インフィニット・オーバーワールド   作:マハニャー

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 あー……何か凄い久し振り()

 一応対抗戦だけど、まともにやるはずもなく……あ、この話からクロスオーバー作品が一個増えます。これまでも伏線はろうとしてたけどすっかり忘れて忽然と登場してますが……まあ、うん、ね!
 あ、原作既読推奨です。読んでなくても分かりはすると思いますけど。



Story.23 対抗戦、襲撃

 クラス対抗戦当日。

 天気は晴天。絶好の試合日和である。

 噂の男性操縦者が出場する試合があるからか、常とは異なり、IS学園全体が昂揚と活気に満ちていた。

 

 物見高い生徒たちが集まるのは、第二アリーナの第一試合。【世界最強の女性(ブリュンヒルデ)】の弟、織斑春万と、中国の国家代表候補生、(ファン)鈴音(リンイン)の試合である。

 双方そのネームバリューから、試合の注目度は最高。アリーナは全席満員、通路まで人で埋め尽くされていた。会場入りできなかった生徒や関係者は、リアルタイムモニターでの鑑賞も可能となっている。

 

 二人の入場を待つ観客たちのざわめきに包まれるアリーナを、校舎の屋上から見下ろす人影が一つ。

 着用している制服から、IS学園の生徒であることが伺える。黒髪を二つに結わえた少女である。

 肌は真珠のように白く滑らかで、襟元から覗く首は、少し力を入れて握れば折れてしまうのではないかと思えるほどに細い。

 恐ろしく端正な顔立ちをしているのだが……その顔の左半分は、異様に長く伸ばされた前髪で隠されてしまっていた。

 

 歓声の響くアリーナを冷めた目で眺めていた少女は、ふと響いてきたコール音に、ポケットから端末を取り出して耳に当てた。

 

「もしもし? ええ、わたくしですわ。……ええ、屋上です。誰も居ませんわよ」

 

 少女の言葉に、電話の相手が短く答える。僅かに漏れ聞こえる声から、相手は若い男のようだった。

 

「心配性ですのね。わたくしがそんなミスを犯すと思いまして? ……ふふっ、冗談ですわ」

 

 どうやら少女と男は相当親しい間柄のようで、軽口を飛ばし合って小さく笑っていた。

 しかし、不意に少女は表情を消して、

 

「――本当に、いいんですの? これ以上は、後戻りできませんわ」

 

 何かを憂うような、しかしどこか期待するような言葉に返ってきたのは、はっきりとした肯定の言葉。

 ニィッ、と少女の口元が三日月のような弧を描く。

 

「――きひっ」

 

 不気味な笑声を零した少女が、クルリとその場でターンすれば……少女の装いがガラリと変わった。

 頭部を覆うヘッドドレス。胴部をきつく締めるコルセットに、装飾過多なフリルとレースで飾られたスカート。それら全てが、深い闇を思わせる黒と、血のように赤い光の膜で彩られている。

 そして最後に、何故か左右不均等に髪が括られていた――まるで、時計の長針と短針のように。

 

 どうやら試合が始まったようで、眼下のアリーナから大きな歓声が響いてくる。

 その喧噪を嘲笑うように、無知な彼らを憐れむように、少女は哄笑する。

 

「きひっ、きひひひっ、きひひひひひひひひひひひ!」

「ご機嫌ですわね、わたくし」

「無論ですわ、わたくし」

 

 くるりくるりと舞いながら笑う少女の背後に音もなく現れたのは、その少女と全く同じ容姿、全く同じ声の少女。双子かと思うほどに、何から何まで瓜二つ。

 

 さらに、現れたのは一人ではなかった(・・・・・・・・)

 二人、三人、五人、十人、二十人……校舎の屋上に、何人も、何人もの少女が現れる。

 

「準備は出来まして?」

「ええ」

「十全ですわ」

「彼らは?」

「連れて参りましたわ」

「骨が折れましたわ……」

「角笛は?」

「ここにありますわ」

「よろしい」

「始めますの?」

「ええ」

「始めますわ」

「心の用意はよろしくて、わたくしたち?」

 

 一人の問いに、同じ顔の少女たちが返すのは、嘲弄するような笑み。

 

「きししし」

「ふふふふ」

「いひひひ」

「あははは」

「愚問ですわ。愚問ですわ。わたくし」

「ええ。ええ。わたくしたち、この瞬間をどれだけ待ち望んだと」

「復讐ですわ。報復ですわ」

「これは狼煙。これは号砲」

「わたくしたちの革命の。わたくしたちの変革の」

「始めますわ。終わらせますわ」

 

 ざわざわ、ざわざわと。

 いくつもの囁き声が折り重なり、まるで木々のざわめきのように不気味に響く。

 

 彼女たちの声に答えるように、少女たちの一人が角笛にそっと唇を付け、吹き鳴らす。

 ――ィィイイイィィイイイィイィ!!

 と鳴り響く異音に呼応するように、どこからか獣のそれに似たいくつもの咆哮が轟いた。

 それは祝福を奏でる聖歌か。あるいは、終末を告げる喇叭か。

 

 角笛を吹いた少女は、大きく両手を広げて、告げた。

 

「さぁ……わたくしたちの戦争(デート)を始めましょう」

 

 

 

§

 

 

 

 時は少し遡り、第二アリーナでの試合直前。

 

 IS《甲龍(シェンロン)》を纏った鈴音は、瞑目して大きく深呼吸をした。

 再び上げた視線の先には、仇敵織斑春万が純白のIS《白式》とともに、鈴音を嘲笑うような表情で眺めていた。

 

「よぉ、鈴。調子はどうだよ?」

「アンタに聞かれるまでもなく絶好調よ」

 

 春万の見下すような視線には腹が立つが、大丈夫。我を忘れるほどの怒りは湧いてこない。前日までソフィーとセシリアを相手に特訓という名の憂さ晴らしをしていたからだろう。

 改めて二人の『友人』に感謝したところで、アナウンスが響いた。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

 それに従って、鈴音と春万は五メートルの距離を開けて互いに向かい合った。

 青龍刀を構えて気合を入れ直していると、春万から秘匿回線(プライベート・チャネル)で通信が届いた。

 

『そういや鈴、お前、ヴァンフリークの奴とよろしくやってるんだって?』

『…………』

『お前も趣味が悪いよなぁ、あんなやつを好きになるとかさ。……ああ、そういや確かお前、あの兄貴のことが好きだったんだっけ? ふっはは、趣味が悪ぃのは昔からだったってわけか!』

 

 俯いて何も言わない鈴音に、醜悪な笑みを浮かべる春万だったが、その笑みはすぐに憤怒の表情へと取って代わった。

 顔を上げた鈴音は、思い切り馬鹿にした表情と声音で、

 

「ハッ、そんなうわさを信じるとか、アンタ馬鹿ァ?」

「なん……っ!?」

「どれだけ人の恋愛事情に興味津々なのよ。男女が仲良くしてるだけでカップル扱いとか、どこの女子高生よ。……ああ、もしかして、アンタが女子と仲良く出来てるのってその女々しさが理由だったのかしら?」

「て、めぇ……ッ!」

 

 歯軋りをして射殺さんばかりの目で睨みつける春万だったが、鈴音はそれを鼻で笑った。

 

 春万の魂胆は最初からバレバレだった。どうせわざと鈴音を挑発して動揺を誘い、平静を欠かせるのが狙いだったのだろう。

 だがお生憎様。今日の鈴音は日頃のストレスの全てを《龍砲》に乗せて二人の友人とアリーナの防壁にぶちまけているので、ちょっとやそっとの挑発では揺らがないのである。

 

「大体あんな奴とか言ってるけど……アンタ、イチカに負けたんでしょ?」

「あれは、油断しただけだ! 本当ならアイツなんかにこの俺が負けるはずが……!」

「ぷっ……ゆ、油断してたら、ジャーマンスープレックス食らうわけ……? ふ、ふふふっ、ヤバ、思い出したら笑いが……!」

 

 目論見が外れ逆に散々に罵倒された春万の顔色は、真っ赤を通り越して土気色である。

 今日の風呂上がりの牛乳は美味そうだ、と鈴音は満足した。

 

「ぶっ潰してやるよ!」

「出来るもんなら、ね!」

 

『それでは両者、試合を始めてください』

 

 そうして、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

§

 

 

 

 第二アリーナ、観客席にて。

 俺ことイチカとソフィー、セシリア、のほほんさん、そしてついでに簪は、凰と春万の試合が始まるのを待っていた。

 偶にソフィーたちも簪の手伝いに行っていたので、簪の人見知りも若干緩和されて女子同士和気藹々と楽しそうである。ここに簪を連れてきたのほほんさんの判断は間違っていなかったようだ。

 

「試合、どうなりますかねー」

「凰が勝つだろ」

「そんな分かり切ったことは聞いてませんよー」

 

 明らかにやる気なさそうに問いかけてきたソフィーだが、まあそれも仕方ないだろう。

 結果の見えている勝負ほど、見ていて退屈なものはない。

 

「先輩賭けます?」

「何を? 何で?」

「何分持つか。対象はまあ……今日の食事代とか?」

「いいぜ。俺は3分で」

「じゃあ私は1分半です」

「大きく出たな」

「そんなものじゃないですか?」

 

 織斑の名誉(そんなものがまだ残っているのか甚だ疑問だが)のために、小首を傾げてのソフィーの問いには黙秘しておく。……2分にしとけばよかったか。

 実際、織斑に勝ちの目は万に一つもない。

 転校当初から飛び抜けた実力と才能を持っていた彼女が、連日のソフィーたちとの特訓で更に磨き抜かれているのだ。

 持って生まれた才能に驕り、どうせ対抗戦に向けた訓練もろくにやっていないだろう織斑が勝てる道理はない。

 

 セシリアも同意見なのか、凰を見つめる視線に不安の色はない。だが事情を知らない簪にとっては違うようで、

 

「え、えと……、何でそんなに余裕そうなの?」

「実際余裕だしな」

「このわたくしと互角に渡り合う鈴さんが、今更あのような男に負けるはずがありませんわ!」

 

 共に代表候補生だからか、あるいは織斑の被害に遭ってきた経験があるからか、セシリアと凰は特に仲がいい。実力も伯仲していて、まさに好敵手(ライバル)と呼ぶのが相応しい。

 以前は織斑に煮え湯を飲まされたセシリアだが、あれは織斑による卑怯な妨害工作によるものだ。あの時の二の舞にならないように、今回は俺とソフィーで細心の注意を払っていたので問題ない。

 もはや負ける要素が見当たらないのである。

 

「だいじょーぶだよ、かんちゃん~。りんりんがボコボコにしてくれるから~」

「本音……うん、わかった」

 

 のほほんさんらしからぬ過激な発言だが……そう言えば簪が今みたいな状況に陥ってるのは織斑が原因だったな。

 代表候補生たちから見事に嫌われている織斑に笑えてくる。が、同情はしない。当然である。

 

 そんな会話をしている内に、ブザーが鳴り響き、試合が始まった。

 何故か織斑が怒り狂った表情を、凰が優越感に満ちた笑みを浮かべているが、秘匿回線(プライベート・チャネル)で煽り合いでもしたのだろうか。

 

 ざわっ、と俄かに観客席が騒がしくなる。

 

「始まった……!」

 

 先に仕掛けたのは、織斑の方だった。

 瞬時に展開した《雪片弐型(ゆきひらにがた)》を構え、最大速度で凰に突っ込む織斑。

 開始直後に先制することで試合の流れを握り、あわよくば先制攻撃で倒す。剣道でも同じような戦法で戦ってきたのだろうが……生憎、これは剣道ではなくISによる戦闘なのだ。

 

「……あ、吹っ飛んだ」

「吹っ飛びましたわね」

 

 棒立ちだった凰に勝利を確信しただろう織斑を待っていたのは、《龍砲》による不可視の砲弾。

 それを回避する間もなく真正面から喰らった織斑は、盛大に吹っ飛んだ。

 空中で何とか制動をかけた織斑は何やら悪態を吐いているようだったが、もちろん凰がそれを気にすることはない。

 

 ロクに反応も出来ない織斑を鼻で笑って、連結状態だった青龍刀を二本に分割。一気に接近して両手の青龍刀を叩きつける。

《雪片弐型》を振り回して危ういところで防御を間に合わせた織斑だが、所詮悪足掻き。《甲龍》の圧倒的なパワーに押し負けてさらに吹き飛ぶ。

 すかさず追撃する凰。双剣が乱舞し、縦横無尽に織斑へと襲いかかる。

 歯噛みしながらも後退しようとすれば《龍砲》が火を噴き、態勢を立て直すことすら許されない。

 しぶとく足掻いていた織斑だったが、ついに凰の連結した青龍刀の一撃がクリーンヒットして、地面に叩きつけられた。

 

「……す、凄いね」

「これはもう終わったんじゃないですの?」

「いや、少なくとも、あの馬鹿の方から負けを認めることは絶対にないよ。何せプライドの塊だからな」

 

 そう。アイツに見えているのは、どんな時だって自分の勝利のみ。「俺が負けるなんて有り得ない」と本気で思っている。例え敗北を喫したとしても、アイツがそれを認めることは絶対にない。

 だからアイツはいつまで経っても成長できないのだ。

 人間は、失敗を受け止め、そこから学び成長していく生き物だ。挑戦して、失敗して、何を間違ったのかを研究して、解決策を模索して、また挑戦してを繰り返していくことで、人間は少しずつ前に進んでいく。

 端から自分の方が相手より上だと決めてかかっているアイツには、永遠に出来ないことだろう。

 

 セシリアたちとそんな話をしていると、ふとソフィーの端末からバイブ音が鳴り出した。誰からか着信があったらしい。

 

「あ、すいません……あれ? 博士ですか?」

 

 博士……束さんか。あの人がこんなタイミングで何の用だ?

 何だか知らないがやたらと焦っている様子で、ソフィーもやや戸惑った様子で対応していたが――再びこちらに向き直った来た時には、至極真剣な……戦場で見せる表情へと変わっていた。

 

「先輩。――来ます」

 

 ソフィーがそう口にした、瞬間。

 

 ――ィィイイイィィイイイィイィ!!

 

 耳障りな異音を耳にして、それが何を示すものかを知っている俺とソフィーは即座に立ち上がり戦闘態勢を取る。怪訝な目を向けてくるセシリアたちに何か言う暇もない。

 そして、

 

 バリィィィイィィイイィィンッ!!

 

 ガラスが割れるような音を残して、アリーナを覆う障壁が、破られた。

 砕かれた障壁の割れ目から顔を出したのは、物語(ファンタジー)に登場するような異形の怪物たち。異世界の住人。

 古代の技術によって生み出された異形。俺たちもよく知る――幻神獣(アビス)

 機械の肉体を持つ翼人。

 獅子の頭に山羊の胴体、蛇の尾を持つ合成獣(キメラ)

 赤茶色の皮膚をした恐ろしい魔人。

 それが、実に四十体以上。

 

「な、何ですの……あれは……」

「……生き物、なの?」

 

 自分の目が映したものを疑うように、呆然と声を発するセシリアたち。

 あまりにも非現実的な光景に、思考停止状態に陥ってしまっているのだろう。

 代表候補生、そして暗部の人間として多少なりとも荒事に慣れている彼女たちですらこうなのだ。アリーナに詰めかけていたその他の生徒たちも、呆然自失としている。

 明らかに異常事態だと言うのに、誰一人声を上げない、奇妙な静寂。だがこれは嵐の前の静けさ。きっかけがあれば、すぐにでも――

 

 ――ギィィィィアアアァアァァァィイェエェアァァアァァァアァァァァッ!!

 

 そのおぞましき咆哮を聞いて、()が一気に動き出した。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

「何? 何!? 何なのよぉ!?」

「やだ、怖い、怖い……」

「……お母さん、助けてぇ……」

「これ……夢なの……?」

 

 完全に恐慌状態だな。……まあ、無理もないか。この状況で、ISをファッション感覚で扱っているこの学園の生徒に冷静な対応を求めろと言うのも無理のある話だ。

 異常な事態に悲鳴を上げて、我先にと唯一の出口である連絡通路に殺到する生徒たち。

 フィールドと観客席の間には遮断シールドが張られているが、障壁をぶち破ってくる相手だ。安心など出来ないだろう。

 まあ全員が慌てて逃げようとしているせいで、逆に混雑して避難が遅れているのだが……そこは上級生、特に生徒会役員の対応に期待するとしよう。

 

 フィールドの方へ視線を移せば、凰が《龍砲》を駆使して侵入してきた幻神獣(アビス)たちの相手をしているところだった。

 この場に現れた翼人型のガーゴイル、合成獣(キメラ)型のグリプス、そして悪魔のようなディアボロスは、図体の割に機動力が高く、そして狡猾だ。

 攻撃が当たらず、当たったとしても効果が薄いと見るや、凰は《龍砲》で追い払うことに専念する方針に切り替えたようだった。そしてその判断は正しい。

 織斑? ああ、アイツはいきなりの事態に面喰って棒立ちのままだ。少しは凰を見習ってほしいものである。

 

 流石にそろそろ教師陣も動き始める頃だろう。腐っても【世界最強の女性(ブリュンヒルデ)】だ。余程腑抜けていない限り適切な指示を下すことだろう。

 ならば――俺たちは、俺たちの仕事をするだけだ。

 

「ソフィー」

「今、先生から連絡が来ました。――全力でやって来い、だそうです」

「了解、と」

 

 全力、つまりは……神装機竜まで使って、ということだ。

 フッと笑みを零して、俺とソフィーは拡張領域(ストレージ)から取り出した機殻攻剣(ソードデバイス)を同時に抜き放った。

 

 さぁ……狩りの時間だ。

 

 

 

§

 

 

 

「くそっ……こいつら!」

 

 謎の生物の襲撃によって、鈴音は苦境に立たされていた。

 

 正面から襲いかかってきた翼人に《龍砲》を連射して追い払い、横合いから引き裂こうとしてくる合成獣を身を屈めて回避。

 連結した青龍刀の重量を利用して翼人を吹き飛ばしつつ、無差別に《龍砲》を掃射することで敵を追い払う。

 

 自身の攻撃が敵にとってダメージたりえないことを実感して、すぐさま救援を待つ遅滞戦術に切り替えた彼女の判断は称賛されてしかるべきだろう。

 だが……今回に限って言えば、敵の数が多過ぎた。

 彼女一人で四十もの怪物を相手にするのは、無理があった。

 現に《甲龍》のシールドエネルギーはほとんど底をついており、後一撃でも食らえば絶対防御が発動するところまで追いつめられていた。

 

「はぁ……はぁ……、こん、のぉっ!!」

 

 そもそも彼女とて、いくら代表候補生とはいえ、まだ16歳の女子高生なのだ。観客席の生徒たちのように、恐怖に怯えて取り乱していてもおかしくはない。

 だと言うのに、彼女は恐怖と疲労を押し殺して絶体絶命の危機に立ち向かっている。

 何故か? 奴らはISの絶対防御並の耐久度を誇る障壁を力尽くで打ち砕いて侵入してきた。怯えて縮こまっていても死ぬだけというのが一つ。

 

 もう一つは……今も逃げ惑っている、観客席の生徒たちのためだ。アリーナの障壁を砕いたのだ、遮断シールドもきっと同じように砕かれてしまうだろう。

 単なる正義感、とはまた違うかもしれない。だがそれでも、鈴音は彼女たちのためにこの戦場に立っていた。

 

『織斑! 凰! 今すぐアリーナから脱出しろ!』

「ち、千冬姉っ!? 何だよこれ、どうなってんだよ!?」

『私たちにも分からん。だが、後は私たち教師に任せてお前たちは――』

「だったら早く突入させてくださいよ! それか早く避難を済ませて! 私が食い止めてる間に!!」

「何言ってんだよ鈴!? お前死ぬ気か!?」

「んなわけないでしょうが! 死ぬ気なんて毛頭ないわよ! けどここで私たちが戦わないと、もっと多くの人間が死ぬのよ!」

「何、だよそれ……」

 

 春万には分からなかった。鈴音のことが。他人のために命をかけられる人間のことが。全く分からなかった。

 どうしてアイツは戦っている? あんな、わけの分からない、恐ろしい化け物と。死ぬかもしれないのに。

 どうしてアイツは戦える? もう機体はボロボロなのに。体は傷だらけなのに。あんな小さい体で。女のくせに。

 どうして、何の関係もない、会話をしたことすらないような人間のために、そこまで出来る……?

 

「――っ、春万、避けろォ!!」

「えっ」

 

 鈴音の切羽詰まった声に上を振り仰げば、翼人がばら撒いた光弾が、春万目掛けて降り注いでいた。

 

「う、うわぁぁあぁあぁあっ!?」

 

 無様に悲鳴を上げて、必死に飛び退く春万。

 それまで春万が居た場所に降り注いだ光弾が、地面を抉り深い傷跡を残した。

 その無残な傷跡を見て、春万の背筋は一気に凍りついた。もし、避けずにあれを喰らっていたら……

 

「早く逃げなさい春万!!」

 

 春万に向けて光弾を放った翼人を蹴り飛ばしながら、鈴音が警告を飛ばすが、完全に怯え切った春万は動き出すことが出来ない。

 無理もないかもしれないが、この状況でそんな無様を晒せば、怪物たちにとっては絶好の獲物だった。

 次々に襲いかかってくる怪物たち。

 何とかそれを捌いていく鈴音だが、一人でこれほどの物量をどうにかできるはずがない。

 

「くそ……っ、このままじゃ……!」

 

 鈴音の心に、ついに絶望が芽生え始めた――その時。

 

 ――声が聞こえた。

 二つの声。狂乱のアリーナに朗々と響く、『竜』の名を告げる声。

 

 

 

「天地統べる王なる龍よ。万神率いて、至高の座へ舞い昇れ。《黄龍》」

 

 

 

「この蛇は忌まわしき神敵。汝が罪過の(しるし)たる百の牙を突き立てよ。《テュポーン》」

 

 

 

 高らかと謳われる《詠唱符(パスコード)》。

 その声の方向に視線を向ければ、友人であるイチカ・ロウ・ヴァンフリークとソフィー・ドラクロワが、古風な剣を掲げて佇んでいた。

 何をしているのだと訝った鈴音だったが、細められた瞳はすぐに驚愕に見開かれた。

 

 佇む彼らの背後に、二頭の竜が忽然と出現したからだ。

 黄金の龍と、群青の竜。そこに現れただけなのに、すさまじい威圧感を撒き散らしている。

 

接続開始(コネクト・オン)

 

 二人が呟いた瞬間、二頭の竜の体が無数の部品(パーツ)に分裂し、連結して、二人の肉体を覆う鎧と化す。

 それはまるでISのようで、けれど明らかに違う何か。

 

 こことは違う世界における最大戦力、機竜使い(ドラグナイト)の中でも一握りの者しか扱うことの許されない、神装機竜である。

 アリーナ中の視線を集めながら、黄金の龍を身に纏ったイチカは淡々と、しかし確固たる口調で宣言した。

 

「……戦闘開始。幻神獣(アビス)を殲滅する」

 




 続きは、うん、近いうちに()
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