妙に長くなった。
我輩である。もしもし? うん、我輩我輩。今日、終わったらヒマであるか?
うんうん。うん? そうかあ。また少し、人生の勉強をと思っ―――お、おう。思った以上の食いつきであるな。
ガッつくのは、基本、嫌われるのであるぞ。特に若い子には引かれる。そりゃあもう、ドン引きされること請け負いである。
余裕は大事であるぞ。笑って、大きく構えて余裕をみせろと、オールマイトも言っておったろう? え、意味が違う? 違うけど、その通りであろうよ。
だいたいあってる。それでいいのだ。じゃ、近くのショッピングモールの前で。
ああ、そうだ。女の子とお出かけする。そういう時の服装で、来て欲しい。では、待っておる。
さて。まずはこれを言っておかねばなるまい。今回、風俗は関係ない。ないのだ。いやマジで。
むしろ、その後の矯正というか、修正というか。
調子に乗って、そこをヘコませて。原作よりは、自信と女性慣れの経験を持った、ちょっと大人の緑谷少年にしようと思ったのであるが。
この少年。思った以上に、精神に童貞がこびりついておった。
なんというか、色を知ったことで。少しばかり、ミネタくんよりの存在に近づいてしまったのだ。
それでも体育祭の経験。特に轟くんとの戦いと、グラントリノの特訓。
この二つの原作イベントによる、原作補正さんへのこの上ない援護により、緑谷少年は何とか立ち直ってくれた。
もし、どちらかが欠けていたら。偽マイトに立ち向かおうなどとは、しなかったのではないか。そう思う。
まあ。立ち向かわない方が、当たり前かつ賢いのであるが。それはヒーローではない。
ヘドロのようなヴィランに囚われて、爆発を撒き散らす幼馴染。様々なヒーローが立ち往生する、そのような状況の中。
助けを求める表情を見て取ってしまったら、無個性であるのに、迷わず突っ込んでいく。
それでこそ、主人公である。ヒーローである。それゆえの、ワンフォーオールの後継者。
しかし、その主人公の格好は。Tシャツと胸に書かれたTシャツと、ジーンズ。ポスターを丸めて刺したら、至極似合ってしまいそうな、大きなリュック。靴も汚れたスニーカーという、どうにもパッとせぬものであった。
我輩の指定は「女の子とのお出かけする時の格好」である。
単刀直入に言えば。オシャレして来い、ということである。
その結果が、これである。
うむ。これはひどい。ですよね、通形さん。
お互いに初対面だと思うので、紹介しよう。こちら通形ミリオさん。雄英三年の、君の先輩だ。現在校内のトップと言われる人でもある。
そしてこちらは、緑谷出久少年。我輩が番組の企画で、オールマイトやとある人と一緒にきたえた。そして見事に雄英に合格を果たして、ついこの間の体育祭でも本戦進出を果たした、一年生である。
ただ見ての通り、色々とまだ残念であるので、時折おせっかいを焼いておるのです。
見込みはあるのです。通形さんも、良かったら気にかけてやってくださいな。
我輩は戸籍上は十八歳。いろいろと解禁される年齢であり、通形さんよりも若干年上ではある。
しかしなぜだか、さん付けしてしまうのだ。彼の邪気の無い明るさを、我輩が苦手としている。それもあるのであろうが、何かを見透かされている。そんな気もするのだ。
彼がここにいる理由は、天喰先輩の変化に気付いていたからである。
小さい頃からの友人。何をどうしても、気が小さくて。その強さを十全には発揮できなかった、そんな友人が。徐々にではあるが、前向きになりだしたのだ。
少しずつ、ほんの少しずつの変化であったはずだが。彼にとっては、驚天動地の出来事であったらしい。
天喰先輩。どうやら、我輩の思っていた以上に、アレだったようである。
天喰先輩には、別に我輩のことを話すな、など口止めなどしていなかった。不審に思われて、探られるよりは良いと判断してのことであったが。
いざ、こうして会いに来られてみるとだ。
どうしてもお礼を言いたいから、というのと。そんなにいいカウンセラーなら、俺も会ってみたい、という理由で来たにしては。
通形さんだけで来たことといい。たまに目が笑っていないことといい。
なかなかに、こう、油断が出来なくて、困る。
そうなると思ったからこそ、こうして緑谷少年を呼び出したのであるが。
何かがバレそうになった時。状況を複雑にして、発覚を遅らせたり、ごまかしたりしてしまえば、とりあえず時間は稼げる。
「でもそれって、根本的な解決にはなりませんよね?」
我輩は、今を生きる。明日のことは、明日考えるのである。明後日? そんな先のことはわからない。
ヒーローには見栄えも必要だ、と。緑谷少年のあまりなオシャレ感覚に、通形さんが説教を始めてしまい。
思った以上の緑谷少年のオトリっぷりに、我輩は「計画通り」とニヤリとした。
さて、その時だ。
猫の子でもつかむように、首を後ろからつままれて。聞き覚えのある声が、気楽そうに、こうのたまった。
「あー。ユーエーの人だ。スゲースゲー。サインくれよ」
その声に緊張感は無く、ゆるかったが。こちらを向いた雄英の二人は、はじかれたように距離を取った。
死柄木 弔。黒のスポーツウェアの上下に、ストレートチップの、おそらくはブランド物の靴。格好だけなら、主人公に圧勝の姿で登場である。
いや、呼んでないんですけど。
えっ。まさかこれ、原作補正さんの仕業であるか? ここに来て、まさかの原作補正さんの裏切りであるか?
バカなっ…… 彼(?)は我輩の味方であったはずっ……
「ところがどっこい……夢じゃありません……! 現実です……! これが現実……!」
べつだん、ボスが我輩を始末するつもりであるとか。そういった心配は、これっぽっちもしていないのであるが。
この場のノリだけで、何かしでかすかもしれぬという心配は、これでもかというほどしておる。
ダメだ。嫌な予感しか、しない。
なぜならば。この人、我輩のボスなのである。
我ながら、悲しいほどの説得力を感じた。
「たっ… タスケテー!」
演技する必要も無く。口からこの上なく迫真の、否。真実そのものの悲鳴が出た。
それに反応して、通形さんと緑谷少年が即座にこちらへ飛び出す。
「落ち着けよ。ちょっと話がしたいだけさ」
そして前に突き出された、我輩という盾の前に、止められた。
緑谷少年だけは。
通形さんは止まらず、我輩ごとボスに殴りかかり―――その拳は、我輩をすり抜け、ボスのみを殴り飛ばした!
個性 透過。光も空気も含めて、あらゆるものをすり抜ける個性である。地面や壁などもすり抜けるが、その途中で解除すると、外に向かってはじき出される。
よって「いしのなかにいる」ような恐れは無いが、すり抜けられるのは、自分の体だけである。
ゆえに。こうなる。
夕方の、人の多いショッピングモールに。子供を人質にとる男と、それを全裸で殴り飛ばす、プチマッチョの男が!
大惨事である。
悲鳴とパニック待ったなし、かと思いきや。意外とこの世界の民衆は図太い。
悲鳴は上がっているが。転ぶ人もなく、押し倒すような人も出ず。慣れた様子で、こちらと距離を取って、避難していく。
普通の学校でも、避難訓練は年中行事であるらしいからなあ。身近に危険があるので、きちんと訓練して、こうして身に付いているのであろう。良いことだ。
取り残されてしまった我輩には、良いことではすまぬのであるがな。
とりあえず通形さん。パンツはいてください。
ボス、あなたも何がしたいんですか。
目で問いかけたところ、答えが来た。
「俺は今、仲間を集めている。オールマイトを越えるためさ。ただ、な? 一回勝ったとして。オールマイトを殺したとして。それだけで、アイツを完全に越えたって言えると思うか?」
え。その話、初耳なんですけど。
仲間の件も、この間の飲み会で、集まりすぎて二軍を作ったはいいが、管理が面倒だってボヤいてたんですけど。
「ただクリアしただけじゃ、ダメなんだ。最高得点で、誰にも負けない記録を打ち立てなくっちゃあ、いけないのさ」
ここでゲーム脳ですか。
絶対あんた、今、口からでまかせ言ってるだけだ。我輩はごまかせんぞ。
「お前らも、来い。オールマイトを越えて、今の社会をもっと、別なもんに変えてやる。手に入れた力を振るうのに、不自由があったことはあるだろ? 思うところを実行するのに、ルールが邪魔になったことはないか?」
全部、どうにかしてやる。だから、一緒に来い。
我輩もあまり見たことが無いほど、カリスマとも言える何かを出して、ボスは最後にそう言った。
そこだけは、本音がだいぶん混じっていたように思う。
二人に即座に断られて、帰っていったが。その背中が寂しそうだったので、間違いない。
「追いかけてきたら、一般人を巻き込むぞー」と、気楽そうに言い捨てて行ったので、余裕はありそうであったが。
うむ。まあ。なんだ。
これで通形さんの、我輩への疑惑をごまかせたので。我輩としてはこれでよしっ!
「なんだか知らんが とにかくよし!」
そういうことにしておこう。
さ。久しぶりに、警察の事情聴取を受けようか。
迎えに来てくれる、ウワバミさんの機嫌が良いといいなあ。
ボス、何気に初戦闘。
●「でもそれって、根本的な解決にはなりませんよね?」
スーパーロボット大戦Kより。様々なスーパーロボットやガンダムなどリアル系ロボットに加え、バンダイオリジナルのロボットまで全部混ぜた世界とストーリーのシミュレーションゲームのシリーズのひとつ。
Kの主人公、ミスト・レックスのセリフ。見た目は地球人と変わらぬが、異星人である。他の星からの侵略者に自分の星を滅ぼされ、逃げ延びた先の星も同じく滅ぼされ、地球へ。そんな悲劇を背負った主人公なのだが、そんな背景など覆すほどウザい。
ネットでは、ミストさんとさん付けされることが多い。俗説だが、呼び捨てにするほど親しみを感じない、という理由らしい。
多くのプレイヤーに、初見で会話シーンをスキップさせるという偉業持ちなのはダテではない。
●「ところがどっこい……夢じゃありません……! 現実です……! これが現実……!」
賭博黙示録カイジより。社会の闇が濃い世界で、いざという時以外は輝かない男、カイジがギャンブルで大金や命を賭ける話。中間管理録トネガワや、1日外出録ハンチョウなどスピンオフも。特に、オッサンらが楽しそうに遊んでるだけなのに、読んでて面白いハンチョウは独特。
本編に近い展開になりそうで、スピンオフにならなそうな一条聖也さんのセリフ。彼が支配人を勤める裏カジノで、イカサマパチンコ台「沼」で持ち金全部使い切ったカイジに言ったセリフ。
●「なんだか知らんが とにかくよし!」
覚悟のススメより。核戦争後だったかで、放射能あふれる世界でキメラの群れを率いる、姉になった兄と兄弟喧嘩するマンガ。絵柄からして独特。
強化装甲を着たら、なぜか性転換したもとお兄さん散(はらら)のセリフ。
状況がよくわからなくても、全てを飲み込んだ上で、即この言葉を言えば乗り切れるぞ。