インフィニット・オーバーワールド   作:マハニャー

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 明けましておめでとうございます(素振り)。
 亀更新にもほどがあるゴミ作者ですが、今年もよろしくお願いします(素振)。
 ちなみに作者は冬休みの宿題に追われて虫の息です。計画的に進めていなかった俺を笑うがいいさ!

 新年一発目(素)ですが、正直そんな進んでません。簪ちゃん登場はまた次回です。
 それではどうぞ。


 なんだかとんでもない間違いをしていたようです。
 鈴音の名前、じゃなくて名字を思いっきり鳳ってしてました。正しくは凰ですね。誤字報告をいただいて気付きました。
 ありがとうございます。そしてすいませんでした。
 これからは気を付けていきたいと思います(土下座)


 さらに謝辞。
 誤字報告をいただいて鳳を凰に直したはずなのに、まだそのままだった件。誤字報告をいただいたつぐやん様、OIGAMI様、他の方々も毎度ありがとうございます。


Story.20 とある姉妹の話

 凰とソフィーの試合があった翌日の朝。

 何だか最近酷くなってきた気がする欠伸をしながら、足を引き摺るようにして教室に踏み入った。

 時計を見てみれば……うわ、案の定時間ギリギリか。この分だとソフィーもだろうな。

 

 昨日の夜、いや、もはや今日の朝だな。再びこちらの世界に出現したという幻神獣(アビス)の討伐任務があり、碌に寝ていない。と言うより寝ていない。徹夜である。

 ん? 討伐任務自体は深夜三時ぐらいには終わってぞ。その後何をしてたかって? 言わせんな。

 

 登校してきた俺に目を向けたクラスメイトたちは――何故か、顔を赤くして目を逸らしてしまった。

 何だ? チラチラ見てくる視線を辿れば……首筋?

 首を傾げていると、とってちってと近付いてきたのほほんさんが、ぴしりと俺の首筋を指差して、

 

「むふふ~。いっちー、昨夜はお楽しみでしたね~?」

「は?」

「首筋、キスマーク付いてるよぉ?」

「…………」

 

 …………とりあえず、ソフィーは後で説教かな。

 

 

 

§

 

 

 

 時間は飛んで、昼休み。

 今日も今日とていつものメンバー――と言っても全員集まったのは昨日のことだが――俺、ソフィー、セシリア、のほほんさん、凰の五人で食堂に来ていた。

 多分これからはこのメンバーで昼食を摂ることになるんだろうな。

 

 トレーに料理を受け取り、テーブルを囲んで座った俺たち。

 さて、食い始める前にまずは、と……。

 

「あれ? ちょ、先輩? 何でゆっくりと私の顔に手を伸ばして……先輩、やだ、こんなところでってあたたたたたたたたぁっ!?」

「見える場所に付けるなとあれほど言ったよなぁ? その綺麗な耳は飾りか後輩?」

「ごめんなさーい! 正直途中から頭飛んでたのでよく覚えてないんです! イタイイタイイタイイタイ!! 変な音が、変な音しましたからぁっ!?」

 

 よし、制裁完了。

 おや、顔を赤くしているのが二人。セシリアとのほほんさんか。

 セシリアはともかく、のほほんさんはさっきもからかってきたんだから少しは耐性があると思ったのだが。ただの野次馬根性だったわけか。

 見ろよソフィー。お前が失ったものがここにあるぞ。

 

「あいたたた…………先輩、今何か失礼なこと考えませんでした?」

「気のせいだろ。……それで、凰はどうしたんだ?」

 

 さっきから話に乗って来ない最後の一人、凰の方を見れば、何故かテーブルに額を押し付けて沈んでいた。

 どんより、と効果音が聞こえてきそうな影を背中に背負っている。

 やがて凰は俯せたまま、

 

「……怒られた」

「誰から?」

「……本国。転校早々機体をぶっ壊すとか、どういうつもりだって」

「……そうか」

「……コイツはお前の命を預ける、お前の半身そのものなんだからもっと労れ、って。カンカンだった」

 

 相当怒られたらしいが、凰を怒ったその人物は出来た人間のようだな。

 少なくとも、ISをファッションとしか見ていないこの学園の大半の連中よりは数倍は。ISが兵器であり、容易く自分の命も相手の命も奪っていくものだと認識している。

 ちなみにソフィーとの試合で半壊した《甲龍(シェンロン)》は既に本国に送って、現在修理中らしい。

 

 今回の件で凰が叱責だけで済んだのは、『代表候補生の敗北』よりも『スイスの第三世代の脅威』の方にお偉方の目が行っているからだろう。

 入学早々のクラス代表決定戦で俺と《アキレウス》が、イギリス代表候補生セシリア・オルコットと《ブルー・ティアーズ》を打倒し。

 今回の件でソフィーと《アタランテ》が、中国代表候補生凰鈴音と《甲龍》を圧倒した。

 

 スイスという国は、永世中立を謳っている。しかもこれは口だけのものではなく、『白騎士事件』の後に起きた各国の利権争いにも参加せず無干渉を貫いたほどの、筋金入りだ。

 そんなスイスが今更になって、しかもあれほどに高性能なISを開発し、表舞台に躍り出た。

 何が目的だ? スイスで何があった? 何故あれほどのものを作れる? どんな技術者がいる(・・・・・・・・・)? と、世界中が疑心暗鬼になっているのである。

 まあ尤も、俺たちにとってはどうしようもないことだ。

 近々マギアルカがそこら辺のことを全て公式に発表するらしく、現在はその準備に追われているというので、週末はその手伝いに駆り出されることになるだろうが。

 

 落ち込んでいた凰は、突如ガバッと顔を上げると、ぐしゃぐしゃぐしゃーっと髪を掻き回して、

 

「うがーっ!! あーもう! 何かどんどんイライラしてきた! もういいわウジウジ悩んでるとか私のキャラじゃない! ソフィー!!」

「は、はい?」

 

 気まずそうにしていたソフィーは凰に指差されて、少し面喰ったようだった。

 

「昨日も言ったけど! 次は勝つから! 向こうも文句言えないぐらい、完璧に勝ってやるから! 以上!」

 

 一息にまくし立てて、凰は自棄になったように麻婆豆腐を掻き込み始めた。

 彼女の表情は憑き物が落ちたように晴れやかで、その余りと言えば余りの切り替えの早さに、セシリアは呆れたように息を吐いた。

 

「単純なことですわね……」

「単純よ。負けたんなら、次は勝てばいいだけの話じゃない。生きてる限り大抵のことはどうにだってなるんだから」

「次は、勝てばいい……」

「難しく考える必要なんてどこにもないわ。アンタはそうじゃないの?」

「そう、ですわね。ええ、簡単な話ですわ」

 

 何が通じ合ったのかは分からないが、二人は意気投合したらしい。

 ただセシリアさん、こっちにそんな熱い視線を向けてくるのは止めてほしいです。色恋とかそういうものではないのは分かっているけど居心地が悪いので。

 

「いっちー、モテモテ?」

「のほほんさん、もっと考えてしゃべろっか」

「は~い」

 

 のほほんさんの妙に間延びした声に、心がほっこりする。いつの間にか調教されていたらしい。

 何はともあれ、とりあえず食事を続けようか。

 それからは、時折言葉を交わしながら和やかな食事時間となった。

 ちなみにメニューは、俺が唐揚げ定食、ソフィーが豚骨ラーメン、セシリアがサンドウィッチランチ、凰が麻婆豆腐、のほほんさんが納豆定食。……納豆定食? うわ、納豆多いな。

 

 俺と凰は日本に住んでいたことがあったから特に何とも思わないが、やはり外国人にとって納豆は奇異なものに映るらしい。

 ソフィーはそのねばねばを興味深げに見つめているし、セシリアは匂いが嫌なのか心もち身を引いている。

 まあ、これ見よがしにずるるるるーっ、と掻き込むのほほんさんも大概だが……ちょっと待て。おいお前、何故今烏龍茶を納豆に投下した!?

 あ、あぁぁぁぁ……ぐっちゃぐっちゃと掻き混ぜて……や、やめ、ヤメロォ――!!

 

「んー……おいひ~い!」

 

 ウッソだろお前。どうしてそんなゲテモノ(直球)を食って、そんな幸せそうな表情が出来るっ!?

 のほほんさん本人を除き、俺たちが顔を青くして見守る中、彼女は一気にそれを口の中に流し込んで……

 

「ふ~、ごちそうさま~……あれ、食べないの~?」

「いやぁ、流石にこれは……」

「アンタのせいで食欲がなくなったのよ……」

「日本の料理って、こんななんですの……?」

「違うぞセシリア、それは断じて違う」

「まだ時間あるよね~? お代わり行って「「「「ヤメロォ!!」」」」え~……」

 

 恐ろしいことを言い出したのほほんさんを、皆で必死に止める。

 何とか落ち着いてくれたが、これからが怖いな。今後も昼食の度にこんなものを見なければならないと思うと……ウッ!

 

 名状しがたき雰囲気に包まれたテーブルで、話の流れを変えるために口を開いたのはセシリアだった。

 

「そ、そういえば、一週間後はついにクラス対抗戦ですわね!」

 

 ……ああ、そんなイベントもあったな。

 

「イチカ、アンタ今そんなのもあったな、って思ったでしょ。分かり易すぎ」

「む、すまん。けどなぁ、俺が直接関係するわけでもないからな。こう言っては何だが、割とどうでもよかったりする」

 

 そもそも入学したてのこの時点で、一体何を競うんだという話である。

 要するにこのクラス対抗戦というのは、ISに触れたばかりのひよっ子たちがどこまで出来るのかを見るため、そして生徒たちに力量差を実感させるための催しなのだ。

 全く下らない、が……

 

「凰は出場するんだろう? あと、ソフィーも」

「ええ、機体も、明後日には届くらしいから」

「めんどくさいんですけどねー……うちのクラス、専用機持ち私だけですから」

 

 やる気十分と言った様子の凰と、気だるげなソフィー……何とも対照的な反応をする奴らだ。

 

「ソフィー、少しはやる気を出せ。相手にも失礼だろ」

「分かってますけど……下らないじゃないですか、こんなの」

「気持ちは分かるが……まあ、優勝したら、俺から何か出来る範囲でご褒美をやろう」

「……対抗戦の週の週末くれたら」

「元からそのつもりだっただろ、お前」

 

 特に予定があるわけでもないし、別にいいっちゃいいのだが。

 ……おいお前ら。何故顔を赤くしてる? ナニを想像した?

 

 

 

§

 

 

 

「……簪?」

「ええ、そうよ。更識簪。私の妹」

 

 その日の放課後。俺は楯無に呼ばれて生徒会室へ来ていた。

 分厚いビロードのカーテン、年代物のアンティークの小物に、高価そうな執務机にテーブル。この部屋だけでいくらかけてるんだ?

 マギアルカの下で働いていた頃の癖で、つい調度品の値段が気になってしまった。

 

 黒幕感でも出したいのか、部屋の奥に設置された執務机で腕を組んだ楯無は、何故か開口一番に妹の名を口にした。

 まあ一応知ってはいたが……わざわざ俺をここに呼んでまでする話か?

 

「どうぞ、ヴァンフリーク君」

「あ、どうも」

 

 お茶を注いでくれたのは、眼鏡に三つ編みのいかにもな先輩、副会長の布仏(のほとけ)(うつほ)さん。

 名字から察する通り、のほほんさんの姉である。姉であるが、ぐでーっとした妹とは性格が真逆のようだ。

 俺という客人の前ですらテーブルに突っ伏しだらけるのほほんさんと、片手にファイルを持っててきぱきと動く虚さん。

 

「お客様の前よ。しっかりしなさい」

「無理……。だる……眠い……」

 

 ふむ、今にも寝落ちしそうな様子だが。

 

「そう言えば、差し入れにショートケーキを作ってきたんですが」

「しょーとけーきっ!?」

 

 ガバッ、と顔を上げてぎらつく目で俺を睨むのほほんさん。ホントにお菓子好きだな。

 

「イチカ君、そんなの持ってきてたの? て言うか、いつの間に作ってたのよ」

「今日の朝だな。帰ってから楯無と一緒に食べようと思って作っておいた」

「くっ!流石ねイチカ君……!」

 

 一体何に慄いているんだこの学園最強は。

 

「にひひ~……食べちゃうのは、ケーキだけだったの~?」

「のほほんさん、ステイ」

「本音、黙りなさい」

「はぁい……」

「そんな……イチカ君、私のことは遊びだったの……?」

「本気で食ってやろうか」

「お嬢様?」

「ごめんなさい」

 

 茶々を入れたのほほんさんと楯無だったが、俺と虚さんに一瞬で叩き落とされた。……なーんでちょっと頬を染めてるんですかね生徒会長。

 虚さんを見れば、疲れたように額に手を当て溜め息を吐いている。他人の気がしないなこの人。マギアルカに振り回されてる日頃の俺みたいな感じだ。

 

「虚さん……おすすめの胃薬と頭痛薬があるんですけど……要ります?」

「……お願いします」

「あと、疲れの取れるアロマとかもあるんですけど。今度持ってきましょうか?」

「……すいません、本当に、助かります」

「ああ言う、自分の気の赴くままに動くタイプって、苦労しますよね」

「……分かってくれますか、ヴァンフリーク君」

「ええ、まあ……うちの社長も、そういうタイプなので」

「あなたとは仲良くなれそうな気がします」

「奇遇ですね、俺もそう思います」

 

 固い握手を交わす俺たち。目が虚ろだ。名は体を表すというが、これは切ない。

 やはり苦労していたらしい。涙が零れそうだ。

 虚ちゃんばっかりずるいー、とか言ってる駄会長が居るが、原因はお前だお前。

 

「それで? その妹がどうしたって?」

「ああ、そうだったわ。……イチカ君は、簪ちゃんのことをどのくらい知ってる?」

「……楯無の妹で、日本の代表候補生で、のほほんさんのルームメイトってぐらいだが」

「うん、そうよ。簪ちゃんは代表候補生。そして代表候補生なら、専用機が与えられて然るべきなんだけど……」

「与えられてないのか?」

「と言うより、まだ完成してないのよ。開発の途中で、織斑君の《白式》の開発に人員を取られちゃってね。今は、簪ちゃんが一人で開発を進めてるのよ」

「それはまた、何と言うか……」

 

 これは、一概に織斑が悪いとは言い切れないが……アイツだって、まさか他人のISより自分のISが優先された、など知る由もないわけだし。

 まあ知っていたとしても当然のことだとか言いそうだが。

 そもそも《白式》は、どっかの世界最強が束さんに無茶振りして生まれたISなわけだし……うん、つまり悪いのは織斑先生だな。証明終了。

 

「俺に妹を手伝って欲しい、とかそういうことか?」

「……その通りよ。あなたなら信用出来ると判断し――」

「俺を監視するついでに妹のストーカーも出来るから、って?」

「え?」

 

 お、楯無の顔が一気に青くなった。

 

「ど、どうしてそれを……」

「前にチラッと見えたんだが、お前の端末の待ち受け妹だろ?」

「っあぁっ!?」

「しかもあれ、角度的に絶対隠し撮り写真だったし」

「いやあぁぁぁぁっ!?」

「いくら姉妹とはいえ、流石に、なぁ?」

「もうやめてぇぇぇぇっ!!」

 

 ムンクの叫びみたいな顔で絶叫する楯無。十割自業自得のような気もするが。

 それを見たのほほんさんはにへらっと笑い、虚さんは深い溜め息を吐いた。

 

「おじょーさまは、かんちゃんのこと大好きだもんね~」

「お嬢様……そんなことばかりしているから避けられるんですよ?」

「やめて……お願い、やめて……あとお嬢様って呼ばないで……」

 

 うん、まあ、もう一回言うけど自業自得だからな。てかやっぱりストーカーしてたのかお前。

 ついストーカーしちゃうほどに妹のことが好きなら、自分で手伝えばいいだろうに、とは思うが……何か事情があるんだろうな。

 ダメで元々で聞いてみると、机に突っ伏していた楯無の肩がビクッと跳ねた。けれど顔を上げることはない。言う気はないのか。

 正直どっちでもいいのだが、と思った時、楯無ではなく虚さんが口を開いた。

 

「どうやらおじょ……会長は体調が優れないようですので、私の方から説明させていただきますね」

「虚ちゃんっ!?」

「はぁ……いいんですか?」

「ええ。隠すようなことでもありませんし」

 

 そう言って虚さんが語ってくれたことを要約すると、こんなことだった。

 

 日本の裏の裏に座す、対暗部用暗部、更識家。

 そんな物騒極まる家柄上、更識の、特に本家の娘として生まれた楯無と簪は、直接的・間接的問わず常に多くの悪意と危険に晒されてきた。

 故に、楯無は当主の座を継いだ時点で簪を自ら遠ざけた。

 そうすることで、彼女に向けられる悪意の全てを自分が背負おうとしたのだ。

 楯無は、それまで以上に努力した。生まれ持った天賦の才を必死に磨き上げた。全ては、ただ簪のためだけに。

 

 ここまでなら、麗しい姉妹愛の美談なのだが……

 

「『あなたは何もしなくていい。私が全部してあげるから』……流石にこれは言うべきじゃなかっただろ」

「うぐっ。……は、反省してます……」

 

 そうこうしている内に、二人の仲はいつの間にか疎遠になり、ぎくしゃくした関係のまま今に至る、と。

 ったく、妹が本当に困ってるときに駆けつけられないとか、本末転倒にもほどがあるぞ。

 

「……ま、そういうことなら、頼みを聞いてやらなくもないぞ」

「っ、ホント!?」

「まあ、素人に毛が生えた程度だが整備の経験もあるし、《アキレウス》の稼働データも提供してやったりとかな。――ただし、楯無」

「な、何……?」

「俺にしてやれるのは、簪を助けてやることだけだ。それ以上はしない。渡りを付けてやるくらいはしてやらんこともないが、結局は楯無、お前ら姉妹の問題なんだからな。時間が解決してくれる、とか考えるなよ」

「……もちろん、分かってるわ。いつまでも怖がってちゃ、前に進めないってことぐらい」

 

 怖がってる、って自覚があるのなら上等だろうさ。

 聞く限りその妹も色々と拗らせてそうだからな。本質的に似た者姉妹なんだろう。

 そう言いながらも不安そうな表情の楯無に、俺は笑って、

 

「大丈夫さ。お前らは、元々仲の良い姉妹だったんだろう?なら、きっと戻れるさ」

 

 ……ああ、そうさ。姉は俺個人を見ようとせず、弟はむしろ苛めに加担していた俺とは違って、な。

 

「……さて、のほほんさん。簪さんとはどこに行ったら会える?」

「えっと、この時間なら第二格納庫にいるだろうけど……え?今から行くの~?」

「兵は拙速を尊ぶ、ってな。いや、関係ないが」

 

 こう言うのは早い方がいいだろうしな。今からなら、上手くいけばクラス対抗戦に間に合うかもしれないし。

 

「ん~……なら私も行く~」

「のほほんさんもか?」

「かんちゃんがいっちーの毒牙にかからないように見張ってるの~」

「お前は俺を何だと思ってるんだ?まあ、俺一人で行っても怪しまれるだけだろうし、正直助かるよ」

 

 これまで女子しか居ない環境に居たわけだし、最初から警戒心MAXなのは確実だ。

 ……そうでなくとも、過保護な姉がずっとガードしてきたのなら、人見知りが極まってる可能性もあるな。

 そもそもコミュニケーションを取ろうとする時点で苦労しそうだ、と嘆息。

 頭の中で会話の算段を立てながら、俺はのほほんさんに連れられて生徒会室を後にした。

 

 

 

§

 

 

 

「……ふう」

 

 生徒会室を出て行ったイチカ君と本音を見送って、私――楯無は、そっと溜め息を吐いた。

 何度向けられても、あの目には慣れない。こちらの考えを、心の奥底を見定めようとする、あの目には。

 

 椅子に深く体を埋める私に、虚ちゃんが新しく紅茶を注いでくれた。

 

「どうぞ。お嬢様」

「ありがとう、虚ちゃん。あと、お嬢様は止めてね?」

「この場には私たちしかいませんよ。なので今は会長ではなく、お嬢様です」

 

 ……つまり、ここで会長として気張る必要はない、というわけだ。優しいなあ、虚ちゃんは。

 虚ちゃんと本音の二人、というより布仏家は代々更識家の本家に仕える従者の家系だ。

 けれど私たちの関係は、決して主人と従者なんて言う肩書だけの関係ではない。大切な幼馴染で、親友だ。

 いつも私と虚ちゃん、簪ちゃんと本音の四人で一緒だった。……一緒、だったのだ。

 

「どこで、間違えちゃったのかなぁ」

「お嬢様が家督を継いだ辺りから、でしょうね」

「……はっきり言うわね」

「はい」

 

 まあ、実際そうなのだろうけど。

 過保護過ぎたんでしょうね、私は。簪ちゃんが大事過ぎて、守ろうとし過ぎて、結果簪ちゃんの意思を蔑ろにしてしまった。

 つまり今の状況は全部、私のせいだ。

 はあ、凹むなぁ。

 

 際限なく落ち込む私に気を遣ったのか、虚ちゃんが話を変えるように新しい話題を提示してくれた。

 

「……特に動揺は見られませんでしたね、ヴァンフリーク君」

「そうね。もし本当に彼が織斑一夏君なら(・・・・・・・・・)、姉妹の話なんて絶対タブーだと思ったのに。……まあ、完全に無反応というわけではなかったけど」

 

 今日イチカ君をここに呼んだ目的は、簪ちゃんのことをお願いするのと、もう一つ。

 これまでに手に入れた情報の、裏付けを取るためだ。

 

 彼の正体を探るために、まず私は彼のヒントに従って第二回モンド・グロッソについて調べることから始めた。……癪だったけど。物凄く癪だったけど!

 と言っても、大会自体は特に何の問題もなく、決勝戦まで恙無く行われたと聞く。私自身観戦に行っていたから間違いない。

 ならば探るべきは大会そのものではなく、大会に付随、もしくは関連する事件や事故。

 そして虚ちゃんの手も借りて調査を進めていく中で、一つの誘拐事件に行き当たった。

 大会中に日本人の少年が一人誘拐されたらしいのだが、何故か情報はそれだけしかなかった。まるで、意図的に情報が遮断されたように。

 

 それからは、その事件にターゲットを絞って調査を進めた。

 被害者の少年は日本人と言うことで、政府のデータベースに検索をかけてみれば……その誘拐事件に関する情報には、最重要国家機密並の(・・・・・・・・・)プロテクトが掛けられていた(・・・・・・・・・・・・・)

 逡巡しながらも、更識の権限を使ってデータを閲覧した私たちは……国家の闇というものをまざまざと見せつけられた。

 

 誘拐されたのは、当時中学生だった少年、織斑一夏。名字から分かる通り、『世界最強の女性(ブリュンヒルデ)』織斑千冬の弟であり、織斑春万の双子の兄。

 事件が起こった時刻は、ちょうど織斑先生が決勝戦に出場する直前。

 犯人グループの目的は織斑先生のモンド・グロッソ優勝の妨害。要求を通すための人質として、一夏(イチカ)君を誘拐したのだ。

 しかし、織斑先生は決勝戦に問題なく出場し、勝利を収めている。犯人が失敗したのか? 日本政府には犯人グループからの犯行声明が届いていた。

 ならば、何故? 簡単だ。

 

 揉み消されたのだ(・・・・・・・・)

 織斑先生の優勝――国家の利益のための犠牲となった(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 見事優勝を果たした織斑先生は、事件のことを知ると、ドイツ軍の力を借りてすぐさま現場へ向かった。

 しかしそこには、一夏君の姿はなく、犯人グループすらも忽然と姿を消していた。

 後に残されたのは、空の薬莢と夥しい量の血痕のみ。

 

 嫌悪感を堪えながら、私たちはイチカ・ロウ・ヴァンフリーク=織斑一夏と仮定して、彼のことを徹底的に調べ上げた。

 結果出てきたのは……そんな事件すら可愛く思えるほどの、吐き気がするような、人間の闇。

 軽蔑、憎悪、嫉妬、嘲弄、暴力、罵倒。私が簪ちゃんに触れさせまいとしてきたもの、その全て。

 織斑一夏という少年の人間性を、その存在を否定するかのような、ただ一人の人間を貶めるのにそこまでするかという、悪意の嵐。

 姉や弟のように天才ではなかった、たったそれだけで。

 

 恐ろしかった。おぞましかった。……そして何より、悲しかった。悔しかった。

 人間とは、こんなものなのかと。私たちが守ろうとしていたものは、こんな存在なのかと。

 きっと違った。私たちが本当に守らなければならなかったのは、きっと彼のような人間だったのだ。

 

 イチカ・ロウ・ヴァンフリーク=織斑一夏は、もう確定と見ていいだろう。

 あの時、私を励ましたあの瞬間、彼は少し、ほんの少しだけ悲しそうな表情をしていたから。

 

「……正直に言って、あんな経験をして今尚ああして笑っていられるのが、信じられません」

「……そう、ね」

 

 心底から困惑しているような虚ちゃんの言葉に、思わず心から同意する。

 多分あれは、忘れているのではなく……

 

「もう、割り切ってるんでしょうね。過去のことだ、今の自分とは違う、って」

「ドラクロワさんの存在、でしょうか」

「それもあるでしょうけど、それだけじゃないでしょうね。彼が時折口にする社長さんや、同期の友人たち。そういう人々のおかげでしょう」

 

 きっとその人たちは、とても温かい人々なのだろう。

 絶望の淵に居たであろう彼の心を癒やすほどに。

 

「ま、彼の過去が分かっても、結局それだけなんだけどね」

「そうですね。彼、いえ、彼らについては、まだ分からないことだらけです」

 

 そう、目を向けなければいけないのはイチカ君だけではない。

 彼の隣りに寄り添う少女、ソフィー・ドラクロワ。

 底知れない実力。明らかに偽造された経歴。謎に包まれた動向。以前も言ったが、恐らく厄介さでは彼女の方が上だ。

 ソフィーさんについては虚ちゃんに担当してもらっているけれど……彼女から何かを引き出すのは、不可能に近いと思う。

 

 一歩前進はしたのだろうけれど、まだまだ分からないことだらけ。

 誘拐事件以降行方不明になっていた彼は、今までどこにいたのか。何をしていたのか。何があってヴァンフリーク社に就職することになったのか。

 何より、何故今になって表社会に現れ、学園に来たのか。

 

 はぁぁぁぁ、全く……。

 

「前途は多難だわ……」

 

 美少女生徒会長更識楯無の受難の日々は、幕を開けたばかり、なんてね。




 二人が入学した時点でどうあがいても胃痛マッハ(無慈悲

 ちょっと自慢を。
 クリスマスイヴに死ぬ気で溜めた石で十連引いたらステゴロ聖女とお尻がエッチな騎士様が一緒にいらっしゃいました。サンタさん……?(尚その日がクリスマスイヴだったと昨日気づいた) え? 無論クリボッチですが何か。


 それでは皆様、よいお年を。
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