我輩は○○である   作:far

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前々回と前回。ネコが偽装襲撃をたくらんでいるのに「ふ~ん」で流してしまった、そこのあなた。
訓練されてしまった恐れがあります。

コイツなら通常運転だな、と思ってしまったら。
あなたはもう、完全に「訓練された読者さん」です。

教育や訓練は、軽い洗脳です。気をつけましょう。


我輩は仕事で癒され中である。

 我輩は仕事で癒され中である。仕事の疲れを仕事で癒す。我輩も、すっかり勤め人であるな。

 自分で企画して、始めた仕事であったとはいえ。前回のアレは本当にキツかったのである。

 題するならば、こうなるであろうか。

 

 オールマイト 対 ニセマイト! SMASH! vs スマッシュ! 生き残るのはどちらだ? 勝って! オールマイト!

 

 うむ。先生がね。乱入しちゃったのだな。

 それでね。ほら、今回のドッキリは、オールマイトの許可を取ってやってたからね。あの人、心配して物陰から見守っててね。

 図らずも。本当に、まったく、ぜんぜん、図っておらぬのに。

 

 ワンフォーオールとオールフォーワンの、宿命の対決が、目の前で開始してしまったのだな。これが。

 

 しかも片方は変装中だ。前回の仮装から、無駄に出来が良くなってやがります。さてはマスクを1980円のやつから、もっといいのに変えたな。

 偽マイト再びはないって言ったじゃないですかー。やだー。

 

 途中までは、イイカンジであったのだ。心の師匠、大先輩のニャ○スさんも、ネコに小判な太鼓判を押してくれる出来であった。

 カメラマンには、ステインさんのPVを撮った男として、一部で有名になったカメレオンなカメラマン。最近制作会社に就職して、ヴィランから社会復帰した彼を起用。

 それに、女性はみんな女優とも、秘密を持つともいうが。麗日お茶子。彼女もその例にもれなかったようで、自然ないい演技をしてくれていた。

 報酬の一環として、先んじてもんじゃ焼き食べ放題をやった天喰先輩。彼もイカを基礎にちくわの素材から魚のヒレや、牛スジからの角を生やした、特撮系の怪人に成りきれていた。

 

 お茶子さんを人質に取った、天喰先輩の扮するイカデビル。戦って! と叫ぶお茶子さん。

 そこへどこからともなく聞こえる声!

 

「そこまでだ!」

 

 しかしそれはワナ! しかしイカ怪人は答えてしまう! ウカツ!

 

「なにやつだ!」

 

 すると途端に、イカ怪人の動きが止まってしまったではないか! これがシノビのジツか!? ワザマエ!

 

 

 すまぬ。なにやら一時、おかしなノリになってしまった。きっと疲れているのだ。

 

 ここで登場したのはS少年。個性の洗脳で、天喰先輩の動きを止めて、いともたやすく、お茶子さんを救出して見せた。

 

 しかし。彼も、仕掛け人の側である。

 

 こっそり洗脳を解除しておきながら「バカな。コイツ、俺の個性に抵抗を!」などと、意外といい演技を見せてくれる。

 イカ怪人な天喰先輩も「フン。人質なぞいなくとも、負けはせんわあ!」と、素の彼からは、絶対に出てこないセリフでそれに応える。

 

 よっし。今回もいい出来。我輩が、企画の成功を確信していた、その時であった。

 

 ビルの上からクルクルと回転しながら、大男が降ってきたのだ。

 アスファルトを砕いて着地し、ニヤリを笑って、彼はこう言ったのだ。

 

I'm coming(わたしがきた)

 

 なぜか、英語であった。

 しかも、現在進行形だった。

 まあ。おそらくは。ニセモノは、どこかわかりやすい、本物との違いがなければいけないので、そこを意識したのではあるまいか。

 ほれ、マフラーの色やら、ニヤけた顔やらの、あれやそれである。

 

 偽マイトの登場に、その場の全員が固まった。我輩も含めて、である。

 我輩は「うわぁ」という、それ以上はもう言葉にならぬ心境で。緑谷少年は、純粋に驚いていて。

 他三人は「えっ。こっちにもドッキリ?」という顔をしておった。こっち見んな。

 

 そんな反応をどう思ったのか。本物ならば、まずしないであろう歪んだ笑みを浮かべて、偽マイトが拳を握って口ずさむ。

 

「デ ト ロ イ ト ……」

 

 それに続く言葉は、二つの口から発せられた。

 

「「スマッシュ!」」

 

 拳と拳がぶつかる。生身の体同士がぶつかったとは、とても思えぬ音と衝撃が、広がる。

 飛び込んできたオールマイトが、我輩たちを狙った一撃を、相殺してくれたのだ。

 とっさにイカ怪人からアサリ怪人になって、耐える天喰先輩。その陰に隠れてやり過ごす、我輩とカメラマン。学生たちは飛んでいった。

 

「お前は。オール・フォー・ワン。なのか?」

 

 あのオールマイトが、何かを恐れるように。一語一語を区切って、問いかけた。

 その恐れがうれしかったのか。オールマイトそっくりの顔が、ますます邪悪な表情になって、ニタリ。とワラッタ。

 

「拳で、聞きたまえ」

「上等だ!」

 

 偽マイトは。先生は。答えるつもりが今はなかったようで、拳を前に突き出して挑発して。

 オールマイトは、それに殴りかかるという形で答えた。

 

 あとは、怪獣大決戦である。

 

 そんなものにスキでもあれば、と干渉しようとする、無謀な主人公ども。それを正体を現した天喰先輩と、お茶子さんと力を合わせて止める。

 あれはムリである。ジャマにならぬよう、距離を置くのが、今は正解だ。

 

 しばらくして、オールマイトに時間切れの兆しが見え出した。

 息が上がり、汗をかき、笑顔に力がなくなっていく。

 

「ここまでかな」

 

 そう言って、偽マイトは黒いタールのようなものを出すと、その中へと消えていった。

 

「次は最後まで遊んであげるよ。君の先代のようにね」

 

 待て。そう叫ぶオールマイトに、その言葉と、かぶっていたマスクを残して、タールも消えた。

 わざわざ正体につながる言葉を残していったのは。これは、先生からオールマイトへの顔見世だったということであろう。

 勇者をあおって、挑発して。怒り狂った勇者がかかってきたところを、返り討ちにするのが、きっと先生は大好きなのだ。

 

 まあ、それはそれとして、だ。

 

 この一連の映像どうしようか、カメレオンくん。撮れちゃってるよね? ああ、うん。撮れてるのね。

 当初の予定通りのドッキリ企画には、使えぬであろうしなあ。オールフォーワン関連は、報道規制がかかるであろうから、そのままニュースで流すのにも使えぬし。

 

 よし。局に丸投げといこう。

 編集して使うなり、お蔵入りなり、好きにしてもらうとしようか。

 この後は。とりあえず、警察で事情聴取か。それとも、無かったことにするか。オールマイトと相談であるな。

 

 

 

 それが、昨日の出来事である。

 我輩が癒しを求めるのも、わかっていただけたものであると。そう、信じる。

 ゆえにこうして、我輩が湯につかっているのも。また、やむをえぬことだと。そう、ご理解いただきたい。

 

 例の、番組企画の旅行記。あれの広告が、雄英体育祭のマッチョダンスの動画とともに、なぜか広まってしまったせいもある。

 ネコと温泉という組み合わせが、ちょっとした流行である。

 その流行に乗って、我輩の行き先も、温泉が多めになっているというわけだ。

 本日はバード取県は三朝温泉。日本一のラジウム温泉と名高い場所。その旅館大橋に宿泊にやってきたのである。

 建物が日本家屋として、国の文化財に指定されており。宮大工の手による和室が、実に心地よい。

 一泊だが、たっぷりと癒されていこう。そう、思うのである。

 

 昨日も仕事、今日も仕事。ああ、忙しいであるな。

 仕事の疲れを仕事で癒さざるをえない。まったくもって、困ったものである。

 

 

 

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