優憐が幻想郷で生活をはじめて、2ヶ月が過ぎようとして、季節も夏から秋へと変わっていた。
「本当に幻想郷の景色って綺麗…。」
水汲みの帰りに歩く道は、幻想郷を一望できるような高さで、山の木々が衣替えを初めているのが見てとれた。
あの日、優憐が幻想郷に来た日から特に大した異変はなく平和に過ごしている。
-私の思い過ごしなんだろうか。-
小さくため息をつき、家までの道を駆け下りて行った。
重たい水桶を持って山道を歩くことは少し無茶だったのか、しばらくすると優憐は森の木陰に腰掛けた。
幻想郷にだいぶ馴染んできたのか、側を通る妖精に軽く会釈をした。
「幻想郷は美しい。ここは守らなきゃいけない。私と、私の母が愛したこの幻想郷は絶対守り抜いてみせる。」
固く決意し、ゆっくりと山道をおりて行った。
「そうだ、買い物して帰ろうかな。」
人里を歩いている優憐の目に、1組の母娘が映った。
「お母さん、お母さん。今度来た時はさっきの甘味処行こうね。」
「そうね、ちゃんとお手伝いしてくれたらね。」
「できるもん。お手伝いがんばるから! 約束ね!」
微笑ましい会話をしている二人を見ながら、優憐は幼い頃を思い出した。
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『優憐、お母さんは今からこの幻想郷を悪いモノ達から守ってきます。おとなしくお留守できますね?』
『やだよう。今日は、一緒にお星様を見る約束をしてたでしょ。』
ぷうっと膨れながら、母の裾から手を離さない。
『まったく…。仕方のない子ですね。いいですか優憐、よく聞きなさい。』
その場にしゃがみこみ、優憐の肩に手を置き、母が話し始めた。
『私たち、桃山の家の女は昔からこの幻想郷を守らなければいけないと決められているのです。優憐、あなたは知らないでしょうが、あなたのおばあ様もこの幻想郷を守ってきました。』
理解しきれていないように優憐が首をかしげた。
『お母さんも、今から幻想郷を守るために少し離れたところに行くのです。』
『そしたら、お母さんもう会えなくなっちゃうの?』
不安そんな顔で優憐は母を見つめた。
『……。優憐、あなたもいつか、私と同じように幻想郷を守る日が来るでしょう。しかし、私たちの存在は誰にも知られてはいけません。』
今にも泣きそうになる優憐。
『先祖代々、桃山家の女がもつ能力を忘れないでください。
…あなたのその時に立ち会えないのは残念でなりません。』
耐えきれず、声をあげながら優憐は泣いた。
『泣いてはだめです。桃山の女は常に強くなければなりません。涙を拭きなさい。』
母に言われ、袖で荒々しく涙を拭き、それでも溢れようとする涙を歯を食いしばって耐えた。
『よく出来ましたね。』
優憐の頭を撫で、ぎゅっと優憐を抱きしめた。
『優憐、あなたは私の誇るべき娘です。強く、強く生きなさい。』
優憐を抱きしめる力が一層増した。
『ああ、優憐。私の大切な優憐。』
優憐の小さな肩に顔を伏せたまま、優憐をずっと抱きしめていた。
『お母さん。私、大丈夫だよ。だから、お母さんは安心して行ってきてね。」
涙を溜めながら、精一杯笑う優憐を見て、母は立ち上がった。
『それでは、いってきます。』
いつもの笑顔で母が玄関を閉めた時、ぷつんと糸が切れたように優憐は泣き出した。
急いで玄関を開け、辺りを見渡すと母の姿はなかった。
『お母さん…。お母さあああん。』
いつまでも泣いている優憐の肩には、二筋のシミができていた。
一---
「…もともとは、私もここに住んでたんだよね。」
優憐はもともと幻想郷に住んでいた。
そして、先代の守り人がいなくなればすぐに次の守り人があの空間に行く。
そして、守り人が空間についてからの寿命は5年とないもので、とても短いものであったのだ。
「"お母さん"かあ。」
-今なら、あの時お母さんが泣いていた理由も、お母さんが私の質問に答えなかった理由もわかる気がするなあ。-
少し、羨ましそうに親子を見つめたあと優憐は店の方へ走っていった。