我輩は休暇中である。
雄英体育祭も近付く中、ぽっかりと開いた休日。特にすることもなく。陽だまりの中で、丸くなっている。
ニャー。
うつらうつらとしながら、思う。ああ、こんな時に、あの個性があったなら、と。
ホバークラフトで空を飛ぶ、あの個性があったならば。退屈など吹き飛ぶ、ユカイな空の旅ができたであろうに。
個性の中には、発動するために何かが必要なものも、多々見受けられる。
いつぞやの、植物を巨大化させる個性もそうであるな。植物がなかったら、何も起こせぬ。
たいていは、ピンとくるものと出会って、その個性の内容が発覚する。個性がシュミや行動に影響するせいか、変わったものでも発覚していることが多い。
タンポポを誰よりも輝かせる個性とかが、それである。
他にはサボテンを食べると、針を生やして飛ばせる個性やら、宝石に血をたらすと、ダウジングに使えるようになる個性。
鼻笛を吹いている間、一体の生物を操れる個性に、左手に完熟トマト、右手にモッツァレラチーズを持つことで、娼婦風パスタに変換する個性など。どうやって見つけたのだ、という個性も多い。
だいたい、先生に持っていかれたが。
そういえばステインさんの個性も、発動する条件に、相手の血をなめるというものがあったが。あれもどうやって発覚したのであろうか。
トガちゃんも、血を飲んだ相手に変身する個性だが。あれは血まみれの相手に興奮するという、ヤバめな性癖として現れていたので、それで発覚したのだろう。
あれ? そうするとひょっとして。ステインさんも――――――
やめよう。
彼の行動が、全て意味深になってしまう。
そんなはずはないし、そうであって欲しくもない。だからこの先は考えてはならない。イイネ?
で、なんのはなしであったか。そうそう。個性の発覚うんぬんのはなしであったな。
ホバークラフトで空を飛ぶ個性は、発覚していなかったものだ。さすがにホバークラフトを運転する機会は、普通に生活を送っていたら皆無であるから、これは仕方がない。
それをかわいそうに、と思うほど。この個性は気持ちが良かった。
空中を、ホバー独特のすべるような動きで飛んでゆく。上昇下降は思うだけでできた。加減速に、方向操作は普通に操縦だ。
操縦席がむき出しの、小型の一人乗りの機体であったが、むしろそれが良かった。
飛んでいる感覚が、実に楽しい。吹き付ける風を切る感覚も、また良かった。
この個性も、先生に持っていかれたが。
誰かにあげてしまったらしいので、少しの間遊ばせてもらうこともできぬ。先生も試しにと、少し遊んでおったので、手元に残しているものだとばかり思っていたのだが。
赤外線でかろうじて周りを認識している先生には、何もない空を飛ぶのは面白くなかったのかもしれぬ。
飛ぶだけなら、先生はエアウォークという個性で、生身で飛べることであるし。あの楽しさをわかってもらえなかったのは残念であるが、やむをえぬ。
しかしなあ。空、飛びたいであるなあ。
こう、自由の象徴という気がするのである。
未来から来て、ダメ人間をさらなるダメ人間にする、自称ネコ型タヌキの主題歌でもそう言っていた。
なお、四○元ポケッ○を再現できないか、個性 ワープゲートな黒い人に聞いてみたが。できなくはないが、長時間はムリなのだそうな。
まあ、あれだけを再現できても、肝心なのは中身である。ガワだけあっても、ほぼ意味はない。
そんな具合に、休暇をだらっと過ごしていた我輩に、先生からお仕事の電話が来た。
仕事ではあるが、報酬はない。個性を買い取ってくれる他は、基本タダ働きである。さすがは闇の組織。ブラックである。
怖いので、何も言えぬが。もし優しかったら、もっと怖いし。
ある意味安心であることに、今回の仕事も厳しかった。
ちょっと一人、脱獄させて欲しいヴィランがいる。成功したら、洗脳してボスの部下にしろ。
ちょっと何言ってんだか、わかりたくねーのであるが。
捕まったら、助けてあげると前から約束してあった、と。戦闘力はあるから、今度の本格的な雄英襲撃に使いたい、と。
で、現在地は? え、死刑囚の収容所? その人なにやった人であるか? 自分の親まで含めて、無差別殺人。肉の切断面を見るのが大好き、と。
絶対ヤバイやつだコレー!
あの、仲間にしても、絶対に信用できないのであるが。背中を任せるどころか、目を離すのも怖いのであるが。
約束は守るものだよって、そういうはなしじゃねーのである! ちょ、先生! 先生! うわ、電話切りやがった!
た、助けて黒い人えもんー!!