「私のこの力は、能力でもなんでもありませんよ。自分の中の気を具現化し、力に変えたような感じですね。」
「さしずめ、紅魔館の門番のような感じかしら。」
「うーん……。美鈴さんとは少し違いますね。うまく言えませんけど、なにか特別な力を持っているわけではないですよ。」
先ほどの戦いで痛めたのだろうか、右手を軽くさすりながら優憐は話した。
「ふうん…。ところで、あなたは幻想郷の者のようになにか能力はあるの?」
紫の問いに、柔らかな優憐の表情が一瞬だけ曇った。
「……。ないですね。霊夢さんや魔理沙さん、もちろん紫さんのように能力はないですよ。ただの人ですから。現人神の早苗さんともわけがちがいますからね。」
あはは、と困ったように笑う優憐の表情の変化に紫は気づくことがなかった。
「そう……。」
「あなたのような者がいて、本当に助かってるわ。"初めて"よ。幻想郷にそんな存在がいるのは。」
少し血が滲んだ優憐の手をとりながら紫が言った。
その言葉に反応するかのように、優憐は紫の手を軽くはたいた。
「す、すみません。お気遣いありがとうございます。」
深々と頭を下げた優憐に、はたかれた手をさすりながら紫が近づいた。
「あなた、先祖はいないのかしら?」
その言葉に、優憐の瞳は少し揺らいだように見えた。
「…。いませんね。まぁ、正確に言うと外の世界にいるんです。私がこの空間にいるだけで、私の先祖は普通に外の世界で生活してたんですよ。」
寂しそうな笑みを浮かべる優憐に、紫は少し心が痛んだ。
「あなた…寂しくないの?無理にとは言わないけど、幻想郷に来てもいいのよ。なにも誰かから禁止されているわけではないでしょ?」
「いえ、大丈夫です。私が望んでここがいいんです。気を遣わせてしまってすみません。」
ぺこぺこと謝る優憐に見つめながら、紫はふぅと息をついた。
「それなら仕方ないわね。」
スキマを作り、もう一度優憐を見るとさっきまでとは違い穏やかな笑顔だった。
「それじゃあ。」
スキマの中に入っていく紫を見届け、その姿が完全になくなった頃に優憐の手の中に小さな光があった。
「また……、"消さ"なきゃ。」
静かにそう唱えたあと、手の中の光は宙に消えていった。
幻想郷の季節は春から夏に変わり、蝉の鳴き声が青い空に響いていた。
「 ほら、スイカ切ったわよ。」
川で冷やしてきたのだろうか。2人では到底食べられそうにない量のスイカを切り分けた霊夢は机を挟んで魔理沙とむかいあった。
「相変わらずあっちいぜ。嫌になる暑さだな。」
「まったくね。冥界にでも行けば少しは涼しくなるかしらね。」
冗談を交えながら、2人の手はスイカに伸びていく。
「そういえば、霊夢。結界のことで聞きたいことがあるんだよ。」
春の宴会のことがあってから、"結果のこと"は気にかけてはいたものの、すっかり忘れていた霊夢にとってはその言葉は重いものがあった。
「珍しいじゃない。魔理沙が結界うんぬんで聞きたいことがあるなんて。なに?」
「失礼なやつだな。」
霊夢を軽く睨み、魔理沙が続けた。
「結界が最近おかしいんじゃないかって思ってさ。」
魔理沙が深刻そうな顔で話す。
慌てそうになる自分を殺しながら霊夢はスイカをかじった。
「なんでそう思うの?」
普段、妖精たちとばか騒ぎして、異変解決には真っ先に飛びつくが、結界うんぬんには一切興味のない魔理沙が言うのだ。
きっとなにかあるはず。
「幻想郷に外からのヤツが紛れ込んでることが多いらしいんだよな。人里とか特に、慧音が言ってた。外からの人間とか。」
「そう。」
「妖怪でも、人でもないよくわからないヤツも紛れ込んでるっていうし。絶対結界の様子がおかしいんだよ。」
霊夢は言葉に詰まった。
魔理沙の言っていることはきっと的を射ている。
ただ、それを言ってしまうとまたこの"アホ"は必要以上に首を突っ込むだろう、それはめんどくさいし、なにより危険だ。
どうしても避けたかった。
「勘違いじゃないの。魔理沙、いつもそうでしょ。」
やめやめ、と話を切るように霊夢が立ち上がる。
「霊夢、私が言ったことはだいたい的を射てるんだろ。」
にやにやしながら霊夢を見つめる。
「……なんで。」
返す言葉が見つからず、視線を逸らし、スイカを片付け始める霊夢。
それに追い打ちをかけるように魔理沙は続けた。
「ほら詰まった。それに、お前は最初にはっきり否定しなかっただろ? "なんでそう思うの"って。そういうのは大抵あってるんだよ。」
魔理沙が片付け始めたスイカを取りながら得意そうな笑顔を浮かべた。
「ふふ、観念したわ。いつからそんなに洞察力が鋭くなったのよ。」
伸ばされた手を払いながら霊夢はくすっと笑った。
「私とお前の付き合いだぜ?バカにしてもらっちゃ困るぜ。さぁ、全部話してもらおうか。」
にいっと笑った魔理沙の手にはいつのまにかスイカがあった。