どうも侍従長です。
さて、今回からやっとIS世界編です。
最近近くの古本屋でISの一巻から三巻までを入手したので思っていたよりは楽になりそうでほっとしてます。
この話を思い付いた時からやりたいことが沢山あったので、エタらないように頑張っていきたいと思います。これからもよろしくお願いします。
Story.13 IS学園入学
『IS学園。
日本の東京湾に浮かぶ孤島に建てられた、世界で唯一のIS操縦者育成施設。
それぞれの国家の未来を担うことになる、優秀な
国際IS委員会が多額の費用をかけて建てさせた学園なだけあり、空調設備一つとっても世界でも最高品質の代物が扱われており、生徒たちは常に世界最高水準の教育を受けられる環境にある。
この学園ではIS操縦者だけでなくISの開発に関わる技術者の育成も進められている。
ISは女性にしか扱えないため、この学園に通う生徒はその全てが女子であり、そのため世間では、『楽園』『花園』と呼ぶ声もある。
そんな学園に、今年から二人の男子生徒が入学することになった。
一人は彼の『
そこまで読んで、俺こと織斑一夏は手元の携帯端末から視線を外した。
目元を軽く揉んで、ずっと座っていたことで凝り固まった体を解すために伸びをしようとして……俺の肩に頭を載せて眠る少女の存在を思い出して動きを止める。
肩の辺りで切り揃えられた亜麻色の髪にカチューシャをつけた、整った容姿の可愛らしい少女。
俺の後輩を自称する、ソフィー・ドラクロワだ。
揺り起こそうかとも思ったが、昨日は色々あって、俺も二、三時間しか眠れていない。
込み上げてくる欠伸を噛み殺したところで、ソフィーを起こすのは止めておいた。何より、これほど安らかな表情の彼女の眠りを邪魔したくはない。
ここはIS学園の敷地内にある、とある奥まった一角だ。
そこに設置されたたった一つのベンチに、俺とソフィーは二人揃って腰かけているのである。
校舎のどこの窓とも面していないので見つかる心配はないし、遮蔽物も少ないため涼しげな風に乗せられて春の麗らかな陽気が漂ってくる。
暑すぎず寒すぎず。この快適な気候では、ソフィーのように寝入ってしまうのも仕方がないだろう。
ちなみに今は、学園のバカデカい講堂で入学式が盛大に催されている真っ最中である。
だと言うのに俺たちはこんなところで何をしているのか……簡単だ。
要するにサボタージュ。サボっているのである。
古今東西、学校で行われる式典と言うのは、だだっ広い空間で無駄に姿勢を正しくしながら、毎度毎度同じような言葉を垂れ流すお偉いさん方の話を聞き流すだけの、一種拷問じみた苦行だ。
端的に言って、どうしようもなくつまらないのだ。
マギアルカではないが、そんな浪費としか言いようがない時間の使い方をするなら、可愛い後輩とこういう時間を過ごす方がよっぽど建設的である。
「しかし、まあ……」
……帰って、きたんだな。
これまでは入学に向けての準備などで忙しかったのであまり考えてこなかったが、ここに至って少しずつ実感が沸いてきた。
もう二度と、帰ってくることはないと思っていたんだが。
全く運命と言うやつは、なんと悪戯なのだろう。
こうして見限ったはずの世界に引き戻して、捨て去ったはずの家族と引き合わせようとさせる。
何とも言いがたい感慨がある。複雑な感情に任せて溜め息を吐く……
「ん、んぅ……」
「…………起こして、はいないか」
突然ソフィーの吐息が聞こえてきて焦ったが、どうやら単に身動ぎをしただけのようだった。
その、安心に緩みきった表情を見て、思わず笑みが溢れた。
……そうだな。今の俺は一人じゃない。こんなところにまで付いてきてくれる仲間が居るんだ。
そっとソフィーの頬を撫でて、ふと思い付いてその頬にキスをしてやる。
すると今しがた味わったばかりのソフィーのすべらかな頬に赤みが差したような気がしたが……まあ、気のせいなのだろう。
§
「皆さん、入学おめでとうございます! 私はこのクラスの副担任、
教室の一番前、教卓の前に立ち、朗らかな表情と声で挨拶をする、緑髪にやや大きめな眼鏡をかけた女性。
ともすれば生徒よりも低いかもしれない小柄な体躯と、女性として成熟した体型はひどくミスマッチだ。おっとりとした雰囲気から小学生の先生にも見える。
さぞや生徒に人気の教師だろうとも思うのだが……
しかしこの教室からは、山田先生の言葉に反応を返す生徒は居なかった。
何故か……それは、教室の最後列に並ぶ二人の男子生徒に視線が集中しているからだった。
その二人の男子生徒のうちの一人である俺こと一夏は、向けられる視線の鬱陶しさに陰鬱とした溜め息を吐き出した。
はぁ……全く鬱陶しい。ルクスのやつ、よくこんな環境に耐えられたな。
戦争の中で肩を並べ、友人となった没落王子を思い出して思わず感心してしまう。
ああ、あいつにはアイリが居たんだったか。身内が居たならまだ気が楽だったのだろう。
ちなみにソフィーは別のクラスだ。いざというときのためにマギアルカが手を回したらしい。
……こっちにもまあ、
チラリと視線を向ける先には、何が楽しいのか笑顔を浮かべて椅子にふんぞり返る、整った顔立ちの青年の姿。
多少成長したとはいえ、以前毎日顔を合わせていたやつの顔を見間違えるはずもない。
言わずと知れた、一人目の男性IS操縦者にして俺の双子の弟織斑春万その人だ。
まさか同じクラスになるとはな……いや、学園側としては俺たちみたいな『異分子』を監督するのには同じクラスであるのが丁度いいのか……。どんな理由だろうと俺にとっては気が重いことこの上ないのだが。
そんなことを考えている内に、山田先生の号令でそれぞれの自己紹介が始まっていた。
出席番号順なので今の俺の名字的にあまり余裕はない。適当に挨拶の内容を考えていると、ほどなくして番号が呼ばれたので立ち上がる。
「ヴァンフリーク社所属、スイスから来たイチカ・ロウ・ヴァンフリークだ。趣味は強いて言えば読書。社に入荷されてきたISを起動させてしまいこの学園に来ることになった。一年間よろしく頼む」
そう、簡潔に自己紹介を済ませる。
『イチカ・ロウ・ヴァンフリーク』というのは、言うまでもなく偽名だ。『織斑』の名前は無駄に有名なので偽名を作らざるを得なかったのだ……こんな言い方をしているが、ヴァンフリーク姓を名乗れることが少し嬉しかったりするのは内緒だ。
余談だが、そのマギアルカは束さんと縁が出来たのをいいことに、最近IS産業にまで手を出し始めた。流石に節操がなさ過ぎるだろうと思ったが、それでも上手く社が回っているのだから謎である。
あまり馴れ合うつもりもないが、多少は好印象を持たれた方がいいだろうと思い、教室を見渡すと……
「きゃー、きゃぁーっ、美少年、美少年よ!」
「どこか陰のある雰囲気のミステリアスな美少年……イイッ!!」
「んんッ……あ、あの鋭くて怜悧な視線……堪んないわぁ」
…………帰っていいですか(白目)。
自分の目とか何とか色々死んでいくのが分かる。ソフィーや部隊の女子と接している時はこんな風にはならんのだが……
窓の方を見て、あそこから飛び降りたなら離脱できるよな……などと考えながらも再び席に着く。
そんな俺と入れ替わるようにして、隣の席に座っていたもう一人の男子生徒が立ち上がり、自己紹介を始めた。
「初めまして、俺は織斑春万って言います。受験会場で偶然ISに触れて起動させちゃってここに来ることになりました。趣味は剣道、よろしくお願いします!」
爽やかな笑顔を浮かべて一息に言い切ると、春万は勢いよく頭を下げた。
瞬間、再び沸き上がる教室。
「きゃーーーーっ! こっちもイケメンよ!」
「イチカ君とはタイプの違うやんちゃっぽいイケメン……全然アリね!」
「ハァ……ハァ……い、イロイロ教えたくなっちゃうぅぅぅ……!」
熱っぽい視線を春万に向ける女子生徒たちとは対照的に、俺の視線はどこまでも冷えきっていた。
全く……こうして見ると一目瞭然だが、
もちろん全部が全部演技ではないのだろうが、俯瞰してみればどうしても違和感が拭えない。しかしそれも普段からよく観察していなければ分からない範囲。
我が弟君は、どうやら役者顔負けの演技力を持っているらしい。
そんな魔性の仮面に魅入られてしまったであろう女子の中に見知った顔を見つけて、思わず眉を上げる。
他の女子と比べても一段と強い熱を秘めた瞳で春万を見つめる、長く艶やかな黒髪をポニーテールにした、まさに大和撫子と言った風情の美少女。
篠ノ之
幼馴染みとは言っても、俺にはアイツに殴られ続けた記憶しかないのだが。
しかしこの二人が同じクラスになるのか……何とも皮肉な偶然だ……。
そんな風に嘆息した俺だったが、いきなり開け放たれたドアから入ってきた人物を見て、今度こそ何かの作為を感じずには居られなかった。
「随分と騒がしいな。お前たちのバカ騒ぎの声が廊下まで聞こえてきたぞ」
聞こえてくる冷たい声音にそちらの方向を向けば……鋭利な刃のような雰囲気をまとった長身の女性の姿が。
冴え渡った冷俐な美貌が俺たちを見渡している。
ーー織斑千冬。
かつての俺の姉にして、現『
あの日俺を裏切った張本人が、そこには居た。
「…………」
無意識の内に漏れ出ていた殺気を、慌てて押し止める。
しかしそれは、タイミング的に少しばかり遅かったようで……
直後、何気なく向けられた視線と俺の視線が交錯し……すぐに、俺の方から顔を背けた。
そもそも、コイツと俺はもはや赤の他人。あの日を境に、元々希薄だった俺たちの繋がりは既に途絶えた。
今のヤツにはこの学園という居場所があり、俺にも信頼できる仲間たちと一緒に築いた居場所がある。
ならば、俺がヤツを気にする必要なんてない。
そう思うと、フッと、肩の力が抜けた気がした。こんな姿を見られたら、またあの後輩に笑われてしまうな。
「あ、千冬姉」
「織斑先生と呼べバカが」
スパァァァァンッ、と春万の頭頂部に出席簿を叩き込んだ千冬……織斑先生の姿を見ながら、ふっと溜め息を吐くのだった。
§
「なあ、ちょっといいか?」
ホームルームを終えて各々が好き勝手に動き始めた頃、隣の席の春万が話しかけてきた。その傍らには箒も居る。
……別に殊更邪険にするつもりもないが、多少受け答えがぶっきらぼうになってしまったのはご容赦願いたい。
「何だ?」
「っ、貴様! 折角春万が話しかけてやったというのに何だその反応は!」
うるさい腰巾着。
喚き立てる箒に、心の中で吐き捨てる。
「まあまあ、箒。そんな怒るなって。折角の美少女が台無しだぜ?」
「び、びしょッ……!? う、うむ、分かった……」
コイツら何やってんだ?
人に話しかけておきながら何故かイチャつき始めた元幼馴染みたちに呆れの多分に混じった溜め息を吐いて、俺は立ち上がった。
「あ、おい待てよ、ヴァ……ヴァ……」
「……ヴァンフリークだ。別に覚える必要はないが。まあいい、何の用だ?」
「お、おう、って何でお前そんな喧嘩腰なんだよ。失礼なヤツだな」
それはね、お前のことが嫌いだからだよ。
とは口に出さず、フン、と鼻を鳴らすだけにして、続きを促すように顎をしゃくる。
言ってみれば不遜な俺の態度に箒が殺気を飛ばしてくるが、そんなもの蟻に睨まれたのと変わらない。
「せっかく二人だけの男子なんだからさ、もっと仲良くしようぜ。お前だって一人じゃ色々とやりにくいだろ? だから俺たちと……」
「お気遣いなく。そんなことはお前らが気にするようなことじゃないし、知り合いがいるから問題ない。そもそもんな話を上から目線で叩きつけてくるような輩とツルむつもりはない。分かったら他の女子のところにでも行ってるんだな」
明確なまでの拒絶の言葉を吐いて、俺は颯爽と踵を返した。
次の時間割りまで休み時間を使ってソフィーと少し打ち合わせをするつもりだった。
そう猶予もなかったのでさっさと行こうと思ったのだが、
「そこのお二方、少しよろしくて?」
「よろしくない邪魔だお呼びじゃないさっさと席に戻って教科書でも読んでろと言うか端的に言ってとりあえずちょっと母国に帰っとけ」
気が付けば、俺はそんなことを一息で言い切っていた。春万や箒、クラスメイトたちの驚いたような視線が集中する。
む、どうやら俺は自分で思っていたよりもイラついていたらしい。
それでも悪口じみたことを口にしなかった辺りまだマシなのだろうが。
そんな風に自己分析をしていると、思いっ切りキレたような甲高い声が聞こえてくる。
「あ、あ、あなた! この私に向かって何ですのその言い方は! 無礼にもほどがありますわ!」
真っ赤な顔で俺を糾弾する、金髪縦ロールに鮮やかな碧眼の、まさにお嬢様と言った感じの(客観的に見れば)美少女。
んー……確か、マギアルカからもらった資料にこんな顔の娘が居た気がするのだが……
「この私に話しかけられるだけでも栄誉なのですから、それ相応の態度というものがあるのではなくって?」
「……いや、そもそも君は誰なんだ?」
「おい貴様っ! いきなり現れて、春万に対してなんだその態度は!?」
困惑したような、あるいは辟易したような表情の春万と激昂する箒。
そもそも話しかけられるだけで栄誉って……栄養の間違いではないよな? 残念ながらお前みたいに高圧的な口調で話しかけられても、俺は特殊性癖ではないので。
すると目の前のお嬢様は、縦ロールを豪快に揺らして、
「私を知らない!? セシリア・オルコットを!? イギリスの代表候補生にして、入試首席のこの私を!?」
あーうん、すまん知ってた。ぶっちゃけ名前聞く前から思い出してた。
「ふ、ふん、よいですわ。いちいち下々の者の無知に憤っていても仕方がありませんし。貴族たる者、いかなるときも優雅でいなければ……」
貴族、ねぇ……そういうなら、是非とも
王国では、基本的に大概の貴族よりもマギアルカの方が経済的にも権力的にも格上だったので、こうして真正面から食って掛かる貴族は新鮮だったりする。
まあ何もない時なら相手してやってもいいが、今回に限っては駄目だ。いつまで経っても話を始めないし。
「すまんがオルコット。話はまた今度でいいか? 人を待たせている」
「あなたにはどうやら自覚が足りていないようですわね。このわ、た、く、し、が! こうして直々に声を掛けているのですから、他の何よりも優先すべきことであるのは明白でしょうに」
「……なら早く用件を言えよ。こっちは結構焦れてるんだが。いつまで待たせるつもりだ?」
「んなっ……!」
絶句するオルコット。
わなわなと震えているようだが……結局コイツの用件は何なんだ……っと?
首を傾げてオルコットを眺めていた俺は、背中にかかった、トンッ、という軽い衝撃に思わず振り返りかけて……すかさず首に回された細い腕にそれを阻止された。
声もなく俺の後ろを取った下手人は、耳元で囁くようにして、
「せーんぱーい……? 私のこと放って何してるんですかー……?」
どこか拗ねたような言葉と共に、フゥーッ、と耳に息が吹き掛けられる。
この件に関しては俺は悪くないはずだが……そんな風に思いながらも、背筋が粟立つ感覚に耐えてその声の少女ーーソフィーに言葉を返した。
「悪いな、ソフィー。ちょっと、クラスメイトに呼び止められていた」
「えっ? 先輩、もう友達出来たんですか? 結構コミュ障なのに!?」
「おい待て誰がコミュ障だ。色々言いたいことはあるが、まず一つ。コイツらはトモダチじゃない。むしろ絶対になりたくない手合いさ」
「ほえ? どういうことですか?」
「猫かぶりな『一人目』と、その信者一号と、女尊男卑に染まりきったお貴族様」
「あー……」
ソフィーはチラリと、俺の前に立つ三人を見て露骨に嫌そうな顔をした。
動くに動けず固まっていると、春万がソフィーの方に視線を張り付けながら訊いてきた。
「おい、ヴァンフリーク。猫かぶりとか言いたいことは色々あるけど……その可愛い娘、誰だ?」
下心が透けて見えてるぞー、あと猫かぶりは否定できんだろー。
何も言わずそんなことを考える俺だったが、意外にもソフィーは自ら春万にというよりクラス全体に向けて自己紹介を始めた。
「初めましてー、ソフィー・ドラクロワって言います! 皆さんよろしくお願いします!」
ニッコリと笑ってそう言うソフィーだったが、依然として俺に背後から抱きついたまま。とてもシュールだ。
「え、えっと……ソフィーさん? は、その……ヴァンフリーク君とどういう関係、なの……?」
「先輩とですかー? イチカ先輩は会社の先輩で……先輩先輩」
おずおずとそんなことを訊いてきた女子に、ソフィーは何故か俺の肩をトントン、と叩いた。
めっちゃ先輩って言葉使ってるな、などと思いながら振り向いた俺に、ソフィーは、
ーーちゅっ、と。
軽いリップ音を鳴らして、キスをしてきた。
その位置は、偶然にも今朝俺がした位置と同じ。頬。……偶然か?
突然のソフィーの行動に、当然というべきかクラス中が一気に沸き立った。
キャーキャーギャーと、黄色い悲鳴が教室にこだまする。
「……おい、ソフィー? どういうつもりだ?」
「牽制です牽制。先輩はすっごくカッコよくてきっととってもモテちゃいますから。悪い虫がつかないようにって!」
「けどお前、特に独占欲とかを見せたことはなかったよな? アイリと顔を合わせた時とかも」
「私は別に先輩を独り占めしたい訳じゃないです。束縛する気なんてないですし、他にも女の子を増やすならそれでもいいと思ってます。言ったじゃないですか、
笑顔を崩すことなく言い切ったソフィーに、俺は思わず眉根を寄せた。
ソフィーにとって俺はどうでもよくて、俺が何をしようが知ったこっちゃないーーなんて意味ではないのはもちろん分かっている。
つまり、コイツの意図していることは……
「私は、先輩が幸せなら、それでいいんです」
そう言って、日だまりのように笑うソフィー。
……だとしても、俺には言わなければならないことあった。
「……そうか。けどソフィー。少なくとも、今の俺にとっての一番はお前だよ。今は、お前がいればそれでいい」
「……ですか」
「ああ」
甘えるように額を肩に擦り寄せてくるソフィー。腕を回して、その頭を優しく撫でてやる。
そんな俺たちに集中する周囲の視線……ふむ、完全に忘れてたな。
「ヴァ、ヴァンフリークさん……そ、その方は、あなたのこ、恋人ですの……?」
真っ赤な顔で訊ねてくるオルコット。随分と初心なことで。
とりあえず否定しておこうと思ったが、ソフィーに首をくいっと絞められて言葉を変える。
「……さあ、どうだろうな?」
そう微笑んで言ってやると、オルコットは露骨に俺たちから視線を逸らした。どうやら本当に恥ずかしいようだ。
「そ、そうですか……そ、その、呼び止めてしまって申し訳ありませんでしたわ。約束があったんですのね」
「ん? ああ、そうだが……まあ気にするな。謝ってくれたならそれ以上追求はしない」
素直に謝ってきたのは正直意外だった。女尊男卑に染まってはおれど心根は腐っていないことの証左か。
彼女に対する評価を上乗せする必要がある。
まあそれはともかく。
「ソフィー。もう時間だ。そろそろ自分のクラスに戻った方がいいぞ」
「えー? ……分かりました」
随分と不満そうにしながら、ソフィーはゆっくりと俺から体を離した。
そしてようやく振り返った俺に向き直ると、笑顔で手を振って、
「それじゃあ先輩、また後で! 皆さんも機会があればー!」
と言って、まさしく風のように去って行った。
暫しの静寂があって、復活した女子たちが俺を質問攻めにしようとする気配があったが、丁度そのタイミングでチャイムが鳴った。
俺たちが席に着くのと同時に山田先生が教室に入ってくる。
それでも尚、俺に向けられたクラスメイトたちの視線に、俺は肩を竦めた。
§
「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」
三時間目。一、二時間目と違って山田先生ではなく織斑先生が教壇に立っていた。その横で山田先生はノートを開いていた。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
クラスの代表者とはそのままの意味で、普通学校における委員長や総務のようなものだ。対抗戦だけでなく生徒会の会議や委員会にも出席する。一度決まれば一年間変更はない。
クラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るもの……なのだが、そもそも今の時点で実力もなにもない。
狙いはそこではなく、生徒同士での競争心を煽ることにあるのだろう。
もっとも俺には関係のないことだ。今日入学したばかりの(これは全員か)男子を推す者なんて居ないだろう。
このクラスにはイギリスの代表候補生たるオルコットも居るのだし、順当にいけば代表は彼女だ。
と、思っていたのだがーー
「はいっ。織斑君を推薦します!」
「じゃあ私はヴァンフリーク君を!」
……どうやらこのクラスには、予想以上にバカが多いらしい。
「ふむ…….では候補者は織斑とヴァンフリーク、他には居ないか? 自薦他薦は問わないぞ」
「お、俺か!?」
「織斑、席に着け。自薦他薦は問わないと言った。お前に拒否権などない。選ばれた以上は覚悟しろ」
驚いたような顔をしてはいるが隠しきれてないぞ織斑。ついでにまた横暴だな織斑先生。
拒否権はなしか……仕方ない。ならば別の権利を行使しよう。
「では、俺はセシリア・オルコットを推薦します」
「ほう? お前がか?」
「ええ。イギリスの代表候補生に選ばれるほどならば実力は折り紙つきでしょうし、カリスマ性も代表として申し分ないでしょう」
これは偽らざる本音だ。
彼女は明らかに、誰かの下という立場に満足せず、類い稀なカリスマ性でもって他を引っ張っていくタイプだろう。
俺がそう意見を出したことでいくらかはオルコットを推すことにしたようだが、未だに俺と織斑を推す声の方が優勢だった。
おいおい、こんな話をずっと続けていたら……
「納得がいきませんわ!」
ほぅらきた。
「そのような選出は断固として認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ! 私に、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと仰いますの!?」
……ふむ。
「ヴァンフリークさんの仰った通り、実力ならば私がクラス代表になるのは必然……それを、ただ珍しいからと言って極東の猿にされては困ります! 私はこのような島国までIS技術の鍛練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ありませんわ!」
縦ロールを荒ぶらせ、肩を怒らせて言い募るオルコット。
まあ気持ちは分からなくもないが、少し言い過ぎだぞ?
なんて思いながらも、取り出した携帯端末でオルコットの言葉をしっかり録音している俺も大概だが。
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれは私ですわ! ーー大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはならないこと自体耐え難い苦痛でーー」
おっと、ヤバイ発言が増えていくなぁ……これ、晒せばどうなるかなぁ。
色々言いたいことはあったが、空気を読んで黙っておく。一度全部吐き出させた方が都合がいいだろう。
しかし俺の思惑は、つい、と言った風に溢れた春万の呟きで瓦解してしまった。
「イギリスだって大したお国自慢はないだろ。世界一マズい料理で何年覇者だよ」
「なっ……!? あ、あなた、私の祖国を侮辱しますの!?」
「先に侮辱してきたのはそっちだろ? 黙って聞いてれば好き勝手言いやがって……このヒステリー女。駄々ばっか捏ねて、子供かよお前」
「あ、あ、あなたは……っ!」
怒りで真っ赤になった顔で春万を睨み付けるオルコット。
ふむ……何だか、このあとの展開が見えてきたぞ。
あまり愉快な結果にはならなそうだし、そろそろ口を挟むか。
「落ち着け、オルコット。あまり高ぶるな」
「ヴァンフリークさん……あなたも、そこの猿とおなじですの?」
「どう同じなのかは分からんが、そこら辺で止めておけ。お前の言い分もわからなくはないが、流石に言い過ぎだ」
「なっ……」
「祖国を侮辱するのか、と言ったが、お前の言葉も日本人の祖国を侮辱する言葉であると気付け」
俺の言葉にクラスを見回して、クラスの日本人の生徒たちが向ける険悪な視線に気付き呻くオルコット。
もう少し追い討ちをかけておくか?
「お前は自らを代表候補生と称したが、その肩書きの意味をよく考えろ。外界の権力と切り離されたこの学園においては、候補とはいえ代表であるお前の言葉は即ちお前の祖国、イギリスの言葉であるとして捉えられる。そうなれば、お前が顰蹙を買うばかりか、イギリス本国の名にも傷が付くだろうな」
「…………」
押し黙るオルコット。俺の指摘でようやく自分の言葉が及ぼす影響に気付いたらしい。
尤もこの指摘もかなり極論ではあるのだが。
さて、次はもう一人だな。
「お前もだ、織斑」
「なっ、何で俺もなんだよ!?」
「当たり前だバカが。いかに相手が失礼なことを言ったとして、自分から相手と同じところまで堕ちてどうする。所詮は物事の表面だけを見ている浅慮な輩の戯れ言だ。余裕を持って聞き流すぐらいはしてみせろ。
剣道は、武術というのは心の強さも磨くものなのだろう?」
「チッ……」
淡々とした俺の言葉に、織斑は一瞬だけ仮面を外して、小さく舌打ちして顔を背けた。しかしその目は憎々しげに俺を睨んでいる。
全く面倒臭い……俺にはお前たちと関わる気はないのだが。
しかし頭ごなしに叱りつけても、あまり意味はない。
特にオルコットのそれは、一度引き下がったとしても決して解消されるものではない。
少し面倒なことになるが、後々のことを考えるとこれがベストか。セシリア・オルコットという人間を推し量る良いチャンスでもある。
「オルコット。俺が何を言おうと、お前の不満は消えないだろう。俺も、お前の抱く誇りを蔑ろにする気はない」
「……私にどうしろと?」
「だからそう怒るな。相手をいくら言葉で貶めたところで何も変わらん。自分の主張を通したければそれ相応の手段というものがあるだろう。ーー幸いこの学園では、そういうのも認められているのだろう?」
言いながら首元のネックレス……待機状態のISを見せると、オルコットは目を見開いて、そして笑みを浮かべた。
「そう、ですわね……私としたことが、とんだ失態をお見せしましたわ。申し訳ありません、ヴァンフリークさん」
「別に気にしてないが、そもそも謝る対象が違うだろう?」
「はい……。皆さん、私の不用意な発言で皆さんを不愉快な気持ちにさせてしまったこと、この通り謝罪いたしますわ。申し訳ありませんでした」
素直に頭を下げるオルコットに、周囲からは「大丈夫だよ」「謝ってくれたから許す!」というような暖かい言葉がかけられた。
それに小さく笑みを浮かべたオルコットは、清々しい表情で、俺と春万に人差し指を突きつけてきた。
相手をまっすぐと見つめ、腰に手を当てながら指を向ける彼女の仕草は、実に堂に入ったものだった。
「織斑春万さん、イチカ・ロウ・ヴァンフリークさん。私セシリア・オルコットは、クラス代表の座を賭けて、あなた方二人に決闘を申し込みますわ!」
「へぇ……いいぜ。そっちの方が分かりやすい。完膚なきまでにぶっ潰してやるよ!」
「提案したのは俺だ。元より断ったりはしない……受けて立とう、セシリア・オルコット。その長く延びた鼻っ柱、ここでへし折ってやろう」
投げつけられた手袋を、春万は歪んだ笑みを浮かべて、俺は静かに笑って、それぞれしっかりと受け取った。
春万の自信が少し不気味ではあるが、まあいいだろう。
そこで、事態を静観していた織斑先生が静かに口を開いた。
「それでは一週間後の月曜日、放課後、第三アリーナで行う。織斑、ヴァンフリーク、オルコットはそれぞれ用意をしておくように」
その言葉を受けて、ひとまず話はまとまり授業が再開される。
よく通る織斑先生の声を聞き流しながら、初日から襲いかかってきた面倒事(半分は自業自得)に溜め息を吐くのだった。
ヒャッハーzeroイベじゃおらー!
素材美味しいー! 呼符美味しいー!
何も考えずにガチャしようと思ったけどイリヤたんのために貯石貯石。
さあー今週の週末はFGO祭じゃー! ……え? 土曜日は体育祭?
…………………………………………。
よぅし(筋肉痛との)戦いだ!
(バス通学の帰宅部には)苦手だけど全力で行こうか!!(白目)