我輩は○○である   作:far

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鯱出荷氏の 知らないドラクエ世界で、特技で頑張る がこの間更新されていたので読み返してみたと、ここでダイマしてみる。


我輩は嘘つきである。

 

 我輩は嘘つきである。ヴィランであるという身分を偽って生きている。

 まあ。嘘は、それだけでもないが。

 うっかりと、この極楽な日々につかりきってしまい。気が抜けていた我輩だが。今日。今。ふと我に返れば。

 

 カメラの前で、着飾ってポーズを決めていた。

 

 オールフォーワンの配下のヴィランのネコ。トムと名乗って芸能界デヴューするの巻き、である。

 

 いやいやいや。待つのである。何をやっているのだ我輩は。

 

 内心ではニャーニャーと大混乱であるが、体と外見は冷静に、目線こっちお願いしまーすというカメラマンさんの指示に笑顔で答えておる。

 混乱しすぎて、指示通りに動いてしまっているだけではあるが、ありがたい。

 今のうちに、少し現状を認識しなおさせてもらおう。

 

 始まりは、あれである。

 

「良かれと思ってぇ!」

 

 これだ。ただし、今回これを発動したのは我輩ではなかった。

 毎日部屋に我輩をひとり残し、仕事へ出かけることに罪悪感を持った、ウワバミさんである。

 いくら心配でも、職場にお子さんやペットを連れて行くのはどうかと思う。

 そしてヒマを持て余していた我輩は、よせばよいのに、ほいほいとついて行ってしまったのだ。

 

 小人 閑居して 不善を成す

 

 本当に我輩はヒマだとロクな判断をしない。

 そして「良かれと思ってぇ!」は連鎖する。

 

 カメラマン氏、我輩をマスコットとしてその場で採用。

 

 グラビア撮影でその判断はどうかと思うのであるが。プロのカメラマンの話術と、一緒にお仕事したいというウワバミさんからの期待には勝てなかった。

 子供と動物とグルメは楽に人気を取れるそうだし、我輩はそのうち二つを兼ね備えている。一回だけの添え物としては上等なのだろう。

 

 うむ。現状は把握した。これは、流されただけであるな。

 

 幸い、今回は女性雑誌のグラビア撮影。ボスや先生の目には入るまい。入らないといいな。

 一回だけならシャレとして見逃してくれるであろうし。くれると思う。

 いっそ、ヒーロー陣営への潜入工作の経験をつむ練習だと、開き直って言い訳することもできるであろう。多分。

 

 だからもうしばらくこの生活を続けても、大丈夫なのである。きっと。

 

「そう考えていた時期が私にもありました」

 

 さすが先生の情報網である。出版前にバレたらしく、少し懐かしい黒いモヤがいきなり、ウワバミさんの部屋でひとりくつろぐ我輩の前に現れたのだ。

 もちろんそれは、黒い人だった。さいわいに。本当にさいわいに、やって来たのは彼だけだ。

 

 普通に怒られた。

 

 裏家業の、さらに裏方の人間が、勝手に表の顔を作ったら。そりゃあ怒られるのであるな。

 

 その通りであるので、ひとしきり大人しく怒られたあと。我輩はそれでも、このまま表の顔を作らせてくれと願い出た。

 完全に裏にいたなら、それは守られてもいるのだろうが、完全に掌の中にいるということでもある。旅立つ前、何もかもを取り上げられかけたことを、我輩は忘れていない。

 素直に理由を言っても、先生ならともかく黒い人だと許可はくれなさそうなので。独り立ちのためとか、そろそろ保護されている立場だけではなく一人前として扱ってくれとか。それっぽい理由を主張する。

 

 黒い人は考えてくれた。おそらく、単にやめさせて来いと言われただけなのだろうから、許可する権限など無いであろう。だから普通に却下して帰れば、はなしはお仕舞いであるのに、やはりいい人である。

 自分では判断できないので、持ち帰って先生に相談してみる。いい人ではあっても、ヴィランの幹部でそこまで甘くは無いはずの彼が。そんなことを言った。

 我輩のワガママを、なぜ聞いてくれるのか。なぜそこまでこちらの立場に立ってくれるのか。驚き、問いただす我輩に、黒い人は笑って答えた。

 

 いつぞやのイタズラのお返しです。と。

 

 おそらく、母の日の一件であろう。

 あれは、そんなつもりではなかった。そう言おうとした。だが先回りされてしまった。それでも、うれしかったですからね、と。

 

 完敗である。

 

 表向きの理由も、本音も、全部書いた我輩の手紙を持って、黒い人は帰っていった。

 いやはや。べつだん、甘く見ていたつもりはなかったのだが。さすがに先生の下で長年やってきただけはある。

 しかし。うむ。

 なんだか、悪い気はしないのである。

 

 

 




●「そう考えていた時期が私にもありました」
グラップラー刃牙より。ボクシングには蹴り技が無い―――そう考えていた時期が私にもありました。がフルバージョン。大地を蹴る格闘技なんだ!という理論らしい。上から目線の発言と、このセリフを言った時の味のある表情で、数々のネタセリフの中でも上位にランクインしている。主人公、刃牙のセリフである。
週刊チャンピオンで長く。本当に長く連載している、独特の絵柄と強烈な個性のあるマンガで、人によって好き嫌いが出ると思うが、そのネタだけでも読むと楽しい。
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