インフィニット・オーバーワールド   作:マハニャー

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 どうも侍従長です。
 予告通りダグラスメインの番外編をお送りします。楽しんでいただけると幸いですー。


 今日、色々とラノベの新刊を買ってきて読んでたんですが……改めて一言。
 テスタメント、ごっつエロい。
 もう普通にR-18指定かかるレベルって言うかもうかかってると思うんですが。表現も露骨になってきてますし……まあもう最終巻なんですが……え? まだあと一巻?

 他にもロクデナシ魔術講師とかアサシンズプライドとかデートアライブとか。
 ロクデナシは白猫がすこです。ツンデレかわいい。デートアライブは義妹ちゃん好き白いのも黒いのもどっちも好き。
 アサシンズプライドはみんな好きです。ロリっ娘かわいいクーファそこ変われ俺がその未成熟な体にイロイロと教え込んでy《ここから先は大量の血痕で読めなくなっている》


Ext-story.1 ダグラス・ベルガーという少年の始まり

 俺……ダグラス・ベルガーは、所謂戦災孤児だった。

 

 もう十年近く前の話。アーカディア旧帝国の隆盛期。

 装甲機竜(ドラグライド)の配備で圧倒的な戦力を誇った帝国は、辺境の小国でしかなかった俺の祖国を、粛清という名目で蹂躙した。

 兵士は悉くが殺され、王候貴族は一人残らず首を落とされ、男共は街と共に戯れに焼かれ、女子供は下衆な欲望の餌食となった。

 

 もっとも当時こんなことは珍しくもなかった。帝国の横暴さは、結局建国からクーデターで滅びるまで変わらなかった。

 いくつもの小国が滅ぼされ、有数の強国でも潰された。それほどまでに圧倒的であり、自分達以外の全ての存在を許さなかった。

 屈辱を押し殺して人質を送り恭順を誓うことで国家の存続を図ろうとした国も、容赦なく踏み潰された。

 打倒帝国を掲げて立ち上がった諸国連合も、強大な戦力によって蹂躙された。

 

 無数の街が焼かれ、無数の人々が命を落とした。

 そんな中で、俺のように戦争で両親を失って幼くして孤児になった子供は珍しくなかった。

 

 俺の父親は兵士として戦争に向かい、二度と帰ってくることはなかった。

 俺の母親は女手一つで当時五歳だった俺を育てる負担で病で死んだ。

 

 斯くして、俺は一人世界のことを何も知らないまま、外に放り出されることになったわけだ。

 

 

 最初の頃はまだよかったんだ。少しながら母親が俺のために残してくれていた金があったから、それで食い繋げた。

 けど一ヶ月もしたらもうダメだった。元から雀の涙ほどしかなかった資金はすぐに底をついた。

 幼く弱い子供の体で何か出来るはずもなく、空腹にのた打ち回り、たまに外に出てそこら辺の雑草を食ったり残飯を漁ったりしてどうにか凌いだ。

 

 もちろんそれもすぐに限界が来た。

 空腹に堪えきれなかった俺は、ある時、近所の店からパンを一斤盗み出した。

 盗み出したパンを抱えて必死に走ったはいいものの、痩せ細った子供の体力で逃げ切れるはずもなくすぐに捕まっちまった。

 衛兵にでも突き出されるのかと思ったが、俺の境遇に同情してくれた店主が食事をご馳走してくれて、慎ましく暮らせば三ヶ月は生きていけるような金までくれた。

 あの日食べたシチューの味は、今でも記憶に深く刻まれている。

 

 これで当分は大丈夫だ、と思ったのも束の間。

 ……もう一度言うが、戦災孤児と言うものは当時珍しくもなく、俺の住んでいた街には百人近くは居たらしい。当然、俺よりも年上の連中も。

 金を持っていることで目をつけられた俺は、その年上の連中に襲われて、金を奪われ身ぐるみも剥がれ、また元の生活に逆戻りすることになっちまった。

 別にソイツらを責める気はない。そうでもしなきゃ、誰も生きていけなかったんだから。

 

 命を繋ぐことすら難しくなった俺は、苦しみに喘ぐ中で、思った。

 

 

 

 ――死にたくない。

 ――まだ、死にたくない。

 ――こんな形で、死にたくない。

 ――何も為さず、死にたくない。

 ――何も残さず、死にたくない

 

 

 

 ――――…………生きたい。

 

 

 ――生きてやる。

 ――何が何でも生きてやる。

 ――残飯を漁ろうとも。

 ――泥水を啜ろうとも。

 ――他者を犠牲にしようとも。

 ――道理を踏み躙ろうとも。

 

 ――……獣に、堕そうとも。

 

 ――他の誰でもない。

 ――ただ、自分のために。

 

 

 ただそれだけ。それだけを考えて。

 

 俺は奥歯を噛み締め、顔を上げ、拳を握り、立ち上がり、踏み出した。

 

 

 

 

 それからの俺は、我武者羅だった。

 何が何でも生き残るために、どんな手でも使った。

 金持ちどもが無造作に捨てた残飯を漁って。

 雨水を飲んで泥水を手ですくって飲み干して。

 持って生まれたらしい喧嘩の才能を生かして、俺から金を奪って行った奴らを叩きのめして。絡んできたやつも返り討ちにしてそいつらのものを奪って。

 その街の孤児どもをまとめ上げて、居場所を作って。

 

 

 

 そうやって、お山の大将を気取っていた頃だった。

 俺が、彼女(・・)に。

 俺の人生を大きく変えるきっかけとなった少女――

 

 

 

 アナスタシア・レイ・アーカディアと出逢ったのは。

 

 

 

§

 

 

 

「ひっ、ひぃぃぃぃぃ……っ!」

 

 恐怖に歪んだ男の顔を、俺は無感動に見下ろしていた。

 ブクブクと肥え太った、贅肉だらけの豚のような醜い男だった。その内面を表すように、脂の浮きダルダルにたるんだ顔も醜い。

 

 ここはブラックンド王国のある貴族の屋敷。その当主の寝室だ。

 見苦しくガタガタと震えるこの男は、候爵位を授かり広大な領地を預かる大貴族だが、典型的な悪徳貴族だった。

 国から支給された金を横領して私腹を肥やし、領民に多大な重税を課して負担をかけ、更には兵士たちに命じて領民の中から若い女や幼い子供を攫わせて欲望のままに貪る。

 この侯爵の暗殺。それが、傭兵ギルドに所属した(・・・・・・・・・・)俺へ与えられた仕事だった。

 

 ちらりと、薄暗い部屋の真ん中に設置されたバカでかいベッドの上を見やる。

 そこには、首輪をつけられた一糸纏わぬ少女たちの姿があった。ここに突入してきた時点で、目撃者対策として全員気絶させたのだが……改めて見てみれば、本当に酷い状況だった。

 彼女たちの死体に刻まれた、いくつもの痛々しい傷跡に、クソ侯爵を見る俺の視線にこもる侮蔑と嫌悪の色が濃くなる。

 

 ベッドから視線を外し、舌打ち一つ。クソ侯爵の方へ踏み込むと、ビクゥッ、とクソ侯爵の体が大袈裟に震えた。

 

「まっ……待て! お、お前はどこの者だ、何故わしを狙う!? 誰からの命令だ!? わしが何をしたと言うのだ!?」

 

 白々しくもそんなことを言い募るクソ侯爵に言葉を返すこともなく歩みを進め、その眼前で足を止める。

 もうコイツと言葉を交わしてやるつもりもない。

 

「と、止まれ! ……そうだ、金をやろう! 金なら腐るほどある、好きなだけ持って行け! それとも女か、ならばそこの女を連れて行くがいい! ほ、他に欲しいものがあるのならぐへぇっ!?」

「黙れ」

 

 長々と屑なことを口走り続ける豚の腹を踏みつけて黙らせる。

 金なら腐るほどある? その金は、お前が守るべき人々から巻き上げたものだろうが。

 そこの女を連れて行け? その女はお前が無理矢理連れ去ってきた女たちだろうが。

 

 ……俺だって、決して善人とは言えない身だ。

 何人もの命を奪い、尊厳を奪い、未来を奪ってきた。多くの悪を為してきた。

 けど、そんな俺にも『誇り』というものが確かに存在する。

 

 だがコイツにそんなものはない。

 あるのは、ただ無意味に膨れ上がった自尊心と浅ましい欲望だけ。

 その罪を背負おうともせず、見ようともせず、ただ面白半分に命を摘む。日々を懸命に生きる人々の努力を、希望を、未来を壊す。

 

「……何でとか、下らねェこと聞いてんじゃねェよ。確かに仕事ってのもあるが……」

「……っ?」

「俺はお前の存在が気に入らねェ。だから殺す。そんだけだ」

 

 躊躇なく断言して、腰の剣帯から機殻攻剣(ソード・デバイス)を抜いて振りかぶると、クソ侯爵の顔が死への恐怖と絶望に歪んだ。

 その表情を鼻で笑って……俺は一息に振り下ろした。

 

 

 

§

 

 

 

「ふゥ……」

 

 クソ侯爵を処分して誰にも見つからないまま屋敷をあとにした俺は、夜の街中を歩きながら溜め息を吐いた。

 夜とはいえ、まだまだ人が活動をやめる時間には早い。街にはそれなりの活気があった。けれど俺の心は少しばかり沈んでいた。

 

 別に罪悪感を感じているとかそういうわけじゃねェ。

 罪悪感なんてもん、最初に人を殺したときから感じたことはなかった。

 この溜め息は、アイツを殺しても尚消えてくれなかった不快感と嫌悪感によるものだ。

 出来ればああいうヤツとはお関わりになりたくないんだが……組織に所属している以上、そうも言ってられない。

 

 とりあえずこれで侯爵家は御仕舞い。ここの領民たちのために、次はもっとマシな領主が派遣されることを祈ってやろう。

 後味の悪さを舌打ちで吐き捨てて、俺は再度歩き出そうとして……ふと耳に届いた、カラカラ、という小さな車輪の音に顔を上げた。

 するとそこには、車椅子に乗った銀髪の少女の姿があった。

 

「お帰り、ダグラス」

「……おう」

 

 輝くような銀髪に血のように赤い瞳、人形のような無機質な美貌。

 俺を拾ってくれた恩人、アナスタシアは、温かな微笑を湛えて俺を見据えていた。

 彼女の温かい笑顔に心が軽くなったような気がしたが、それよりもアナがここに居ることに疑問が湧き、アナの後ろに控えていたもう一人の少女に目をやる。

 

「お疲れ様です、ダグラス様」

 

 そう、必要以上に平坦な声音で声を掛けてきたのは、メイド服に身を包んだ妙齢の女性だった。

 透き通るような蒼い髪に、同色の冷たい瞳。完璧に整った顔立ち。妖精のような、という表現が誇張なしで当てはまるだろう。

 彼女の名は、ロキ。本名かどうかは分からない。自力で生活できない(・・・・・・・・・)アナの世話役として、出会った頃からずっと一緒だった。

 

「おう、ありがとよ。……けどロキ、何でこんなとこにアナを連れてきてんだよ、危ねェだろうが」

 

 他国ならまだしも、ここブラックンド王国はあまり治安がいいとは言えない国柄だ。

 そんなところで、ロキがついているとはいえ車椅子必須なアナを連れてくるのは少しばかり不用心すぎる。

 

 俺の言葉に、ロキはただ「申し訳ありません」と言って頭を下げるだけで、特に反論はなかった。

 ……んー、いつものことなんだが、もうちょっと人間らしくならないもんかねェ。

 微妙な表情で頬を掻いていると、不意にクイッとアナに袖を引かれた。

 

「ロキを責めないであげて? 私が、連れていってって頼んだの」

「お前が? また何で……まさかただ出迎えただけってわけでもねェだろ?」

 

 問いかけると、アナはフッと頬を綻ばせて、

 

「この近くに、美味しいご飯が食べられるお店があるって聞いて……。ダグラスとも一緒に行きたいな、って。……ダメ?」

「…………ダメじゃねェけどよ」

 

 ……車椅子だから仕方ねェんだが、その上目遣いやめてくんねェかなァ。

 目の前の少女への想いを自覚している身としては、結構心臓に悪い。

 俺の承諾を取り付けて、「……やった」と無邪気に喜ぶアナを見て鼓動を早めながら、ボリボリと後頭部を掻いて……ふと、自分を見つめる視線を感じて顔を上げる。

 すると、さっきから黙ったままだったロキがどこか生暖かい目で俺を見ていた。

 

「……おいロキ、何だよその目は」

「いえ。戦場では修羅の如く勇ましい貴方であっても、姫様の前では形無しですね、と少しおかしく思ったまでです」

「おかしいって言うならちょっとは笑ったりしろよ……」

 

 つゥか人で笑ってんじゃねェよ。

 あァクソッ……コイツらの前だとどうにも調子が狂う。

 

「ハァ……アナ、その店ってのはどこにあんだよ? 早く行こうぜ」

「あ、うん。ロキ、お願い」

「かしこまりました、姫様」

 

 意気揚々と進み出した二人を見て苦笑をこぼして、俺はそのあとを追い始めた。

 

 

 

§

 

 

 

「お待たせしましたー!」

 

 朗かな笑顔の給仕の娘が、俺たちが着いたテーブルに手際よく料理を並べていく。

 湯気と共に何とも食欲を刺激する匂いを放つその料理は……あァ、確かに、アナがわざわざ食いに来るのも納得できそうだ。

 

 分かりやすくワクワクした様子を見せるアナに苦笑してから、俺たちは一斉に料理に手をつけた。

 

「あむっ……おっ、旨ェな」

「ん……美味しい」

 

 想像を超えた料理の味に、思わず俺たちの頬が綻ぶ。……いやまァ、ロキはいつも通りなのだが。

 食べ方は三者三様。ガツガツと掻き込む俺とは違って、ロキは何かを確かめるように一口ずつゆっくりと咀嚼して、頻りに頷いている。

 いつも俺たちの食料事情を一手に担っているのはロキなので、これからはまた日々の食事にレパートリーが増えそうだ。

 そしてもう一人、アナは、幸せそうに案外と早いペースで料理を口に運んでいる。コイツ見かけによらず結構大食いなんだよな。

 アナの体は足と違って手の方は健常だから、モノを食べる際には苦労しない……代わりに足はピクリとも動かないのだが。

 

 しばらく無言で食事を続けていると、ふとアナが俺に質問を投げ掛けてきた。

 

「ねえ、ダグラス。傭兵ギルドの仕事はどんな感じ?」

「ん、あー……つってもな、『竜匪賊』に居た頃とはそんなに変わらねェからな。特に言うこともねェよ。まァ、ちょいと対人の仕事が増えた感じはする」

「そっか……ごめんね、ついていけなくて」

 

 申し訳なさそうに言うアナに、思わず溜め息を漏らす。

 

「あのなァ……機竜使っての戦闘ならまだしも、その足で対人戦なんて出来るわけねェだろ。むしろこられても邪魔だ。……それに」

「それに?」

「……いや、何でもねェよ」

「……むぅ」

 

 言葉を濁した俺に、不満げな顔をするアナ。

 

「まァ、あんま気にすんなよ。対人戦が増えたってこたァ、俺が求める強者との戦いの機会も増えたってことだ。『竜匪賊』に居た時より稼ぎもいいしな。願ったり叶ったりってとこだ」

「……せめてロキを連れていけば」

「駄目だ。前までなら『竜匪賊』の連中がある程度の護衛を置いてくれていたが、今はそれも望めねェ。そもそも『竜匪賊(・・・)自体が存在しねェ(・・・・・・・・)んじゃあな」

 

 そう、数ヵ月前の世界連合と『創造主(ロード)』との戦い。その最中で、暗躍を続けていた三人の師団長が戦死したことにより『竜匪賊』は結束を失って空中分解。

 もはや『竜匪賊』は、僅な残党を残してその存在を世界から消してしまったのだ。

 もちろん、そんな破滅が目に見えた残党どもに俺たちが付き合う理由もなければ義理もなく、未練なく『竜匪賊』を抜けて、今こうして俺が傭兵ギルドに所属して路銀を稼いでいる、というわけだ。

 

 本来なら『竜匪賊』に所属していて『創造主(ロード)』の一人であるアナを、そして『鍵の管理者《エクスファー》』のロキを擁する俺たちなど、本来なら今頃檻の中でもおかしくはないのだが。

 しかし俺たちに限って言えば、少し立場が特殊なためにそういう措置が取られなかった。具体的に言えば、俺たちはあの戦争で、世界連合側に味方した(・・・・・・・・・・)のである。

 その理由は……

 

「ん、大丈夫。借りは、あのお姉さまにしっかり返したから」

 

 俺が向けた視線に、アナはどこか楽しそうな弾んだ声で返してきた。その時のことを思い出しているのかもしれない。

 

 ーーアナは、その名前が示す通り、神聖アーカディア帝国の血統に連なる者、つまり古代の皇族だ。

 しかし彼女には、他の皇女とは異なる点があった……母親の身分だ。

 他の皇女たちは王妃や由緒正しい貴族の側室の子、だがアナの母親は、時の皇帝が戯れに手を出した庶民……下民の子だったのだ。

 今以上に血統を重要視していた帝国では、皇帝の側室ですらない庶民の母親はかなり冷遇されていたらしい。

 そんな事情など何一つ知らず、帝国の宮殿にてアナはこの世に生を受けた。

 母親以外にはほとんど歓迎されなかった命だが、確かにこの世界に生まれ落ちたのである。

 それから数年、アナは母親と二人慎ましやかながら充実した生活を送っていた。皇位継承権などアナは必要とせず、自らが皇族の一員であることすらほぼ忘れていたという。

 

 しかし、当時の皇族の中には、本人が望んでいなくとも誇り高き皇族の血に不純物が混ざっていることが、何よりそんな雑種が自分と同じく皇帝となる資格を持っているなど許せない……そう考える者が居た。

 リステルカ・レイ・アーシャリア。神聖アーカディア帝国の第一皇女。当時の王位継承権第一位にして、アナの実の姉でもある女だ。

 彼女はまだ幼いアナに対して、『浄化』と称してある薬品を大量に投与した。

 その薬品とはーー『エリクシル』。最凶の終焉神獣(ラグナレク)『聖蝕』の、体液。その原液。

 その行為は、後に生き残った全ての皇族が施されることになる『洗礼』という儀式なのだが……アナに投与された量は、本来必要な分量を遥かに越えていた

 無限とも思える苦しみの中で。永劫とも思える痛みの中で。それでも彼女は……アナは、決して折れることはなかった。

 三日三晩与え続けられた試練を強靭な精神力のみで乗り越え、生き残ったのである。

 だが、その代償は……幼すぎる体で拷問まがいのことをされたことによる傷は、とても理不尽なものだった。

 ーー下半身の後天的な完全麻痺。感覚すら僅かたりとも残っておらず、これによって彼女は二度と自力で歩けない体になってしまった。

 彼女は腹違いの姉妹の傲慢により、前に踏み出し生きていくための足を奪われてしまったのだ。

 

 その借りを……あの戦争で、アナはしっかりと返していた。

 具体的に言うと、ぶん殴ったのだ。

 機竜で下半身不随を誤魔化して、生身のリステルカの顔面を、生身の拳で。

 

「ん。あれは、とってもスッキリした。人を殴ってあんなに嬉しかったのは初めて」

 

 楽しそうに言うが……その間、リステルカの護衛であった『反機竜使い(アンチ・ドラグナイト)』ミスシスの相手をしていた身としては、あまり笑えない。

 アイツは本当に強かった。神装機竜《アジ・ダハーカ》の性能もさることながら、恐るべきは冷徹な機械のような、正確無比な判断力。

 アナに調整を施された神装機竜《八岐大蛇(ヤマタノオロチ)》を使ったロキと二人ががりでもかなりギリギリの戦いだった。……認めるのは癪だが、正直一人だったら確実に死んでいただろう。

 

 まァ……あれは、アナがけじめをつけるために必要な『戦い』だった。となれば……万難を排してその援護をしてやるのが……『相棒』の務めだろう。

 かつて、アナに救ってもらったこの命……これまではただ命の証明を得るために戦ってきたが……コイツのために使うのも悪くはない。

 あの戦いを経て、俺はそう思った。

 

「あ、ダグラス。ほっぺ」

「ん? あァー、付いてるか?」

「うん。……ちょっと、動かないで」

 

 アナの指示通りに動きを止めて大人しくしていると、アナの手が伸びてきて俺の頬を優しく掠めていった。

 それをどうするのか見守っていると……アナは、食べ滓の付いた指をそのまま自分の口へと運んでいった。

 

「んなッ……」

「んー? どーしたのー?」

「……何でもねェよ」

「……ふふふー。ダグラスかわいい」

「だァー! 頭を撫でんな子供扱いすんな!」

「実年齢的に言えば、私にとってはダグラスは十分子供」

「ぐっ……!」

 

 ぐうの音も出ねェ。

 そうなんだよなァ……コイツ、実は俺よりも年上なんだよなァ……。

 思わず微妙な表情になる俺……その間も、アナは俺の頭を撫で続けていた。いや止めろよ。

 同席しているロキも、どことなく微笑ましそうな雰囲気(表情ではない)でこちらを見るだけで何もしない。

 溜め息を吐いて、仕方なく受け入れることにした時ーー

 

「おうおう、ボウズども。さっきから見てりゃあ随分と見せつけてくれるじゃねぇか」

 

 かけられたそんな言葉に、チラリと声の方向へ目を向ける。

 するとそこには、いかにもチンピラという感じのガタイのいい男が下卑た表情で俺たちを見ていた。その男の後ろには似たような連中が五人ほど。

 

 せっかくいい気分だったのに無粋なヤツらだ。

 舌打ちを一つして、仕方なく訊いてやる。

 

「あァ? 俺らに何の用だ?」

「いや何、男ばっかで寂しく飯を食ってたら、上玉の嬢ちゃんを二人も見つけてな。そいつをボウズ、お前だけで相手するのは大変だろ? だから俺たちもゴショウバンに預からせてもらおうと思ってなぁ」

「…………」

 

 俺たちはそんなことを宣う男に「何言ってんだコイツ」という視線を向けるも、男は気にせずに俺たちの席につこうとする。

 チッ……穏便に済ませたかったんだがなァ……ま、仕方ねェか。

 

「あ? おいボウズ、何だよこの手は」

「…………」

「ああ、礼ならいらねぇぜ? 俺たちも楽しませてもらうわけだし……おお、そうだ。そっちの銀髪の嬢ちゃん、後で俺たちの宿に来ないかい? その足でも出来る仕事を教えてやるよ。そっちのメイドさんもな。安心しろよ、嬢ちゃんたちはされるがままになっときゃいい。俺らはそれでスッキリして満足できるし、嬢ちゃんたちも金を貰ってキモチよくなrぶげらぁっ!?」

 

 アナとロキに下卑た視線をやってニヤニヤと笑っていた男は、突如奇声を上げて大きく吹っ飛んだ。

 床と平行に飛んだ男の巨体は、後ろに控えていた取り巻きたちの一人を巻き込んで、店の壁に激突したところでようやく止まった。

 いつの間にかシンと静まり返っていた店内で、食事を取っていた客と取り巻き連中の視線が、拳を放った体勢のままでいた俺に集中する。

 つい殴っちまったが……まァいいか。どうせこの程度で済ませる気はねェしな。無関係な客には悪いとは思うが。

 

「く、くそっ……このガキがぁっ!!」

「黙れよゲス野郎」

 

 俺に殴り飛ばされてようやく復活した男が怒りに燃える目で俺を睨む。

 それを綺麗に無視して、俺は無表情のまま成り行きを見守っていたロキに声をかける。

 

「ロキ。悪いが、アナを頼む」

「承知しました。指一本触れさせませんのでご安心を」

 

 簡潔極まる俺の要望に躊躇する様子もなく、ロキは平然と一礼した。どことなく、怒っているようにも見える。

 

 さて……ロキに任せた以上、連中がアナをどうにか出来る可能性はなくなった。

 あとは……このゲスどもをミンチにするだけだな。

 

「こっちが下手に出てやれば、調子に乗りやがってぇ……! お前らやっちまえ!」

『おう!』

 

 男の号令がかかり、取り巻きの五人が一斉に殴りかかってくる。

 技の欠片もなくただただ力任せで、俺からすれば止まって見えるような貧弱な拳だが、取り巻きたちの表情に不安はない。

 一対五という数の優位を信頼しているのか。だとしたら、バカだと言う他ない。

 

 テメェら雑魚程度、百人居ようが尚足りねェんだよ。

 心中で吐き捨てながら、俺は一人残らずブッ潰すべく行動を開始した。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

「ハッ、遅ェな」

 

 目の前に迫っていた拳を鼻で笑って右手で弾き、お粗末なことにまんまと体勢を崩したその胴体に膝を叩き込む。

 体をくの字に折り曲げて悶絶する男の首根っこを掴み後に続いていた連中めがけて投げつける。

 すると連中は分かりやすく足を止めてしまった。バカが、戦闘中に足を止めるなんざ愚策中の愚策だ。

 

 もちろん俺が連中の動向に気を遣うはずもなく、拳を握って連中の内の一番近くに居たヤツに躍りかかった。

 ソイツはいきなり目の前に現れた俺に驚愕の表情を浮かべて……次の瞬間叩き込まれた俺の拳にその顔をぐしゃっと歪めた。

 しかしソイツはさっきのリーダー格の男のように派手に吹っ飛ぶことはなく、何とかその場で踏み留まって、拳を振り回した。

 

 俺は続けて追い討ちをかけることはせず、他の連中へ目を向ける。

 すると左右から同時に殴りかかってきているのが見えたので、サッと屈んで、間合いに入った瞬間にその男たちの足を一気に刈り取る。

 あっさりと足をとられた二人は、そのまま互いに衝突することになる。

 二人が体を離した瞬間、俺は動き出した。

 痛みに悶絶する二人の片方の腹に肘を打ち込み、もう片方は顎を掌底で打ち抜く。

 掌底を食らわしたヤツにはダメ押しで裏拳を顔面に放ち、肘打ちをした方には、体を大きく旋回させて回し蹴り。

 脇腹からまともに蹴りを入れられて、ソイツは吹き飛び、立ち竦んでいたもう一人にぶつかって一緒になって倒れ伏した。

 

 もちろん、これで終わりではない。

 倒れた二人の元へ駆け寄って、重なりあったその腹部を全力で踏み抜いた。

 げぼあっ、と悲鳴をあげるが、だからどうした。苦しむ二人をまとめて蹴り転がして退かす。

 直後、最初に殴った取り巻きの一人が背後から襲いかかってくる。

 振り返ることもせず男の拳をかわし、人差し指と中指を立てた拳を突き出した。

 狙いは、男の喉。俺の拳は寸分違わず男の喉に突き刺さる。指先にゴリュッと何かを潰したようや感触が伝わって来たと同時に指を引き抜き、もう一度顔面を強打して引き離す。

 

 さて、残るは一人……

 

「く、くそっ!」

 

 俺が視線を向けた瞬間、その最後の一人はクルリと背を向けて……アナとロキが待つ方向へと突進していった。

 けれど俺は、特に慌てることもなくそれを見送った。何故かーー簡単だ。俺が対処する必要もないからだ。

 

「控えなさい、下郎」

 

 冷然とした、背筋が凍るような冷たい声が響いた……直後、そっちに向かった男の体が真上に跳ね上がった。

 目にも留まらぬ速度で動き出したロキが、強烈なアッパーカットを男の顎に見舞ったからだった。

 ロキは男が落ちてくるのを待つことなく、空中で男の腕をとって振り回し、地面にうつ伏せに叩きつけた。

 そのままロキは男の腕を関節の可動域とは逆にねじ曲げ……ボギンッ、と何かが折れる音が響いた。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

「黙りなさい耳障りです」

「ぐふっ……」

 

 最後の一人がスムーズに始末されたのを見届けて、俺は呆然と俺たちの蹂躙劇を眺めていたリーダー格の男に向き直った。

 

「さて、と。……悪ィが、もう一回何て言ったか教えてくれねェか? よく聞こえなくてなァ……」

「ひっ!? お、俺が悪かった! この通りだ、頼む許してくれ!!」

「おいおい、誰が謝罪なんて求めたよ? 俺はもう一度言ってくれって言っただけだぜ? それとも、何か俺に言えないようなことでも口にしたのか?」

「……っ」

「それに、今さら謝罪なんぞしたところで変わんねェよ……アナに、コイツらに手を出そうとした時点で、テメェらの破滅は確定してる。後は遅いか早いかの違いだけだ」

 

 言いながら俺が近付いていくと、男はへたりこんだまま後退っていく。数歩それを繰り返したところで、ついに男は壁際まで追い詰められた。

 

「い、いやだ……やめろ、やめてくれ……!」

「いい加減黙れよおま、えッ!」

「ぐぎゃぁぁぁぁあぁぁあぁぁっっっ!!!!」

 

 汚い悲鳴を上げて、男は股間を押さえてゴロゴロとのた打ち回った。俺が何をしたかは推して知るべし……いや、別に知らなくてもよし。

 とりあえず五月蝿いので、適当に腹の辺りを踏み潰して気絶させる。

 それから他の連中と共に店の外に放り出して……一件落着、と。

 パンパン、と手を叩きながら店内に戻ってくると……いきなり、客たちがドッと沸いた。

 

「うおおお、すげえぞボウズ!」

「五人がかりで掠らせすらしねぇとはなぁ」

「いやー、いい酒の肴になったぜ!」

「女のために体を張るたぁ、やるなぁあんちゃん!」

 

 次々に声をかけてくる客たちに困惑していると、その人垣の間から、ロキに車椅子を押されて、アナが俺の前へと進み出てきた。

 アナは俺の顔を見て、微笑みを溢して、

 

「ダグラス。少し屈んで?」

「あん? 何でだよ」

「いいからいいから」

 

 有無を言わせぬアナの口調に仕方なくその場に屈み込む。

 すると俺の頭の上に、そっと柔らかい感触が生じた。

 

「……よしよし」

「……何で頭を撫でるんだよ」

 

 思わず呆然として目の前の顔を睨むと、アナは宝石のような紅い瞳を柔らかく細めて、

 

「お礼だよ? 私を守ってくれた、そのお礼」

「…………」

「ありがとう、ダグラス」

 

 その笑顔に毒気を抜かれた俺は、結局苦笑を一つ溢して、柔らかく髪を撫ぜる、小さく温かい手を受け入れた。




 最初は5、6000文字で納めようと思ってたのに気付いたらこんなことに。何故こうなった……。 

 夏期課外の後期が始まってしまいましたので、また伸びるかもです。28日にはジツリョクテストがあるらしいので……え? 夏休み? 4日までですが? ………………………………あっれれー? おっかしぃぞぉー?(白目)
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