メモと入れ替えて開く。
「ライドポケモン……本当に全然違うんだ」
観光客向けのQ&Aコーナーに書かれた記述を読み、異国に来たという実感が湧いてくる。
アローラ地方では他の地方と異なり原則的にはライドギアと呼ばれる機器に登録されたポケモンにしか騎乗する事が出来ないという法律がある。他地方では特定のジムバッジを持つトレーナー、または申請し、審査に合格した者にはその許可が与えられていたがジムのないアローラでは訓練されたポケモンを牧場が貸し出すという形になっているのだ。
「……着いた。此処だ」
パンフレットを読み終える頃にはハウオリシティの外れ、目的地である家に到着していた。家の前のポストを見ればご丁寧に用意するよう手を回していたのだろう『ラトスの家』とご丁寧に少女の名前が刻まれていた。
あらかじめ渡されていた鍵を差し込み、家の扉を潜る。一人で住むには広い平屋、中は想像していたよりも綺麗で、想像通り家具のほとんどがない殺風景な内装だった。もう一つ扉を潜ると備え付けなのかそれとも用意したものかは分からないがベッドとテレビが置かれている。
ベッドの上に少ない手荷物を起き、全開になっているカーテンを全て閉めた後でようやく少女は室内でも開いたままだった日傘を閉じた。
「出ておいで」
腰のベルトに装着されたモンスターボールを手に取り、船旅の間ずっと入りっぱなしだったポケモンを呼び出す。
「……クーチッ」
ボールから飛び出したポケモンは眠たげに目を擦った後、手足をぐっと伸ばして凝った(気がする)体をほぐしている。
やがて周囲を見渡し、カーテンの隙間に頭を入れて外の景色を眺め始めた。
「此処が新しいお家だよ。眩しい所だね、クスクス」
クスクスと呼ばれたポケモンはアローラ地方とはそういう所だ、とでも言いたげな呆れた鳴き声を発した。洞窟に生息するポケモンではあるがラトスと違ってクスクスは日の光を苦手とはしていない。アローラの気候も苦ではなさそうだ。
「おーい」
チャイムが鳴り、扉の向こうから人の声が聞こえてくる。聞いていたこれから世話になるであろう博士が来たのだろう。ラトスは窓から離れて部屋を歩き回るクスクスを眺めた後、自由にさせておこうと一人で玄関に向かった。
「やあ、『ホウエン』からの長旅ご苦労様」
来客は予想通りの人物だった。予想外だったのは玄関を開ける前にしれっと上がり込んでいる事だ。鍵を閉めなかった自分にも非があるとはいえ、今後は絶対に鍵を閉めようと決意する。
「彼女から聞いているとは思うけど、僕がククイです」
水着のようなハーフパンツに白のキャップ、サングラスに上半身は裸で白衣だけを纏った男性はそう名乗る。正直、話に聞いていなければ身の危険を感じる風貌だった。
「このアローラでポケモンの技の研究をしているんだ」
「はじめまして、ラトスと申します。この度は急な頼みをお引き受けいただきありがとうございます」
「ははっ、堅いなあ。いやしっかりしてるって言った方がいいのかな?」
ククイはフランクに笑い、気にしなくていいとラトスに伝える。こうして話してみるとあの人との関係がますます想像つかないな、ラトスは内心で思う。あの人が苦手そうなタイプだった。
「確かに突然の頼みだったけど、頼られて嬉しかったよ。あの子も変わったみたいだね」
「どうなんでしょう。私はよく知りませんから」
「そうなのかい? ああ、でもらしいと言えばらしいのかな」
メレメレ島までの付添人の女性はラトスを置いてククイに挨拶する事もせずに別の島に旅立った。『島巡り』をする歳ではないだろうが彼女も彼女なりの『島巡り』をするのだと言っていた。
「体調は大丈夫? よく休めたかい?」
「……今さっき着いたばかりなので」
「ええ!? 時差もあるからって説明したんだけどなあ」
「私は大丈夫です。日差しはキツいですが」
ラトスは生まれつき日光に弱かった。白い肌と白銀の髪、紅い双眸もラトスの体質によるものだ。とはいえ生まれてから十年以上ずっと付き合ってきた問題、アローラの気候との付き合い方も徐々に分かってくるだろう。
「博士にわざわざ来てもらったんです、私の事は気にしないでください」
「やる気満々って感じだね」
「約束ですから。『島巡り』を終えたら家を出ていいって、あの人との。あんなのでもお世話になった人です。でもいつまでも甘えてはいられません」
それがラトスがアローラ地方を訪れた理由だった。あの人は基本的に放任でホウエンの自宅に帰って来ない事もしばしばあったが、それでもラトスが家を出る事は許さなかった。大人しくお世話されていなよ、というのはあの人の言葉だが直接お世話になった記憶はほとんどない。だがある時、何度目かの打診でそれならと提案してきたのがこのアローラ地方での『島巡り』だ。島巡りを終えたなら好きにしていい、そうあの人はいって驚くべきフットワークの軽さでラトスをこの島に送り届けた。島巡りの詳細はククイに押しつけて。
「それで島巡りとは何をすればいいんでしょう。四つの島を巡る旅だとしか聞いていないんです」
「ああ。じゃあまずは隣町に行こう。そこで島キングからポケモンをもらうんだ!」
「ポケモンを……?」
「島キングからポケモンをもらい、四つの島を巡ってそれぞれの試練を突破する! それが島巡りなんだ! 君に分かりやすいように言えばジム巡りみたいなものさ。ただし試練を突破して得られるのはバッジじゃない」
ククイは白衣のポケットから石を取り出して掲げた。宝石のようにも見えるそれはカーテンの閉め切られた家の中でも光輝いて見える。
「このZクリスタルさ! ……とはいえそれはついでと思ってもらってもいい。クリスタルを得るよりももっと大きな物が冒険の中で見つかるはずさ!」
「噂に聞くZ技という奴ですか」
「その通り! ホウエンがメガシンカの起源だとするならこのアローラはZ技の起源の地なんだ!」
興奮した様子のククイから僅かに距離を取りながらラトスはZクリスタルを見つめる。ホウエンで見たまだ一部のポケモンたちにしか確認されていないメガシンカと違い、全てのポケモンが扱える可能性のある力。ポケモンが全力で放つZ技。
その為に必要なZクリスタル、ラトスの中で島巡りをする理由がまた一つ出来た。
「島巡りの詳細は島キングから聞いた方がいい。君がいいと言うなら行こうか。みんなも待っているからね」
「みんな?」
「ああ。君が来ると聞いて、待ちかねているよ。一人は君と同じく島巡りを行う子なんだ。仲良くするといい」
ククイに促され、外に出ようとした所でラトスは立ち止まる。
「日傘を取ってきます。日焼け止めだけだと不安なので」
そう断りを入れて戻った部屋で日傘を手に取り、周囲を見渡してクスクスの姿を探す。
ラトスがまだ一度も寝ていないベッドの上を我が物顔で占領していた。
「クスクス、隣町に行くけどあなたはどうする?」
「クチッ」
クスクスはラトスに
「部屋のポケモンは置いてきたのかい?」
「気乗りしなかったみたいです。ボールの中とはいえあの子も疲れたんだと思います。疲れが取れるまでは環境も変わりましたし、無理はさせません」
一番道路を進みながら話題はラトスが住んでいたホウエンについてに変わる。ククイにとって興味深い技があるからだ。
「ところでラトス、君は『秘密の力』という技を知っているかな?」
「いえ……知りません」
「そうか。それはホウエンで開発された技でね、中々ユニークな技なんだよ」
すらすらと解説するククイの知識に関心しながら、ラトスは頭の片隅にその技の名前を置いておく。話を聞く限り単純に強力な技ではないようだが、技の専門家の言葉だ。これからの旅巡り、Z技の習得、さらにその先で役に立つ日が来るかもしれない。
夢というほど壮大でもなく、覚悟というほど重大でもないがラトスは漠然と強くなりたいという気持ちをずっと抱えていた。
「子供じみた質問なんですが」
「うん?」
「ククイ博士が考える一番強い技とは何ですか? 信頼している技と言い換えてもかまいません」
会話の途中、ラトスはそう尋ねた。はっきりとした正答を期待してはいない。タイプの相性やバトルの状況で技の効果は大きく変わる。だが専門家の考える最強の技が何なのか、興味があった。
「勿論それはトレーナーの勝ちたい! という思いが乗ったポケモンの技だぜ。トレーナーとポケモンの気持ちが一つになって放たれる技、それが世界一の技なんだ」
「……成る程。勉強になります」
「はははっ、納得してないって顔だぜ? 島巡りの中できっと分かるはずさ」
そんな精神論根性論に素直に感銘を受けるほどの純粋な心はラトスにはなかった。否定はしない、むしろそれは大前提としての答えを期待していただけに少し失望してしまう。それを察しながらもククリは大らかに笑い、ラトスの肩を叩いた。
「あれ? おかしいな……みんな此処で待ち合わせなのに」
やがて一番道路を抜け、リリィタウンへと辿り着いたがククイは首を傾げた。どうやら島キングが不在らしい。
「行き違いにならないよう僕はこの辺りを探すから。ラトスは向こうのマハロ山道の方を見てきてくれないか? カプ・コケコの遺跡があるからそっちに居るのかもしれない」
そう言われても会った事のない島キングをどう見つければいいのか、と尋ねる前にククイがニカっと笑う。
「島キングはね、見るからに島キング! って感じだからね!」
正直全く想像はつかないがはあ、と曖昧に頷きラトスは言われるがままマハロ山道へと向かうことにした。
そして階段を上ってすぐにこの辺りの住人とは風貌の違った少女を見かける。
(島キング! って感じじゃなさそうだけど)
どうやら遺跡に向かったらしい少女を追いかけるようにラトスも山道を進んでいく。
「バッグから出ないで……誰かに見られたら困ります」
先を行く少女が立ち止まり、バッグに向かってそう呟いた。ポケモンが中に潜んでいるのだろうか。
ぼんやりとそんな事を考えながら進んだ先、遺跡へと繋がる吊り橋の前で再び少女が立ち止まると、バッグが震えて何かが飛び出した。やはりポケモンだったのか、とラトスは納得するが吊り橋へと一匹で進んだそのポケモンを見付け、数羽の『オニスズメ』が飛来する。野生のポケモンのようだ。
ホウエンでは見た事はなかったがカントーやジョウトでは数多く生息しているポケモン、アローラでもそうなのだろう。
「……?」
吊り橋の前で立ち止まって動かない少女に、ラトスも立ち止まる。時には何百という数で敵を襲う事もあるそうだが、あの数なら少し脅かせば追い払えるだろう。この状況で追い抜いて進むのも変な話だからとそれを待っていたのだが少女は一向に動く様子がない。
ラトスの気配を感じてか少女が振り返る。白い帽子をのせた金髪がきらきらと輝いて揺れる。
「……あの、あなた?」
待たされて、少しだけ迷惑そうな雰囲気を醸しだしながらラトスが助けに行かないのかと視線で訴える。
「私の事よりあの子を……! 『ほしぐも』ちゃんを!」
吊り橋の中心を改めて見ればほしぐもちゃんと呼ばれたポケモンは泣きそうな表情で縮こまっていた。それを見て勝てる相手だと判断したのか、オニスズメたちがさらにはげしく翼を動かしながらつつきだす。
「ピュイ……」
見たことのないポケモンだな、とラトスは冷静に、或いは冷ややかに自らの知識にないポケモンを眺めていた。
「オニスズメさんに襲われ……でも……私、怖くて……足がすくんじゃって……」
トレーナーの方も泣きそうだ。吊り橋はほしぐもちゃんの震えと風で時折大きく揺れている。成る程、高い所が苦手ならこれは確かに怖いな、とラトスは納得した。
(……私もあんまり得意じゃないんだけど)
高い所は大丈夫だが、風の強さが不安だ。日傘を飛ばされてしまえば酷い事になる。しかし少女も言葉通りに震えてとても吊り橋を渡れそうにはない。
「仕方ないか」
どの道この先の遺跡とやらに島キングを探しに行かなければならない。見過ごすのも寝覚めが悪そうだ。
ラトスはパーカーのフードを被ると日傘を少女へと突き出す。
「ーーこれ、持ってな」
「え?」
押しつけるように日傘を強引に手渡し、吊り橋を駆け抜ける。
オニスズメが急接近する人影に気づき威嚇する。ラトスが追い払おうと手を振り抜くがほしぐもちゃんを相手にして興奮し調子に乗っているのかオニスズメたちは逃げる事なくラトスへと向かってきた。
「ッ」
つつかれた腕の痛みに舌打ちながら、ほしぐもちゃんを庇って前へと出る。オニスズメたちは野生、町中ならともかく自然の中で生きるポケモンを襲ってきたからといって人の手で無闇に傷つけるのは忍びない。
さっさと戻った方が良さそうだと判断し、足下のほしぐもちゃんを抱えようと手を差し伸べた時、ほしぐもちゃんから謎の光と力が発せられた。
「っ!?」
何が、と思った時には既に吊り橋が破壊され、ラトスとほしぐもちゃんは空中へと投げ出されていた。
橋の向こうで少女が口元を覆っている。崖下は流れの激しい川で所々ゴツゴツとした岩が突き出ていて、落ちればただではすまないだろう。
落下する最中、ラトスは腰のベルトに手を回すがあることを思いだしてその手が止まる。その一瞬の躊躇が仇となる。もう間に合わない。
せめてとほしぐもちゃんを胸に抱き、衝撃に備えた。
「ーー!」
落下の衝撃も上がるはずの水飛沫も起こらない。閉じていた目を開ければ見たことのないポケモンがラトスたちを抱えて崖の上まで飛び上がっている。
「こいつは……」
ラトスたちを助けたポケモンはほしぐもちゃんを見つめた後、電撃と咆哮を上げ再び飛び上がって姿を消した。
「よかった……です。あなた、また力を使おうとして……」
「ピュウ!」
ラトスの手から離れたほしぐもちゃんに少女は涙ぐんだ声で語りかける。大切なポケモンなのだろう。その想いが伝わってくるようだ。
「! 申し訳ありません……。危ないところを助けてくださり心より感謝しております」
「……いえ。お礼ならあのポケモンに」
礼を言う少女から日傘を受け取り、フードを下ろしたラトスがそう返す。あのポケモンが現れなければ二人とも危なかった。
「ところで、念の為の確認ですがあなたが島キングですか?」
少女は首を振って否定する。まあそうだろうな、と納得した。
「あの、この子の事は秘密で……秘密でお願いします」
「はあ、分かりました」
そんなに珍しいポケモンなのか。確かにラトスも知らないポケモンだが、少々過保護な気がしなくもない。
「バッグに入ってください」
「ピュイ……」
悲しそうにほしぐもちゃんがバッグに入りこむ。モンスターボールに入れないということは少女はトレーナーというわけではないのか。なら野生のオニスズメに怯えるのも無理はないか。
「戻りましょうか」
遺跡へと繋がる吊り橋が落ちた以上、先へは進めない。もしかしたらククイが島キングを見つけているかもしれない。
少女と共にリリィタウンの広場に戻るとククイが手を振って迎えた。
「おお、ラトス! 島キングは……いなかったようだが、助手に会ったんだね!」
「助手……?」
「では改めて紹介しようか。こちら僕の助手!」
隣に立つ少女は頷き、名乗る。そういえばまだ名前を訊いても名乗ってもいなかった。
「えっ、あっ、はい……リーリエと申します」
「リーリエが出会ったのが、今日アローラに来たばかりのラトスだよ」
「ククイ博士のお知り合いだったのですね……よろしくお願いします」
ラトスも頷き、改めて名乗る。
「ラトスと言います。よろしくお願いします」
しかしリーリエは首を傾げる。どうかしたのかい、とククイが尋ねると躊躇いがちに口を開いた。
「あっ、いえ……先ほどと少し雰囲気が違うようだったので」
「お気になさらず」
詳しく説明する気になれず、ラトスはそうとだけ答える。
「ハラさんのお帰りだ-!」
町の入り口のざわめきが聞こえてくる。島キングが帰ってきたようだ。
「何かありましたかな?」
「ちょっとハラさん、何処に行っていたんですか?」
「島キングですからな。島の問題が起これば解決に行きますな」
それを聞いてラトスは島キングというのは町長のようなものなのだろうと理解することにした。ホウエンから遠く離れたアローラの文化はラトスの常識が通用しない、噂では独自の進化を遂げたリージョンフォームというものもあるらしい。
「でリーリエ、何かありましたかな? 何やら『カプ・コケコ』の飛ぶ姿を見かけましたが」
カプ・コケコ、それが先ほどラトスたちを助けてくれたポケモンの名前らしい。
「吊り橋の上でオニスズメさんに襲われていたこの子をこちらの方に守ってもらいました。でも吊り橋が崩れ、谷底に落ちそうになった時、島の守り神さんに助けていただいたのです」
「おお! そいつはすごいぜ!」
「ほう! 守り神と言われるも気まぐれなカプ・コケコの心を動かしたのですな!」
守り神……カプ・コケコはアローラでは伝説のポケモンのようなものなのだろう。
ホウエンでは馴染み深い伝説といえば『グラードン』と『カイオーガ』だが、カプ・コケコは島に息づく島の伝説なのだろう。
「ククイよ、素晴らしいことではないか。勇気と優しさを持つ彼女にポケモンを託すからトレーナーになってもらいたいぞ!」
「……勇気と優しさ」
ハラの言葉に素直に頷けず、日傘の影で目を伏せるラトスには気づかず、ハラが一歩前に出てラトスと目を合わせた。
「はじめまして。メレメレの島キング、ハラと申します」
風体に似合わず、丁寧な自己紹介に思わずラトスも姿勢を正して頭を下げる。
「ようこそアローラへ! ククイから君の事は聞いています。お会いできて嬉しいですぞ!」
「は、はあ。よろしくお願いします」
「よーし、ポケモンたち、顔を見せるのですぞ!」
ハラが取り出した三つのモンスターボールを投げ、そこからポケモンたちが飛び出してくる。。
「わぁ……」
初めてラトスが年相応の表情を見せる。ククイは嬉しそうに頷いていたが、ラトスはそれに気づかずに三匹のポケモンを見つめていた。
(どれもホウエンでは見たことないポケモン)
これがこの地方の初心者用のポケモンなんだろう。ホウエンにも初心者用とされるポケモンは居るが、ラトスとは縁がなかった。
「まずは草のポケモン、『モクロー』!」
「もふぅ!」
蝶ネクタイのような模様が特徴のポケモン。
「次は炎のポケモン、『ニャビー』!」
「にゃぶ」
赤と黒の毛並みのポケモン。
「最後は水のポケモン、『アシマリ』」
「あしゃま?」
ピンクの鼻がトレードマークのポケモン。
どれもかわいらしく、ラトスの表情が輝くがはっと我に返り、気恥ずかしそうに日傘を傾けた。
「どのポケモンを選ばれますかな?」
「あ、ええと……」
此処で選んだポケモンが島巡りのパートナーとなる。ラトスと共に成長する大切なパートナーだ。
「……」
すぐには決められず黙り込むラトスを楽しげにハラとククイが見詰める中、ラトスは頷いて前に出る。
「それじゃあ……」
悩み、最後は自分の直感に従うことにしてラトスはポケモンをゆっくりと指さす。
「この子にーー」
「チーッ」
ガブッ、と持ち上がったラトスの指が腕ごと巨大な顎に飲み込まれた。
「え?」
「む?」
「おっ?」
ーー『クチート』に決めた!
そんなテロップが脳内で流れた気がした。
「……クスクス、着いて来てたんですか」
「チートっ」
指を飲み込んだまま、クチートが振り返って胸を張った。
「この辺りでは見ないポケモンですな?」
大顎のように変化した角が特徴の欺きポケモン、クチート。ホウエンから連れてきた、ラトスと最も付き合いが長いポケモンである。
「一緒に来た私のポケモンです」
「ホウエンに生息するクチートだね!」
「ほう! では既にトレーナーだったと!」
「ええ、まあ……」
見ての通り、トレーナーとして認められているかと言うと微妙な所ではあるが。
「お互い選び、選ばれてこそ真のパートナー! ……ですがあなたのクチートに皆怯えてしまっていますな」
「もふ……」
「にゃ……」
「しゃま……」
身を寄せ合いラトスから離れていく三匹のポケモンたちを視線で追いかけるが、どうやら今回もラトスに縁はなかったらしい。
「チートッ」
力なく腕を下ろすとクチートのクスクスは顎を離し、そっぽを向いて座り込んだ。今のラトスはクスクスにも選ばれてはいないようだ。
「まあまあそう気を落とさずに! クチートは嫉妬しているんだろう。トレーナー冥利に尽きるじゃないか! その子と島巡りをすれば君たちは永遠の親友になれるぜ!」
「だといいんですが……」
「クチートのクスクスさんですか……」
「ピュイ!」
アローラでは珍しいクスクスを興味深げにリーリエとほしぐもちゃんが見つめていた。
「別のポケモンに嫉妬するポケモンさんもいるんですね。大切にしてあげてください」
「……大切に、ええ、そうですね」
時折大顎でステージを叩いてモクローたちを脅かすクスクスを眺めながら僅かに間を置いてラトスが頷く。何か思うところがあるようだった。
「よーしこれで島巡りのパートナーは決まりだね! 僕からもすてきなプレゼントだ!」
ククイが手渡したのは何かの機械だった。もしかして、と視線で伺えばククイが頷く。
「『ポケモン図鑑』だ。その様子だと説明はいらないかな?」
「はい。聞いた事がありますし、一度だけホウエンの実物を見たことがあります」
「うん。残念ながらまだアローラのポケモンたちにしか対応してないからクチートのデータは登録されないけど、近い内に更新してあげよう。それからこっちは用意しておいた君のトレーナーパスだ!」
ホウエンでの物はアローラでは使えない。これがなければポケモンセンターも利用出来ない。当たり前のようだったからすっかり忘れていた。お礼を言ってポケモン図鑑と共にパスを受け取る。
「あー居た-!」
「ん?」
そんなラトスの背に男の声がかかる。振り返れば褐色肌の少年が駆けてくるところだった。
「なーなー、ポケモン勝負しよーよー」
「はっはっは、急ぐでない。名前も言わずに勝負もあったものではないな」
ハラの言葉に少年は頷き、笑顔で名乗る。
「おれねーハウ。島キングの孫! でねーニャビーがパートナー!」
見たところラトスの同年代だ。彼がククイの言っていた島巡りに挑戦するトレーナーなのだろうか。
「ねー君のそのポケモンもすごくかっこいいなー!」
「ありがとうございます。……ほらクスクス、褒められてるよ」
「クチッ?」
「君が来るの待ちきれなくてあちこち探してたんだー! だから勝負しよーよ!」
視線が交わればそれはポケモンバトルの合図。それはこの島でも変わらない。
「ポケモンさんが傷つく勝負はちょっと苦手ですが……応援しますね」
「おお! アローラでの初めてのポケモン勝負だね!」
「孫の相手をお願いできますかな?」
誰も止める気はなさそうだ。そうなれば挑まれた勝負を拒否する程、ラトスもポケモンバトルを嫌ってはいない。
「クスクス、出番だよ。私のパートナーなんだから、やってくれるよね?」
「チー……」
ラトスの言葉に面倒くさそうに鳴き、クスクスは動こうとしない。思わずため息を吐いてしまう。
「そのクチート、いやクスクスって言ったね。おやは君じゃないのかい?」
「いえ、私がタマゴから育てました」
「それにしては自由奔放だね……」
「……育て方が悪かったので」
とはいえ、逃げるつもりはない。ため息と共にラトスは再びパーカーのフードを被り、日傘を閉じた。
「おー、なんだかかっこいいなー!」
『赤い二本の角』を思わせる意匠が施されたフードを見てハウが笑う。ハラとリーリエはどうしたのかと首を傾げ、ククイは何も言わずに見守っていた。だが反応が顕著だったのは誰よりもクスクスだった。
「チートッ!」
立ち上がるとすぐさまラトスの前へと飛び出し、前傾姿勢、戦闘態勢を取る。
「これで準備はオーケー、さあはじめようか」
「おー? なんだかやる気だね-! よーし楽しんじゃうぞ-!」
ラトスとクスクスは笑みを浮かべ、ハウと向かい合う。それを見てハラが審判となり、合図を出した。
「ーーではポケモン勝負、はじめませいっ!」
「いっけーニャビー!」
「いくよ『クチート』!」
ハウが繰り出したニャビーとクスクスがフィールドでにらみ合う。アローラでの初めてのバトルが始まった。