我輩はイタズラが好きである。他にも好奇心が強かったり、ネコ舌であったりと。この体の外見だけでなく、内面までも猫に侵食されている。
ある意味、人格が歪められていると言ってもいいだろう。
だから仕方が無いのである。やむをえぬのだ。
前回、爆豪をさらった時。つい、ね? こう、つい、自分に負けてね?
札束を見せるついでに、ちょっとばかり、頬をペシペシと叩いてしまったのだ。
違うのだ。
「待て。話せばわかる」
自分を殺しに来た軍人相手に、そう言って。本当にわかってもらった首相がいた。
まあ、そのあと一緒に家の外に出たら、裏切ったな貴様らー! とばかりに、外で見張っていた軍人たちに、もろとも撃たれて結局死んだのであるが。
しかし、それでも一時は助かったのだ。
諸君も、まあ、聞くだけは聞いておくれ。
髪型である。
誘拐した当初。彼の髪型は、いつものツンツンと尖ったそれではなく、8:2に分けられた坊ちゃん風であった。
彼の研修先のNo.4ヒーロー、ベストジーニストにセットされてしまったらしい。
ベストジーニストは、ヤンチャ坊主の矯正に力を入れたヒーロー活動をしており、何を隠そう、我輩も送り込まれそうになったことがある。
全力でウワバミさんにコビを売ることで、回避できたが。肉球マッサージを開発していたことに、あれほど良かったと思えたことはなかった。
その、せっかくセットされた髪型が。先日、撮影して彼の級友たちにバラまいた髪型が。
さらってきた彼が、激高したり興奮することで、徐々に逆立ってきてしまったのだ。
最終的には、ボスのお遊びの結果。元の状態以上に、天を目掛けて逆立ってしまった。
むしろ、どこまで目が吊りあがり、髪が逆立つのか。そういうゲームをボスが勝手にやっていた疑いがある。
しかし、この8:2は。爆豪を矯正しようとして、どうにもできなかったベストジーニストの、唯一の成果だ。
それが我輩たちのせいで失われるなど、少しばかり申し訳がない。
とはいえだ。まっとうになれ。礼儀正しくあれ。そういった洗脳をするのは、ダメである。
たぶん、それは。先生のルールでは禁止なのだ。
オールマイト本人や、その周囲の人間。それらを洗脳して操ることなど、きっと先生には簡単なことであったと思う。
例えばオールマイトの元サイドキック、サー・ナイトアイ。彼を洗脳して、自爆テロを仕掛けさせることも。今ならば、雄英の誰かを洗脳して、毒殺させることも。かなり高い確率で成功するだろう。
だが、それは違うのだ。
我輩たちはヴィランである。テロリストではない。
我輩たちは、手段を選ぶのだ。
ヒーローがヒーローであるために、やらねばならないこと。やってはならぬことがある。
ヴィランにも、それはある。人それぞれに、きっとある。
ボスに言わせれば、しばりプレイであるが。
魔王になりたいと願う、先生には。魔王としての矜持がある。そういうハナシだ。
ボスいわく。ああ、低レベルの勇者相手に、幹部や魔王がガチで殺りに来たらクソゲーだもんな。で、あるが。
ゆえに。ヒーローや、その卵相手に。戦いもせずに、完全に無力化するようなマネはできない。
どうでもよい雑魚や一般人あいてには、そうでもないあたり、所詮はヴィランであるが。
だが、ちょっとしたイタズラならば、むしろ推奨される。
ヒーローにちょっかいをかけて、挑発するのは、ヴィランの仕事の一つであるらしい。
ちなみに爆豪への洗脳内容は「ベストジーニストを尊敬しろ」である。
これで彼が自発的に、八二ボウヤになってくれたならば。ベストジーニストも報われ、我輩も面白いかもしれぬ。
きっと爆豪の親御さんも、笑ってくれるであろう。しばらくは、みんなが笑顔である。
この超人社会を変革しつつ、笑顔も増やす。そういうヴィランで、我輩はありたい。
そのためには、多少の犠牲は、やむをえぬので。まあ、なんだ。きっと自覚は出来ぬであろうが。
すまぬな。かっちゃん。
●「待て。話せばわかる」
1932年(昭和7年)5月15日に、クーデターのさなか、海軍将校らが首相官邸に押し入った時。当時の内閣総理大臣犬養毅が、襲撃犯らに言った言葉。