我輩は激怒した。必ずこの邪知暴虐なメシを作ったヤツをシバかなアカン、と決意した。
我輩には台湾語も北京語も客家語もわからぬ。我輩は前世からの日本人である。その場その場に流されて、だいたいノリと勢いで生きてきた。
けれども、マズいメシ。ことにこの魯肉飯の味のマズさには、人一倍敏感であった。
「このあらいを作ったのは誰だあっ!」
脳内でYu-Zan先生が吼える。さすがに「このタワケ者めがっ!」までは、やらないが。ボロクソけなすくらいは、かまうまい。
実際にマズいのだからして。
台湾のメシは当たり外れが大きかった。
元は名古屋在住の台湾人が、まかないとして作って、裏メニューから人気メニューへ。
名古屋メシ、台湾ラーメンはそうして生まれた。なお、台湾ラーメンアメリカンという、あまり辛くないものもあるらしい。
作り方は、豚挽き肉と、ニラ、長ねぎ、モヤシなどを唐辛子で炒め、ショウユ系のラーメンにかける。さらにニンニクもたっぷり入れたら完成だ。
台湾には逆輸入され、ナゴヤラーメンと呼ばれている。これは当たりであった。
しかし熱いものはネコ舌にはキツいし、辛いものも苦手なのだ。一口だけいただいて、スタッフに完食してもらう。
口直しの、マンゴーカキ氷もイケた。冷たさと甘さが、熱さと辛味で死んだ舌を生き返らせる。
言い遅れたが、食事場所は台南の六合夜市と瑞豊夜市の、二つの夜市。屋台が立ち並ぶ、縁日を思わせる場所である。
行きかう人も多く、それも縁日を思わせる。六合夜市は、大通りの左右に屋台が。中央にはテーブルが並び、みんな好きに買って座って、食べていた。
番組の企画で来ているので、未成年である我輩はビールが飲めないのが、実に苦しかった。
先ほどの台湾ラーメンもそうだが、胡椒モチもダメであった。美味いのだが辛いのだ。涙が出てくる。
胡椒モチは、胡椒たっぷりの肉まん。なぜかインドのナンを焼くような、ツボみたいな窯で焼かれる。もっちもちで、外がカリッとしていて美味かった。
エビ屋も多かった。生きているやつに、塩を振って焼く。これは美味いわ。
だが死んだのまで焼いてるヤツ。お前はダメだ。店は多いが、玉石混合というやつであり、当たり外れには運もからむ。
なにやら、普通の魚屋や八百屋もあったのであるが、あれは地元民向けだったのだろうか。
瑞豊夜市の方は、食べ物だけではなかった。輪投げ屋とか服屋に、ゲーセン。なぜか床屋もあった。
どこに何があるのか、探検しているだけでも楽しい。子供の頃の縁日の気分である。
だが臭豆腐。お前はダメだ。ニオイだけでもダメなのがわかる。というか、スタッフ。なぜこんな物を買ってきた。我輩に何を求めているのであるか。
リアクションか。リアクションの画が欲しいのか。よろしい。ならば取り引きだ。
我輩が臭豆腐を食べるから、お前さんは麻辣臭豆腐を食べなさい。
「撃っていいのは、撃たれる覚悟があるヤツだけだ」
覚悟があるからといって、何でもやって良いわけではないが。覚悟も無いよりはマシである。
さあ、スタッフ。君の覚悟を見せてみるのである。
お互いに、見えている地雷を踏むこともないな、と妥協が成立した。つまりスタッフがヘタれたわけだが。
そこで代わりにと、お茶を濁そうとして注文したのが魯肉飯であった。
魯肉飯は、酒とショウユなどで甘辛く煮た豚肉を、煮汁ごと白米にかけたものだ。台湾の庶民料理の代表であり。つまりは、ハズレなどはない。はずであった。
使っている油と酒が古い。米がイマイチおいしくない。具の赤ネギが、揚げていない。
「この魯肉飯はできそこないだ。食べられないよ」
周りの人! 言葉なぞ、通じていないのはワカるが、周りの人! これマズい! これが魯肉飯でいいのか台湾人!?
思いっきり日本語で叫んだのだが。なんか通じた。
そして、騒ぎになった。
あっ、シバこうと思った店主が、そのへんのアンちゃんにシバかれている。
スタッフの方に目をやる。向こうもこちらを向いて、言葉などなくとも、意思が通じた。
よし。逃げよう。
どうせ明日には帰国だ。捜査の手が回る前に、高飛びである。
祖国に高飛びって、新しいであるな。
そして土産を手に、帰国した我輩に。知らぬうちに後輩ができておった。
そう言えば、君らの研修先はここであったな。
八百万 百と、拳藤 一佳。ようこそ、ウワバミ芸能事務所へ。
え、ヒーローの方に来た? いや、ここはどっちも兼ねてるから。来た時点で芸能デビュー確定だから。
ムチャ振りはされないと思うので、がんばるのである。
●「このあらいを作ったのは誰だあっ!」
美味しんぼより。長寿グルメマンガ。作者が日本が嫌いらしく、しかし日本食は好きというよくわからないムーブを、近年はしているらしい。
まだ暴君だったころの雄山先生の、タバコ吸った手で作った料理を食わされて激怒した時のセリフ。そら怒るわ。でも洗いを顔にブチまけるのは、やりすぎだと思います。
●「撃っていいのは、撃たれる覚悟があるヤツだけだ」
コードギアス 反逆のルルーシュより。英国っぽい国が、ナイトメアフレームというロボで世界を侵略。エリア○○という名で、各国を植民地にした世界で、皇帝に反逆する、元皇子の話。なお日本はエリア11で、皇帝の子供は百人くらいいる模様。
元皇子のルルーシュの反逆手段は主にテロであるが、これはテロを始める前、第1話でのルルーシュのセリフ。銃を向けられて、どうした。撃たないのか? と言った後にこう続けた。お前たちに覚悟はあるのか? という問いかけと、自分がこれからそういう覚悟をしなければという自覚からのセリフか。
なお、元ネタがある。レイモンド・チャンドラー作、大いなる眠り。
大いなる眠りからギアスへ。そして、這いよれ!にゃる子さんのくー子の「殴っていいのは殴られる覚悟のあるやつだけ」へとネタは引き継がれてゆく。
●「この魯肉飯はできそこないだ。食べられないよ」
美味しんぼより。店で頼んだものや、誰かからもらった物が気に入らなかったら、主人公山岡の口から、これに類するセリフが出る。小龍包や辛子明太子など。
それが他人のオゴリであろうと、お歳暮だろうと容赦なく噛み付く。かつての彼は、ギラついていた。