インフィニット・オーバーワールド   作:マハニャー

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 お久しぶりでごぜーます。やっと書き終わりました。

 サブタイからもお察しですが、あの人が登場します。久しぶりだな!


Ext-Story.2 豪商の誘い

 元『竜匪賊』の一員にして、神装機竜《ヒュドラ》を駆る凄腕の機竜使い(ドラグナイト)、ダグラス・ベルガー。

『銀牙の猛虎』という異名で恐れられ、かつてのフギル・アーカディアとの決戦の際には一夏たちに助力し、激戦を繰り広げた。

 そんな彼は今……椅子になっていた。

 

「ぐ、う、お、ォォォォォォ……!」

「ダグラスー、ペース落ちてるよー」

「畜生ッ……!」

 

 少し、言葉が足りなかった。

 正しく言えば、アナスタシアを背中に乗せた状態で腕立て伏せをしていたのである。

 

 場所はダグラスたちが宿泊しているとある高級宿の一室、そのリビング。

 部屋の中央に設置されたテーブルをどかして出来たスペースで、一見異様なトレーニングを続ける二人。素知らぬ顔で佇むメイドが一人。

 そして……目の前の奇行を無視して茶を啜る客人が二人。

 

「ほぉ……中々いい茶葉を使っておるな」

「ホントホント! 美味しいよね~」

「おや、お分かりになりますか?」

「うむ。この茶葉はわしの商会でも取り扱っておるでな。ついでにわし個人としてもそれなりに嗜んでおる故な」

「あれ? マギっちそんなことしてたの? いっくんも趣味だって言ってたけど」

「あれは元々わしの趣味じゃよ。あやつも料理を趣味にしておったからの。試しに教えてみたら見事にハマったと言うわけじゃ」

「なるほどねー」

 

 一人は、オレンジ色の髪を二つ結びにした、宛ら錬金術師のような衣装の少女。

『七竜騎聖』団長にして、世界最大の商会を束ねる稀代の豪商、マギアルカ・ゼン・ヴァンフリークその人だ。

 そしてもう一人は、紫色の長い髪にエプロンドレスを纏った長身の女性。

 名を篠ノ之束。科学者らしいが、マギアルカほどの人物が同伴して来たのだ、どうせまともな人間ではないのだろう。

 

 猜疑心を込めた視線を送っても、マギアルカはさらりとした笑みでかわしてしまう。

 胡散臭いにもほどがある。

 

「……つゥ、か! そろそろ……ッ、いいだろッ!?」

「えー……」

「不満げにすんなァ!!」

 

 絶叫するダグラス。その必死さを憐れに思ってか、ようやくアナスタシアが退いてくれた。

 大きく溜め息を吐きながら、息を整えて立ち上がる。

 改めてマギアルカたちと向かい合うが、ダグラスは少し複雑そうな表情で、

 

「あー……シャワーでも浴びてきた方がいいか?」

「ほぅ? 何じゃお主、そんな気遣いが出来たのか」

 

 直前まで運動していたのだ。いくらダグラスが常人離れした体力を持っていようとも、それなりに汗はかいている。

 エチケットとして出した申し出だが、何故か心底驚いた顔をされた。

 ……ちなみにこれは、アナスタシアと共同生活を送るにつきロキから叩き込まれたものだった。全く従者の鑑である。

 

「気にせずともよい。わしは慣れておる故な。今更気にはすまい」

「私も別に~? ぶっちゃけ時間の無駄だしね~」

「……そうかい」

 

 ならば遠慮なく、とダグラスはマギアルカたちの向かい、アナスタシアの隣に腰掛ける。

 それに合わせて、滑らかな動きでロキがアナスタシアの背後に控えた。

 抜け目なく対面の相手を観察するような視線を向けるダグラス。

 

 あからさまに警戒している二人に、マギアルカは鷹揚に微笑んだ。

 まるで、そうでなくてはと喜ぶように。

 

 果たして口火を切ったのは、ダグラスからだった。

 

「――んで? アンタほどの人間が直々に訪ねてきたんだ。まさか世間話しに来たってわけでもねェだろ。単刀直入に聞く……何の用だ?」

「本当に単刀直入じゃな。せっかちな男は嫌われるぞ? ……冗談じゃよ、冗談。全く、一夏といいお主と言い、余裕が足りんのぉ」

「……オイ」

 

 やれやれ、と首を振ったマギアルカは――ふと、すっと視線を細めた。

 直後、ダグラスは室内の気温が一気に十度も下がったような錯覚に陥った。

 マギアルカの纏う雰囲気が一変する。

 熟練の戦士が放つ殺気とは違う。威圧ですらない。

 

 それは、重みだ。

 権謀術数の世界を、智謀と策略を駆使して命懸けで戦い抜き、巨万の富と確固たる地位を築いたマギアルカのみが持てる、重み。

 その小さな体とは裏腹な、彼女の歩んできた苛烈な人生の重みが滲み出ているのだ。

 

 マギアルカはただ、微笑んでいる。それだけでしかない。

 だと言うのに、気圧されている。

 目の前の『強者』に身が竦んでいるのを、その場の面々は確かに自覚していた。

 あの束ですら、表情が強張っている。

 

 彼らのそんな反応に微苦笑を浮かべて、マギアルカはゆっくりと口を開いた。

 

「このわしが直々に出向いたんじゃ。何をしに来たか、など分かり切っておろう? 商談じゃよ(・・・・・)

「……商談、だと?」

「そう。正しくは、共同事業の提案と言ったところか」

「…………」

 

 無言で続きを促すダグラスに、マギアルカは微笑みを崩さぬまま……突拍子もないことを口にした。

 

「異世界、と言うものを知っておるか?」

「――あァ?」

 

 もちろん知らない。聞き覚えすらない言葉に眉を顰めるダグラス。

 だが、その隣に座る少女にとっては違うようで、

 

「……っ!」

「その反応、どうやらお主は知っているようじゃな。アナスタシア・レイ・アーカディア」

「あなたたちは、どこでそれを……?」

「――束」

 

 

 マギアルカはその問いには答えずに、傍らの女性に目を向ける。

 視線を追ったアナスタシアと目が合った束は、にこやかに微笑んだ。

 

「こやつの名は、篠ノ之束。異世界から来た科学者じゃ(・・・・・・・・・・・・・)

「…………ッ!?」

 

 呆然。言葉もなく束を見つめるアナスタシア。

 余程信じられないことらしいが、事情の分からないダグラスとロキは首を傾げるばかり。

 そんな二人に、マギアルカは苦笑して、

 

「異世界と言うのは、文字通り『異なる世界』のことじゃ。異なる空間、異なる位相、異なる時間、異なる文化、異なる環境……わしらの生きるこの【機竜世界】とは何もかもが異なる世界――そこからやってきた客人が、こやつと言うわけじゃ」

「客人、だと……?」

「信じられぬか?」

「……いきなりんなこと言われてもな……」

 

「――信じるよ」

 

 一言。

 銀色の髪の少女は、真紅の瞳を輝かせて静かに言い放った。

 

「アナ?」

「信じるよ、私は」

 

 そう言って、ダグラスへ視線を向けるアナスタシア。

 ――私を信じて。懇願するようなその目に、ダグラスが疑問を挟めるはずもない。

 肩をすくめて苦笑を返すダグラスに、アナスタシアはふわりと微笑んだ。

 

「ロキは……」

「わたくしはお嬢様の従者ですので」

 

 故に言葉は要らない。ただ主の望むままに。

 従者としての誇りと主への揺るがぬ忠誠を滲ませる静かな言葉。

 絶対の信頼を置く従者の言葉に頷き、アナスタシアはマギアルカたちに向き直った。

 

「私たちは大丈夫。……続きを聞かせて?」

「うむ」

 

 そうして、マギアルカは語った。

 今現在、二つの世界を跨って起きているその事件について。

 話が進むほどに、アナスタシアとダグラスの表情はどんどん険しくなっていく。

 

「向こうの世界に、幻神獣(アビス)が……?」

「異世界ってだけで頭が破裂しちまいそうなのによォ……ここに来て幻神獣(アビス)だァ?」

 

 チッ、と舌打ち一つ。

 苛立たしげに髪を掻き乱したダグラスは、不可解そうに言い放った。

 

「どういうことだよ……あの戦いの後、全ての遺跡は機能を(・・・・・・・・・)停止した(・・・・)んじゃなかったのかよ?」

 

 そう。

 かつての『英雄』フギル・アーカディアとの戦いの後、世界連合は『大聖域(アヴァロン)』を含む全ての遺跡(ルイン)の凍結を決定した。

 古代の帝国が生み出した生物兵器、幻神獣(アビス)と、その製造プラントとなっていた遺跡(ルイン)

 装甲機竜(ドラグナイト)などの利用出来る資源の分配を終えた上で、各国を代表した『七竜騎聖』の立ち会いの元、旧帝国皇族の末裔たちの手で『大聖域(アヴァロン)』を含む八つの遺跡(ルイン)は機能を停止させた。

 幻神獣を生み出す工場となっていた遺跡(ルイン)が停止した以上、もはや幻神獣たちが再び稼働することはない……はずだったのだが。

 

「その通りじゃ。そしてわしら『七竜騎聖』が出張って調査したところ、現在も尚全ての遺跡は(・・・・・・・・・・)停止したまま(・・・・・・)じゃ」

「……んだと?」

 

 ならば何故……? 訝しむ二人に悪戯気な笑みを向けて、マギアルカは驚くべきことを言い放った。

 

「つまりは、わしらの知らぬ九つ目の(・・・・・・・・・・・)遺跡が存在する(・・・・・・・)可能性があるというわけじゃ」

『………………ッ!?』

 

 息を呑む二人に、マギアルカは苦笑一つ。

 

「とはいえ、これは可能性の話じゃ。むしろそれを確かめるためにここに来たんじゃが……どうじゃ?」

「……九つ目の遺跡……申し訳ないけれど、私には心当たりがない。私の知る限り、遺跡は『(バベル)』、『迷宮(ダンジョン)』、『方舟(アーク)』、『坑道(ホール)』、『巨兵(ギガース)』、『箱庭(ガーデン)』、『(ムーン)』の七つに、『大聖域(アヴァロン)』を加えた八つのみ。……の、はず」

「ふむ……」

 

 顎に手を当てて暫し考え込むマギアルカだったが、結局は話を進めることを優先した。

 商談の続きだ。

 

「ま、この通りわしらの現状は分からんことだらけ。そこで、アナスタシア・レイ・アーカディア。神聖アーカディア帝国の第四皇女にして古代のメカニック……機竜のルーツを知る者(・・・・・・・・・・・)。お主の知識と技術を提供してもらいたいというわけじゃ」

「…………」

「付け加えて、ダグラス・ベルガー。お主と、そこのメイド、ロキ――鍵の管理者(エクスファー)、ライネス・S・エクスファー。お主らの個人としての戦力は、『七竜騎聖』の面々にも引けを取らん。わしの裁量でお主らのような実力者を自由に動かせる、そうなれば取れる手段は大幅に増える」

「随分と正直に言いやがるな」

「こんなことを取り繕っても仕方あるまい?」

 

 話を聞き終えて、即座に頷こうとしたアナスタシアを遮るのは、ダグラスの腕だった。

 何故、とでも言いたげな視線を無視して、ダグラスは強い口調で問い詰める。

 

「それで? 商談って前置きするぐらいなんだ……当然、俺たちが協力するに値する報酬を用意してくれてるんだろうな?」

「ダグラス、そんなの……!」

「黙ってろ。確かにヤベェことになってるってのは分かった。けどな……俺には俺の中での優先順位がある。お前が協力したいって思うのもの分かる。けど、それは所詮対岸の火事。結局は他人事でしかねェ。何が起こってやがるのか、危険がないのかも分からねェ……お前の身の安全より優先すべきことだとは、俺には思えねェんだよ」

「……ッ!」

 

 これ以上なく真剣に言葉を重ねるダグラスに、アナスタシアは嬉しいような悔しいような、酷く複雑な表情で黙り込んでしまった。

 同じく名指しされたロキは何も言うことはなく、主人のカップに紅茶を注ぎ直した。

 

「ふむ、まぁ、道理じゃな」

 

 分別臭く頷くマギアルカ。

 稀代の豪商は、面白がるような表情を浮かべて、

 

「ちょいとばかし過保護ではないかと思わんこともないが……とりあえず報酬の話じゃったな。もちろん用意しておるよ。まずはほれ、前金としてこれだけじゃ」

「…………おいおい、んだこれ」

「お主らにはそれだけの価値があるということじゃ。言った通り、これは前金。お主らの働き次第で更に上乗せする用意もあるぞ?」

「流石は金の亡者ってとこか……」

 

 マギアルカが無造作に渡した紙切れに記載されていた金額は、かつてダグラスが請け負った大貴族の暗殺任務の報酬の数倍以上。明らかに個人にポンと渡すような金額ではなかった。

 目を白黒させるダグラスたちだったが、マギアルカの笑みは深くなるばかり。

 

「もちろんこれだけではない。……お主らにとっては、むしろこちらの方が本命かもしれんがのう」

「…………?」

 

 

 

「わしらには、アナスタシアの足を治療する手段がある」

 

 

 

『………………ッ⁉』

 

 一言。何でもないことのように放たれたその一言は、異世界の存在以上の衝撃を持ってダグラスたちを貫いた。

 それはロキですら例外ではなく、彼女の手の中でティーポットがガチャンと大きな音を立てた。

 

 幼少期の『エリクシル』の過剰投与により、完全にその機能を失ってしまっていたアナスタシアの両足。 

 地を踏み締める足としての機能どころか、感覚すら彼女には残っていない。

 病気ではない。全身を別のモノ(・・・)へと作り変える負担に幼い彼女の体は耐え切れず、神経がズタズタに切り裂かれてしまったのだ。

 跡形もなく断絶した神経は、もはや古代の医療技術でさえ治すことはできなかった。

 

 マギアルカは、先程から黙って成り行きを見守っていた束へ視線を向けた。

 

「ほれ、束。出番じゃぞ。と言うかお主ずっと黙りこくりおって、腹でも痛むのか?」

「束さんが珍しく空気読んでたのに酷い言い種だね!? 私が引っ掻き回したらマギっち鉄拳制裁してくるじゃん!」

「くはは、よく分かっておるではないか」

「うぅ~~……束さんより傍若無人な人なんて居ないと思ってたのに……」

 

 恨みがましくブツブツと呟いていた束だったが、ダグラスたちの視線に気が付くと、一つ咳払い。

 

「コホン……アナスタシア――アナちゃんの足についてだけどね。ぶっちゃけまだ診断もしてないから確実に治療できると断言は出来ないんだけど……。でもねでもね? もし仮に治療が上手く行かなかったとしても、私になら本物の人体と同じ感覚で扱える『義足』は作れるんだよ!」

「義足、だと……?」

「そう! 向こうの世界の技術の粋を集めた疑似神経を搭載することによって、違和感のない、まるで最初からあったような、限りなく本物に近い挙動が可能になるの! 更に本人の細胞を培養して義足を作るから、副作用や拒絶反応は一切ナシ!」

 

『天災』篠ノ之束。向こうの世界における、最凶の頭脳を持つ科学者。

 彼女の持つ技術は、現行のそれより一線も二線も画する。

 全うな医者が聞けば泡を噴いて気絶するような難題も、彼女ならばいとも簡単に解決してしまうのだろう。

 

 だが……。

 

「……嬉しいけど、ちょっと複雑、かな?」

「アナ?」

「私の足が動くようになれば、これ以上ダグラスやロキに迷惑をかけずに済む。それは素直に嬉しいよ? でもね――」

 

 けれど、と。

 儚げな笑みを浮かべて、アナスタシアは己の動かぬ足にそっと手を置いた。

 

これ(・・)は、私への『罰』だと思っていたから……」

 

 アナスタシア・レイ・アーカディアは、神聖アーカディア帝国の第四皇女……皇族である。

 しかし、彼女の母親は平民。つまり妾腹の子だ。

 故に彼女は国政に関わることはなく、母親の後を継いで機竜の技術者となった。

 技術者として類い稀なる才能を有していた彼女は、瞬く間に帝国で頭角を現し、リステルカに受けさせられた洗礼によって半身不随となって尚、彼女は技術者として名を馳せた。

 帝国史上でも類を見ないほどの技術者に成長した彼女は、研究を進める中で知ってしまった。

 

 遺跡(ルイン)幻神獣(アビス)。その真実を。

 幻神獣とは、かつて……アナスタシアたちの時代より遥か以前の帝国の貴族たちが生み出した、粛清機構である。

 彼らの存在理由はただ人間を殺すこと。そしてそんな化け物を生み出したのは、自らの遠い祖先。

 見て見ぬ振りをすることも出来た。全てを忘れて、今まで通りに機竜を作り続ける。そんな選択肢もあった。

 

 けれど……彼女は、皇族だった。

 高潔だった。誇り高かった。

 血筋の話ではない。その心意気、その魂は、確かに皇族のものだったのだ。

 遠い先祖の犯した過ち。ならば、それを灌ぐのは子孫である我々皇族でなければならない。

 ……皮肉にも、王となることを欠片も望まなかったアナスタシアこそが、王の器を持っていた。

 

 真実を知ったアナスタシアは、すぐに皇帝に直訴した。

 しかし、王位継承権を放棄したアナスタシアの必死の訴えは、皇帝に届くことはなかった。

 それどころか、口封じのために暗殺者すら送り込んできた。

 当時から彼女に付き従っていたロキのおかげで助かったのだが……アナスタシアは悟った。

 もはや国を、権力を頼ることは出来ない。

 自分と、ロキ。敵となるのは国そのもの。戦力差は圧倒的。更に自分は半身不随というハンデまで背負っている。

 絶望的な戦いだ。だが、やるしかない。

 ――全ての罪を、償うために。

 

 それからの彼女の人生の全ては、贖罪の為に使われた。

 結局目的が達成されることはなく、クーデターによって帝国も崩壊してしまったけれど。

 現代に目覚めて、フギルたちとの戦いに参戦したのも、贖罪の為。

 

 時を超えた、長い永い彼女の戦いは、つい数ヶ月前に終わりを告げたばかり。

 全遺跡の凍結という形で、彼女の願いは果たされた。

 

「この足は、罪の証。『エリクシル』による洗礼……帝国に受け継がれてきた負の遺産。最悪の歴史、その象徴。例え自ら望んだものでなくとも、私は洗礼をこの身に受け、そして半身を失った。だから……これは、私への罰」

 

 悲しみと、憤りと、悔しさと。様々な感情が入り交じった声音で呟かれた言葉に、ダグラスは何も言えない。

 長い間、本当に長い間戦い抜いてきた彼女に、何が言えるのだろう。

 

 だが……この場には、そんなものは気にも留めない、道理を無理で押し通す破天荒極まる女が居た。

 その女、マギアルカは呆れたように溜め息を吐くと、

 

「アホか、お主」

 

 躊躇いもなく、そう言い切った。

 

「ぇ……」

「先祖の過ちを子孫が償わなければならないと言う時点で色々と言いたいことはあるが、それは置いておこう。聞くがな、アナスタシアよ。お主まさか、それだけの罪を一人で背負えるなどと勘違いしてはおるまいな?」

「…………」

「何百年、何千年と積み重なり肥大化したモノを、お主のようなちっぽけな人間が全て背負いきれるはずがなかろうよ。自惚れるのも大概にしろと言うことじゃ」

「…………」

「償いは結構、贖罪も大いに結構。ならば次は? 贖罪を終えて、次は何をする? 簡単なことじゃ、その罪を上回るだけの成果を上げよ。帳消しにするだけの貢献をせよ。罰などと甘えたことを言うな、自己満足はよそでやれ。それほどの才覚を無為にしていることこそ何よりの罪と知れ」

 

 容赦なかった。

 躊躇も加減も手心もなく、叩きつけるような言葉の弾丸。

 よく考えてみれば滅茶苦茶なのに、何故かそういうものだと信じ込んでしまう。

 思わず呆然と聞き入っていたアナスタシアに、マギアルカは右手を差し出した。

 

「本当に己を罰してほしいと言うのであれば、この手を取れ。馬車馬のようにこき使ってやろう。お主の持つ技術、全てこのわしが絞り尽くしてやるわ!」

「あなた、は……」

 

 豪快に笑うマギアルカに、アナスタシアも、ついと言う風に微笑みを浮かべて……。

 

「――うん、よろしく。マギアルカさん、束さん」

「うむ、ならb「よろしくねアナちゃん! やっぱり可愛い女の子と一緒に研究できるってテンション上がるよね~! あっ、義足についても安心してね! 束さん本気出して頑張っちゃうから~! 大船に乗ったつもむぎゅっ!?」「えぇい落ち着かんかこのアホ兎! 少しは落ち着きを持て!」

「またぶったね!? なんか頭がぐわんぐわんするんだけどぉ~……勁とか使ってないこれぇ!?」

「安心せよ、ただの浸透勁じゃ。威力は抑えてある」

「しれっと何てもの使ってくれてるのさぁ!?」

「はぁ……それで、ダグラス、ロキ。お主らはどうする?」

「無視っ!? 嘘でしょここで無視っ!?」

 

 喚く束を完全に居ないものとして扱うマギアルカに引きつつも、二人は答えを返す。

 と言っても、もはや決まりきったものだったが。

 

「俺にも異存はねェよ。報酬もそれで構わねェ……何より、久々に見たからな。あんなに楽しそうなアイツの顔」

「わたくしはただお嬢様のご意志に従うのみでございますので」

 

 

 

 こうして、商談は成立した。

 

 

 

§

 

 

 

 その日、一つのニュースが、比喩なしに世界を揺るがした。

 

 

 

『《天災》篠ノ乃束、出頭』

 

 

 

 ――世界は、新たな混迷の時を迎える。




 マギアルカは便利なパシリゲットして満足。
 ダグラスもアナが歩けるようになるので満足。
 アナも研究に没頭出来て満足。
 ロキは言わずもがな。
 まさにWIN-WIN


 次回はIS学園に戻ります。8月中に後2話は更新したい……。

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