我輩は模索中である。立ち場とか。
というのも、先日ヒーローとしてデビューを飾ってしまったのだ。サイドキックとしてだが。
もちろん、ヒーロー資格など取ってはいない。そんなニュースが流れてしまったというだけなのだ。
原因はウワバミさんである。我輩は彼女の芸能事務所の所属だと、前回述べた。そして彼女の事務所は、ヒーロー事務所も兼ねていたのであるな。
というかヒーロー事務所の方が本道で、副業としてタレント業を始めたので、芸能事務所を兼ねるようになったというのが正しいか。
で、まだ仕事がカッチリ埋まるほど忙しくない我輩を。また職場へとウワバミさんが連れて行き。
それが芸能関係ではなく、ヒーロー系のお仕事であり。
ただの見廻りと警備であったはずのそこに、野良ヴィランが強盗を仕掛けてきて。まあ、我輩もつい、やってしまったわけで。
違うのだ。人質に取ろうとしてきた、あいつが悪いのだ。だからとっさに、毛を生やす個性(まつ毛)であいつに逆まつ毛を生やして動きを止め、力をストックする個性を気持ち使って蹴り飛ばした我輩は、悪くない。
「ボクは悪くない」
だからこのセリフの人の得意技のように、なかったことにならぬだろうか。
そう思っていたのだが、ダメらしい。その日のうちに、他に人がいない時に。黒いモヤが目の前に現れた。
呼び出しですか。そうですか。うむ。是非もなし、である。
久々に会った先生は、元のふてぶてしさと威圧感とを、すっかり取り戻しておった。最後に見たときの、カリスマもなにもない優しいおじさんの面影はどこにも無い。
まあ、さすがにアレはナシであるな。
そんな想いを視線にこめたら、なにやらかすかに動揺していたが。気のせい、ということにしておこう。それがお互いのためである。
今回の呼び出しは、説教と言うより様子見であるらしい。最近どう? という、親から上京した息子へのメールみたいなもの。そう考えると、先生が少しかわいい。
我輩から聞き出した情報を、容赦なく、ためらいもなく、呼吸するように自然に悪事に活用するあたりは、ちっともかわいくないのであるが。
具体的には、ラグドール先輩である。
個性「サーチ」 登録した人の情報、現在の居場所と弱点がわかる。登録の条件は目で見ること。人数は百人まで登録可能という恐ろしく強力な個性。
弱点がわかるということは、手に入る情報の中に、個性の情報もおそらくある。先生が欲しがらないわけがない。
人ごみをざっと見て、適当に登録。いい個性の持ち主を残して登録を消去。あとは目をつけた個性の持ち主が、都合のいい場所に移動するのを待って、襲うだけだ。実に効率よく、狩れる。
我輩はあの先輩たちは、キライではない。本当に、キライではないのだ。
だがしかし。どうにかしてやる術が思いつかない。助けることは、できない。すまぬ。すまぬ。
帰りも送ってくれるという黒い人に、ボスのところへ行きたい。久々に酒が飲みたい。そう頼むと、なにやらニヤリと笑った気配がした。
そうして送られた先には、カウンターと、酒瓶の並んだバックバー。なにやら見覚えのあるバーではないか。
そういえば黒い人も、白のシャツにネクタイ。ダブルブレストのベストとバーテンダーっぽい服装である。
そして薄暗いバーのカウンターの壁ぎわには。「よう、久しぶりだな」 ワイングラスを人差し指と中指の間で挟んだ、格好をつけた持ち方で飲んでいるボスがいた。
少し違うところはあるが、原作の風景である。ヒロアカ世界にいるのだという実感がわいてきそうなものだ。
だが我輩はなぜか、ほっとしていた。安心していた。帰ってきたという気がしてしまった。
もはやここが、我輩の居場所なのだろう。ああ、もう心底あきらめた。これはもう、仕方がない。
我輩はヴィランである。そう、生きる。
まあ、今の生活も居心地がよいので続行するのであるが。
「それは それ!! これは これ!!」
「心に棚を作れ!」
どこぞの漫画家がそう言っていた。ほら、我輩ヴィランであるし。卑怯やルール破りも、きっと許されるのである。
人生は楽しいほうがいいことであるし。
とりあえず黒い人。ビールください。
●「それは それ!! これは これ!!」
●「心に棚を作れ!」
両方とも島本和彦先生のマンガより。他の作品でも使っているが、それはそれ! は逆境ナイン。心に棚は炎の転校生。島本節と言うか、無駄に熱いテンションで無理を通す。
刃牙の板垣先生の言葉に「迫力があるから説得力があるって寸法だった」とありますが、まさにそんな感じです。