我輩は撮影中である。ステインさんのPVであるな。
ステインさんに一人で叫んでもらっても良いのだが、やはり相手がいたほうが盛り上がるだろう。
そんな軽い気持ちのせいで、ボコられてしまったインゲニウムさんが、そこにいるじゃろ?
社会から失われてしまった。かつては確かにいた、ヒーロー。それを取り戻そうと、ヒーローという理想を実現させようと走り続けているステインさん。
誰かが困っていたら、助けてあげられる人でありたい。そんな素朴な想いで、ヒーローという職に就き、結果を残してきたインゲニウム。
この二人の信念の叩きつけあいと、ぶつかりあいはそれなりに熱かった。どちらにも言い分があって正しいのだと、思ってしまうほどに。
錯覚である。
ステインさんの手段がテロだったことを考えると、インゲニウムの方がはるかに社会の役に立っているのだ。
「自分の身さえ捧げれば、自分の身と引換えならば…… どんな違法も通ると言う誤解……
それで責任をとったような気になるヒロイズム。とんだ勘違いだ…… 責任をとる道は身投げのような行為の中にはない
責任をとる道は…… もっとずーっと地味で全うな道……」
ロクデナシの博打打ちの、カッコイイ爺さんがそう言っていた。過激だからといって、極端であるからと言って、正しいというわけではないのだ。
まあ、正しいだけでは、こうやって敗北してしまうわけであるが。やはり力がないと、選べる選択肢は減るのである。
でもステインさんは逆境にまっすぐ立ち向かいながら、叫んだほうが印象が強くなるよね。
そんな軽い気持ちで用意した、おかわりのヒーローの、偽マイトがここにおるじゃろ?
うむ。偽マイトである。
もちろん、これはお察しのとおりのシロモノ。オールマイトのニセモノである。
増強系の個性で、あのムッキムキの筋肉を再現。顔はオールマイトマスクが、グッズとして1980円で売っていた。声も個性で完全再現の、かなりの完成度を誇るデキである。
だがステインさんには、一発でバレてしまったが。
さすがはオールマイトになら殺されてもいいという、ファンを通り越した何か。
筋肉のつき方の細かな違いや、雰囲気。何よりそのマスクは持っているという、まさかの、もしくは納得の事実により、ニセモノと見破られてしまった。
だが、さすがに中の人まではわからなかったようだ。
今までの人生で、きっともっとも気合の入った「消えろ偽者ぉぉぉお!!!」という叫びとともに斬りかかったステインさんが、あっけなく斬撃を無効化され、跳ね返されている。
複数の個性を使っていることで、勘の良い方は、まさか? と思われていると思う。
その通りである。
これ、先生です。
いや、マジで。
なんというか、である。どこからか、多分黒い人からであるかな。この企画を聞きつけたらしいのである。
それで、一枚かませろって言われて、ね。どうせ正体は隠さなきゃいけないのなら、偽マイトになって、ステインさんを適度にボコって欲しいって言ったらね。
それが、通っちゃったのであるな。
まさか、ここまで遊んでくれるとは、思わなかったのである。
今回、ボスに普段やっているくらいの、甘やかしっぷりなのだが。もしやこの間の、脱獄の手助けの見返りのつもりなのだろうか。
テキサススマッシュ! とかノリノリで遊んでいる姿からは、どうもいっぺんやってみたかっただけの気もするが。
だとすれば、それは仕方がない。ヒーローのニセモノを作るのは、古くからの悪役のロマンのひとつであるからして。
これはこれで楽しいが、ステインさんのPVとしては使いづらいな。偽マイトの印象が強すぎて、そちらに持っていかれてしまっている。
オールマイトも先生も、カリスマであるからなあ。
しかたない。インゲニウムさんのところだけ使おうか。偽マイトが世に出回らないのは、謝って許してもらうか、時期を待って出すとしよう。
そう考えていたのだが。
なぜか、ステインさん。先生にだんだん対抗できはじめてるんですけど。
倒される。立ち上がる。吹き飛ばされる。受身を取って着地、突っ込む。腕をやられる。ナイフを口に咥える。はたき落とされる。その前に首を振ってナイフを投げる。個性で空気ごと殴る。勘で察知して回避。接近したのを蹴る。吹き飛ばされるが、脚の仕込みナイフで受けて血を入手。
そしてステインさんの個性 凝血 が発動する。相手の血をなめると発動する、マヒさせる個性である。
当然ながら。この個性に、先ほどまでの戦闘を補助する力はない。素の身体能力と、体術のみである。
個性抜きで先生と戦えてしまうあたり、この人本当にどこかオカしい。
だがしかし。先生はもっとオカしい生き物である。
マヒしたはずの体が、平然と動く。ゆっくりと、確かめるように。そして、突然稲妻のようにステインさん目掛けて、その体が飛んだ。
ミズーリースマッシュ! その速さのまま、首の後ろに手刀が決まった。ステインさんの体がアスファルトに叩きつけられ、跳ねる。そして浮き上がった体は、そのまま地面に落ちると、ピクリとも動かなくなった。
先生、やりすぎぃい! ほどほどって言ったじゃないですかー!
生きてるかな、ステインさん。心配になった我輩が、一刻も早く治療を、と。カメレオンのカメラマンに、撮影中止を言い渡そうとした時であった。
彼は、立ち上がった。そして吼えた。
「ハァ……ヒーローとは、見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに……得うる称号でなければならない。
今の世には、ニセモノが多すぎる。ましてや、お前のようなオールマイトのニセモノなどは論外だ!
ヒーローを取り戻さねば! 人を救うヒーローを! それまで俺は止まらんぞ。俺を止めていいのは、殺していいのは、オールマイトだけだ!!」
原作では、そこで立ったまま気絶していたが。なにゆえか、この彼もその通りとなった。
その姿は、気絶してなお、何かを放ち続けている。
そしてしばしの時を待って。
余韻はこんなもんであるな。
舌打ちを三回続けて打ち、撤収の合図を送る。駆けつけた地元のヒーローを足止めしていた、ヴィラン連合の皆さんにも、これで伝わるはずである。
さてカメラマンくん。ネットに流す前に、このあと一応確認するけれども。現物を無くしたらマズいであるから、このアドレスに保管しといて。
先生はステインさんに興味を持たないで。その人まで育ててる余裕とか、もうないでしょ。
あとは黒い人からの回収を待つ間に、ステインさんの応急処置をせねば。
生ステインさんの魂の叫びに、何かを思わぬではないが。
我輩はPであるからして。今はそれどころでは、ないのである。
●自分の身さえ捧げれば~
天―天保通りの快男児―より。自分のミスで迷惑をかけたと思った若手が、メガンテを唱えようとした(比喩)時のアカギさんのお言葉。何かあったら、とにかくやめろと叫ぶ方々に聞かせたいセリフである。でもこれ言ったのバクチ打ちのロクデナシなんだよなあ…w いや魅力的なキャラなんだけどね。