「ふふっ。」
「な、なによ!こっちは真剣なのよ!」
「ああ、ごめんなさい。あまりに深刻そうな顔をするから……。
気にしすぎよ、霊夢。外からのモノが入って来てないだけじゃないかしら?異変が起こらなさすぎて、少し敏感になりすぎてるんじゃないかしら?」
溢れる笑いを抑えきれなさそうに紫が言った。
「いつまで笑ってんのよ……。でも、そんなはずない。結界が弱まってきてるのは明らかよ。外からのモノが来ないわけないくらいには弱まってるはずよ。」
頭の中で必死に考えを巡らせてる霊夢を見ながら、紫は立ち上がった。
「はいはい、もう、心配性ね。またなにかあったら伝えるわ。だから少し安心なさい。」
「なに、あんたもう帰るつもりじゃっ……」
「それじゃ。」
「待ちなさい!片付けくらいっ……」
霊夢が紫の腕を掴もうとする時にはすでに藍や橙を引き連れてスキマに消えていった。
「あんのっ…………。ババアアアアアッ!!」
わなわなと震えながら叫んだ霊夢の声は神社内に響いた。
ーーーー
「紫様。博麗の巫女は間違いなく気づいています。これは伝えたほうがよろしいのでは??」
「そうね。でも、そうするわけにはいかないのよ。それがあの子の願いなのだから。」
「紫様……。失礼しました。」
大丈夫よ、と笑う紫の心はどこかざわついていた。
なにか良くないことが起こるかのように。
「藍、私少し寄りたいところがあるの。先帰っててちょうだい。」
「でしたらっ……。いえ、わかりました。お気をつけください。ほら、橙、いくぞ」
何かを察したように、頭を下げた藍は橙を連れて飛んでいった。
「察しが良くて助かるわ。」
ー霊夢が言っていたことは間違いない。明らかにこの幻想郷を守る結界はどんどん弱まって来ている。ということはそれだけあの子に負担がかかるということ。ー
「これは少し急がなきゃならないかしら。」
紫がスキマに身を沈め向かった先は………。
「優憐。いるかしら。」
誰もいない、静かな場所。
ここは、幻想郷と外の世界の間の何にも属さない"無"の空間である。
あたりを見渡しても何もない。
少し歩いた先でひとりの少女が戦っていた。
大きな図体に、鋭い歯と角。殺気立った瞳、毛深い体。
恐ろしく、そしておぞましいものに立ち向かいそして倒してしまった少女。
その少女は、華奢で小柄であり、真白な肌、艶めく黒髪を持ち、凛とした瞳であった。
「相変わらず、お見事。」
ぱちぱちと拍手をしながら、紫はその少女に近づいていった。
「あ、紫さん。お久しぶりです。」
彼女は、桃山優憐(ももやまのゆうれん)という。
この"無"の空間で、外の世界から幻想郷へ入ろうとする悪いモノを退治している。
「あら、そんな久しぶりでもないわよ。つい一週間前にも来たわ。」
「あれ?そうでした?すみません……。ここの時間はいつまでたっても慣れないです。」
優憐は少し悲しげな笑みを地面に落とした。
「相変わらずすごいのね。あなたは素手でもなかなか力があるのはわかっているけど、いつも戦っているのは魔法なの?」
優憐は素手で戦うときもあれば、魔理沙やパチュリー、アリスのように魔法のようなものを使って戦うときもあるのだ。
「いやいや、そんなわけないじゃないですか。
だって、私、人間ですよ?」