我輩は実習中である。
車の仮免を取得する前に、何時間かの実習と教習が必要なように。ヒーロー資格の仮免試験にも、プロヒーローの事務所での実習の経験が必要なのだ。
ウワバミさんのところでいいだろう。そう思っていたのだが、コネを広げてきなさい、と言われてしまい。結局、他所の事務所へ行くことへとなってしまったのだ。
我輩が本格的にヒーローを目指すことになって、ウワバミさんも師匠としての自覚が出てきたらしい。近頃は我輩をきたえようと、あえて突き放すような、こんなことがたまにある。
しかしながら。その研修先を自分で見つけてみなさい。というのは少し突き放しすぎではなかろうか。
まあ、アテはないではない。探してみるとしよう。
まずは携帯を取り出し、プレゼント・マイクにメールを送る。ワイルドワイルドプッシーキャッツの先輩たちでもいいが、あの人たちは見捨てるようなものなので、後ろめたい。
さいわい、メールはすぐに返ってきた。現役のヒーローでもあるが、雄英高校の教師でもあるので、研修は受け付けていないそうだ。
では代わりに、どこかを紹介して欲しい。そう頼むと、いくつか候補を送ってくれた。
で、その中にウォーターホースさんたちがいるのであるが。
我輩の記憶が確かならば、近いうちにヴィランに殺されてしまう方々である。夫婦でヒーローをしていて、水系の個性。名前は忘れたが、筋肉が物理的に増える個性の、力任せのヴィラン相手に二人とも殉職。
その子供が、親戚だったか知り合いだかで、ワイプシ先輩の一人に引き取られていた。
助ける。 見捨てる。 今、我輩の前に、二つの選択肢がある。
会ったこともない人たちである。しかし、小さな息子がいるというのに、その場に居た人々の逃げる時間を稼ぐために命をかけることのできた人たちである。
我輩はそのことを知っている。しかし、筋肉ヴィランがのちに、先生らとともに雄英の合宿に襲撃をかけたのも知っている。
つまり、筋肉ヴィランは先生の関係者、もしくは将来の関係者ということだ。
研修中にこの事件と出くわす可能性は、低い。だが、ウォーターホースたちと直接のつながりができれば、あるいは。
いや、待てよ。その前に、だ。
我輩には、ろくな戦闘力がなかったのであるな。
力をストックする個性による、ちょっとした身体能力の強化と、ネコ並の反射神経くらいしか、実践で使えそうなものはないのだ。現状では。
火車という個性ゆえに、火も少しは使えるが。叩くと消える、ちょっと火傷する程度の鬼火を出すのが精一杯。
かーっ、つらいわー。あまり強くないから、そもそも救えなくって、超つらいわー。
バトルヒーローのガンヘッドさんか、消防系のバックドラフトさんのところに行くとするのである。
「力なき正義は無力。正義なき力は暴力」
空手家の偉い人もそう言っていた。実際、力の有る無しで、出来る範囲の広さは決まる。
我輩の今の力では、ウォーターホース夫妻は救えないのだ。
思うところが無いわけでは、決してない。
だが人間、できることしかできない。それが限界というものである。
Plus Ultra 限界を超えて、更に先へ。
ヴィランである我輩には、それはできないのだ。
だが限界を超えられはせずとも、成長はしよう。限界を広げる程度はしてみせよう。
見捨ててしまったもののためにも、せめてそれくらいはやってみせる。
To One step More 一歩先へ、もっと。略してTOM、トム。
これが我輩のヒーローネームである。
●かーっ
地獄のミサワより。わざと言っている。あおっている。などの使い方をする時の枕詞。
ググると画像が大量に出ると思われるので、詳しく知りたい場合はそちらで。ひと目で理解できます。百聞は一見にしかず。
●「力なき正義は無力。正義なき力は暴力」
国際空手道連盟総裁、極真館館長、故大山倍達氏の言葉。本人はヤクザの用心棒したり、戦後にいた連合軍兵士を殴り飛ばしたりしていたらしいが。確かに、暴力を振るってはいけないとは言っていないw 実は朝鮮半島生まれの、韓国系日本人。韓国独立後に日本に帰化したのちに韓国籍に復帰。