我輩は○○である   作:far

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我輩はシビれているのである。

 

 我輩はシビれているのである。足が、もう限界なのだ。

 体重が軽い分、長く持つはずなのであるが。この体、どうも正座には向いていないらしい。

 今までにも何度か、主にウワバミさんにお説教される時に実感したのだが。こればっかりは体質であるので、改善などはしないらしい。

 

 無重力などの個性で、こっそり浮けたりしたのなら、はなしは別であろうになあ。

 

 現実逃避気味に、そんなことを思う。

 まあ、あったとしても、例によって先生が持っていくのであるが。

 毎度お買い上げありがとうございます。おかげさまで、我輩のふところには、使いどころのないお金でいっぱいです。

 使ったら怪しまれるくらいに大金であるから、本当に使い道に困る。

 今度、報酬はお金ではなくて。そうであるなあ。うむ。新しい戸籍にしよう。

 Pとしての戸籍でなら、いくら使っても問題あるまい。なにせ、もともとが怪しい人物だ。出所の怪しい大金くらいは、逆に持っていないと不自然というもの。

 

 あ、茶が来た。

 

 え~と。まずはどうするのであったっけ。

 

「おじぎをするのだ」

 

 そうそう。出された茶に対してのお礼として、頭を下げて。他に客がいたら、こんなんもらったぜと茶碗を見せて。お先に、と一言断るが、いないので省略。

 右手で茶碗を持って、正面に置いて。頂戴いたします、とまたおじぎをするのだ。で、クイッとやって、時計回りにクルクルっと回して、最後にズゾっと音を立てて飲み終わる。

 最後まで飲み終わりましたよ、というのを示すためらしいが。ストローで飲んでるんじゃないんだし、と思ってしまうなあ。

 で、畳に茶碗を置いて、指で口をつけたところをぬぐって、懐紙で指をふく、と。

 

 あー。え~っと。ここからどうでしたっけ。先生。あ、反時計回りに回すんですね。茶碗を、出されたように向きを直すと。

 結構なお手前で。

 

 さて。

 

 なにをしているのか。そう問われれば。茶道である。としか、答えられぬ。

 どういうわけであるのかは、わからぬ。まったく持って、わからぬ。

 だが、これが我輩に対する、今回の敗北の補習であるらしい。

 

 先生自ら、見事な所作で、茶を立ててくれている。目が見えぬとは思えぬ、迷いのない、きれいな動きだ。

 おかわりの一杯を作ってくれながら、いつになくゆったりとした空気をまとって、先生は話してくれた。

 

「弔はもう、飽きたと言って、あまり付き合ってくれなくてね」

 

 盲目になったあと。個性だけで周りを知覚する訓練がてら、茶道を始めてみたのはいいが、そこで気付いたらしい。

 

 茶が、飲めない。茶菓子もダメだ。

 

 先生は食事にも手順と制限があって、好きに飲み食いなど出来ない体なのだそうな。

 いつもつけている呼吸器も、外せばほどなく死に至るらしい。そんな体の割には、元気で強くて、死にそうな気がしないのであるが。

 

 それで自分では食べられないからと、ボスや黒い人にふるまっていて。今となっては、黒い人は忙しいし、ボスは飽きた、と。

 そういうわけで、我輩にお鉢ならぬ、お茶碗が回ってきたわけであるな。

 

 ふうむ。なにやら先生の趣味も、いろいろあるのであるなあ。

 ところで、足を崩しても良いでしょうか。あ、ダメですか。そこを何とか。もう辛くなってきたので。

 

 茶席で出てきたのは、お茶と茶菓子だけではなく。我輩が渡していた個性の中から、瞬発力増強の個性をひとつ返してくれた。

 あとは体術を地道にみがけ、というお達しである。

 

 最近の若い者は、個性にばかり頼ってウンヌンカンヌン、個性頼りにしても、もっと使いこなせばドウノコウノ。

 

 足のシビれが限界を超え。先生のはなしも、ただの老人のグチに近いような内容であったので。

 この日。我輩は、先生のはなしを初めて聞き流したが。

 先生はそれに気付いてか気付かずか、やたらと長く話しておったことは確かである。

 

 

 




先生が茶道やっているのは独自設定です。
暗黒チャドーならやってるかも。

●「おじぎをするのだ」
ハリーポッターより。おじぎをするのだポッター。これ、ラスボスのセリフである。しかも物語が進み、意外なところで蘇ってきたラスボスが、さらって来た主人公相手に、戦う前に言ったセリフ。
あまりにシュールであったので、シリアスな笑いを生んだ。擁護するなら、ラスボスの自称ヴォルデモートのトムさんは、伝統を重んじるので、魔法使い同士の決闘の前にはお互いに礼をする、という決まりを守りたかったのだ。
やっぱりトムって名前のヤツは仕方がないのであるな。
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