インフィニット・オーバーワールド   作:マハニャー

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 どうも、侍従長です。

 今回は前回よりは間を空けずに投稿できました。
 いやー、やっぱり夏休みは最高ですわ(え宿題? 知らない子ですね)

 何はともあれ機竜世界編終了です。あ、一応話が終わるわけではないでご注意を(当たり前)。
 あまり最後にふさわしくないかもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです。


Story.12 兎の贈り物

 束さんの襲撃(?)から三ヶ月が過ぎた頃。

 

 

 こことは異なる世界で幻神獣(アビス)が出現して暴れているという情報は、再びこの世界に大きな波紋を呼んだ。

 

 

 幻神獣(アビス)との戦闘で負った傷を癒した束さんは直ぐ様行動を開始。

 未だに開きっぱなしになっていた『大聖域(アヴァロン)』の空間の裂け目に彼女自信が開発した空間の歪みを固定する装置でもってその裂け目ーー便宜上『(ゲート)』と名付けられたーーを向こうの世界と繋がる扉として確立。

 そしてマギアルカ本人を含む数人と共に向こうの世界を訪問。束さんの話の裏付けを取った上で、束さんによる調査の結果を、直後に開かれた世界会議(サミット)で報告した。

 

 結果、話は最早マルカファル王国一国に留まらず、世界中の国々を巻き込む騒動へと発展した。

 それも当然のことだろう。異世界なんてものが存在することすら知らなかった者たちからすれば、まさに眉唾物だ。

 だが、彼らの疑心も、その異世界の住人である篠ノ之束の存在と、彼女が会議で提示した複数のこの世界の技術水準ではあり得ないような物品、さらには幻神獣(アビス)の跳梁を裏付ける写真などによって、無理矢理に晴らされてしまう。

 そして知ってしまったからには、立場ある者としては何か行動を起こさなければならない。

 というか多分マギアルカは、ぶつ切りの情報をもたらしてもことなかれ主義の連中が無視を貫こうとするであろうことを予想して、きっちり証拠まで揃えて公の場で叩きつけたのだろう。

 

 しかし行動すると言っても、所詮は日和見至上主義の連中である。会議は踊ると言う言葉はこちらの世界でも当てはまる言葉だ。この件に関する対策は遅々として進まなかった。

 これを、上層部の怠慢と責めることはできない。何故ならこの世界は、大きな戦いを経験した直後、破壊された都市の復興、難民への援助、戦力の再編……などなど、初めからやることが山積みなのだ。

 そんなこんなで、『七竜騎聖』含む各国の代表者の出席する七回目の世界会議(サミット)において、ようやく『異世界における幻神獣(アビス)の被害に対する対処としての機竜使い(ドラグナイト)の派遣』が採択されたのである。

 

 そして、向こうの世界に派遣される機竜使い(ドラグナイト)の第一陣として選ばれたのが、俺こと織斑一夏というわけである。

 

 選考基準として、まずあまり大々的に動くことは出来ない……つまり、大人数を一度に動員することは出来ないのである。

 何故ならこの件は、向こうの世界の住人にとって秘密裏に処理されなければならないものだからだ。

 被害を抑えようというのに、住民の混乱を招いてしまっては目も当てられない。

 さてそうなると、生半可な実力の機竜使い(ドラグナイト)では、本当に危険な事態に陥った時に対応に苦慮することが予想される。

 しかしこの世界も未だ混乱の最中、『七竜騎聖』などが直接動くわけにもいかない。また、逃走で大きな被害を被った、最終決戦の戦場となったアティスマータ新王国などからの人材の派遣は難しい。

 そこで白羽の矢が立ったのが、直接的な被害が他と比べて(比較的)軽微だった国に所属しており、また『七竜騎聖』の補佐官を務める実力者(と見られたらしい)であり、またその世界の出身である俺だったのだ。

 

 というわけで、数日後、俺は五年ぶりにあの世界へ赴くことに相成ったのである。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 ーーコンコン。

 

『入れー』

 

 入室の許可をもらって、目の前のドアを開けて俺とソフィーはその部屋、マギアルカの執務室へ足を踏み入れた。

 

 元気よく挨拶をしようとしたソフィーだったが、机の上で山になるほどに積もり積もった書類に埋もれるマギアルカを見て思わず口をつぐむ。

 

「すまんが見ての通りの有り様での。とりあえずそこに座って待っとれ」

「……手伝うか?」

「気持ちだけもらっておこう。こいつはわしが片付けなければならん仕事でのう」

 

 一度もこちらに視線を向けないまま言い切ると、マギアルカはそのまま仕事へ戻ってしまった。

 俺とソフィーは顔を見合わせて、マギアルカに言われた通りに部屋の真ん中に設置されたソファに腰かける。

 マギアルカが書類をめくる音と、何かを書き込むペンの音だけが響く中、隣に座るソフィーがそっと耳打ちをしてきた。

 

「……先生、ここ最近すごく忙しそうですよね。やっぱり復興関係の仕事でしょうか?」

「それもあるだろうが……一番はあれだろうな」

「あれってーー向こうの世界(・・・・・・)に新しく作ったっていう会社のことですか?」

 

 束さんがこちらの世界に来てから三ヶ月。

 その間、俺たちの師匠であるマギアルカがしていたことと言えば、いつもと特に変わったことはなかった。

 即ち商売。金儲けである。

 ただ一つ……異世界に舞台を移しての商売(・・・・・・・・・・・・・)で、あるということを除けば。

 

 そう、何とこの人、束さんによって異世界への渡航手段が確保されるや否や誰よりも早く向こうの世界へ飛び込み、どこでどうやったのやら全く分からんがいつの間にか手に入れていた莫大な資金を元手に、一ヶ月と少しのちょっとした商売で資金を稼ぎ出し一つの大きな貿易会社を作り上げてしまったのである。

 ちなみに創業した場所はスイス。何故その国に? と聞いてみると、「永世中立国とか直接民主制とか後で都合がよかった」とのこと。

 信じられないような適応力でもって、既にコンピューターの扱いまでほぼ完璧にマスターしたマギアルカは、現地の人間を雇って事業をどんどん拡大、今ではスイス国内どころかヨーロッパでも注目される大企業へと成長を遂げているのだとか。

 いや本当……商売の方面には弱い俺では、マギアルカが何をしたのかなんてのは完全に想像できる範囲の外だ。

 以前聞いてみたところ、「あの国の需要に見合った商品を仕入れて適切な手段で適切な量を供給していく。その範囲を少しずつ国の外にまで広げていっただけじゃ」という言葉が帰ってきた。

 軽い口調で言っていたが、居合わせていた商会幹部の人が頬を引きつらせていた辺り、またぞろ非常識なやり方で稼ぎ出したのだろうとは思うが。

 

「まあ、今回は早急な地盤作りが必要だったために、かなり無理をした感はあるがのう。時期がよかったのもあるな。ま、もっとも? このわしが本気で動いたのじゃから、全ての偶然が必然になることなんざ当然と言ったところじゃな!」とは本人談。

 

 とまあ、そんな世界中が目を剥くような超人的な手腕を見せてちょっと桁がおかしいぐらいの大金を稼ぎ出した代わりに、こうして仕事に忙殺されているのだから、自業自得、因果応報なのだろう(?)。

 

 部屋に備え付けられたティーセットでソフィーが淹れてくれた紅茶を啜りながら二人で談笑して待つこと二十分ほど。

 突然、部屋のドアが弾け飛ばんばかりの勢いで開かれ、凄まじい速度で人影が入り込んできた。

 俺たちが唖然と見守るなかで、その人影はキキィーッ! と漫画チックにブレーキを掛けて停止。そのまま右手をビシッと額に当てて……

 

「おっはよう諸君! 天災束さん、今日も元気に参じょあいたぁっ!?」

 

 とっても元気よく挨拶をしようとしたところを、いつの間にか目の前に居たマギアルカに思いっ切り頭を叩かれて蹲った。蹲ったというか、相当痛かったのかゴロゴロと床を転がっている。

 今の音、パァンッ、とかじゃなくて、ゴヅンッ、って相当鈍い音がしたんだが……大丈夫なのかあれ。

 

「この阿呆! あんな勢いで入ってくる阿呆がおるか! 見ろ! あの衝撃で書類の山が倒れてしまったではないか! この忙しい時に仕事を増やすでないわ!」

「ぐ、ぐぉぉぉ……! の、脳が震えりゅぅぅぅぅ!?」

 

 執務机の方を見てみると、元々かなり不安定な状態だった書類の山が一切合切倒壊しているのが見えた。

 あー……これは、大変だな。

 

「いつまで寝転んでおるか! ほれ正座じゃ正座! この頭いい阿呆娘め、こってり説教してやるわ!」

「ふぇぇぇ……。そもそも寝転んでるのってマギっちの一撃が原因なのに理不尽だー! ってホントに痛いんだけど!? 何その分厚い本、まさかそれで殴ったの!?」

「うむ、そうじゃが? 何せお主かなりの石頭じゃからの。しっかり背表紙で殴ってやったわ! くっはっは!」

「もーやだこの人怖いー! 科学者にとっての命にこんな仕打ちをするなんて、束さんの頭脳を失うことが世界にとってどれだけの損失になるか分かってんのかー!?」

「ふむ。少なくともわしの心の平穏は守られるの。それはつまりわしの仕事が滞りなく行われることになり、必然的に金の回りがよくなって経済は活性化、世界は発展の一途を辿る……いいことづくめじゃが何か言いたいことでも?」

 

 二人の仲がいいのか悪いのか分からない子供のような言い合いを完全にスルーしながら、ソフィーと二人手分けして崩れた書類の山を片付けていく。

 もっとも、全部元あった場所に戻していくだけなのだが。

 

「あー……二人とも? 遊んでないでそろそろ話を始めてくれないか?」

「む、そうじゃな。すまん」

「うぅ……。まだ頭痛い……」

 

 やっとこさ片付け終わって二人に声をかけると、少しばつが悪そうにしながら俺たちの対面のソファに腰掛けた。

 そのタイミングで、ソフィーが紅茶を淹れたカップを運んでくる。

 

「すまんの、ソフィー」

「ありがとね、ソフィーちゃん」

 

 礼を言う二人に、ソフィーは微笑んで会釈し、俺の隣に腰掛ける。

 

 ちなみに、束さんは初対面の相手に対してまず、適当な渾名と言うか、ニックネームをつけるのだが、ソフィーにはその渾名がなかった。

 と言っても別に束さんがソフィーを嫌っていると言うわけではなくむしろ仲がいいほうなのだが、これには事情がある。

 純粋に思いつかなかったのである。最初、束さんはソフィーを『フィー』と呼んでいたのだが、後に偶然フィルフィに出会ったことで、自動的にそれが使えなくなり、代わりのものも思いつかなかったのでそのまま普通に名前呼びに落ち着いたのである。

 

 閑話休題。

 

「それで、俺たちを呼んだのは……何の用があってのことなんだ……って、大体の予想は付くが」

「三日後の異世界遠征について……ですよね?」

 

 俺の言葉を引き継いでのソフィーの問いに、年長者組の二人は真剣な表情で頷く。

 

「三日後、お主らは向こうの世界へ行き、そしてIS学園の生徒として任務に就くことになる。分かっておるな?」

「ああ」

「はい」

 

 IS学園ーーISの扱いについて向こうの世界の大国間で交わされたアラスカ条約に基づいて設置された、世界唯一のIS操縦者育成施設。

 その学園に、俺とソフィーは新入生として入学、潜入することになる。

 

 調査任務であるはずなのに、何故今さら学生として潜入するのか。そこにはしっかりと理由がある。

 最近向こうの世界では、軍の施設から所属不明の部隊にISが強奪される事件が各国で多発していると言う。

 尤も、これだけならば別段珍しいことでもない。ISというのは、分かりやすい戦力だ。どの国も躍起になって開発を進めているし、互いの技術を掠めとる機会を常に窺っている。

 なので、強引な手段に出ることも……よくあると言えば言い過ぎだが、往々にしてある。

 それが最近頻発していると言う。

 

 しかし、俺たちから言わせてもらえば、それはあくまであちら側の問題。異世界の人間である俺たちには関係のないことである……それだけならば(・・・・・・・)

 この件が俺たちに関係してくるのは、強奪事件が起きたのとほぼ同じタイミングで、向こうの世界への幻神獣(アビス)の出現が確認されている、という事実だ。

 

 ただの偶然だ、と切り捨てるのは簡単だ。

 だが俺たちは、たった1%の確率を切り捨てることの怖さを知っている。

 

 それが何故IS学園の入学に繋がってくるのかと言えば、IS学園とは即ち世界各国の最先端の技術が集まる場所であるからだ。

 各国はそれぞれの国家を代表する操縦者の候補生たちに、性能実験を兼ねてその国家の最先端の技術を注ぎ込んだ専用機を持たせるのである。

 更に言えば、IS学園は一応日本国内にあっても、実質的な治外法権の場所だ。故に、狙いやすい。犯罪者達にとって格好の狙いの的となってしまうのだ。

 そして、もう一つ。どちらかと言うとこちらの方が重要なのだが……

 

 IS学園のすぐ近くの海域で幻神獣が目撃されたのだ。

 それも一体ではない。ガーゴイルと呼ばれる中型の幻神獣(アビス)が合計で五体。

 幸いにも、束さんが対幻神獣(アビス)を想定した改造を施した無人機を出動させたことで何とか撃退出来たらしいが……その時間帯、教師陣は研修のためにあらかた出払っていた。

 

 とまあ、そんな事情から、俺たちはIS学園に入学することになったのだが……

 

「なあ……本当に、駄目か?」

「駄目じゃ。学年が違うと、いざという時に対応の速度に差が出てしまう。それが致命的な隙に繋がりかねんことは、お主も承知しておるじゃろう?」

 

 などと尤もらしいことを言っているが、対面のマギアルカはニヤニヤと実に愉しそうに笑みを浮かべている。実に腹の立つ笑顔だ。

 

「何と言われようと、お主とソフィーは、IS学園に同じ学年(・・・・)同じ年齢として(・・・・・・・)入学する。これが変わることはない。決定事項じゃ」

「…………はぁ」

 

 その言葉の絶望的な響きに、俺は絶望したような溜め息を吐いた。

 

 現在の俺の年齢は、十七歳。向こうの世界の基準で言えば高校二年生に当たる……のだが。

 マギアルカが先に述べたような理由から、俺は一つ下の高校一年生、十六歳として入学することになったのである。

 

 余りにも消沈した俺の様子に、束さんが苦笑しながらフォローの言葉を挟んだ。

 

「あー、いっくん? 前も言ったと思うけど、それもあながち間違いじゃないんだよ? 向こうの世界では、いっくんはまだ十六歳なんだから」

 

 そうなのだ。だからこそ、俺は強く拒否することが出来ないのだ。

 何故二つの世界間で年齢が違うようなことになるのか……簡単なことだ。

 純粋に、時差(・・)が存在するためである。

 具体的に言うと、俺がこちらの世界に来てから、この世界では四年分の時間が経過していたが、向こうの世界ではまだ三年と少ししか経っていなかったのだ。

 俺が誘拐されこちらの世界に来たのは十三歳。こちらの世界では俺は十七歳なのだが、もし俺が向こうの世界で生きていれば、まだ十六歳でしかないのである。

 

「どうせ戸籍も一から作り直さなきゃいけないんだし、誕生日をちょちょいと弄っちゃえば、いっくんも立派な新一年生だよ!」

「嬉しくねぇ……」

 

 満面の笑みの束さんの言葉に、苦虫を噛み潰したような表情と声で俺は呻いた。

 いや、別に俺に何か実害があるわけでもないし、例え露見したとしてもそこまで致命的な何かがあるわけでもないのだが……こう、得も言われぬ羞恥心がある。

 そんな気落ちする俺の肩を、隣に座ったソフィーがとんとんと叩いてきた。

 そちらに目を向けると、

 

「まぁまぁ、そんなに落ち込まないでもいいじゃないですか。例え同学年になってしまったとしても、先輩が私にとっての先輩であることに変わりはなあぃたたたたっ!?」

 

 腹の立つニヤケ面で続けられるソフィーの言葉を、無言でアイアンクローして遮る。

 これから同輩になる相手に『先輩』呼びなど、皮肉にもほどがあると言うことで、とりあえず制裁である。

 そのまま一分ほどそれを続けてぐったりしたソフィーを置いて、俺は気を取り直して二人に向き直った。

 

「あー、そろそろ本題に入ってもらってもいいか?」

「む、確かに。大分脱線してしまったのう」

「あ~、そうだね。んじゃあいっくん、はいこれ。束さんからのプレゼントだよ~!」

 

 そう言って束さんが差し出してきたのは、どこか人工的なものを感じさせる翡翠のような宝石の埋め込まれたペンダントだった。

 とりあえずそのペンダントを受け取ってから、視線で「これは?」と問うと、束さんは何でもないことのように、

 

「だからプレゼント。束さんがいっくんのために用意した天災特製のISだよ」

「ーーッ!」

 

 告げられた言葉に、思わず息を呑む。

 ISの産みの親たる天災が手掛けたIS……右手だけで保持したペンダントがいきなり重量を増したような錯覚さえした。

 

「何で……こんなものを……」

「んー、そもそもの話、IS学園ではいっくんたちの装甲機竜(ドラグライド)は使えないよ?」

「使えない……?」

「そ。理由は単純、オーバースペックだから!」

 

 物凄く朗らかな笑顔で言い切る束さんだが、よく見ると額に青筋が浮かんでいた。自分の『子供たち』よりも上だと言うのが受け入れられないのかもしれない。

 

「大体何なんだよあれ……何でISより重いのにISより速いんだよパワーは仕方ないにしてもスピードで負けるとか納得できねぇよ最新技術てんこ盛りなのに何で古代の技術の方が圧倒的に上なんだよふざけんなよ古代人神装機竜って何だよ神装って何だよチートかよそもそもファンタジー世界に機械兵器なんてぶっこんでんじゃねぇよ世界観台無しだろ現代兵器チートかよ普通に剣と魔法の異世界ファンタジーものにしとけばいいものを流行に乗って迷走してんじゃねぇよ作s「ストップ束さんそれ以上は色々マズい!」

 

 虚無の表情でぶつぶつと危険な(ある意味)ことを垂れ流そうとしていた束さんを慌てて止める。危ない……束さんが世界の意思(意味深)に消されるところだった。

 正気を取り戻した束さんが、咳払いを挟んで説明を開始した。

 

「ん、んんっ! と、とにかくそんな経緯で束さんが特別に用意してあげたってわけ。あ、もちろんソフィーちゃんのもね。はい!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ソフィーに渡されたのは、俺のそれより少し淡い色合いの緑のカチューシャだった。ソフィーがいつもカチューシャをしていることからその形状を選んだのだろう。

 

 ちなみに、今の今まで誰も突っ込んでこなかったが、そもそもISというのは女性にしか使えない(・・・・・・・・・)ものだ。

 だと言うのに、男である俺にもISが使える前提で話が進んでいる。しかし誰もこれをおかしいとは思わない。

 それはそうだろう。だって俺にも使える(・・・)のだから。

 何故かは分からない。製作者である束さんでさえ俺がISを動かしてしまった時は目玉が飛び出さんばかりに目を剥いて驚きを露にしていた。

 

 とは言えどうやら、男でISを扱えるのは俺だけではなく、もう一人向こうの世界に居るらしい。

 その男の名はーー織斑春万(はるま)

 俺の双子の弟であり、『世界最強の女(ブリュンヒルデ)』の実弟。織斑の家に生まれたもう一人の天才。

 どうやら春万は偶然ISを動かしてしまったらしく、前代未聞の男性のIS操縦者の登場と言うことで向こうの世界は相当に荒れたらしい。

 それにより、春万の他にも男性でISを動かせる人間が居ないかを全世界で調べることになり、それに便乗して俺もIS学園に楽に潜り込むことが出来るというわけである。

 最悪の場合ソフィー一人で潜入しなければならなくなるところだったので、少しぐらいはあいつに感謝してやってもいいかもしれない。

 そんなことをふとソフィーに言ってみると、物凄い無表情になって「…………………………チッ」と舌打ちしていた。正直怖かった。

 

 ……閑話休題。

 

「一応二人に合わせて調整はしてるけど、後で使ってみて違和感があったりしたら言ってね? 一から作ってたせいで渡すのがギリギリになっちゃったから、あんまり猶予はないけどさ」

 

 そう言って照れ笑いをする束さんだが、『天災が一から手掛けたIS』と言うものの意味を考えればあまり笑えない。

 

「あ、あと言っておくけど、二人に渡したISって束さんが考えた新しい技術のテストも兼ねてるから、その分戦闘用の機能とか削っちゃったんだけど」

「新しい技術って……何のための?」

 

 俺が聞くと、束さんは笑顔で人差し指を上へと向けた。

 上……天井を突き抜けて……青空も越えて……その更に上。

 兎が夢見た空の果て。無数の星々が生まれては死んでいく、暗黒広がる無辺の空間。

 

 その名は、宇宙と言った。

 

 そうか……この人は、また、歩き出したんだな……歩き出せたんだな。

 束さんは憧憬の籠った視線を上に向けて、独白するように呟いた。

 

「あぁ……長かったなぁ、本当に……。ここまで来るのに……足を踏み出すのに、私はどれだけの時間をかけてきたんだろうな……」

 

 そう、慨嘆して、後悔するような口調に、俺は我知らず口を開いていた。

 

「まあ、仕方ないんじゃないですか? ほら、よく言うでしょう。何とかと煙は高いところが好き、って」

「いっくん……それは、束さんが馬鹿だって言いたいのかな?」

「何とかと天才は紙一重、ともよく言いますよね」

 

 口の端に笑みを刻んで言った俺の言葉に、束さんは呆気に取られたような表情をして……そして、大口を開けて笑い出した。

 

「あ、あはは、あはははははははははっ!! そ、そっか、馬鹿と天才は紙一重……あはははははは!! た、確かに言われてみればその通りかもね! あはははははははははははははははっ!!」

 

 瞼の端に涙まで浮かべて笑い転げる束さんの表情からは、既に暗いものは消え去って、ひたすらに愉快そうだった。

 過呼吸になるまで笑って笑って笑い続ける束さんを、俺たちは黙って見守った。

 やがて笑いやんだ束さんは、俺に、透き通った……綺麗な、本当に綺麗な微笑を浮かべて……

 

「ありがとう、いっくん」

「……いえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 この三日後、俺たちは向こうの世界へと出発した。

 

 




 はい、というわけで最後に束さんとお話しして機竜世界編終了です。いや、まだ戻ってくるんですけれど。しかし読み返してみると、ここ二話ぐらいソフィーの影が薄い……いや、まだだ、IS世界に行けばしばらく()はソフィーのターンだ!

 ちなみに二人のISはタグにもある通りFGOです。作者は影響されやすい質なので面白いゲームとかしたあとだとすぐ感化されちゃうのです(無課金星5一体でつい先日人理修復……あ、この報告要らない? デスヨネー)

 とりあえずIS世界編に移る前に、ライバルポジションで登場したのにあの後全然出てこないダグラスとアナスタシアに焦点を当てた番外編を出そうと思ってます。本編で出せなかった二人の設定とかを出すので読了推奨です。

 それではまた来しゅ……再来しゅ……な、夏イベが終わったら! 頑張りmあ、夏課外(白目)
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