色々な妖怪達と話しながら酒はどんどん進んでいく。
時間は過ぎて辺りは暗くなり、夜桜が風にそよいでいた。
柄にもなく、飲みすぎた優憐は少し席を離れ風に当たりに行った。
すると、霊夢と魔理沙と紫の3人が、ひときわ大きな桜の樹の下で呑んでいた。
「優憐!こっち来て飲もうぜ!」
優憐を見つけた魔理沙が元気に優憐を呼んだ。
霊夢と紫も揃って手招きしていた。
「失礼しますね。」
優憐は3人に向き合う形で座った。
「幻想郷の春はいいですね。」
唐突に優憐が言った。
「そうね、幻想郷には桜が多いから。そこら中に咲いてるわよ。」
盃に注がれた酒に映った桜を見て霊夢は微笑みながら言った。
「私、幻想郷に来て本当によかったです。」
「なによ、急に。」
優憐の唐突な言葉に霊夢達はぷっと吹き出した。
「きっと、私が見る幻想郷の春はこれで最後なんでしょうね。これから何回もみなさんと一緒に幻想郷の景色を見ていたかった。」
優憐は柔らかな笑みを浮かべ、夜の幻想郷を見渡した。
「おいおい、なんだなんだ。そんな"お別れ"みたいなこと言うんじゃないぜ。」
魔理沙がおちゃらけたように言った。
「そうですね。"お別れ"です。」
優憐の言葉に、3人は声が出せなかった。
「私の体は、あの空間にいたことが影響して、少しずつ衰えていき時期に息絶えるんです。それは決して遠い未来の話しではない。」
空になった盃に視線を移して優憐は言った。
「ちょ、ちょっと。どういうことか説明して。」
妖怪の賢者であろうものが慌てたように言った。
「私達、桃山の家の女は短命です。それはただの人間があの空間で生活し、戦うことは寿命を削ってしまうほど、体力の消耗が激しいからです。」
淡々と話す優憐を見つめることしか3人はできなかった。
「そして、桃山家の女にはとある"能力"があります。 」
優憐の言葉に紫が反応した。
「うそ、あなた前に能力はないって、ただの人間だって、言ってたじゃない。」
信じられないと言いたげな顔をした紫が言った。
霊夢と魔理沙は何も言えなかった。
「嘘をついていてごめんなさい。桃山家には代々"記憶を消す"程度の能力を持っているんです。」
「「"記憶を消す程度の能力"?」」
その言葉をゆっくりと噛み砕くように霊夢と魔理沙は繰り返した。
「はい、正確には改ざんしたりもできるんです。紫さんがあの空間に来たことは実は何十回もあったんです。でも、私の能力で紫さんの記憶には数回と刻まれているはずです。」
優憐の言葉に紫は、はっとした。
前々からおかしいとは感じていた。
優憐と時間軸がイマイチあっていないような、会話が噛み合わない時はよくあった。
この時、初めて優憐の能力のせいだということに気づいた。
「そして私の母親の記憶も。」
優憐がゆっくりと3人の方を見た。
「私の母親は、実は、少ないですが何度か紫さんと霊夢さんと魔理沙さんと出会っています。それでも覚えてないでしょう?」
「私の母親も、私と同じように能力が使えたんです。霊夢さん達に会うたびに3人の中から自分の記憶を完全に消していたんですね。
だから、3人には母の記憶がないんです。」
優憐は空を見た。
「桃山の女は他に存在を知られてはいけません。後世に自分の存在を知られることさえ、残すことさえ、禁じられています。」
そこまで言って、ようやく3人は優憐の言おうとしていることに気がついた。
「私も、みなさんの中から私の記憶を消さなければいけません。」
「そんなの絶対にだめだ!」
勢いよく魔理沙が立ち上がった。
その目には涙を貯めていた。
「優憐と私達が過ごしてきた日々は大切な"思い出"なんだ。消すなんてやめてくれ!」
まっすぐに見つめてくる魔理沙に優憐は胸が痛んだ。
「私達だけじゃないわ、ほかのヤツらにとっても大切な"思い出"なのよ。」
顔は見せなかったが、霊夢の声は少し震えていた。
「たとえ、あなたの記憶がなくなっても私達は何度でもあなたと出会い、あなたとの思い出を築いていくわよ。」
紫がまっすぐに優憐を見つめた。
「そういうわけにはいかないんです。」
空から視線を動かさない優憐の顔には一筋の涙がこぼれていた。
「私は今まで関わってきた者の、私に関する記憶を全て消さなければなりません。それには、多くの力、気を必要とします。」
優憐の声は震えていた。
「今の私の体力では、それに耐えられないんです。」
頬を伝い、ぽたぽたと優憐の手に涙は落ちていった。
優憐の手は固く握られ、震えていた。
「私はみなさんにたくさん甘えてしまいました。私が力が無いばかりにみなさんに頼ってばかりで…」
そう言って、優憐は立ち上がった。
「それでも、この幻想郷は私を受け入れてくれました。この美しい幻想郷を守れてよかった。」
大粒の涙を流しながら、優憐はまっすぐに3人を見た。
魔理沙の目からは涙が流れ、霊夢も袖でぐしぐしと目を擦っていた。
紫は、顔をそむけた。
しかし、その隙間からきらりと光る筋が見えた。
「本当に今までありがとうございました。」
そう言うと、優憐の体からひかりが溢れた。
「優憐!待ってくれ!」
魔理沙が優憐を掴もうとすると霊夢がその手を遮った。
「よしなさい。」
魔理沙の腕を握る霊夢の拳は震えていた。
霊夢だって、突然の"友"との別れを悲しまないわけがなかった。
「こんな私のことを"友達"だと言ってくれて、本当に嬉しかった。
私の"友達"があなた達でよかったです。」
精一杯の笑顔で優憐は笑ってみせた。
「そんな、こんな急にっ! やめろ優憐! やめてくれ!!」
泣き叫ぶ魔理沙に優憐は笑顔を返すことしかできなかった。
「それでは、」
そう言うと、光が優憐を一気に覆った。
「この幻想郷のみなさんと会えたこと、みなさんを守れたことは私にとって立派な誇りです。」
優憐の優しげな声が響いた。
魔理沙は泣き叫び、霊夢はひたすら涙を流し、紫は溢れる涙を抑えていた。
「さようなら。」
その言葉とともに、優憐を覆っていた光は弾けた。
光は幻想郷を覆った。
光がおさまるとそこには少女の姿を見るはなかった。
「お、おい霊夢、何泣いてるんだぜ。」
霊夢の顔を見て、若干引き気味の魔理沙が言った。
「あんたこそ、泣いたあとできてるわよ。」
あははと声を出して笑う霊夢に魔理沙は膨れた。
「あんた達、飲みすぎなのよ。」
そう言って、頬杖を使うとした紫の手には雫がついていた。
「もう、酔い冷めちゃったじゃない。」
ぐいっと酒をあおり、霊夢が言うと魔理沙と紫も盃に酒を注いだ。
博麗神社はいつものようにたくさんのな妖怪にぎわい、その日は一晩中笑い声が絶えず響いていた。
----その日、幻想郷から1人の少女が消えた。------
桃山 優憐と言い、幻想郷を守り戦った少女。
彼女はたくさんの妖怪、人間と手を取り合った。
しかし、記憶の中に彼女はどこにもない。
幻想郷から1人の少女の記憶が消えた。
--そして、博麗神社に祀られている神様が「桃山」だということを霊夢達が知るのは、もっともっと後の話になる。