インフィニット・オーバーワールド   作:マハニャー

17 / 29
 どうも侍従長です。

 前回の投稿からそれなりに間が空いてしまいました。色々あったんです、すいませんでした。

 今回はサブタイ通りVS縦ロールです。
 イチカのISも初お披露目となるので、楽しんでいただけると幸いです。


Story.15 蒼雫と英雄

 そして一週間後。待ち望んだ(?)クラス代表争奪戦の日がやってきた。

 舞台となる第三アリーナにはクラスの面々だけでなく他学年からも多くの生徒が詰め寄せていた。

 大声での歓声が聞こえてくるが、中には『愚かな男』への嘲弄の声も混ざっている。

 

 まるで見世物、それも質の悪い類いの。

 Cピットで待機中に溜め息を吐いた俺に、宥めるような声かかけられる。

 

「まあまあ、先輩。気持ちは分かりますけどやる気出して! 早速出番なんでしょ?」

「ああ……」

 

 肩を落とした俺に明るい笑顔を向ける我が後輩、ソフィー・ドラクロワ。

 俺のマネージャーを名乗って、このピットに乗り込んできていた。

 

 今日行われる試合の順番は、まず俺とオルコット。次にオルコットと織斑。そして最後に俺と織斑だ。

 何でも織斑の専用機が今になって到着し、調整に時間がかかるらしい。

 簡単な試運転も兼ねて時間を取りたいので、先に俺たちの試合から始めて欲しい……

 

 というような要望を、わざわざピットまで伝達に来ていた織斑先生から聞いた。

 

「……そういう事情だから、ヴァンフリーク。頼んだぞ」

「随分と織斑が優遇されているようにも感じますが……まあいいでしょう。分かりました」

 

 織斑先生の声に分かりやすい程の憂慮の念が宿っているのを察して、薄く笑いながら了承する。

 俺の後ろで無表情で織斑先生を睨み付けているソフィーの髪をポンポンと撫でて宥めて、俺はピットの射出口へと歩み寄った。一歩後ろを着いてくるソフィー。

 

「……どうかしましたか、織斑先生?」

「っ、ああ……いや、何でもない。相手が待っているだろう。早く行け」

 

 無言で俺を見つめていた彼女に声をかけると、何やら焦った様子でカツカツとヒールを鳴らして去っていった。

 その後ろ姿を無言で見送って……やがて、ソフィーがポツリと呟いた。

 

「バレましたかね?」

「さてね。どうでもいいな」

 

 そう、今さらどうだっていい。例え俺の正体が彼らに露見して何か言われたとしても、今の俺は痛痒にも感じない。

 純粋に興味がないのだ。

 

 さて、そんなことよりも、だ。

 

「ソフィー」

「はい。どうぞ先輩」

 

 ソフィーから受けとるのは、緑色の宝石の嵌め込まれたネックレス。

 束さんが用意した俺の専用機《アキレウス》だ。

 待機状態のそれを目の前に掲げ、囁く。

 

「行くぞ《アキレウス》……俺たちの初陣だ」

 

 直後に俺は、槍を携えた銀色の装甲を持つISを纏って佇んでいた。

 射出口から吹き込んでくる風が、胴体に巻き付くようにかけられた深紅の布をはためかせた。

 

「では先輩……御武運を!」

「ああ」

 

 愛しい後輩の満面の笑みに見送られて、俺は暴風を纏って飛び立った。

 

 

 

§

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

 アリーナの上空で、セシリアは腰に手を当ててフフンと鼻を鳴らした。生粋のお嬢様だけあって随分と様になっている。

 尤も、対峙するイチカにとってその程度の挑発は慣れたもので、軽く肩を竦めるだけで流した。

 すでにイチカの意識は敵へと向けられている。

 

 鮮やかな蒼を纏う、どこか王国騎士のような気高さを感じさせる機体《ブルー・ティアーズ》。

 特徴的な四枚のフィン・アーマーを翼のように背に従え、その手には二メートルを越す長大なレーザーライフル《スターライトmkⅢ》が握られている。

 ISは機竜と違って宇宙空間での使用が前提なため、原則として飛行が可能である。よって、自身の身の丈を越す武器を装備していることは珍しくない。

 

 イチカが武装から敵の手の内を考えていると、ふとセシリアが右手の人差し指をビシッと突きつけてきた。

 

「最後のチャンスをあげますわ。私が一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、今ここで降参して謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ?」

 

 自信に満ち溢れた言葉と同時に、イチカの視界でいくつかのアラートが表示されるが、それを意にも介さずイチカは笑ってみせた。

 

「お気遣いいただき光栄の至りだが、すまんな。俺は勝てない勝負をする気はないんだよ」

「そう? 残念ですわ。それなら--お別れですわねッ!」

 

 二人がフィールドに姿を現した時点ですでに試合は始まっている。

 凄まじい速度でセシリアの左手が振り上げられ、同時にイチカの右手に握られた槍が閃いた。

 直後、キィィンッ! という耳障りな異音が響き渡った。

 イチカが振るった槍が、セシリアの放った閃光を叩き落としたのだ。

 

「なっ……! あり得な」

「敵を前にして呆けるとは、随分と余裕だな?」

「っ!」

 

 目の前で響いた声にセシリアが反応しようとして、しかしできずに吹き飛ばされた。

 動揺を突いて極至近距離まで接近していたイチカが、無造作に槍を振って殴り飛ばしたのだ。

 しかしセシリアも、国家代表候補生に選ばれるほどの実力者。

 内心の驚愕を懸命に押し殺して、何とか体勢を元に戻し牽制のために《スターライトmkⅢ》を乱射する。

 が、目の前の敵に、そんな攻撃は通用しなかった。

 

 悠然と佇んでいた銀色の機体が、空を蹴るような仕草をして、緑色の颶風を纏って急加速する。

 そのあまりの速度に、閃光は目標を失って大気を焼き、《ブルー・ティアーズ》のハイパーセンサーですら一瞬反応を見失った。

 

(これはまさか……瞬時加速(イグニッション・ブースト)!? そんな高等技法を何故……!?)

 

 愕然としている暇もなかった。突如、背後から襲う強烈な衝撃。

 爆発的な加速でもって回り込んだイチカの《アキレウス》が、セシリアを背後から蹴り飛ばして……今度は、止まることはなかった。

 もう一度、緑色の暴風を撒き散らして加速。目にも止まらぬ速度で、再び《ブルー・ティアーズ》のシールドエネルギーをごっそりと減らしていく。

 

「くぅっ……! 嘗めないでくださいまし!」

「……!」

 

 セシリアの叱声とともに、《ブルー・ティアーズ》の背後のフィン・アーマーが稼働してイチカの進路に割り込んだ。

 直後、動きを止めたイチカを四方向から狙う閃光。

 

 舌打ち一つ。細かく槍を捌いて一発、身を捻って一発、タンッ、と空を蹴ってその場を離脱して二発。

 包囲網を突破して改めて向き直れば、セシリアは何故か呆れたような表情をしていた。

 

「何であのタイミングでそこまで的確に動けるんですの……あなた、本当に初心者なんですか?」

「まあな。一応、ここに来る前に会社の面々にスパルタで鍛えられたんでね」

 

 鍛えられたのは事実だ。その『会社の面々』にISの開発者である篠ノ之束博士が含まれていることは秘密だが。

 

「なるほど……まずは謝罪しますわ。あなたの実力を侮っていたこと……その上で、もう油断しませんわ。全力であなたを落とします!」

 

 そう喝破するセシリアの元に集う、四基のフィン・アーマー……否、蒼の四基のビット。

 

「これこそが、イギリスが誇る最新の第三世代兵器《ブルー・ティアーズ》ですわ!」

 

 自慢気に宣うセシリア。確かに通常であれば、それはただ一機で一対多の戦況を演出できる脅威の武装となろう。

 しかし……足りない。

 たったの四基(・・・・・・)では、イチカにとって脅威たりえない。

 何故ならば、彼が日頃訓練をしている後輩、ソフィー・ドラクロワは、合計二十基(・・・・・)実に五倍もの数(・・・・・・)のビットを操るのだから。

 

「さあ、踊りなさい。私、セシリア・オルコットと《ブルー・ティアーズ》の奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

「……!」

 

 そして始まる、一人の踊り子(セシリア)と四人のバックダンサー(ビット)から放たれる、熱烈なラブコールの雨(弾雨)

 視界を埋め尽くさんばかりの輝きに目を細めながら、イチカは特に気負った様子も見せずに槍を担いで肩を竦めた。

 

「やれやれ……あそこまで熱心なお誘いを受けてしまったら、断れないなぁ」

 

 苦笑気味に呟き、すぐに表情を真剣なものに戻す。

 諦めたわけではない。この程度脅威ですらないと確信しているからこその余裕だ。

 足の様子を確かめるように、踵で空をトントンと叩いて、

 

「流星の如く駆けろ……《彗星走法(ドロメウス・コメーテース)》」

 

 次の瞬間、イチカの姿が、アリーナに居る全ての人間の視界から消えた。

 

 

 

§

 

 

 

「あれがヴァンフリーク君のIS……《アキレウス》ですか」

「スイスのヴァンフリーク・グループが手掛けた第三世代機(・・・・・)だと言うが、確かに凄まじい」

 

 ビットでリアルタイムモニターを見ていた山田真耶と織斑千冬は、独白するように呟いた。

 モニターに移るのは、四基のビットを巧みに操り、ライフルの射撃を交えてイチカを追い詰めようとするセシリアと―-

 千冬たちにすら捉えられない速度で、フィールドを縦横無尽に駆け回る緑色の暴風。

 

「速い、ですね」

「ああ。正直、あれほどの機動性能を持つ機体を私は見たことがない」

 

 ギリシャ神話において『あらゆる時代の、あらゆる英雄のなかで、最も迅い』と謳われた俊足の英雄の名を冠するIS。

 何よりも特筆すべきは、その速度。

 宇宙空間を漂うスペースデブリに対応するために、ISには超高性能のハイパーセンサーが標準装備されている。

 肉眼どころかそのハイパーセンサーですらとらえきれない速度で駆け回り、尚且つその速度を長時間保持するなど、尋常ではない。

 最初は《アキレウス》の武装の少なさに不安を抱いた二人だったが、あの動きを見ては悟らざるを得ない。

 あの機体にとって、それ以上の武装は不要。その速度こそが、《アキレウス》の最大の武器なのだと。

 

「それだけではない。そんな狂気的なスピードを完全に御しているヴァンフリークもまた規格外だ」

「あっ……!」

 

 千冬の困惑を伴った言葉に、真耶はハッと息を呑んだ。

 そうだ。つい機体そのものに目が行ってしまうが、真に驚嘆すべきはそれだけの速度を完全に制御するイチカの操縦能力。

 ただ飛び回るだけならまだしも、時には距離を取って回避し、時には距離を詰めて攻撃を加え、一瞬の停滞もなく行動し続けている。

 

 セシリアの一方的な勝利に終わると予想していたであろう観客席からは、困惑したような雰囲気が漂っていた。見物に来ていた上級生の方がその色が濃い。

 しかし、実際に圧倒しているのはセシリアではなくイチカ。

 弱いはずの『男』が、『女』を倒そうとしている。

 だが千冬からしてみれば、それは当然のことだった。

 セシリアは確かに優秀な操縦者かもしれないが、その傲慢のせいで彼女の実力を十全に発揮できていない。

 対して、イチカは違う。彼は決して相手を過大評価も過小評価もしない。

 その動きは、そしてあの目は、明らかに『戦場を知る者』のそれだ。

 

世界最強の女性(ブリュンヒルデ)』をして、戦慄を覚えるほどの――

 

「……世界最強、か」

 

 自らに付けられたその称号を思い出して、千冬は苦々しい声で呟いた。

 

 千冬が『世界最強の女性(ブリュンヒルデ)』と呼ばれることになった、第二回モンド・グロッソ。

 あの日、千冬は最上の名声を得ると同時に、無二の家族を失った。

 ……織斑一夏。千冬の弟の一人であり、春万の双子の兄。四年前に失った、大切な家族の一人。

 

 第二回モンド・グロッソ決勝戦。かつてない激戦を制し、晴々しい気分で帰路に着いた千冬を待っていたのは、愛する弟の凶報だった。

 千冬の優勝を阻止せんとする者たちによって一夏が誘拐されたというのだ。日本政府は他ならぬ犯人の要求という形でそれを知っていたのに、握り潰した。

 称賛のついでのように伝えてきた日本政府の使者を殴り飛ばしてから、応援を申し出てくれたドイツ軍と共に現場へと向かった時には……そこには何もなかった。

 

 探していた一夏本人も居なければ、一夏を連れ去ったであろう犯人たちも居ない。持ち込んでいたはずの小物の類いもない。

 あったのは、数発の空の薬莢と、飛び散った夥しい量の……血痕。

 もちろん千冬とドイツ軍は、すぐに現場を中心に犯人たちに移動可能な範囲を隈なく捜索した。しかし、結局見つかることはなかった。

 DNA鑑定により、その血痕は一夏のものであることが分かった。同時に出血量から、今となっては生きている見込みが低いことも……

 

 事実を知った千冬は悲嘆し、懺悔し、慟哭し……そして憎悪した。

 我欲のために誘拐事件を起こした犯人たちを、国益のために報告を怠った日本政府を……何より、守り抜くと誓ったのに守りきれなかった、自分自身を。

 世界は、見事優勝した千冬を『世界最強の女性(ブリュンヒルデ)』と褒め称えたが、痛烈な皮肉にしか感じなかった。

 何よりも大事な家族を失って手に入れた名誉など、千冬にとって何の価値もなかった。

 

 守りたいもの一つ守れない最強など、何の意味があろう……

 

 苦い自嘲を噛み殺して、何故今こんなことを考えたのだろう……と首を傾げてモニターを見ると、

 

「ああ……ヴァンフリーク、か」

 

 イチカ・ロウ・ヴァンフリーク。かつて失った弟と同じ名前の少年。

 思えば、最初に彼を目にしたときから、ずっとどこかで感じていた。

 

 似ている、と。

 弟に、織斑一夏に似ている。

 ただの千冬の願望かもしれないが、彼には確かに一夏の面影があった。

 

「ヴァンフリーク…………お前は、私の弟ではないのか……?」

 

 

 

§

 

 

 

《アキレウス》の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)、《彗星走法(ドロメウス・コメーテース)》。

 これは簡単に言えば、瞬間加速(イグニッション・ブースト)連続で発動させ続ける(・・・・・・・・・・)能力だ。

『空中を蹴る』という動作をトリガーに、機体の周囲の気流を操作して、強烈な……特大の台風並みの追い風を作り出して機体を打ち出し、あとは人為的な風に乗って飛ぶ。

 まあ要するに……慣性の法則を超絶強化する能力とでも思ってくれればいい。

 

 現在、俺はその能力を発動しながら、対戦相手……オルコットの周囲を飛び回っていた。

 タンッ、タンッと時折地面(虚空)を蹴って方向転換。降り注ぐ閃光の雨をやり過ごす。

 足を止めた一瞬の隙を突いた正確無比な射撃を、右手に握った槍の穂先で受ける。

 

「なっ……レーザーを、槍で!?」

 

 そう驚くようなことでもないだろう。

 なまじ狙いが正確な分、予測と対処がしやすいのだ。

 

 いやしかし……凄まじいな、セシリア・オルコット。

 この速度で動いている俺にここまでの精度の狙撃を行ってくるとは。

 狙撃だけに関していえば、ソフィーに並ぶぐらいの実力はある。

 目が慣れてきているのだろう。この狙撃能力は、誇るべき彼女の努力の結晶。彼女が血反吐を吐きながら必死に積み上げてきたものが垣間見える。

 

 フッ、と口元を綻ばせながら、再び突貫。

 音速に匹敵するほどの圧倒的な加速に、オルコットは反応できずに――ん?

 

「くぅっ……捕まえましたわ!」

 

 何と彼女は、俺の槍を体の前で立てたライフルの銃身で受け止めたのだ。

 衝撃でライフルの銃身がギシッと軋んだが、オルコットは構わず、動きを止めた俺への射撃命令をビットに下す。

 全方位から降り注ぐレーザー光。

 それに対し、俺は振り返ることすらせずに対処した。

 

 密着した状態から前蹴りを放ち、オルコットを押し返すのと同時に後退。

 まだ《彗星走法》は使わない。使う必要はない。

 それぞれが死角から急所を狙う四つのレーザーを、俺は身を捩り槍を二度振るだけでやり過ごした。

 

「なっ……あなた、背中に目でも付いていますの!?」

「まさか、ただ読んでいただけさ」

 

 試合が始まって早十分ほど。それだけの時間があれば大体のところは見えてくる。

 今ならもう、目を瞑っていても当たるまい。

 まあ、本当に目を瞑って行動したら、自分の速度についていけずに自爆するだろうが。

麒麟(キリン)】でこのハイスピードに慣れていたからどうにか制御できているのであって、実は決して余裕があるわけではないのだ。

 気を抜けばフィールドと観客席を隔てる障壁に衝突して死ぬ。いや、死にはしないが絶対防御が発動して俺の負けだろう。

 そんな決着では俺もオルコットも納得できない。

 

 さて……そろそろ勝負を決めに行くか。

 間断なく襲い掛かってくるレーザーの包囲網を身のこなしと槍だけで弾きながら、《彗星走法》を発動。

 爆発的な加速でフィールドを横断し――四基のビットの内の一基を切り捨てる。

 

「《ブルー・ティアーズ》が……!?」

「名前が同じでややこしいな……っと!」

 

 嘯きながら方向転換。レーザーを放ったばかりのビットを撃墜。

 焦燥を露にするオルコットを一瞥して、俺は呟いた。

 

「もったいないな」

「っ!?」

「照準の速度、判断力、正確性、どれ一つとっても一級品。お前がこれまで必死に積み上げてきたものの集大成だ。手放しに称賛しよう。潔く感嘆しよう。お前のそれは、国家代表候補生の名に恥じない誇るべき力だ――だと言うのに」

 

《彗星走法》でもって一瞬でオルコットに肉薄し、槍を大上段からフルスイング。

 ゴッ!! とオルコットと《ブルー・ティアーズ》は吹き飛び、フィールドの地面に叩きつけられる。

 

「くぅ……!」

「気付け、セシリア・オルコット。お前の実力を貶めているのは、他ならないお前自身に他ならない。女尊男卑などという下らん意識が、因習が、お前を縛っている」

 

 もうもうと立ち込める土煙。

 追撃する俺を正確に穿たんとする閃光を見もせずに回避し、更に一基ビットを墜とす。

 勢いのままに最後の一基を破壊したところで、これまでとは違う鋭い一閃が進路上に割り込んできた。

 

「……と!」

「知ったような口を利かないでくださいまし! 男なんて……男なんて、何の価値もありません! ISも扱えず、ただ女性に媚びて生き長らえるばかりで……私のお父様だってそうだった! お母様の苦労も何も知らず!」

 

 ――そこか。

 セシリア・オルコットの心の内に蟠る男性への嫌悪感の源泉は。

 

 彼女の実家、オルコット家は本物の貴族であり、かつては彼女の母親が辣腕を振るいほとんど一人で家を支えていた。

 しかし……彼女の両親はある時、共に列車事故で亡くなってしまった。

 その事故が本当に事故だったかどうかは定かではないが、オルコット家の資産を狙う連中からすれば絶好のチャンスだった。

 たった一人残されたセシリアを襲ったのは、遺産を狙う下衆な連中の悪意。

 それからの彼女は必死に努力した。尊敬すべき母親を見習い、たった一人で家を守り抜いて、ISの腕も磨いた。

 その彼女の努力の結果が、彼女の纏う《ブルー・ティアーズ》だ。

 

 そこまで辿り着くのに、一体どれ程の困難があったか。想像を絶する。

 一人ですべてを守ることの大変さを、それまで母親が成してきたことの過酷さを思い知ったからこそ、母親に媚びへつらうばかりだった父親が許せないのだろう。

 ……根深い問題だが、話を聞くに、どうも彼女の両親の行動には意味があったように思う。

 終わったら、束さんに少し調べてもらおうか?

 

 だがまぁ、今は試合の方が優先だ。

 

「そうか……なら、見せてやるよ。お前の目に、お前の否定した男の強さってやつをな!」

 

 再び飛来したレーザーを切り裂いて、俺は疾駆する。

 

「だからお前も、男に価値がないと言うのなら証明して見せろ! お前が培ってきた力で、俺を倒すことで!」

 

 叩きつけるように叫びながら、俺は槍を逆手に持ち替える。

 そして、俺の槍の攻撃範囲(レンジ)から離脱したオルコット目掛けて……思いっきり投擲した。

 

「な、ぁ……くぅっ!?」

 

 自分から武器を手放した俺に驚愕するオルコット。

 構わずに俺は《彗星走法》を発動して槍を追うように翔る。

 アティスマータ新王国の『七竜騎聖』補佐官、セリスティア・ラルグリスの得意技、重撃。

 あれを、俺自身を突撃槍(ランス)に見立てて再現した。

 

 紙一重で槍を回避したオルコットに肉薄し、その腹部に掌打を叩き込む。

 シールドと絶対防御で肉体へのダメージはなくとも、衝撃は通る。

 

「かはっ……」

 

 密着した体勢のままに、帰ってきた(・・・・・)槍を掴み取る。

 勝負を決めるべくそのまま振り下ろそうとするが、

 

「っ!」

「かかり、ましたわね……! 《ブルー・ティアーズ》は四基ではなく、六基ありましてよ……!」

 

 苦しげにしながらも、勝ち誇るように叫ぶオルコット。

《ブルー・ティアーズ》のスカート部分が、ガシャンッ! と駆動する。

 放たれるのは、先程までのレーザーを発射するものではなく弾道型。

 この至近距離では、回避も防御も間に合わない――

 

「墜ちなさい、イチカ・ロウ・ヴァンフリーク! お望み通り、私の手で葬って差し上げますわ!!」

 

 身動ぎすらできず、俺の腹部に二基のビットが直撃し、轟音を立てて激しく爆発した。

 オルコットだけでなく、観客の全員がオルコットの勝利を確信しただろう――だが(・・)

 

「――――《勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)》」

「なっ……」

 

 今日何度目かの、オルコットの驚愕の声。

 それはそうだろう。確かに今しがた至近距離から攻撃を叩き込んだはずの俺が、全くの無傷で佇んでいる(・・・・・・・・・・)のだから。

 

 ギリシャ神話の英雄アキレウスには、その俊足以外にもう一つ、有名な能力が存在する。

 ――『不死身』。彼は生まれた直後に母テティスによって冥界の川に全身を浸し、不死の肉体を手に入れた。

《勇者の不凋花》は、その伝説を、一瞬だけ加えられた衝撃を全てシールドエネルギーに変換する特殊なシールドを張るという手段で再現したものだ。

 理論上では対戦車ミサイルの直撃を喰らっても無傷、と束さんが自慢していた。

 

「そんなっ……!?」

「悪いな」

 

 目を見開くオルコットに、短く謝罪して。

 

 俺が振り切った槍が、《ブルー・ティアーズ》のシールドエネルギーをゼロにした。

 

 

 

§

 

 

 

 歓声が満たすアリーナ。

 ISの展開を解除して、フィールドの真ん中でへたり込むオルコットに歩み寄る。

 彼女は俺を一瞥して、フッ、と口元を綻ばせた。

 

「私は……負けましたのね」

「ああ、そうだな。俺の勝ちだ」

「……もう少し謙虚でもいいんじゃないですの?」

「自慢できるときはすかさずこれでもかと自慢しておけってのが、師匠からの教訓なもので」

「ご立派なお師匠ですわね……」

 

 ふむ。皮肉を飛ばせる辺り、そこまで消沈しているというわけでもないか。

 むしろ、どこか吹っ切れたようにさっぱりとした表情だ。

 

「狙撃を尽く外されて、ビットも全部落とされて、奥の手の二基すら使わされて……言い訳の仕様のない、完敗ですわね」

「ああ…………って、勝ち誇れればよかったんだけどな」

「?」

 

 不思議そうな表情のオルコットに、俺は渋面で後頭部を掻きながら、

 

「最後のあれな……開発者から『まだ使うな』って言われてたんだよ」

「え……」

「何でも、急拵えなもんだからまだ未完成らしくてな……誤作動をおこしかねんのだと。……実際、一番の持ち味のスピードが八割ぐらいしか出せなくなってる」

 

 これは本当。先程確認したら、機体のあちこちに負荷がかかっていた。

 とりあえず織斑との試合までにどこまで持ち直せるか、だな。

 

「まあつまり、半分ぐらいは俺の負けってことだ。……俺の《アキレウス》と同じく、お前の《ブルー・ティアーズ》だってまだ実験機だろう? お互い、全力を出せる状況が整ってなかった。特にお前、最初俺のこと舐めきってただろ」

「何だか……勝ったのに負け惜しみのようなことを言いますのね?」

「うるさい。……何が言いたいかと言うと、だ」

 

 俺はオルコットへと右手を差し出して、

 

「俺もお前も、こんなお遊びで満足できるタチじゃないだろう……だからいずれ、またやろう」

 

 暫し、差し出された俺の手を呆けたように見つめていたオルコットは、

 

「ええ! 今度こそ、私が勝ってみせますわ!」

 

 そう言って勝ち気に笑い、俺の手を取った。




 はいと言うわけで、イチカのISはアキレウスでしたー。
 最初はイチカとソフィーはカルナとアルジュナにしようと思ったんですが、色々オーバースペックかなって……え? あんま変わんない?
 イチカがアキレウスということは、ソフィーは……アポクリファ見てた人は分かりますよね?

《勇者の不凋花》はFGO準拠(?)で常時発動ではなく、『1ターンの無敵状態付与』みたいな感じです。姿は第二再臨、戦車はまだなく、槍も師匠と戦った時みたいなのはありません。ついでに盾もないです。

 さて、次はオリ弟です。セシリアVS春万はサラッと流して、サクッと終わらせます。……あ、あらかじめ言っておくと、春万は屑です。爽やかそうな名前だけどド屑です。
 出来るだけ早くお送りできるように頑張りたいと思います(フラグ)。


 …………あれ? なんか感想消えてる? 感想って消せたの?(困惑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。