1 むだばなし。2 心静かにする話。もの静かな会話。「一夕の―を楽しむ」
デジタル大辞泉より抜粋
我輩は不登校児童である。
そもそも戸籍があるのかどうか、非常にあやしい。しかも就職していて、実は裏家業の人間でもあるのだ。
どう考えてみても、小学校には通えぬ。
あれから何年か経ち、我輩もすくすくと、とは決して言えぬが成長した。そこいらにいる世間の子供らがランドセルを背負い、集団で登校していくさまを見て、思うところがないでもない。
しかし我輩はこれが生まれ変わって、二度目の人生であるからして。
ただ。少しだけ、その、だ。
給食のカレーやら、ソフト麺やら、ワカメご飯。休み時間のドッジボール。放課後に居残って仲間でやったサッカー。起立、礼の号令や、声を合わせたあいさつ。校庭のすみっこにあった遊具たち。校舎の裏手にあったりなかったりした飼育小屋の動物。立ち入り禁止なのに、なぜかコツを知っていれば行けるようになっている屋上。席替えに代表される日常的イベントと、クラス対抗の大会や、遠足に代表される非日常的イベント。そう言えばその中でも、夏休みは妙に楽しかった。夏と言えばプールもいい。そして女子がブラを付け始める頃に出てくる、男子と女子の微妙な対抗意識も、それに関連して来て……
ちょっとだけ、ちょっとだけである。ちょっとだけ。幼き時代の黄金期とも言えるものを、味わってみたい気もするだけなのである。
ほんの少しでいいのだ。だって授業とか、当時からしてすでに退屈そのものであったし。それをもう一度6年、週に20時間以上とか、逃げ出すしかないではないか。
「見た目は子供、頭脳は大人、その名は」
それをこなした上に子供らしい演技を日常的にやれていて、ちゃんと他の子供と交友できており、しかもストレスにつぶれる様子がない。あの少年には脱帽するしかない。
閑話休題。
そんなわけで、我輩は不登校児童である。ボスもそうだ。
つい先日聞かされたのだが、ボスもまた一人で路地裏にいたところを拾われたらしい。
知ってた。
覚えている原作の知識の範疇であったので、知っていたので、思わずそう言いかけてしまったが。しゃがみこんで我輩の頭を軽くぽんぽんと手のひらでなでながら、遠い目をして語るボスには、さすがに我輩も自重した。
ただ、その頃のホームレス状態の経験で、ぼーっとして長時間を何もせずに過ごすクセはどうかと思われるので、そのうち指摘しようと思う。お付きの爺、みたいなポジションにいる黒いモヤの人を通じて。
黒いモヤの人。
唐突に話題にしたが、前々からの知り合いである。というか、我輩やボスの面倒は、だいたい彼が見てくれている。うむ。たぶん、彼である。彼女ではない、と思う。姿がはっきりとせぬので、決して自信を持って断言はできぬ。
黒いモヤの人は、ワープゲートなる個性の持ち主で、ある地点と別の地点をつなぐ抜け穴を作り出す便利な人で、人柄も良い、まじめな好人物である。
そんな好人物が裏社会の大物の側近であるあたり、本当に世の中は世知辛い。
しかも近頃は、わがままになってきたボスに振り回されることが多くなってきた、苦労人でもある。
ボスの先生が、ボスのわがままやらお願いやらのほとんどを叶えてしまうせいであろう。
ボスは今、年齢的なこともあって、もやもやとした黒い想いを胸のうちに抱えながらも無気力だった子供から、生意気なクソガキへと順調に成長中なのだ。
そう言うと、若干改心しているようにも聞こえるから不思議だ。
ボスの先生からしてみたら、行き場やぶつけるところがわからない、黒い何かを持ってさえいればよいのだろう。本格的に育てるのはまだこれからで、今は無気力さの克服、気力の回復のために自由にさせているのだろう。
「つよいポケモン よわいポケモン そんなの ひとの かって ほんとう に つよい トレーナーなら すきなポケモンで かてるように がんばるべき」
「それは違うと思いますが――その通りですっ!!」「違うけどその通りでしょう!」
なにか今、我輩の中で想起されたセリフ同士で対話が成立してしまったような気がしたが。
きっと、気のせいである。
●「見た目は子供、頭脳は大人、その名は」
名探偵コナンより。怪しい薬で、高校生から小学生に若返ってしまった少年が主人公のアニメの、キャッチフレーズ。推理モノではあるが、独特の軽さがある。
●「つよいポケモン よわいポケモン そんなの ひとの かって ほんとう に つよい トレーナーなら すきなポケモンで かてるように がんばるべき」
ポケモン金銀のゲームの中のセリフ。でも限界ってあると思うんだ。
●「それは違うと思いますが――その通りですっ!!」「違うけどその通りでしょう!」
吼えよペンより。炎モユルというマンガ家が主人公の、無駄にセリフが熱いマンガ。うしおととらや、からくりサーカスの藤田カズヒロがモデルの、富士鷹ジュビロというキャラで有名。
俳優をモデルにマンガを描いていたら、その俳優がイケナイ薬で逮捕されてしまう。むしろアイツはこうあるべき!というマンガを先に描いて、本人に教えてやるべきなんですよ!と主張する、実際そういうマンガを描いてあったホノオと、そのおかげで無事雑誌に載せられる原稿を受け取れた編集者の言葉。前者が編集者のセリフである。