我輩は体育祭の視聴者である。つまり、宴会はまだまだ続いているというわけだ。
さすがにみんなの飲むペースが落ち着いてきて、黒い人も一息ついている。
ところで。さっきから、あそこで手品をやっている、芸人さん誰であるか?
いつの間にかいて、違和感なく溶け込んでおったのだが。
あっ、はい。はじめまして。ヴィランではネコと名乗っております。見習いヒーローもやってるTOMです。どうぞよろしく。
Mr.コンプレスさんですか。色々とビー玉みたいな形に圧縮できると。おお、すごい。手を開いたり閉じたりするだけで、玉の数が次々変わる。
失礼ですが、元プロの? ああ、やっぱり。まあ、色々ありますよね。ない人間は、ここにはいませぬゆえ、お気になさらず。
ところで、仮面ですけど飲み食いは―――え、口のとこ外れるのであるか? う、うむ。大丈夫なら、あなたも楽しんでください。
仮面にシルクハットに、トレンチコート。どこか英国風を思わせる格好の彼は、歓迎されていた。
飲み会で酒が回り、一度盛り上がって、少し落ち着いた。そんなところに来た、腕のいい手品師である。歓迎されないわけがないのであるな。
あまり飲んでおらぬ黒い人も、歓迎しておる。やった、これで負担が減る。そんな心の声が、聞こえてくるようだ。
作戦を立てる。というか、やりたいことを企画するのはボスがするようになったのであるが。
それを実行するための、具体的な計画と準備は、ほぼ黒い人だけに丸投げされておったからなあ。
参謀役ができる。あるいは、その相談に乗ってくれそうな相手の加入は、大歓迎なのだろう。
でも、入ったばかりの人を、アッサリ信用するのはどうなのであろうか。
なまじ原作知識があったので、我輩はそのへん気にしなかったのであるが。
そのあたりは、今度先生にでも聞いてみよう。ボスに聞いて、その発想はなかったって顔をされたら、うっかり絶望しそうであるから。
そうこうしている間に、トーナメントの二回戦も進んでいく。
八百万 対 切島、心操 対 爆豪、緑谷 対 轟、常闇 対 発目。どれも面白そうではある。
順当にいけば、決勝は爆豪と轟の対戦になりそうなのと、轟がその前に緑谷少年と戦うあたり。原作補正さんがんばったであるな。感動したっ。
まあ、実際どうなるのかは、フタを開けてみねばわからぬが。
第一試合。この試合は、見る側としては、あまり面白くはなかった。このバーの酔っ払いどもからも、ブーイングが上がった。
煙幕のせいで、ほぼ見えなかったのである。そうなるのも、むべなるかな。
使ったのは、八百万。彼女はます開始早々に、上着を脱いだ。
これには接近戦しか出来ないので、突っ込もうとしていた切島くんも、思わず立ち止まった。
若干、前かがみになっていたのは、気のせいということにしてあげよう。彼は十代なのだ。
黒のタンクトップ、というよりもスポーツブラに近い格好になり、肌面積を大きくした彼女は。次々とマトリョーシカ人形を生み出しては、広範囲にバラまいた。
その中から出てきたのが、白い煙。その中で何があったのかは、わからぬが。争っているらしき音はしておった。
最終的にバチッという音がして、煙が晴れた時。立っていたのは、八百万の方であった。
目にはゴーグル。おそらくは、サーモグラフか。煙幕の中、光でなく熱でモノを見たわけだ。そして手には短い棒。スタンバトンであるな。先端から電撃を流す、棒状のスタンガンである。
姿が確認できた時点で、ミッドナイトが勝利を宣言した。切島くん。残念ながら、ここで敗退である。
賭けを持ちかけたのが、一回戦で良かったのである。危ないところであった。
しかしサポート科以外は、装備持ち込み不可のこのルールでは、彼女は強いな。一人だけ、取り出す時間はかかれども、持ち込み放題である。
「こっちだけズルして無敵モードだもんな」
そんな風にも、感じる。まさか次も勝たないであろうな? 爆豪なら大丈夫だと思うが。
というか、次の試合は爆豪とS少年なのだが。爆豪、勝てるであるか?
これまでの言動で、大丈夫だと思うが。彼が優勝しないと、ボスが彼をこちらへ招待するという、大事な原作イベントが起きない可能性がある。
そこから先生とオールマイトの戦いへとつながる、大事なイベントなのだ。
まあ、それが起きないでも、何とか「する」であるが。我輩が何もせずとも話が進むに越したことはない。我輩にも、やらねばならぬことがあるゆえに。
うん? 何を企んでいるかであるか? それはナイショである。時と場合によって変わることであるし。
そして心配していた、S少年と爆豪の戦いであるが。爆豪が順当に勝ち上がった。
きたえたとは言え、S少年はもともと緑谷少年と同じく、身体能力は低かった。
幼い頃から才能があり、独自にきたえた爆豪。それに対して、中学の途中からきたえだしたS少年。高校に入ったばかりの今は、まだその差は大きかったということか。
声に出して、答える。この洗脳の条件がバレていなければ、まだ勝ち目もあったであろうが。
開幕、ネコダマシによってスキを作っての一撃と。緑谷少年がS少年に声援を送ったことに、なぜか爆豪がイラ立ち、何かを叫ぼうと緑谷少年の方を向いた時の一撃。
爪あとは残したが、それが今の彼の精一杯であった。
こっそりとボスの反応を見たが、完全に観客を敵に回している爆豪を、熱心に見つめてはいた。
でも、さっきコンプレスの手品のタネを見破ろうとしていた時の方が、熱がこもっていた気がするのは、なぜであろうか。
こんなボスに、誰がした。黒い人がちゃんと世話していたはずなのに、どうしてこうなった。
原作よりも、確実に人生が楽しそうであるので、そこは良かったのであるが。
そして緑谷少年と、轟の対戦である。炎も氷も使って、追い詰めていく轟と、指を壊しながら。腕を壊しながら。それをかき消して、一撃を狙う緑谷少年。
フルカウルの概念は教えたのだが、いきなりは使いこなせないと判断したのか、自爆仕様のままである。
つまり。だいたい原作どおりだと思われる。
これにはトガちゃんを筆頭に、酔っ払いどもも大満足。血と怪我と、暴力と戦いと。おまけに酒と仲間までいるのだ。
マスキュラーなど、よーし、このままどっか襲いに行くか! などと言い出した。
完全に山賊かなにかである。まったく罪悪感なんぞは、なさそうだ。いっそ清清しさすら感じる。
さいわい、酔っ払って動きたくないボスが、即座に却下してくれたが。
ちゃんと言うことを聞かせられるボスは、確かに成長していて。それが少し我がことのように、誇らしい。
「キミの! 力じゃないか!」
少しひたっていたら、試合が進んでいたらしい。原作の名言が聞こえてきた。
いまいましそうに炎を使う轟に、原作と状況が少し違えど、緑谷少年は思うところがあったようだ。
手を指を。ズタボロにしながら、対戦相手の心情を気遣う彼は、少しおかしい。
中学までの彼は、そこまでキマってしまった人間であっただろうか?
ワンフォーオール。聖火のように、受け継がれてきた個性。その受け渡す方法は、持ち主の遺伝子を相手が取り込むこと。
遺伝子である。以前、遺伝子が行動におよぼす影響について、語ったことがある。
ハチやアリは、学習によらず群れを作り巣を作り、ルールを守り、役割分担すらして生きている。すべて遺伝子にそうしろと書いてあるからだ、と。
ならば。ワンフォーオールを受け継ぐための遺伝子には。なんと書いてあるのだろうか?
我輩も自分の個性に、だいぶん影響を受けている。この好奇心に抗えぬ行動は、生前のそれとはかなり異なっている。と思う。たぶん。
トガちゃんなども、そうであろうし。マスキュラーの破壊衝動も、そうかもしれぬ。
まあ、人には理性というものがあるので、だから犯罪をしてもいいのだとは、けして言えぬが。
少し怖い考えの間に、試合は終わってしまっていた。緑谷少年の敗北である。
これまで装備を整えさせて、負傷を抑えてきたのであるが。そんなものなど、誤差だと言わんばかりに、盛大に腕をぶっ壊しておる。
そんな原作補正は要らぬのであるがなあ。
なお、第二試合最後の試合は、アッサリと終わった。
発目女生徒が、常闇の弱点を察したか、強力な電灯を持ち出したのだ。
だがしかし。常闇は脱いだ上着で、それをさえぎって弱めて速攻に出た。そしてそのまま、発目女生徒を場外に押し出し、勝利。
一分もかからぬ、会場も壊れぬ、実に素早い決着であった。これには会場の補修にかりだされていた、セメントス先生もニッコリ。
ケガにはリカバリーガール。会場はセメントス。雄英は本当に、この手のイベントをするのに恵まれている。
いや、イベントだけではなく、普段の実技授業も、多少のケガなぞ問題なく、即座に治るのだ。実際に力が振るえる、振るった経験がつめるというのは大きい。
名門というのは、伊達ではないな。
こちらも何か手を打つべきか。仲間を見渡し、考えたが。考えたのであるが。
野生動物に、武術を仕込むのは見当違いではなかろうか?
そんな結論に至ってしまったわけで。
まあ、防具くらいは支給しようか。うん、それで良いや。
真面目にきたえるヴィランなぞ、ステインさんくらいでいいのである。たくさんいたら怖い。
だから、これでいいのである。
八 ⊥ 爆 轟 ⊥ 闇
八 ⊥ 切 心 ⊥ 爆 緑 ⊥ 轟 闇 ⊥ 発
八⊥雷 切⊥鉄 心⊥飯 爆⊥セ 緑⊥骨 塩⊥轟 麗⊥闇 泡⊥発
プロットとして作ったトーナメント表。最初は切島くんが勝ち進む予定だったけど、モモちゃん頑張った。麗日さんも輝かせたかったけど、爆豪vs心操やりたかったんや…
セロくんの瞬殺もやりたかったんや……しかたがなかったんだ。
●「こっちだけズルして無敵モードだもんな」
ヘルシングより。吸血鬼などのいる世界で、吸血鬼を使って吸血鬼を滅ぼす、英国特殊機関ヘルシングの話。ゾンビの集団に特殊部隊並みの装備をさせて、軍勢に仕立ててヘルシング本部を襲撃した、バレンタイン兄弟の弟のセリフ。
「小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」も、実は彼のセリフである。ゾンビを蹴散らしたウォルターさんに、そっくりそのままセリフを返されてしまい、インパクトで負けて乗っ取られたのだ。