インフィニット・オーバーワールド   作:マハニャー

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 お久しぶり、あるいは初めまして、侍従長です。
 書きたくなって書きました。バハムートの方は一応全巻持ってますが、ISの方はアニメとWikiだけです。なのでちょっと違うところがあるかもしれませんが悪しからず。
 なお、これは受験勉強の合間にちゃちゃっと書いたものなので、次の更新は遅くなりっます。
 それではどうぞー。


Story.0 織斑一夏という少年の終わり

 インフィニット・ストラトス。通称『IS』。

 当時中学生だった科学者、天災篠ノ乃(しののの)(たばね)の手により、人類の宇宙進出を目的として生み出されたマルチフォーム・スーツ。

 それは現行するあらゆる宇宙に関する技術を超越したテクノロジーだったが、発表された当時は全く見向きもされなかった。偏に画期的過ぎたのだ。

 しかし、世界に否定されても尚、篠ノ乃束は宇宙への夢を捨て切れず、ついに常軌を逸した行動に出た。

 日本を射程距離内に収める全ての軍事基地のミサイル管理システムをジャックし、2341発以上のミサイルを日本に向けて発射し、その約半数を搭乗者不明、世界初と言われるIS《白騎士》に迎撃させ、更にこのISを捕獲・撃墜しようとした大量の戦闘機・戦闘艦を返り討ちにすることで、ISの有用性を世界に知らしめたのである。

 後に【白騎士事件】と呼ばれることになる事件だが、往々にして物事は上手くいかないものだった。

 世界がISに見出したのは人類の宇宙進出の可能性ではなく、軍事兵器としての利便性と破壊力だった。大国を中心に各国は次々とISを軍事利用の道へと引き摺り込んで行った。もはや本気でISによる宇宙進出を夢見ているのは、製作者の束のみだった。

 さらに悪いことに、何故かISは女性にしか扱えなかった。男性が起動しようとしても何も答えないのである。

 女性にだけ使えて男性には使えない世界最強の兵器――その存在が招く事態など、一つしかあるまい。

 つまりは女尊男卑。自分たちは選ばれた人間である、と言う風潮が世界中の女性の間で流行し、男性の社会的地位は不当に貶められ、多くの男性たちがその風潮に呑み込まれ悲劇に見舞われた。

 そして、ここにまた一人。日本のとある町に居る、一人の少年が、その歪みの餌食となった。

 

 

 

§

 

 

 

 俺は出来損ないと呼ばれていた。

世界最強の女性(ブリュンヒルデ)】の称号を手に入れた姉と、剣道の才能に恵まれた優秀な弟。その間に挟まれた俺は、全く凡庸なヤツだった。

 いや、きっと世間一般の子供と比べれば優秀な方だったのだろうけれど、この二人が居たせいで俺は霞んでしまっていた。

 別にそれを恨む気は毛頭ない。両親に捨てられたという最悪な環境でも、姉は中学生ながらにアルバイトでお金を稼いで、俺と弟を養ってくれた。弟も俺のことを慕ってくれていた。

 俺は二人のように天才ではなかった。けれどその分、俺は剣道も勉強も家事も、死ぬ気で頑張った。二人に追い付くために死ぬ気で頑張った。

 

 けれど、あの日――姉が、ISの操縦技術で覇を競う世界大会モンド・グロッソで総合優勝及び格闘部門で優勝した日から、それまでまあまあ上手く行っていた俺の人生は一変した。

 要するに、俺の無能さが浮き彫りになったのである。

 姉は名実ともにこの世界で最も強い存在となり、弟はそんな姉に触発されてますます剣道に打ち込み、大きな大会でいくつもの賞を取った。

 

 世間はそんな二人を惜しみなく称賛し、逆に俺のことを容赦なく否定し糾弾した。時には暴行に及んだ。殴られた。蹴られた。叩かれた。突き飛ばされた。突き落とされた。石を投げつけられた。刺された。閉じ込められた。折られた。捻られた。押し潰された。絞められた。切られた。

 どうしてこんなことも出来ないのか。お前の姉はあのブリュンヒルデだろう。天才の弟が居るくせに。それぐらい出来て当然よ。お前がちゃんとしてないから。何でこんな奴があの二人の家族なんだ。お姉さんに恥ずかしいと思わないの? 弟が可哀想だ。何でお前みたいな無能があの二人の家族なんだよ。お前何してるんだ? あの二人に迷惑かけて楽しいか。お前何で生きてるんだ。生きてる意味なんてあるの? 恥ずかしくないのか? どうして生まれてきたんですか? 二人に謝れよ。生まれてきてごめんなさいって。出来損ないのくせに。ふざけんな。生きてる価値ないだろ。今すぐ死になさいよ。氏ね。ねえ何でまだ生きてるんですか? ねえ。何で。ねえ。何でなの? ねえ。ねえ。ねえ。ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ…………

 

 ……とか何とか延々と言われている内に、いつの間にか俺は何も感じなくなっていた。

 心が磨り減っているのだと気付いたのは、大分後になってからのことだった。

 もうその時には、何もかもがどうでもよくなっていた。最初の頃は夜になると止まらなかった涙もとうに枯れ果てて、肉体を痛めつけられる痛みも感じなかった。

 俺の幼馴染ですら、俺を出来損ないと否定した。無能と罵倒した。味方は居なかった。誰一人、俺の隣に立ってくれる人は居なかった。

 いや……一人だけ、あの幼馴染の姉である、あの人だけは、俺を見ていてくれたような気がする……まあ、もうどうしようもないけれど。

 それにあの人は、俺がそんな扱いを受けるようになった時には、もう居なくなってしまっていたから。

 

 それでも涙ぐましいことに、勉強と剣道と家事だけは欠かさず続けていた。家族のために。家族だと思っていた者(・・・・・・・・・・)のために。

 そう、例え世界が俺を否定しようとも、俺は、ただ家族に、愛する人たちに認めてもらえればそれでよかったんだ。

 その時はまだ、俺は希望を持てていたんだ。

 

 

 

 けれど世界は――俺が思っていたより、ずっと残酷だった。

 世界は、全力で俺を、織斑(おりむら)一夏(いちか)を否定した。

 

 

 

 第二回モンド・グロッソ。決勝戦。弟の春万(はるま)と一緒に、第一回に続き出場した姉、千冬(ちふゆ)の応援のためドイツに来ていた俺は、『織斑千冬の優勝阻止』を目的とする男たちに誘拐された。

世界最強の女性(ブリュンヒルデ)】の最大の弱点が家族だというのは、周知の事実だった。だからこそ俺が狙われたんだろう。

 たった二人しかいない家族が誘拐されたのだ。試合になど出ている場合ではないはずだと。

 まんまと誘拐を成功させて、依頼の達成を喜び祝杯を上げていた男たちだったが、そのグラスはすぐに彼らの手から滑り落ちることになった。

 

 

 

 彼らが見ていた小型の液晶画面には、万雷の喝采を浴びて悠々とリングに歩みを進める、織斑千冬の姿があった。

 

 

 

「………………ははっ」

 

 

 

 狼狽する男たち。激昂してやってきた依頼人らしき女。未だ歓声を垂れ流す液晶画面。

 それら全てを冷めた目で見やりながら、俺は笑った。笑うしかなかった。

 手足を縛られた状態で、最大限に身体を折り曲げて、笑い転げた。その場に居た者たちが気味悪げな視線を向けているのにも気付かず、ただ笑い続けた。

 

 理解した。違う、嫌でも、理解させられた。

 俺は――織斑一夏は、実の家族に、見捨てられたのだ、と。

 

「はははははははっ、ははは、はははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

 

 

 ――裏切られた。

 ――家族に。

 ――裏切られた。

 ――大事な人に。

 ――裏切られた。

 ――愛する人に。

 ――裏切られた。

 ――どうして?

 ――裏切られた。

 ――何で?

 ――裏切られ、た。

 ――何故?

 ――裏切、らレた。

 ――何故、何故、何故?

 ――裏切ラレタ……。

 ――何故、何故、何故何故何故何故何故?

 ――ウラギラレタ!

 ――何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故?

 

 

 

 ――何故ダ? ドウシテ俺ハ、裏切ラレタ?

 ――アア、ソウカ。

 ――俺ハ、最初カラ、愛サレテナンテ、イナカッタンダ。

 ――アレ。

 ――ソウイエバ、俺ッテ、

 ――誰ダッケ?

 

 

 

「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」

 

 

 

 どこかの倉庫のような場所に、ついに狂い切った俺の哄笑が響き渡る。

 誰に憚ることもなく、配慮することもなく、俺は笑った。不思議と涙は出なかった。やはり枯れ尽くしてしまったのかもしれない。

 涙と一緒に、俺という人間も、消えてしまっていたのかもしれない。

 

 近くでカチャリ、という金属が擦れるような音が聞こえてきたけど、気にしなかった。

 男たちの内の一人が、黒い金属製の何かを右手に持って近付いてきたけれど、気にしなかった。

 目の前で、パァン、という乾いた音が響いたけれど、気にしなかった。

 お腹の辺りと後複数の場所に焼けるような熱を感じたけど、気にしなかった。

 体の奥から込み上げてくる熱い液体に気が付いたけれど、気にしなかった。

 額に熱い感触のする硬い何かをゴリッと突き付けられたけど、気にしなかった。

 

 

 

「………………………………こんな世界なんて、終わってしまえ」

 

 

 

 そう呟いた、直後。

 

 

 

 ――ポチャン、と。

 

 

 

 静かな水面に朝露が一滴だけ落ちたような、そんな奇妙な、どこか落ち着く音が響いて――波紋が生じるように、空間が揺らいだ。

 

 

 

「お、おい、何だよこれ!?」

「う、うわぁぁぁっ、吸い込まれる!?」

「な、や、やめっ……きゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

 空間に突如生じた波紋はどうやら相当な引力を発しているようで、俺を囲んでいた男たちと女をまとめて吸い込んで行く。

 それを漫然と眺める俺だったが、やはりと言うべきか俺だけその影響から逃れられる、ということはなかった。

 両手足を拘束され、更には銃撃を受けて傷ついた俺では、抵抗する術などなく、生まれた空間の揺らぎに呑みこまれて行く。

 そして俺の意識は、泡沫の夢のように、何の感傷も感慨もなく、消えて行った。

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