おかしいな。妙に文章量を持っていったぞ?
我輩は体育祭のコーチである。
かつて。我輩をコーチと呼んだ男が、ひとりだけおった。
番組の個性開発企画第二弾の男。我輩の助言で、原作より一足早く、髪を赤毛にして逆立てたおかげで、なぜか個性が強化された男。
そしてその後。なぜか我輩ではなく、第三弾と四弾で活躍した謎のバイト師匠ことステインさんを頼ったが。彼が入院中であったために、代打として我輩がきたえあげた男。
原作よりも、ちょっとばかり強化された男。切島くんである。
ついでなので。今朝、少しばかり助言もしておいた。
「聞こえますか。今、我輩はあなたの頭に、直接話しかけています…」
「えっ、あっ、どっから……ふぁ、ファ○チキください?」
お約束というものをワカっているな、切島くん。どこからと言われれば、実は近くの物陰からであるのだが。
これは個性の力ではない。吹き矢で撃ち出せる、骨伝導マイクの力である。
サポートアイテムのカタログを見ていたら、これを見つけてしまって、衝動買い。そして手に入れたら、使ってみたくなってしまったのだ。
こういう小道具も、ロマンであるからね。仕方ないのである。
通学途中の彼を待ち伏せ、個性で気配を薄くしてからの、後ろからの一撃。実に、ちょろいものであった。
そこまでして伝える助言内容は、足の親指の付け根あたりを意識しろ。これだけであるのだが。
力を高めて、一点に集中する。これが彼に伝えた基本であるが、基本であるがゆえに、色々と応用が利く。
走ることにも使えるのだ。足を後ろに送る時。親指付け根に、意識して力を集めるかどうか。これだけで、だいぶん変わってくる。
それを実践した彼の、障害物競走の結果は八位。原作と比べてどうなのかは分からぬが、いい順位であると思う。
そして今度は、二年生の競技が始まった。どうやら一年のコースとは、また別の仕掛けがあるようだ。
だがしかし。残念ながら見ているヒマはない。助言を必要としているやつを、見つけてしまった。
ボス。ちょっと行って来ます。なに、すぐ帰りますよ。だからこの面々で、何か問題を起こさないでおいてくださいね。
ムリだろ。ですよね。
そんなやり取りをして、席を立つ。行き先は、緑谷少年のところだ。
彼にはあせりのような、切羽詰った何かを感じた。何があったのやら。とにかく話を聞かねば、始まるまい。
部外者が会えるのかどうか、わからぬが。二年と三年の競技の間、時間はある。試してみよう。
そして選手らの控え室へと移動する途中。なぜか炎オヤジと遭遇したわけで。
とりあえず、ヒーロー側の立場であるTOMとして、あいさつをした。あまりこちらには興味がない様子であったが、息子さん、目立ってましたね。という我輩のひとことで、流れが変わった。
「……あいつは、迷っているようでな」
なんか語りだした。しかも長かった。なんで初対面の、年下の小僧にグチってるのであるか、このオヤジは。
確かにそういうのを言えそうな存在が、いなさそうではあるけれども。
奥さんは精神的なアレで入院中。三人だかいる息子は、末っ子轟が絶賛反抗期で、回復の見込みなし。上の二人がどうなのかは知らぬが、うち一名が荼毘くんの疑いあり。
娘もいたはずであるが、自分の身内、それも目下に弱音が吐けるような男ではなさそうである。同じ理由で、部下もダメ。
友達は、いるのであろうか。
仕事一筋で、全てを犠牲にして生きてきた、中年男の悲哀のようなものを感じる。
ただ頂上を。オールマイトを目指して、届かなくて。ずっと手を伸ばして、そのためには何でもして。それでもなお、届かなくて。
やっと見えたそれが、息子の轟くんなんだよなあ。
自分の子供に、理想やら背負ってきたものやら。自分が出来なかったことを、おっかぶせようとするのは、いかがなものか。そう思うのであるが。
思うのであるが。
不器用な人間の、精一杯の生き方。これを否定する気にも、またなれなかった。
「息子さんが、だいぶん可愛いようですね」
動揺するかと思ったが、あっさりと肯定された。そして余計なことも言う。あいつは私を超える傑作だ、と。
そういうことを言うから、反抗期になるのである。
オールマイトを超えるための道具ではないのならば。自分の息子として、誰よりも高みへと行って欲しいのならば。はっきりとそう伝えねば、伝わらぬのである。
はっきり言うと。あなたの息子さんに、自分は愛されておらず。あなたは、ただ利用しているだけ。そう思われておるぞ?
この我輩のマジレスに。てっきり軽い反抗期であると思っていたエンデヴァー、大ショックである。
この男。自分の息子であるし、言わなくとも分かってくれるとか、あれだけ手塩にかけてきたえたのだから、自分を心底嫌ってはいないはず、などと思い込んでいたらしい。
なにこの、昭和のダメオヤジ。
もう、何も言わずに、いっぺん謝ってきたらいいと思う。
誰にって? 謝るべきだと思った全員にである。
善は急げ。ウダウダ考えていたら、また変な結論に達して、事態がこじれるから。絶対そうなるから。ほら、さっさと行くである!
我輩も、1年A組に用事があるから、一緒に行きましょうか。さあさあ。
そして到着した先で。ダメオヤジは息子を連れて、外へと出て行った。さすがに他の人らのいる前でするような、そんなやり取りではなかろうし、それは別にいい。
だが緑谷少年。お前はダメだ。
あせっていた理由が、活躍したらデートしてくれるって約束したからってキミ。
十代の男子なんて、確かにそんなもんではあるが。それにしたってキミィ。
まあ、いいや。ちゃっちゃと全身を薄く強化する、フルカウルの概念でも教えてしまうのである。
実戦でのヒラメキがおとろえるから、とか自分で考える力を養うとか。そんな理由で誰も教えないのであろうが、彼の場合教えないと命に関わるし。
だいたい、腕だけ100%とか、効率が悪いのである。腕だけって手打ちの、腰の入っていないパンチであるぞ?
そんなものが強力なわけはないのである。普通は。
ワンフォーオールのおかげで、強力になっていて、それに目がくらんでいるだけである。腕だけ、それも一瞬では、全盛期のオールマイトの十分の一も発揮できてはいまい。
なら3%だか、5%を。無理しない範囲で、ケガなしに使ったほうが効率がよい。たいへん合理的である。
自分を省みないやり方が、身に染み付いてしまっている彼には、手助けが必要であると思うのだ。
だからこの程度の助言は、見逃してくださいな、オールマイト。
●ファ○チキください
元はネットの掲示板でのやり取り。
>ファミチキください!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
>いきなりでけぇ声あげんなよ うるせぇよ
>(ファミチキください)
>こいつ直接脳内に・・・!
カッコつきで返した機転と、それを小声でなく脳内に、と解釈した秀逸なやり取りがウケ、メジャーなネタに。
以降、逆に脳内に何かをささやかれた時に、ファミチキくださいと返したり、テレパシーでのやり取りにこっそり混ぜるなどの使われ方をしている。