我輩は……なにをしているのであろうな。
まずは意志を固め。札束を持って、それを振りかぶる。そしてそれを目の前のむき出しの脳みそに振り下ろす。
「ボールをボールをゴールにシューッ! 超! エキサイティン!」
別に何の感慨もわいてこないのだが。むしろ、どんどんと表情が死んでいくのが、自分でわかる。
いや、本当に。なにをしているのであろうか、我輩は。
「わけがわからないよ」
ああ、うん。なにをやっているのかというか、その内容は説明を受けたから、わかってはいる。
ただ、なんだ。なんというか、その。
札束にぎりしめて、無反応の相手にスパンスパンとビンタを繰り出し続けていると、その。なんだ。
非現実感と、意味のわからなさに、現実逃避してしまうのだ。
なんだこれ。
ひとことで言うと、そうなる。
察しの良い方は、こんなわけのわからない説明でも、すでに理解してしまったかもしれないが。これは脳無生産の仕上げ、洗脳作業である。
いや、マジで。
ちなみにマジという単語は、江戸時代にはすでにあったらしい。
「お前は次に「マジで!?」と言うっ!」
ふ~ん。と言った方は、すまない。外したようだ。
それで、アレである。洗脳であるが。この個性 洗脳(札束ビンタ)はどこから来たのかと言えば。そう、我輩である。
なんでたまの当たりとも言える個性には、たいがい変な縛りが付いているのか。どこかに苦情が言えるのならば、言ってみたいものである。
なお使用する札束は、旧1万円札のものが一番効果が高く、二千円札がもっとも効きが弱かった。五百円札より弱かった。
いい加減、脳無を作り続けるのが面倒になってきた先生が、その作業の一部だけでも他の人間にやらせようと考えて。
ちょうどそこに、こんな個性を手に入れましたと。ネギを背負ってやって来たのが我輩だった。
報酬は、仕事が終わったら、実験に使ったものも合わせて、この札束をくれるそうな。
新旧一万円札で二百万の、新旧五千円札で百万の。あと千円×2の、二千円と五百円で。
え、345万円も?
洗脳ができているかの、確認の時間を合わせても時給百万を越えるぞ。
こんなことなら、ドル札などでも実験すれば良かったのである。
先生からすれば、そうたいした金額ではなかろうし。こんなものをシバいたおカネなどいらないのだろう。気持ちはわかる。
これはお小遣いとして、ありがたくもらっておくのである。
改造人間の、最後の仕上げである脳の改造。ひょっとしたら先生は、我輩を悪の組織側に縛り付けるべく、非人道的な作業をやらせているつもりなのかもしれないが。
その実行手段がコレであるので、残念ながら罪悪感がさっぱり感じられない。
なんだかなあ。
そんな中途半端な、罪悪感というには薄すぎる感情しかわいてこず。そんなものはこのシュールな作業の中で、消えていく。
いや、本当に。我輩は何をやっているのであろうか。
そこ、バイトだろって言わない。
●「ボールをボールをゴールにシューッ! 超! エキサイティン!」
バトルドームのCMより。正確にはボールを相手のゴールにシューッ! 超!エキサイティン! である。ボールをボールを(何度も繰り返し)ゴールにシューッ(何度も繰り返し)ボールをゴールにシューッ! 超! エキサイティン! というMAD動画の方がインパクトが強かったので、そちらを覚えていたようだ。
●「お前は次に「 」と言うっ!」
ジョジョの奇妙な冒険第二部より。相手の言うセリフを先読みして出し、動揺を誘う二代目主人公ジョジョの得意技。紳士で硬派で短命なジョースター家の男たちの中での、唯一の例外である。誇り高いがふざけていて、ハッタリやだますのが得意で、またまたやらせていただきましたぁん! などと言い放つ。愛妻家だが浮気もした。乗る飛行機は何回も落ち、乗り物は潜水艦すらも事故る。が、ヨボヨボになるまで長生きした。