インフィニット・オーバーワールド   作:マハニャー

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 思ったより行けましたので、投稿します。

 ついでに一応釈明をば。
 十話ぐらい機竜世界に使ってから、IS世界に行きます。オリヒロは機竜世界で出します。

 最近『宇宙軍士官学校―前哨―』を読みまして、結構面白かったのでキャラだけ使います。これからも色んな人が出てきますが、タグつけるのには文字数が足りないのでそのままです。


Story.3 ヴァンフリーク商会での日常

 俺、織斑一夏が異世界に来てから、早いものでもう(こちらの世界で)二年が過ぎていた。

 元の世界で誘拐されたのが十三歳の時だったから、暦が正しければ俺は十五歳になったことになる。あの頃と比べれば体つきもがっしりとしてきた気がする。

 毎日激しい運動をして、美味い飯を食って、よく寝ているからだろう。

 

 この世界を支配する七つの大国の一つ、マルカファル王国にあるヴァンフリーク商会の本部。その広大な中庭で、俺は模擬戦をしていた。

 色とりどり、あらゆる国の花々が咲き誇り様々な種類の樹木が立ち並ぶ中を、俺と対戦相手は拳と槍を交わし合う。

 

「はぁっ!」

「甘いですわっ!」

 

 石畳を蹴って一気に接近しようとするも、訓練用の木製の槍の長大な柄が唸りを上げて横薙ぎに迫る。

 それを間一髪身を屈めて回避しながら、槍が通り過ぎた直後に身体を跳ね上げる。勢い込んで放った左右の拳でのジャブは一歩後退されて回避された。

 

 俺が対戦しているのは、マルカファル王国軍の将校であるオルガ・シュワルツローゼさん。

 長い金髪に華やかな顔立ち、そして窮屈そうな軍服の下のかなりのナイスボディが特徴の美人さんである。

 彼女は軍の中でも一小隊を率いる隊長クラスであるらしく、『師匠』に武術を習うようになってからはちょくちょく、こうして揉んでもらっている。

 

「ふふっ、また強くなりましたわね、一夏!」

「おかげ、さまで!」

 

 俺を賛辞しながら、オルガさんは一切の間断なく槍を突き出してくる。

 全く油断も隙もない。そしてこっちにも油断なんてない。

 突き、薙ぎ、払い。次々と襲い来る攻撃の数々を、俺は時に弾き時に避け時にいなし時に後退って捌いて行く。

 未だ未熟な俺では攻撃に移る余裕はないけど、こうして防御に徹すればそうそう攻撃は喰らわない。

 忍耐には自信がある。上下左右全方向から降り注ぐ連打を的確に捌き、いずれ来るチャンスを待つ。

 まだ……まだ……まだだ………………今!

 

「ここだ!」

「なっ!?」

 

 連続攻撃の中に生まれた僅かな隙を衝いて、身体の傍を通り抜けて行った槍の柄を全力で蹴飛ばす。

 あらぬ方向に向かう槍の穂先と共に、オルガさんの上体が泳いだ。チャンスだ!

 胸の前で両手を合わせ、左足で地面を大きく蹴り、着地した右足に重心の全てを持ってくる。

 やや半身になった体勢のまま、突き出した右肘を、オルガさんの土手っ腹に叩き込む。

 

「おぉっ!」

「ぐっ!」

 

 けれど、流石は現役の軍人。オルガさんは無理に体勢を直そうとはせずに、むしろ勢いのままに前方へ踏み込むことで、俺と位置を交換するようにして俺の肘打ちを回避してしまった。

 互いが背中を向け合った状態で、オルガさんは振り返るよりも前に後方に向かって槍を片手で横薙ぎにしてきた。

 驚いて反応が遅れた。慌てて自分から地面に飛び込んで回避するも、後頭部にチリッとした感覚があった。髪を数本持って行かれたかもしれない。

 

 俺たちはほとんど同じタイミングで後ろ、つまり相手の方を振り返った。無言のまま、俺とオルガさんはそれぞれの構えを取る。

 ――右半身を半身にするように前に出し、両手の平は指先までピンと伸ばし、右手は顔の前、左手は腰の辺りに。腰を深く落として足を軽く開く。

 これが俺が、師匠であるマギアルカから教わったヴァンフリーク流の構えだ。

 

「本当に……最初の頃と比べれば、凄い違いですね……。本当に、強くなりました」

「ありがとうございます。けど、こんなところで止まってちゃいられないんですよ、俺は」

「……マギアルカ総帥のため、ですか?」

「はい」

 

 からかうようなオルガさんの言葉に、俺ははっきりと頷く。

 ――そうだ、今の俺が戦うのは、ただ、あの人のために。

 俺を救ってくれた、マギアルカのために。

 彼女のために、俺はもっと強くならなきゃいけない。

 

「ふふっ……やっぱりあなたは、騎士に向いていると思いますよ。あたくしから騎士団に推薦しておきましょうか?」

「騎士ってガラじゃないので、遠慮しときます……そろそろ、続きを」

「ええ、かかってきなさい。あたくしの胸を貸してあげますわ」

 

 オルガさんの冗談っぽい声に、俺は微笑みを返して――次の瞬間、戦いが再開された。

 

 

 

§

 

 

 

 一夏とオルガの模擬戦は、場所の問題もあって多くの人間が観戦していた。

 商会の職員は職務の息抜き代わりの冷やかしに。戦闘に携わったことのある者は感嘆の唸り声を上げて。商会を訪れていた客人たちはこれ幸いと酒の肴に。

 大人たちだけでなく、一夏と同じくマギアルカに拾われ商会で教育を受けている孤児たちや、商会に教育を任された傘下の家の子供たちもまた、二人の模擬戦に見入っていた。

 彼らの多くは一夏と変わらない年齢の一夏の同期で、この一年間一夏と共に学び鍛えてきた。一夏のこともよく知っている。

 女の子たちは憧憬と、瑞々しい思慕の念を。男の子たちは尊敬と、力強い克己心を。それぞれの思いを胸に、彼らは夢中で観戦していた。

 

 その中には、一夏の師匠であるマギアルカの姿もあった。

 腕組みをして上機嫌に模擬戦の様子を眺める彼女の隣には、マルカファル王国軍の軍服を着た浅黒い肌の大柄な青年が立っていた。

 軍服の青年は感嘆の色を滲ませて呟いた。

 

「いやはや……凄いですね、彼は。軍の中にも、オルガと一対一で渡り合えるような者はそうは居ないんですが……」

「当然じゃ。このわしの直弟子じゃぞ? あれぐらい造作もないことじゃ。そうではないか、バーツラフ?」

 

 自慢げに胸を張るマギアルカに、オルガの同僚でもある青年、バーツラフ・ホレックは苦笑を零した。

 

「まあ確かに、流石は総帥閣下の直弟子、ってとこですね。しかし、本当に強い……。槍を使ったオルガは彼女の小隊のメンバー総出でかかっても返り討ちにされてしまうほどの強さです。それと素手でやり合うとは」

「うむ。……もともと才能があったんじゃろうな。学習力も高ければ適応能力も高い。わしの教えたことを、それこそ海綿(スポンジ)か何かのようにどんどん吸収していったからのぅ。あそこまでとはわしも予想しておらなんだ」

「総帥閣下がそこまで言うほどですか……。才能とは、格闘戦闘の才能、ということですか?」

 

 感嘆混じりのバーツラフの言葉に、マギアルカは不敵な微笑を浮かべ、首を振った。

 

「確かにその才能も大したものじゃが……それだけではない。一夏の持つ無二にして天賦の才能は、そんなものではない。……何、すぐに分かるさ」

 

 マギアルカが片目を瞑りながら言った直後、模擬戦の流れが変わった。

 

 オルガと互いの位置を入れ替えてからはずっと防戦一方だった一夏が、一転攻勢に移ったのだ。

 オルガが槍を振り切ったタイミングで地面を蹴ってオルガに急接近。下から掬い上げるようなアッパーカットを放つ。

 仰け反って回避しながらオルガは片手で槍を手繰り、一夏に向かって正確に突き出した。

 しかし一夏は、それを予期していたかのような動きで突き出された槍をするりとかわし、逆に槍の柄を掴み取ってしまった。

 

「なっ……」

 

 驚いて身を固めるオルガに、一夏は容赦しなかった。先ほどのアッパー以上の速度でオルガの肩に打ち込む。パンッ、と存外軽い音がして、オルガの体勢が僅かに傾ぐ。

 その一瞬で一夏は槍から離した左手を地面につけ、その手を軸として一回転。伸ばした足でオルガの両足を刈り取った。

 

「あっ!」

 

 マギアルカの隣に居たバーツラフが、思わずと言った様子で叫んだ。

 だが一夏と相対するオルガもまた、歴戦の強者。衝撃から一瞬で立ち直り、完全に払われる前に片足で跳躍する。空中で一回転して一夏の背後に回り込むように回避したが――直後、彼女の無防備な背中に、一夏は渾身の体当たりを叩き込んだ。

 

「ぐっ!?」

 

 小柄な一夏のものとはいえ、全体重を乗せての体当たりは中々に強烈なもので、オルガは顔を歪めながらも何とか踏ん張った。

 至近距離の一夏を追い払うように薙ぎ払われた槍。その一撃は一夏の影すら捉えることは出来なかった。

 二人の戦いを見守るマギアルカを除いた全ての人間が、一斉に息を呑んだ。

 オルガの視界から消えた一夏は、オルガが背中を向けていた間に、全身のバネを使って真上へ跳躍――空中からオルガへと躍りかかったのだ。

 

「らぁっ!」

 

 予想外の場所からの攻撃に驚愕するオルガに、一夏は勢いを存分に乗せた踵を落とした。

 辛うじてオルガは防御を間に合わせた。頭上に掲げた槍の柄に、ズンッ、と重い衝撃が走る。

 木製の柄がギシッ、と軋む。一夏は力比べに入ることなく、目の前の足場を蹴って、地面に降り立とうとするが、上手く着地できずにバランスを崩して地面に転がってしまった。

 倒れ伏した一夏にオルガは槍を振り下ろすが、起き上がろうとせずにそのまま転がった一夏に回避された。その一撃を、一夏は見ることすらしなかった。

 続く追撃を一夏は跳ね起き様に振り払った。両手足を地面に着いた体勢のまま、獣のような動きでオルガに肉薄する。

 

「おおっ……完全に意表を衝いてますね。身軽さを、最大限に利用している。上手い戦い方だ……」

「そうじゃな。じゃが、それだけではないぞ?」

 

 バーツラフの感嘆の声にマギアルカがニヤリと笑って返したのと、オルガが驚いたような顔をして急に顔を庇うような動作をしたのは、ほとんど同時だった。

 オルガの顔の辺りには、無数の細かい粒――砂が舞っていた。

 駆け出した一夏が、あらかじめ地面から拾っておいた一固まりの砂を、オルガ目掛けて投げつけたのだ。

 散布された砂から顔と目を守るためにオルガは対処を余儀なくされ、それによってオルガの防御に隙が出来る。それを見逃す一夏ではない。

 オルガは肉薄する一夏から逃れるために、大きく後退った。後退るしかなかった。

 位置を移したことでオルガの周囲を漂っていた砂粒もなくなった。視界を取り戻したオルガは改めて一夏の位置を探ろうとするが、またもや一夏はオルガの視界から消えていた。

 さっきと同じく上からと思って上を振り仰ぐが、気配はオルガの背後から感じられた。

 

 ――ここでオルガが、この現状に違和感を感じることが出来れば、オルガはみすみす武器を失う(・・・・・)ことはなかったかもしれない。

 だが少なくとも、この時点では遅かった。

 ……先程まではなかったはずの()が、二人を覆っているのに気が付けなかった時点で、遅かった。

 一夏のものだと思われる気配に反応して、オルガは振り返ることもなく槍を背後に向けて薙ぎ払う――が。

 

 ――バキィィッ!

 

「なっ……これ、は!?」

 

 槍を持つ手に異様に硬い感触が伝わって来たと思ったら、異音と共に槍が半ばから折れてしまった。

 愕然として振り返ると、確かにそこに一夏は居た。だが、オルガが槍を叩きつけたのは一夏ではなく――中庭に植えられていた、太い木の幹だった。

 無論、常のオルガであればこのようなミスをすることはなかっただろう。

 だが今は、一夏の上下左右からの攻めに砂を撒いての目潰しという、変則的な動きの数々に翻弄され、冷静さを欠いていた。

 

 観戦していた面々が驚愕の声を漏らして目を見開く。誰もが理解していた。この状況は、一夏が意図的に作り出したものであると。

 

「まさか……これまでの全ては、このための布石……オルガの武器を奪うための……⁉」

「そうじゃ。オルガの槍が一夏を捉えられなかったのは、決して偶然などではない。様々な方向から攻撃を叩き込むことでオルガを翻弄し、あらかじめ空中からの踵落としで槍の柄に罅を入れて、そして気付かれないようにオルガをあの位置に誘導した……まあ、あの目潰しはその場で思いついただけじゃろうがなぁ」

 

 バーツラフに向けて説明しながら、マギアルカは誇らしげに笑っていた。何だかんだで弟子の見せた活躍が嬉しいのである。

 

「何と言う……一夏のヤツ、このままオルガに勝ってしまうのでは」

「……いや。あやつめ、肝心なところで詰めが甘いのぅ」

 

 期待するように言うバーツラフだったが、師匠であるマギアルカは苦笑を滲ませた。まるで、「やれやれ、仕方がないな」とでも言うように。

 見守る彼らの視線の先では、動揺するオルガに一夏が勝負を決めるべく跳びかかろうとしていた。

 右の拳をグッと握ってオルガの懐に飛び込む一夏に、周囲のテンションが最高潮に上がる。

 しかしその中で一人、マギアルカだけは苦笑したまま呟いた。

 

「……そもそも今の一夏の実力はオルガに及ばん。よしんば不意を衝けたとしても経験が違い過ぎる。いくつもの修羅場を潜って来た軍人と、訓練を始めてせいぜい一年程度の小僧とでは、目の前の危機への対処能力では雲泥の差じゃ。せめて武器を奪ってからのことも細かく想定していれば違ったのじゃろうが」

 

 マギアルカの呟きの通り、自身に向かって突き出された一夏の拳を、オルガは戸惑いなどの感傷の全てを捨て去って冷静に捌いてみせた。

 既に折れた槍は投げ捨てている。役目を果たせなくなった武器など持っていてもお荷物なだけだ。

 これで対戦相手である一夏と同じ徒手空拳になったオルガだが――ここで、二人の地力の差が如実に表れた。

 

「甘いですわっ!」

「くぅ……っ!?」

 

 受け流されて体を泳がせる一夏の腹部目掛けてオルガの拳が襲いかかる。何とか両腕をクロスして防御するも、更に体勢は崩れた。

 ほとんど宙に浮いた体勢のまま、一夏は立て直すこともままならずにオルガによって地面に叩きつけられた。

 肺の中の空気を吐き出しながらも起き上がろうとする一夏だったが、鼻先に折れた槍を突き付けられて、動きを止める。

 

「勝負あり、ですわね?」

「……参りました。流石です、オルガさん」

 

 自慢げに告げるオルガに苦笑しながら、どこか晴れ晴れとした表情で、一夏は降参した。

 瞬間、二人の模擬戦を観覧していた観衆たちから、称賛の拍手が起こった。

 確かに一夏は敗北したが、相手は現役の軍人、それも小隊長クラス。そんな相手を翻弄し、武器を奪い、あと一歩というところまで追い込んだ一夏の戦績は、称賛されて然るべきものだった。

 静かに一夏の健闘を称える様な大人たちに対して、同期の少年たちのそれは熱狂に近いものだった。

 周囲から投げかけられる称賛に気恥ずかしそうにしていた一夏は、差し出されたオルガの手を支えにして立ち上がった。

 

「もう何度も言いましたけど、本当に強くなりましたわね、一夏。最初の頃と比べれば雲泥の差ですわ」

「そりゃ、俺だって成長しますよ。ずっと今のままで居る気はありません」

「ふふっ。その意気ですわ。この様子だと、あと一年もすればあたくしも負けてしまいそうですわね。あなたがここに来た時から知っている身としては、あなたの成長はとても喜ばしいものです。もっとも、あたくしだってずっと今のままではありませんけどね」

「……ありがとうございます。いつか勝てるように、俺も頑張ります」

 

 語り合う二人を見ていたバーツラフは、ふと先程までの会話の内容を思い出して、マギアルカに問うてみた。

 

「そういえば、総帥閣下。一夏の持つ本当の才能、って言うのは一体何なんです?」

「ん? 言っておらんかったか?」

 

 不思議そうにしたマギアルカは、すぐに視線を一夏の方に戻して続けた。

 

「あやつの持つ大きな才能、それは二つある。……『目』と、『頭』じゃ」

「『頭』は何となく分かりますが……『目』ですか?」

「うむ。大雑把に言うと、あやつは他人の、その本質を見抜く目に長けておるのじゃ。洞察力と言った方が分かりやすいかのぅ。わしらとあやつとでは、他人を見る際のその目に映る情報の正確性と量が大違いなのじゃ。……例えば、わしがお主を見て『軽薄そうな奴じゃな』と思ったとする」

「ちょっ、総帥閣下!?」

「例え話じゃ、いちいち反応するな。……ところが一夏はそれだけでなく、『軽薄そうだけど目が優しい。良い人なんだな。服にも皺がなくてピシッとしてる。指輪がないから奥さんじゃなくて自分でやってるのか。思ったよりしっかりしてるのかも。敬語が変な感じだ。目上の人に接し慣れていないのかもしれない』……とまあ、こんなことを瞬時に見抜いてしまう」

「それだけの事柄を……一目見ただけで、ですか?」

「うむ。他にも例えば、『この人は女の人と接する時はまず必ず顔を見て、次に胸の方に視線を移してからやっと顔に戻るよな。こういう人にはなりたくないな』とか」

「………………マジですか? 俺、そんな露骨ですか?」

「結構分かりやすいのぅ」

 

 絶句するバーツラフにニヤリとからかうような笑みを向けてから、マギアルカは――若干自分の胸元を庇うようにしながら――話を戻した。

 

「そしてもう一つ、『頭』の方じゃが、これは先の『目』があってこそのものじゃ」

「はぁ……」

「『目』で見て見抜いた相手の思考の傾向や行動パターン、好悪の対象や善悪観などを元に、自分の中で相手の人間性を冷静に見極め、自分に出来る限界と擦り合わせることで、その場その場で最適な行動を取る。戦闘においても、その威力はもはや未来予知じみた先読みとして現れておる。先程の模擬戦でオルガをギリギリまで追い込んだようにな。……『目』であればわしにも似たようなことは出来るが、どちらともを完全に両立させることは出来ん」

 

 マギアルカの零した言葉に、バーツラフは先程までとは違う意味で絶句した。

 世界一の豪商であり卓越した武術の冴えと機竜使い(ドラグナイト)としての圧倒的な技量を併せ持つ彼女ですら、無理と判断したのだ。

 事実、バーツラフにも出来る気がしない。いや、バーツラフどころか王国軍に所属する者でもそれが容易く出来る者は居ないだろう。

 だが一夏は、そんなとんでもないことを息を吸うようにやってのける。

 

「何とも、凄まじいですね……。ならアイツは、生まれてこの方その才能をずっと磨き続けてきた、ってことですか」

 

 前から勘の鋭い子だと思っていたが……とバーツラフが感心していると、ふとマギアルカが悲しげな表情を見せた。

 

「そうじゃな。じゃがわしは、あやつがその才能を磨いた、磨かなければならなかった境遇を思うと、哀れで仕方がない」

「総帥閣下……?」

「バーツラフ。お主、一夏の過去のことは知っておるな?」

「ええ、まあ……」

 

 織斑一夏の過去。

 女性にしか扱えない兵器によって歪んだ世界で、天才と名高い姉と弟に囲まれ、無能、出来損ないと呼ばれて蔑まれ貶められながらも、認められるように必死で努力を積み重ねて――結果、裏切られた。

 一夏の過去を知っているのは、バーツラフにオルガ、マギアルカと、マギアルカ・一夏が教えてもいいと判断した一部の者だけだ。

 それを聞いた者は、大体、理不尽な世界に憤る者、歪みの犠牲となった一夏に同情する者、一夏を見捨てたかつての家族に怒りを見せる者、馬鹿な思想の元に構築された世界を嘲る者、一夏の心の傷を思って涙し抱き締める者……などに分かれた。

 バーツラフは主に、世界と一夏の家族に怒りを見せた者に分類された。

 

「……必死だったのじゃろうな。どうすれば見てもらえるのか、どうすれば評価してもらえるのか、どうすれば認めてもらえるのか……そんなことばかり考えて、生きておったのじゃろう。楽しいこと、嬉しいことなど何一つなかったはずじゃ。さぞ、生き辛かったじゃろうなぁ」

「…………です、ね」

「そんな腐り切った世界で生きて行くために、自分という存在を残すために、一夏はただ一生懸命だったのじゃろう。諦めることや、妥協することなど考えもせず。周囲の人間の目を窺って、味方など誰一人居ない中で、自分に出来ることを黙々と続けて、常に天才である家族に追い付こうと……並び立とうと……振り返ることもせず、心の軋み……悲しみや怒り、憎しみすら感じることが出来ずに……」

 

 一夏は、今十四歳。こちらの世界に来たのが十三歳の頃だから――一夏は、生まれてから今まで、実に十三年間もの間そんな世界で生きていたということになる。

 十三年もの間、一夏は、誰も助けてくれない、誰も支えてくれない、勝利したとしても何も手に入らず、常に敗北の泥濘に突き落とされた状態で、孤独な戦いに身を投じていたのだろう。

 マギアルカの語った一夏の才能は、そんな世界で養われた……いや、養わざるを得なかったのだ。それがなければ、生きていけなかったから。

 

「そんなことが出来るアイツが、別の世界では無能扱いですか……遣り切れないですね」

「全くじゃ」

 

 未だ幼い一夏を押し潰そうとしていた重圧のことを思うと、バーツラフはどうしても遣る瀬無い気分になり――そしてそれは、マギアルカも同じだった。

 胸の前で組んだ腕が小刻みに震えている。

 

「もし……もし、わしが一夏の世界に行けたのなら……【世界最強の女性(ブリュンヒルデ)】などと呼ばれて調子に乗っている馬鹿な姉も、その腰巾着でしかない愚かな弟も、あやつを馬鹿にし愚弄した町の者どもも、ISとやらも、それを作った天災とか言う女も、すべてこの手で消し去ってやると言うのに……!」

 

 一夏の聞いていないところで、マギアルカはよく唇を噛み締めながら言ったものだった。――何度か一夏に聞かれていることも知らず。

 だが――

 

「あまり気にする必要はないと思いますわよ、あたくしは」

 

 いつの間にか二人の居るところに近付いて来ていたオルガが、柔らかい笑みを浮かべて言った。

 彼女の視線の先には、喧しく騒ぐ同期の少年少女たちに囲まれて、困惑しながらも楽しそうな一夏の姿があった。

 

「すげーじゃんか、一夏! あのオルガさんにあそこまで張り合うなんて!」

「俺なんか、五分も持たずにやられてるよ!」

「さっすが一夏君ね! カッコよかった!」

「けど、俺負けたんだぞ?」

「そりゃそうだろー? オルガさんクソ強いんだから」

「そんな人と互角にやり合ってたのが凄いって言ってるの!」

「よくオルガさんをあの場所まで誘導出来たな……」

「いや、あの目潰しはえげつないって……怖いよ」

「うぐっ、怖い、か……?」

「うん、超怖い」

「頼むから俺たちに使わないでくれよ?」

「分かった……」

 

 肩を叩かれ、屈託なく称賛され、尊敬の目を向けられ、あるいはちょっと怖がられて。

 元の世界では居なかったであろう仲の良い友人たちと談笑する一夏の顔には、小さいながらも眩しい笑顔が浮かんでいた。

 笑顔が溢れる、とても温かく尊い光景。その中心で、少年は確かに笑っていた。

 

「……あたくしたちのするべきことは、一夏の過去を哀れむことではなく、彼が自らの手で手に入れたあの居場所を、守ってあげることでありませんの?」

「……たまには、良いこと言うじゃないか、オルガ」

「たまには余計ですわ!」

 

 少年少女の活気に当てられてかこちらでも騒ぎ始めた大人二人を置いて、マギアルカは視線の先の光景を目に焼きつけた。

 一夏を弟子にして以来、マギアルカは一夏に多くのことを教え込んだ。

 武術だけでなく、基本的な勉学やこの世界の常識、果ては商売のやり方まで。

 それが一夏にとって、一夏の掲げる目標を達成するために、どれだけ役に立っているのかは、マギアルカには分からない。

 けれど、それでも……今、一夏は、ああして笑っている。

 ならば……それで良いのでは、ないだろうか。

 

「……あ、言い忘れてたけど、お前ら全員観戦料払えよ」

「「「「金取るのかよ!?」」」」

「当たり前だろ」

 

 …………まあ、どうやら学ばなくてもいい部分まで学んでしまっているようだが。

 何となく微妙な思いをするマギアルカだったが、ふと先日から考えていたことを思い出して、ニヤリとした笑みを浮かべた。

 

「……そろそろ、あやつの修行も次の段階へ進めるべき、かのぅ。他ならぬあやつのためにも、な」

 

 そう呟いて、マギアルカは腰の機攻殻剣(ソード・デバイス)の柄に手を当てながら一夏のところへと近付いて行った。

 

 

 

§

 

 

 

 オルガさんとの模擬戦を終えて友人たちと別れた俺は、マギアルカに連れられて馬鹿デカイ建物の廊下を歩いていた。

 ちなみに目的地は知らされていない。ただ、もはや見慣れた何かを企んでいるような意地悪な笑みを浮かべて「ついてこい」と言われただけだった。

 模擬戦で負けたので、そのことでお説教でもあるのかと訊いてみると、マギアルカは笑って俺の髪をグシャグシャと撫でて、

 

「そんなわけなかろう。こう言うとお主は怒るかもしれんが、元々わしは今のお主ではオルガに勝てるとは思っておらんかった。実際そうだったわけじゃが……お主は自分より何段も格上の相手に、武器を奪うほど善戦してみせたのじゃ。怒るどころか、むしろ褒めちぎってやりたいぐらいじゃ」

「ありがとう……なら、俺たちは今どこに向かってるんだ? この方向は……格納庫か?」

「……もう少し辛抱せよ。焦る男は嫌われるぞ?」

 

 仕方なく黙ってついて行く。

 一年も住んでいれば、同じ建物に居る人とは大体仲良くなれる。今も、通りすがる人たちはマギアルカに一礼した後で、俺に笑顔で手を振ってくれる。

 彼らは突然乱入してきた得体の知れない生き物であるはずの俺を温かく迎え入れて、その上で色んな親切をしてくれたり、色んなことを教えてくれたりした。

 マギアルカと同じく、彼らもまた俺の大切な恩人たちだった。

 そして、そんな彼らと出会うことが出来たのは、俺の前を歩くこの人のおかげ。今の俺があるのは、この人のおかげなんだ。

 感慨に胸を熱くしていると、不意に背中に柔らかく澄んだ声が投げかけられた。

 

「いっちゃん?」

「……フィルフィか?」

 

 抑揚のない不思議な響きの言葉に振り返ると、そこには桜色の髪を二か所縛って淡い色のワンピースを着た可愛らしい少女が居た。

 俺より一つ下であるその少女は、可愛らしく整った顔立ちに、金色の瞳を眠たげに細めて、ぼんやりとした緩い雰囲気を醸し出している。この少女にとってはこれがデフォルトであることを俺は知っている。

「いちか」を縮めてちゃん付けで俺を呼ぶこの娘の名前は、フィルフィ・アイングラム。俺の妹弟子(・・・)である。

 以前からヴァンフリーク商会と懇意にしている、例のアティスマータ新王国を本拠地とするアイングラム財閥の次女。

 二年前のクーデターで滅んだ旧帝国時代に何かあったらしく、今は俺と同じくマギアルカの元に預けられ、師事している。

 弟子になったのはほとんど同時期だが、俺の方が少しだけ早かったため、彼女は俺の『妹弟子』なのである。

 

「こんなところで何してるんだ?」

「お姉ちゃんに会ってた」

「お姉ちゃん……ああ、レリィさんか。来てたのか」

 

 無表情のままコクリと頷くフィルフィ。これは不愛想なのではなく、ただ単に感情を表に出すのが苦手なだけである。

 顔見知りでもある彼女の姉を思い浮かべて、俺は納得した。フィルフィはレリィさんに溺愛されているし、何だかんだでフィルフィも懐いている。

 レリィさんもアイングラム財閥という一大組織を束ねる代表なので、そうそう妹に会いに来る時間もないのである。その代わり、甘いものが大好きなフィルフィと俺たちのために、いつも山ほどのお菓子を持ってきてくれる。

 手にお菓子の詰まった袋を持ったフィルフィも、どこか嬉しそうだ。

 

「いっちゃんは、ここで何してるの?」

「ああ、マギアルカに呼ばれててさ。どこに行くのかはよく分かんないんだが」

「ししょーに? 修行?」

「多分な」

「そっか。……はい」

「ん?」

 

 ふとフィルフィが、手に持っていた袋の中からドーナツを一つ取り出して、俺に差し出してきた。

 差し出すだけでそれ以上は何も言わない。けれど、曲がりなりにも一年近くを同じ人間の下で師事してきた間柄だ。大体分かる。

 無言のエールと、激励のためにドーナツ。そういうことだろう。

 不器用な彼女の優しさに微笑んで、ありがたく受け取る。

 

「ありがとな。……うん、美味い」

「よかった。……頑張ってね」

「おう」

 

 短く言葉を交わしてフィルフィと別れた俺は、フィルフィと話している間ずっと待っていてくれたマギアルカの元に駆けつけた。

 放置していたことを詫びると、マギアルカは意地悪く笑って食べかけだったドーナツの半分を所望した。

 

「全くじゃな。弟子のくせに師匠を蔑ろにするとは、偉くなったもんじゃな? 反省しているのならば、それを半分わしに寄越せ」

「反省してる。これで済むんなら……美味しいぞ」

「知っておるよ。……むっ、良い出来じゃな。レリィのヤツめ、何故これをわしに送らんのか」

 

 ひょいっとフィルフィのくれたドーナツの半分を口に運んだマギアルカは、満足そうに笑って皮肉を飛ばした。お気に召したようだ。

 そんなことを話しながら再び歩みを進めて、建物の中から出ると、視線の先に俺にとっては見慣れた別の建物が見えてきた。

 装甲機竜(ドラグライド)が普段安置され整備や修理などが行われる『格納庫』と呼ばれる建物の内の一つ。ヴァンフリーク商会が所有している装甲機竜(ドラグライド)の中でもとくに重要度が高い――例えばマギアルカの《ヨルムンガンド》――ものが収納されている場所だ。

 

「目的地って、ここなのか?」

「うむ。ここに、お主に見せたいものがある」

 

 迷いのない歩調で突き進むマギアルカの背を追う。

 途中、格納庫の中に並ぶ十数機の機竜に目を奪われながら進み、不意に歩みを止めたマギアルカに従って俺も立ち止まった。

 目の前には機竜が鎮座しているようだが、薄暗くてよく見えない。大まかなシルエットは見えるが、どうやら《ヨルムンガンド》ほどではないにしろかなり大型の部類のようだ。

 マギアルカはすぐ近くにあった照明のスイッチに手をかけながら、

 

「さあ一夏よ。刮目して見よ。つい前日とある遺跡(ルイン)で発見されたものを仕入れたばかりの、新たな<ruby><rb>神装機竜</rb><rp>(</rp><rt>​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​・​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​</rt><rp>)</rp></ruby>――」

 

 バチンッ! マギアルカの手によって照明が点き、その機竜の姿が露わに――ならなかった。

 というのも、照明の光がその機竜の装甲で乱反射して、俺の視界を一瞬で奪ったからである。目が痛い……マギアルカは……あ、悶えてる。

 師弟揃ってピクピクしてる……シュール過ぎる。

 

「ぐ、ぅ、おぉぉぉぉ……き、キラキラし過ぎだろ……」

「む、ぐぬぅぅぅぅ……予想外じゃ……」

 

 二人揃って両目を押さえること約一分。ようやく光に目が慣れてきて、目の前の光景がはっきりと視認出来るようになった。

 眼前に鎮座するその機竜の姿を見て――俺は、呆然と魅入られた。

 

 ――そこには、神々しいほどの輝きを持つ、黄金の龍が居た。

 俺なんかを遥かに超す巨体の龍が、まるで王者のような威厳と気品を持って俺を睥睨している。

 我を忘れてその機竜と見つめ合う俺に、マギアルカがいつもより真剣な声でその機竜の名を告げた。

 

「その神装機竜の名は、《黄龍(コウリュウ)》。詳しい武装や神装などは分からんが、装備からして近接型じゃな」

「《黄……龍》……」

「うむ。そしてわしは、これをお主に預けようと思っておる」

「……ッ、俺、に……コイツを……!? 良いのか!?」

「良いも何も、これはもうわしのものじゃ。であれば、どう扱おうがわしの勝手じゃろう。誰に預けようが、な」

 

 そう言ってニヤリと笑ったマギアルカは、ふと真剣な顔に戻って、俺を正面から見据えた。

 笑みを消した師匠に俺もまた背筋を伸ばして真っ直ぐ向き合う。

 

「わしはこれまで、お主に装甲機竜(ドラグライド)に関して大したことを教えてこなかった。武術は徹底的に叩き込んでやったが、この世界を代表する兵器である装甲機竜(ドラグライド)については基本的な情報しか教えなかった。何故だか分かるか?」

装甲機竜(ドラグライド)は……兵器だから、か?」

「その通りじゃ。お主に武術を教えたのは、最低限の自衛の術を与えるため。これから何を成すにせよ、自分の身を守る術はあるに越したことはないからのぅ。……じゃが、装甲機竜(ドラグライド)は、人を害するための兵器、と明確に定義されておる。自衛のためなどではない、他者を傷つけるために存在するものじゃ」

「…………」

 

 マギアルカの言葉に、俺は無言で頷いた。

 元の世界におけるISは兵器ではなく宇宙進出のためのマルチフォームスーツとして開発されたが、装甲機竜(ドラグナイト)は純然たる兵器だ。

 人の命を奪うために創り出された、人殺しの力だ。

 だから――それを使う者には、相応の覚悟が要る。

 

「織斑一夏。お主に覚悟はあるか? コイツを手にする覚悟。力を手に入れる覚悟。他者の物を奪う覚悟は、お主にはあるか?」

「…………」

「わしが全力でお主に叩き込めば、そしてお主の学習能力であれば、装甲機竜(ドラグライド)の操作は半年もあれば極められるじゃろう。……無論じゃが、これは強制ではない。あくまでお主の意思を聞いておるだけじゃ。もしここでお主が断ったとしても、わしがお主を責めることはない。そうなれば、今度はわしが商売の極意を叩き込んでくれる。師匠として別の生き方を用意してやろう」

「……いや」

 

 マギアルカは優しくそう言ってくれたが、俺にその選択肢はない。

 俺が彼女から受けた恩は、すでに一生かかっても返せないほどのものになっている。これ以上彼女の手を必要以上に煩わせるわけにはいかない。

 自分の運命は、自分で切り拓く。あの日、俺は自分に誓いを課した。

 ……その誓いを、破るわけにはいかない。

 

 それに、何より……コイツがあれば、俺はマギアルカの力になれる……マギアルカを、支えることが出来る。

 最初から覚悟はしていた。元々平凡な人生を送ることなんて出来ないことは分かっていた。

 ならせめて俺は、自分の生きたいように生きる。俺の望みのために生きる。

 ――これは、その第一歩だ。

 決意を胸に、俺はマギアルカに告げた。

 

「マギアルカ。俺は――――」




 一夏君の神装機竜、《黄龍》のお披露目はまた次回。神装は、多分皆さんが想像した通りだと思います。

※ フィルフィはヒロインではありません。結構好きなキャラなんですが、ルクスからNTRするのは無理がありました。
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