我輩はネコである。だから仕方ないのだ。やむを得ぬのである。
ていねいな手つきで、念入りにシャンプーとトリートメントの全身マッサージにブローからのブラッシングなどされてしまっては、もうノドをゴロゴロと鳴らすほかはないのである。
親はと聞かれ、正直に捨てられたと答えた。その後のことは、まさか素直に答えるわけにもいかぬ。
親切な人に拾ってもらったが、その人の事情で出てくることになったと話した。ウソは言っていない。
結果。なにやら手厚く保護されて、今に至る。そんなつもりではなかったのであるが。
「良かれと思ってぇ!」
「だから、ボクは悪くない」
我輩の人生、この展開が多いのだが。いや、本当に悪気はないし、悪くはないと思うのだが。
もしや個性の副作用であろうか。
ともあれ、生活は快適である。
今までは一人暮らしで、食事も外食や買い食いがほとんどであったのが、朝夕の家庭料理が食べられる。
洗濯も溜め込んでは片付けていたのが、毎日こまめにやってもらえる。掃除はまあ、普通に手伝っておるが。
他にもいろいろと。金はあっても、無頓着であったせいで低かった生活の質が、やたらと高まっている。
特に寝具と枕は、もはやこれでないとイヤだ。すでにメーカーと製品名は心に深く刻みこんである。
「もうゴールしてもいいよね……」
我輩の世話をしてから、ウワバミさんが仕事に出かけるのを見送って、二度寝しようと布団をかぶる。
猫は一日に12~16時間。だいたい人間の二倍の睡眠を取るらしい。ゆえに我輩がこうして惰眠をむさぼっても、きっと仕方がないことである。
ニャー……
ハッ。いかん。完全にただのネコになりかかっていた。
「飛ばねえブタは、ただのブタだ」
吾輩はネコである。まだ飛べはしないが、何も行動せずにいてはならない。そうはいかぬ。あってはならぬ。
我輩は、先生の生徒であるからして。
次に出会ったとき。「まるで成長していない……」と安西先生されてしまうと、今度こそ命が無い。危険を通り越して、死しかない。
生徒としての誇りも無いではないが。それよりも命の危機が重要である。
しかし正直、今の生活も捨てがたい。
「綺麗なお姉さんは好きですか?」
決して、キライではない。美人で気立ての良い、妙齢の女性の保護。それを捨てるなんてとんでもない! である。
ならば両立させるしかあるまい。
「両方やらなくっちゃあならないってのが 幹部のつらいところだな。覚悟はいいか?オレはできてる」
ああ、我輩も覚悟はできた。
何らかの修行をして、新しいなにかを身につける! 今のこの、ダラダラした生活を続行する! これを両立させるのだ!
イケるイケる。きっと出来る。出来ると信じるのだ。
この二度目の人生、今がもっとも幸せなのだ。出来うる限りは、壊したくないのである。
そうと決まれば、さっそく修行。 の内容を考えねばなるまい。
先生の願いは、個性の融合。第二のワンフォーオール誕生であろうが、おそらくそれを成し遂げても、我輩に利益はない。
あの個性は受け継ぐ度に強大になっていく。つまり初代だと、その、なんだ。ちょっと、弱いかな、と。
そんな個性で全盛期の先生に立ち向かった弟さんは、凄い人だと思う。
ひょっとしたら先生と同じく、精神が高揚しやすい人で。それまで自分が無個性だと思っていたら、思いがけず手に入った個性に、つい精神が暴走した結果かもしれないが。
まあ、そんなことはないと思う。多分。
はなしを戻そう。
個性の融合を目指すこと自体は悪くない。だがその前に、踏むべき段階というものがある。
我輩は今まで、ほとんどの個性を先生に取り上げられてきた。だから受け取った個性の発動の訓練など、実はほとんどしていないのだ。
同じ種類の個性の複数同時発動や、全く異なる個性の同時発動。原作で先生がやっておった、空気を押し出す個性に様々な肉体の強化と変異の個性の組み合わせ。
あれは無理だ。たとえ今、我輩にその個性全てが手元にあったとしても、再現などは絶対に不可能だと確信できる。少なくとも今は、まだ。
個性を組み合わせての、同時発動。まずは、それが課題だ。そこから始めよう。
だがしかし。今の手持ちの個性は、だいたいが大したものではないのだが。
逆に考えよう。練習にはちょうどいいさと考えよう。
それとウワバミさんに練習を見られたり、何か壊してしまった場合の言い訳に。ネコっぽい個性だから、化け猫の妖術も使えるんですと言い張る勇気も用意しておこうか。
今の快適な生活には、あの人の好感度も不可欠であるからな。
我輩はペットである。まだヒモではない、はずだ。
●「もうゴールしてもいいよね……」
AIRより。ネタバレ不可避なため、解説は避けさせてください。春子さん……
綺麗な物語であるので、見て損はありません。それでも知りたい方は、このセリフをググってください。私からはネタバレしたくないので。
●「飛ばねえブタは、ただのブタだ」
紅の豚。ジブリの初期のほうの作品。イタリアのエーゲ海を、自分の複葉機で飛ぶヒコーキ野郎たちの物語。その主人公の、ブタの被り物(?)をした奇妙な男の、なぜ飛ぶのか聞かれた時のセリフ。
●「まるで成長していない……」
スラムダンクより。「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」「左手は添えるだけ」など、数々の名言を残す、安西監督の言葉。バスケマンガの名作といえば、これ。黒子? あれはバヌケだから。バスケじゃないから。
才能があった生徒が、安西監督に反発して、アメリカへ行ったものの消息不明に。そのプレイを収めたビデオがたまたま入手できて、それを見た時の監督の感想。激しいショックを受けていた。
●「綺麗なお姉さんは好きですか?」
パナ○ニックのかつてのキャッチフレーズ。家電のキャッチフレーズにしては色合いが違ったのと、CMが印象的であったので、反響が大きかった。現在は「いそがしい人を、うつくしい人へ。」が使われている。水野真紀、松嶋菜々子、片瀬那奈、中谷美紀、仲間由紀恵と5代目まで。なぜかほぼ全員リングシリーズに出演。
●「両方やらなくっちゃあならないってのが 幹部のつらいところだな。覚悟はいいか?オレはできてる」
ジョジョの奇妙な冒険第五部より。マフィアのチームを率いるブチャラディ。彼が敵対するチームに襲われ、部下たちがピンチの中で、ひとり敵と戦いながらのセリフ。敵を倒す。部下を守る。その両方のこと。