インフィニット・オーバーワールド   作:マハニャー

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Story.4 王都防衛戦

 俺、織斑一夏が装甲機竜(ドラグライド)の操縦訓練を始めて一年。こちらの世界に来てからもう三年が経ち、俺は十六歳になっていた。向こうの世界であれば高校一年生だ。

 もっとも、向こうの世界とこちらの世界では暦が違うかもしれないので、もしかしたらまだ十五歳ではないのかもしれない。どっちでも良いが。

 

 こちらの世界に来てからずっと続いていたマギアルカの修行も一段落した。

 ヴァンフリーク商会総帥であるマギアルカ直々の教育の元、装甲機竜(ドラグライド)の操縦自体は約半年ほどでマスターした。マギアルカのお墨付きだ。

 それからは、免許皆伝の証として譲渡された神装機竜《黄龍》の習熟に取り組んだ。こっちは何かと大変だったが、マギアルカだけでなくオルガさんを始めとするマルカファル王国軍の皆さんの協力で、何とかモノに出来た。

 本当に、王国軍の皆さんには感謝しかない。どうやって返せばいいものやら。

 

 同期の友人たちと必死で訓練に取り組み、マギアルカから課された修業の全行程を終えると同時に、俺は王国軍ではなくヴァンフリーク商会お抱えの機竜使い(ドラグナイト)で構成された実動部隊『銀影旅団』に入隊した。

『銀影旅団』は総帥であるマギアルカが直接指揮する機竜部隊であり、マギアルカの命令を受けて様々な場所へ戦いに赴く。世界最大の商会、ヴァンフリーク商会の荒事を引き受けるための部隊だ。

 

 俺の望みはマギアルカの力になること。ならばこの選択は、俺にとっては最良のものだ。

 入隊してから一か月ほどが経ち、既にいくつかの任務をこなして、それなりの実績も積み上げてきた。今では二十人ばかりからなる小隊の隊長になっている。もっともこの小隊は俺の友人、つまり内輪で構成されたものだから、実力で得た地位とは言い難いのだが。

 何はともあれ、ここが、今の俺の居場所だった。

 

 

 

§

 

 

 

 そして現在、俺は新しい任務に就いていた。

『銀影旅団』に下された任務の内容は、王国内に密輸された数十機の装甲機竜(ドラグライド)の押収、及び密輸の犯人である賊の殲滅。可能であれば数人の捕縛。

 情報提供者はヴァンフリーク商会の傘下の商人で俺も会ったことがある人で、信用出来る。

 その人がもたらした情報によると、マルカファル王国王都郊外、周辺国との国境に面した小さな町で、数機の所属不明の装甲機竜(ドラグライド)の姿が確認されたと言う。

 調べてみると、国境沿いに配置された防衛部隊で、数日前から定時報告が上げられなくなっていた部隊があったことが判明した。

 まず間違いなく、賊の襲撃に遭い、斃れてしまったのだろう。

 

 マルカファル王国はいくつもの小国と面しており、必ずしもその全ての国と友好的な関係を築けているとは言えない。マルカファル王国は軍部の実権の全てをマギアルカに握られており、それを揶揄して「ハイエナの牙にかかった屍の国が、大国を名乗るなど」と嘲る国もある。

 国境の守りがなくなった隙を衝いて、それらの国が結託して襲って来ようものなら不味いことになる。王国だけでなく、王国に根を張る商会としても看過出来るものではなかった。

 そのような最悪の事態を防ぐために、一刻も早い事件の終息、つまり街に居座る賊の殲滅と防衛部隊の再配置が求められる。

 

 幸い賊の方にも無用の混乱を引き起こす意図はないらしく、町の人々の様子はいつも通りだった。深夜に装甲機竜(ドラグライド)が数機だけ確認されていることから、恐らくは国内の反乱分子(お客さん)と連絡を取っているのだろう。

 無論俺たちにも必要以上に騒ぎ立てるつもりは全くない。この件はあくまで秘密裏に処理する、というのが俺たちの方針だ。

 

「……作戦開始まで、あと五分か」

 

 懐から取り出した懐中時計をチラリと見て、俺は口の中だけで呟いた。

 俺と俺が指揮する部隊のメンバーは、既にいくつかの分隊に分かれて街の中に潜入し、事前に決めておいた地点で待機している――賊の拠点があると予測されている場所だ。

 この作戦は、簡単に言えば複数の場所に同じタイミングで攻撃を仕掛ける、短期決戦が前提の多面制圧作戦だ。秘密裏に処理するという制約がある以上、あまり派手には出来ず、長引かせてもいけない。マギアルカにも認可を受けた、これが最善の策だった。

 俺が一人で布陣しているのは、部隊の中で唯一俺が神装機竜の使い手であるからだ。

 

 既に日付けは変わり、街の人々は寝静まって、光源は夜空で瞬く星々とぼんやりと街を照らす月の光だけ。

 少なくとも朝日が昇るまでには決着をつける。それは最低条件。

 マギアルカ直伝の特殊な呼吸法と歩法を組み合わせて、速度を全く落とさずに、一切の物音を消して気配を完全に絶ち、狭い路地裏を進む。この街は規模としてはそれほどではないが、あまり治安がよろしくない。ゴロツキがたむろしていたりするが、ひとまず無視。終わってからまとめて叩き潰せばいい。

 一分程歩いていると、目の前に目的としていた建物が見えてきた。賊が拠点としている場所の内の一つで、人気のない場所に建ち、真夜中だというのに明かりが灯っていて、下卑た笑い声と騒ぎ声が聞こえてくる。

 

「……クズどもが」

 

 こんな奴らが……マギアルカに牙を向けるなど……。

 今すぐにでも突っ込んで行きたい衝動に駆られたが、隊長である俺が、せっかく立てた作戦を崩すわけにもいかない。

 息を吐いて衝動を堪え、闇に紛れるためのローブの内側に隠した『拳銃』のグリップを握る。

 

 この拳銃は、こちらの世界でごく一部で使用されていた弾込め式ではなく、俺の世界で一般的な自動拳銃だ。俺を誘拐した連中から押収したオリジナルと俺や連中が知る限りの情報を元に、マギアルカが作らせたものだ。

 拳銃だけでなく、遠距離用の狙撃銃(スナイパーライフル)散弾銃(ショットガン)突撃銃(アサルトライフル)といったものまで作られている。今やマルカファル王国軍の制式装備になりつつあった。

 やはり技術者という連中には凝り性が多いようで、弾丸の命中率を上げるために銃身に施すライフリングなどの、本来は機械で全て終わらせるような行程を、その機械の概要を教えたにも拘らず自身の手でやろうとして、あまつさえそれを成功させてしまったのだ。

 あれには流石に度肝を抜かれた。高度な技術は機械のそれをも上回ることがあるのだ、と思わず唸らされたのが懐かしい。

 

 ……閑話休題。全く関係のない回想をしている内に、作戦開始時間が迫っていた。

 先程まで以上に息を潜め、懐中時計を握り締めてジッとその時を待つ。

 

 これから始まるのは訓練や模擬戦なんかじゃない。本当の実戦、命を賭けた戦いだ。

 命一つ満足に賭けられないような奴が、居ていい場所ではない。

 自分以外の他者の命を奪う覚悟がない奴が、居ていい場所ではない。

 殺し殺されの血みどろの戦場に身を投じ、返り血に身を染める覚悟がない奴が、居ていい場所ではない。

 この作戦に参加している者は、例外なく全員がその覚悟を固めていた。

 

 全員、直接的か間接的かの差はあれど、マギアルカの薫陶を受けた者たちだ。

『勝利するためだけに戦うのではなく、何が何でも生き残るために戦え。そのためなら、どれだけ卑怯なことだろうと厭うな。自分に出来ることをやり切らない内に生存を諦めることは何があっても許さない』

 これはマギアルカがいつも俺たちに言っていることであり、他の何よりも先に、俺たちに教え込んだことでもあった。

 

 ……ああ、分かってるよ、マギアルカ。

 ……必ず、全員生きて、あなたの元に帰るよ。

 ……酒でも飲みながら、朗報を期待しててくれ。

 

 真昼間でも構わず高級なワインを呷る師匠の姿を思い浮かべて苦笑し――――直後に、作戦が開始された。

 

 

 

§

 

 

 

 ドバンッ! わざと足音を大きく響かせて建物の中に押し入り、下衆な大声が漏れ聞こえてくる扉を思いっ切り蹴り開ける。

 

「うおっ!? な、何だお前!?」

「誰だ、クソ野郎! 楽しく酔ってる時に邪魔しやがって!」

「たった一人で何しに来やがった!」

 

 強引な方法で侵入した俺に、部屋の中央に据えられた大きなテーブルで酒を吞んでいた十人ほどの男たちが、赤ら顔で罵声を浴びせてきた。

 どうやらまだ、俺が襲撃者であり、自分たちが窮地に居ることを自覚出来ていないようだ。随分と酔っている。好都合だ。

 男たちの誰何の声には反応せず、ローブの裾から取り出した拳銃を男たちに向け……躊躇なく引き金を引き絞った。

 ダン、ダン、ダン! 元の世界で聞き馴染んだそれより微妙に重い低音の銃声と共に放たれた鉛玉が、賊の男たちの身体を次々に穿つ。

 ある者は腹に、ある者は側頭部に、ある者は心臓に、無慈悲な銃弾を受けて物言わぬ死体へと変わって行く。

 

 ……人を殺したのは、何も今回が初めてではない。もう俺は、数え切れないほどの人間を手にかけている。

 だからもう、この手で人間の命を奪うことに、動揺することはなくなってしまった。

 

「く、クソッ! コイツ、軍の奴等か!?」

「舐めやがって! お前ら、コイツを捕まえろ!」

「ガキが、ふざけてんじゃねぇぞ!」

 

 仲間が殺されてようやく酔いが醒めたらしく、今度は怒りのために顔を赤黒く染めて俺に殴りかかってくる。腰に機攻殻剣(ソード・デバイス)をかけてる奴らは、機竜使い(ドラグナイト)だろうに。腰抜けが。あるいは単純にまだ酔っているのか。

 まあどっちでもいいか。この程度は問題にもならない。

 

「生憎と、俺は軍の関係者じゃないが……お前らが知る必要はない」

「おぉぉらぁぁっ!」

「……うるさい黙れ騒ぐな、近所迷惑だろうが」

 

 顔を顰めて呟きながら、殴りかかって来た一人目の拳を左腕を上げて軽く受け流す。

 続く二人目の顔面を狙った一撃は首を傾げることで回避して、右手を二人目の腹に添え、そっ……と緩く押すように少しだけ力を入れる。

 すると男は自分が突っ込んできた勢いに巻き込まれて、その場で派手に一回転。俺がタイミングを合わせて蹴り飛ばした一人目と衝突して地面にダイブした。

 

 床の上で悶える一人目と二人目の鳩尾を踏みつけて手っ取り早く気絶させ、残る男たちに向き直る。

 自分の仲間たちがあっという間にねじ伏せられたのを見て、男たちは怯んだような様子を見せるが、すぐに持ち直して雄叫びを上げて突っ込んできた。

 その数五人。最初にこの部屋に居たのが十一人で、俺が撃ち殺したのが三人、叩きのめしたのが二人。なら後の二人は……

 

「ちぃっ……!」

 

 どうやら時間をかけ過ぎたようで、残りの二人は機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜いて機竜を召喚しようとしていた。

 止めようにも目の前のこの五人が邪魔だ。たとえ機竜であっても二機程度ならどうにかならなくもないが、もし逃げられでもしたら面倒なことになる。

 機竜を呼ぼうとしている男たちの腕の中には大きなコンテナがあった。恐らく、あの中身こそが奴らの『商品』だろう。

 

「行かせるか!」

 

 もともと任務内容は賊の『殲滅』。撃退ではない。ならば遠慮する必要もない。

 マギアルカから教わった武術の神髄は、こいつらに見せるのは贅沢過ぎるので後で料金を請求したいところだが……とにかくこいつらを叩きのめしてからだ。

 

 左右から殴りかかってきた二人に、相手が拳を突き出し終わる前にその懐に飛び込み、ローブの裾を翻して回し蹴りを叩き込んで、二人諸共吹き飛ばす。

 このまま生かしておいて後で邪魔されても困るので、右手の指に挟んでいた極小サイズの投擲用ナイフ――いわゆる暗器の一つ――を投げ放つ。射撃はアレだが、投擲はかなり得意な方だ。

 放たれたナイフは狙い過たず飛び、二人の男の頸動脈に突き刺さって息の根を止めた。

 

 戦果に満足している暇はない。敵はまだ残っている。残り三人。

 今度はこちらから仕掛けた。一番最初に目に留まった男に一気に肉薄して、立ち尽くす男の腹目掛けて渾身の掌打を放つ。

 ドボォッ!! 腹部への衝撃に身体の中の空気と吐瀉物を撒き散らす男を、他の二人の内の片方に向かって蹴り飛ばす。

 もんどりうって床に転がるその二人は一旦無視し、もう一人の方に視線を向ける。

 

「あ、あぁぁああぁぁぁあああぁぁぁっ!!!!」

 

 男は狂乱したような奇声を上げて、どこから取り出したのか、手斧を力任せに叩きつけようとしていた。

 確かに大した勢いではあるが、こんな大振りな攻撃で俺を仕留められるわけもない。しかしこれは好都合だ。

 内心ほくそ笑みながら回避と共に移動して、手斧を振りたくる男を、先程転がした男二人の元に誘導する。

 誘導を終えたところで真上から薪でも割るように手斧が振り下ろされたので、一歩左にずれる。結果男の手斧は俺の身体を捉えることなく、しかし抜群の威力で以て仲間であった男たちの胴体を二人まとめてぐちゃぐちゃにした。

 飛び散った鮮血が俺にも振りかかるが、ローブのおかげで無事で済んだ。

 

「う、うぅあぁぁぁああっ、ぁぁぁあぁっああぁぁああぁっ!?!?」

「はいお疲れ」

 

 仲間を手にかけたことに動揺する最後の一人に、少しの慈悲を持って、出来るだけ痛みが長引かないように、抜き放った青龍刀型の機攻殻剣(ソード・デバイス)の一閃を浴びせる。

 撒き散らされる血飛沫。くずおれる首から上を失った胴体。ゴロゴロと転がる目を見開いたまま絶命した生首。

 それら全てを無視して機竜使い(ドラグナイト)であろう男二人の方に振り返るが……

 

「……遅かったか」

 

 既に男たちは、自分の装甲機竜(ドラグライド)を展開し終えていた。

 どちらも汎用機竜、蒼い流線型の装甲を持つ《ワイバーン》と、翡翠色の陸戦用の機体である《ワイアーム》が一機ずつ。

 それぞれ装備しているのは、ほとんどの機竜の標準装備である機竜牙剣(ブレード)と、低威力だが速射性に優れた、機竜のエネルギーを弾丸として放つ機竜息銃(ブレスガン)

《ワイアーム》を纏った男の構える機竜息銃(ブレスガン)が、俺を真っ直ぐ照準している。

 

 機竜を使えばどうしても派手な戦闘になってしまう。隠密行動が前提な今回の作戦では使いたくなかったのだが……仕方がない。

 これは完全に俺のミスだ。ならば、自分の失点は自分の手で挽回するしかないだろう。

 どうやら男たちは仲間を殺し尽くした俺への怯えが抜け切らない様子で、致死の兵器を纏っているくせに動こうとしない。大間抜けが。

 

 抜き放ったままだった青龍刀型の機攻殻剣(ソード・デバイス)(グリップ)にあるボタンを押し込み、格納庫から俺の神装機竜を転送するための詠唱符(パスコード)を呟く。

 

「――天地統べし王なる龍よ。万神率いて、至高の座へ舞い昇れ。《黄龍》」

 

 言下に、光の粒子が俺の背後へ収束し始めた。

 その光は渦を巻き、やがて、眼も眩むような黄金の装甲を持つ、一匹の龍を作り出す。

 威風堂々たる覇気を放つ、幻玉鉄鋼(ミスリル・ダイト)の塊。

 

接続(コネクト)開始(オン)

 

 呟くのと同時に、流線型の機械が内側から開き、無数の部品(パーツ)へと分解される。

 それらは俺の両腕、両足、胴体、頭部へと向かい、高速で連結――装着され、俺の身体を覆う装甲と化した。

 機竜の動力源となる幻創機核(フォース・コア)から溢れるエネルギーが、ローブの下に着込んだ『装衣』と呼ばれるエネルギーを効率的に伝導させるための服に伝わって行く。

 装甲機竜(ドラグライド)と同じく遺跡(ルイン)から発見されたこの衣装は、通常の障壁とは別にその表面に更に強力な障壁を展開させて、装着部位を守っている。

 

 背部から生える帯状の光の膜と、腰部にマウントされた六枚の菱形の板のような武装が特徴の、黄金の神装機竜《黄龍》を纏った俺は、呆然としていた男たちへと向き直った。

 男たちは動きを止めたまま、何かに気付いたように愕然と喉を震わせる。

 

「金色の、神装機竜に……黒い髪と瞳……」

「まさか、お前、お前が……ヴァンフリークの懐刀……『金狼』か!?」

「正解だよ」

 

 畏怖を込めて叫ぶ男たちの反応に、不機嫌だった俺の心は少しだけ持ち直した。

『金狼』……この部隊に入ってから俺に付けられた、いわゆる異名である。

 俺の使う《黄龍》の機体カラーと戦闘スタイルから名付けられたものだが、俺はこの名前を割と気に入っている。なのでこういう反応をされると、少し嬉しいのである。

 

「さて……お喋りはここまでだ。さっさと終わらせるぞ」

 

 言って、《黄龍》の汎用機竜の数倍はあろうかというがっしりとした装甲腕を動かして、拳を握ったり開いたりする。キュィィィン、と軽い駆動音がする。

 男たちはそれだけで怯えた表情で後退った。戦意を喪失しかけているようだ。

 こうなればもはや、料理するのは容易い。

 

「う、ぅおぉぉぉぉおおぉぉぉぉおぉおおぉぉぉっ!!」

「おぉぉぉらぁぁぁあぁぁあああぁぁあぁぁあぁっ!!」

 

 ガシン、と《黄龍》が一歩踏み出したところで、男たちが半狂乱になったように攻撃を始めた。既にコンテナも放り出している。

《ワイアーム》が装備した機竜息銃(ブレスガン)が無数の弾丸を吐き出し、《ワイバーン》が機竜牙剣(ブレード)を振りかぶって襲いかかる。

 どちらもお互いのことすらロクに見えておらず、味方に銃弾を浴びせてすら居る。

 

「……雑魚が」

 

 吐き捨て、俺も行動を開始する。

 背部と膝裏、肩に配置された推進器から光を伴った風を吹かして加速。一気に目の前の《ワイバーン》に向けて肉薄する。

 元々装甲機竜(ドラグライド)同士で戦闘を繰り広げるには狭過ぎる室内だ。互いの距離などないに等しい。

 何はともあれ、敵の極至近距離まで接近し、長剣である機竜牙剣(ブレード)の間合いを完全に潰した俺は、左の装甲腕で《ワイバーン》の肩を握り締め、右の拳を振りかぶって――

 

「よっ、と」

 

 ゴキャッ!!

 

「えぶぅ……っ!?」

 

 気の抜けた声と裏腹に、神速で突き出された拳は《ワイバーン》の薄い障壁を蒼い装甲諸共粉砕し、くの字の体勢で吹き飛ばした。

 吹っ飛んだ先にあった建てつけの悪い建物の壁が、半壊した機竜の荷重を受け止められずに爆散した。機竜の接続は強制的に解除され、男は悶絶して蹲っている。

 

「後一人……」

 

 ゆっくりともう一人の方を振り返ったところで、数十発の光弾が殺到してきた。

 狂乱した男の攻撃によるものだ。機竜息銃(ブレスガン)は威力は大したことがないので《黄龍》の持つ分厚い障壁ならば、そうそうダメージが通ることはないが、衝撃は来る。

 エネルギー消費を度外視した銃撃のせいで接近出来ない――ということもないのだが。

 

「《龍の髭(ウィスカ―・カーテン)》……起動」

 

 やれやれと首を振りながら、俺は《黄龍》に搭載された特殊武装の一つを起動した。

 背部から生えている光の帯が一斉にざわめき、分厚いカーテンのように《黄龍》の機体をすっぽりと覆ってしまう。

 尚も降り注ぐ光弾の雨はしかし、展開された光のカーテンに触れた途端に、光の粒に解けて消え去ってしまった。

 次々と放たれる機竜息銃(ブレスガン)の弾丸は《黄龍》の装甲に一切の傷を与えられずに消滅していく。

 

龍の髭(ウィスカ―・カーテン)》。《黄龍》に搭載された特殊武装の一つであるこの武装は、簡単に言えばエネルギーを『散らす』ことが出来るのだ。

 このカーテンに触れた全てのエネルギーは形を奪われ、周囲に拡散してしまう。

 もっともこの武装は、純粋な物理攻撃に対しては薄っぺらい紙の盾にしかならない。また機竜自体のエネルギーの消費が激しく、常時展開しておくということが出来ない。

 色々と欠点も多いが、それでも強力な武装であることに変わりはないのだ。

 

「くっ、くそぉぉおぉぉおぉああぁあぁああっ!!!!」

 

 男は喚き立てながら《ワイアーム》の背中に装備していた戦斧(バトルアックス)を引っ掴んだ。そのままそれを振り回して、既にズタボロになっていた建物を破壊しながら突っ込んでくる。

《ワイアーム》は陸戦型の機竜なだけあり、機体のパワーだけで言えば他の二種を遥かに凌ぐ。

 

 ――しかし《黄龍》は、その更に上を行く。

 

 竜の髭(ウィスカ―・カーテン)を待機状態に戻し、右の装甲腕の指を五本ともピンと伸ばして手刀の形を作る。

 大上段から振り下ろされる戦斧を、左の装甲腕でいなし、体勢が崩れたところに――

 

 ズボアッ!!

 

「ぁ、ぐ…………っぁ」

 

 右の貫手を突き出し、障壁や装甲をも貫通して、男の身体を腹から背中まで穿った。

 装甲機竜(ドラグライド)の太い腕で胴体を貫かれたとなれば、生きてはいられない。

 男は一度大きく喀血し、そしてすぐに全身の力を抜き、絶命した。凭れかかってくる男の死体を左手で掴み、突き刺さったままだった右腕を引き抜く。

 ブシッ、ブシッ、と傷口から数回に亘って血が噴き出たが、それすら数秒も経たずに終わった。

 

 俺はそのまま暫しの間、黄金の装甲が赤黒く染まった《黄龍》の腕を見つめていた。

 ――もう、一体何人の血で、この手を染めてきただろう。

 別に後悔しているわけじゃない。後悔は俺が歩んできた道を否定することになるだけでなく、俺が手にかけた人々を貶めることになる。

 そうだ。悔む必要なんてない。俺はこの道を間違いだとはしたくない。俺の意志で選び、突き進んできた道を、否定したくはない。

 だから、戦おう。彼女のために、俺の全てを肯定するために、戦おう。この命尽きる時まで戦い抜こう。

 

 改めて固めた覚悟を確かめるように拳を強く握り締めたところで、頭の中に突然誰かの声が響いた。機竜同士を介した通信能力――竜声だ。

 

『分隊コードネーム「暗殺者(アサシン)」より、「裁定者(ルーラー)」に報告します! 「騎兵(ライダー)」分隊と「魔術師(キャスター)」分隊が、敵勢力と交戦の末敵を取り逃がしたとのことです!』

『こちら「ルーラー」。取り逃がした? 何機だ?』

 

 飛び込んできた報告に、同じく竜声で訊き返す。

 

『それぞれの報告によると、「ライダー」の地点からは《ワイバーン》と《ワイアーム》が二機ずつ。「キャスター」は《ワイバーン》二機に《ドレイク》が一機とのことです』

『合計七機か。思ったよりも多いな』

『どうやらこの二分隊が向かっていたところが敵の本命だったようでして、連携してようやく半分減らせた、と。現在は機動力に優れる「ライダー」と、滞りなく制圧を終えていた「剣士(セイバー)」、「弓兵(アーチャー)」とで追跡していますが、どうしますか?』

『残りの分隊……「槍兵(ランサー)」と「狂戦士(バーサーカー)」はどうした?』

『少々派手に暴れ過ぎたため、後処理に手間取っています』

 

 報告を聞きながら、男たちが放り出していたコンテナを拾い上げ、中身を検めて――俺は眉を顰めた。

 中に詰められていたのは機攻殻剣(ソード・デバイス)などではなく――ごく普通の()()()()()()だった。

 つまりは偽装されていた、ということだ。

 苛立ちを紛らわせるようにコンテナを中身ごと押し潰す。建物の天井を突き破って外に出ながら、竜声で更に情報を引き出す。

 

『敵はどの方向に逃げて行った? 国境を越えるルートか?』

『いえ、むしろその反対……マルカファル王国の中心部、王都に向かうルートです!』

『たった七機で王都へ……いや、別働隊が居るとすれば……』

 

 報告を上げた『アサシン』分隊の隊員の言葉に従って、月下の町中を王都の方角目掛けて疾走する。

 そうしながら思索を続ける。

 

 当たり前だが、たったの七機程度の戦力で王都を落とそうなどと本気で思っているわけはないだろう。そんなことをすれば王都を守護する軍の返り討ちに遭い、一瞬で殲滅されること請負だ。

 だとすれば何故敵は王都の方へ向かう? このままマルカファル王国内に留まるよりも国境を越えて他国に逃げ込んだ方が逃亡手段としては確実だ。

 どちらにしろ賊は死に体、不利なのは間違いなくあちらの方。

 だが、もしその不利を覆せる要素が、敵にあるとしたら……?

 例えば、あの街に居た奴ら以外の部隊が既に潜入していたり。

 そもそも国境の防御を突破してせっかく国内に侵入したと言うのに、ずっと同じところに留まっていると言うのも、妙な話だ。

 もしかしたら、この町に居たのはただの囮でしかなかったのかもしれない。男たちの反応からして、コンテナの中身を機攻殻剣(ソード・デバイス)だと信じ込んでいる様子だった。

 奴等が消耗が前提の捨て駒であったとすれば、最初の段階から全て間違っていたとすれば――だとすればつまり、これは陽動……!

 

「……やられたかもな」

 

 舌打ちしたい気分を堪え、竜声で『アサシン』の隊員に隊長として命令を下す。

 敵を取り逃がしたことに関しては後で一言言っておく必要があるが、ここで叱責しても意味はない。そんな暇があったら動き出すべきである。

 

『伝令だ。「ライダー」と「セイバー」は追跡を中断し、王都に帰還することを優先しろ。途中で違う敵と遭遇しても無視して、王都に駐留している部隊に連絡、共に防衛線を敷け。そうすれば上にも連絡が行く。「アーチャー」と「キャスター」は逃亡する敵の背後から銃撃を浴びせながら追跡を続けろ!』

『「ライダー」了解!』

『「セイバー」、承知しました!』

『こちら「アーチャー」命令了承』

『「キャスター」了解しました……』

『こちら「ランサー」! 我々はどうすれば!?』

『「バーサーカー」だ! 俺たちも追跡するか!?』

 

 思考している間に『アサシン』が他の分隊にも竜声を繋げていたらしい。二十一人の小隊を七つに分けていたそれぞれの分隊から、一斉に竜声による通信が殺到した。

『セイバー』は安定した戦闘力を持ち、戦線を支えることに長けた分隊。

『ライダー』は高い機動力が持ち味の、いわゆる先駆け分隊。

『ランサー』は一点集中の突破力を自慢とする、攻撃専門の分隊。

『アーチャー』は遠・中距離からの射撃が得意な隊員で構成された、後方支援分隊。

『キャスター』は直接戦闘ではなく味方の支援などを重視とした、特殊分隊。

『アサシン』は敵と正面からぶつかり合うことはせずに、影に潜み命を刈り取る隠密分隊。

『バーサーカー』は一度手綱を放せば制御の聞かない暴れ馬どもの、超攻撃特化分隊。

 そして最後に『ルーラー』が、構成員が隊長である俺一人の指揮官分隊。

 俺たちが任務に当たる時は、基本的にこの構成で行動している。

 

『「ルーラー」より命令! 「セイバー」以下四分隊は先程の指示通り動け! 「ランサー」「バーサーカー」はさっさと後始末を終えろ! ……今回の件は、「竜匪賊」が絡んでいる可能性がある。十分に警戒しておけ』

 

 俺がそう伝えた途端、竜声を通して、部隊のメンバーたちが一斉に息を呑んだのが伝わって来た。

 

『竜匪賊』――遺跡(ルイン)から宝物を盗掘し、各国の要人を狙う傭兵組織の賊。

 遺跡(ルイン)から得られる利益にあぶれた貴族や権力者たちから支援を得て、国家と相対し仇を為す叛逆者の集団である。

 何かと恨みを買うことの多いヴァンフリーク商会。『銀影旅団』も国内外で雇われた『竜匪賊』の連中と一度ならず干戈を交えたことがある。

 俺たちもまた『竜匪賊』との戦闘に参加し、奴らの恐ろしさを身をもって知った身だ。

 たかが盗賊、などと侮ることは出来ない。

 

 もし、今回の件がマルカファル王国への本格的な侵攻であるとすれば、そこに『竜匪賊』が関与している可能性は高い。

『竜匪賊』にとってヴァンフリーク商会は積年の恩敵であるし、ヴァンフリーク商会にとっても商売の邪魔になる不倶戴天の仇敵だ。

 特にマルカファル王国は商会に、もっと言えばマギアルカという個人に軍部の実権を握られている。『竜匪賊』の侵攻の標的になったとしても、全く不思議ではないのである。

 

 ……と、指示を出すだけじゃなくて、俺も急がないとな。

《黄龍》は飛行が可能な神装機竜だが、速度は大したものではない。装甲が重く推進器に振り分けられるエネルギーも《ワイバーン》などに比べて少ないのだ。

 ――だがそれは、ただの《黄龍》であればの話だ。

 もしかしたら既に戦場になっているかもしれない現地へ全速力で向かうために、俺は《黄龍》の備える特殊能力、神装を発動した。

 

「神装発動――《四神憑臨(トランス・フォース)》。モード《青龍(セイリュウ)》」

 

 言下に、《黄龍》の腰部にマウントされた六枚の菱形の板のような装備が淡い光を放って、機体から独りでに分離された。

金鱗喚符(ロード・スケイル)》という名の付けられたこの特殊武装には、これといった攻撃力も防御力もない。これが必要となるのは、神装を発動するときだけだ。

金鱗喚符(ロード・スケイル)》はそのまま浮遊して、《黄龍》の背中に二枚、肩の部分に二枚、踵の辺りに二枚、それぞれドッキングされる。

 ドッキングされた部位から翠の光が一瞬機体の装甲を走り、直後、機体の周囲を翡翠色の暴風が纏った。

 

《黄龍》の神装、《四神憑臨(トランス・フォース)》は、形態変化の神装だ。

朱雀(スザク)》、《白虎(ビャッコ)》、《玄武(ゲンブ)》、《青龍(セイリュウ)》の四種類の形態に機体を変化させ、それぞれの特殊能力を発現させることが出来るという、強力無比の神装。

 

《青龍》は空中戦闘及び高速移動に特化した高機動形態であり、自分の周囲の気流を操ることが出来る。

 一度地面を大きく蹴って宙に跳び上がり、六枚の特殊武装を一度羽ばたかせると、ブオォォワァッ! と機体の周囲を取り巻いていた暴風が全て背後へと移動し、次の瞬間、《黄龍》の金色の機体は爆発的な加速を見せた。

 一瞬で街の堤を超え、まさしく風のような速度でひたすら前へ進んで行く。

 凄まじい速度で視界に映る景色が入れ替わって行き、やがて逃走する敵部隊の背後から弾幕を張りながら追走していた『アーチャー』『キャスター』分隊と合流した。

 

「お早い到着で、隊長。どうやら隊長の推測は、ビンゴのようですよ」

「……の、ようだな」

 

『アーチャー』分隊の一人が俺に向かって、苦笑しながら言った。

 その隊員が向ける視線の先にあるものを見て、俺も同じような表情を浮かべた。

 そこには、無秩序なバラバラの動きでひたすら数百ml(メル)も先の王都に向かって空陸の両方から進軍する数十機以上の装甲機竜(ドラグライド)たちの姿があった。

 あれだけ居れば、国を一つ落とすには十分なほどの兵力だ。

 あれほどの兵力を用意できる組織など、それこそ『竜匪賊』以外にはそうはあるまい。

 

「『セイバー』と『ライダー』は間に合ったようだな」

「……ですね」

 

《ワイバーン》《ワイアーム》《ドレイク》の汎用機竜のみで構成された敵部隊から視線を外し、敵の標的となっている王都の方へ眼をやる。

 マルカファル王国王都を囲む城壁の前に、装甲機竜(ドラグライド)を展開した状態で整然と並ぶ王国所属の機竜使い(ドラグナイト)たちが居た。

 報告のために遣わせた二分隊が上手くやってくれたらしい。もしかしたら、最初からこの展開を予測して準備していたのかもしれない。

 

 これでもう、敵の敗北は確定した。飛んで火に入る夏の虫。手薬煉(てぐすね)引いて待ち構える王国軍の精鋭たちと……そして何より、彼らの中央最前列に陣取る、あの巨大な守護神のような紫色の巨竜が居る限り、俺たちに負けはない。

 

 ここからでは遠過ぎてよく見えないが、きっと彼女は今も、見慣れたあの悪い笑みを浮かべているのだろう。

 そんなことを思っていると、ふとその彼女から竜声が飛んできた。

 

『こちらマギアルカじゃ。よくやったぞ、一夏。よくあやつらを誘い出してくれた。これでようやく一網打尽に出来る』

『……やっぱり、最初から分かってたんだな? アイツらの……「竜匪賊」の目的を』

『ほう、「竜匪賊」に辿り着いたか。まあ、これだけヒントがあればのぅ。……そう怒るな。敵を騙すにはまず味方から、というじゃろ?』

 

 最初から全部織り込み済みか、と非難がましく言う俺に、マギアルカは人を食ったような態度でしれっと返してきた。

 もっとも、マギアルカがこんな人だと言うのは前から知っていたことなので、今更腹は立たない。何より今は、そんなことをしている場合ではない。

 とりあえず後でミスを叱責されるようなことがなくなっただけ、マシと思うことにしよう。

 

 どうやらマギアルカは『竜匪賊』の仕掛けた罠を見破り、敵を一網打尽にするために、その上から更にもう一つ大きな罠を張っていたようだ。

『竜匪賊』の策は、恐らく国境沿いのあの街で騒ぎを起こすことで王都から大軍を引き出して王都の守りを甘くし、その上で大戦力で一気呵成に襲撃する、といったものだったのだろう。

 しかしそれを最初から承知していたマギアルカはむざむざ罠に嵌るようなことはせず、俺たち一部隊という少人数に町の敵の殲滅に向かわせ、尚且つ俺たちが取り逃がすことまで計算づくで、身を潜めていた賊に危機感を与えることで炙り出したのだ。

 取り逃がすと確信されていたのは少しばかり腹立たしいが、それがなければこの作戦は成立しなかった……いや、そうか。敵の位置は最初から分かっているんだから、俺たちが目的達成していたら、こちらから攻め込めばいいのか。どちらにしろ俺たちとの挟み撃ちになるのだから。

 やれやれ、恐ろしい人だな、あの人は。

 

『「竜匪賊」の連中の目的は? 分かってるんだろう?』

『決まっておる。わしの首じゃよ。どうやらこの国の、わしに反発する一部の貴族が雇ったらしくてな、ちょいと「オハナシ」しただけでペラペラ喋ってくれたわ』

 

 国内からの手引きか……道理で、ああも簡単に賊が国内に潜入出来たわけだ。

 合点が行き、同時に苦々しい気分になる。

 どうせ賊を雇った貴族というのは、「王国の統治を正常なものにする」とか言って一介の商人でしかないマギアルカを非難しているのだろうが、そのために賊を国内に招き入れてどうする。

 そもそもマギアルカがこの国に居なくては、とっくの昔にこの国は滅びていた。マギアルカがもたらす権益と兵力があるからこそ、マルカファル王国は今こうして発展しているのだ。

 それすら分かっていないような愚鈍な連中が、下らない理由でマギアルカを非難するなど、不愉快極まりない。いっそ死んでしまえ。

 とはいえ、そうも言ってられないのが兵隊の辛いところだ。

 

『一夏。現在の状況は、ちょうど良くわしらとお主らで挟み打ちが可能な陣形になっておる』

『だが、こっちは一部隊のみ、俺を含めて二十二人しか居ないんだぞ?』

『何もお主らだけが戦うわけではない。主力はわしら。そしてお主らの役目は猟犬じゃ。賊をわしらのところまで追い立て、すぐに離脱せよ。そうすれば、わしらが集中砲火で殲滅してくれる』

『……了解した』

 

 マギアルカからの命令を受諾した俺は、すぐさま部隊の隊員たちに向けて竜声を繋げた。

 

『回線は繋いだままだったから、今の話は聞いていたな? 総帥閣下からのご命令だ。早速取り掛かれ!』

『『『『『了解!』』』』』

 

 七つの部隊、二十一人の隊員たちから一斉に鬨の声が上がった。

《ワイバーン》を駆る隊員が高速で飛翔し、機竜牙剣(ブレード)を振りかざして賊に斬りかかり、《ワイアーム》を駆る隊員はそのパワーと防御力を生かして敵の背後から突っ込み、《ドレイク》を駆る隊員が後方から味方の死角を的確にフォローする。

 マギアルカの策を聞いてげんなりしたような様子を見せていた彼らだったが、元々元気一杯で単純な少年少女たちだ。

 戦うべき敵が分かっていて、いちいち隠す必要がないとなれば、躊躇も容赦もする必要はない。中には「ヒャッハー!」とか言ってる世紀末な奴も居る。

 そんな仲間たちを眺めながら、俺は竜声でマギアルカに話しかけた。

 

『マギアルカ。そっちで一網打尽にするとは言うが、敵の機竜は回収しなくていいのか?』

『安心しろ。どうせ機竜の機竜息銃(ブレスガン)などちゃちな豆鉄砲のようなものじゃ。無駄に硬い機竜の装甲を完膚なきまで破壊することなど出来んし、機攻殻剣(ソード・デバイス)さえ回収できれば、後はどうとでもなる。せっかく鴨が葱を背負ってやって来おったのじゃ、逃す手はなかろう』

 

 きっと竜声の向こうのマギアルカはあくどい笑みを浮かべているのだろう。

 いつも通りのマギアルカの様子に思わず微笑みを零して、俺も仲間たちに続いて行動を開始した。

 

 滞空していた《黄龍》が、夜の帳に暴風の余韻を残しながら加速する。

 狙うは上空から王都へ迫る《ワイバーン》の大軍。既に挟撃の構図になったことを悟ったらしき敵は、慌てるようにして王都に全速力で向かっている。

 このまま見逃してもどうせ結果は変わらないのだが……まあ、わざわざ獲物を逃がす手はない。

 

 夜空を突風のような速度で駆けながら、《青龍》になったことで得た気流操作の力を行使して、機体全体にまとわりついていた翡翠色の風を握り締めた右拳へと集める。

 一際大きく推進器を吹かし、ほとんど一瞬で一番近くの敵の真上を陣取った俺は、そのまま颶風を纏った拳を思いっ切り振り抜いた。

 

 ゴッッ!!!! 《黄龍》の拳が激突した次の瞬間、《ワイバーン》の翼がねじ切れ障壁は砕け散り装甲は弾け飛んだ。

 戦闘能力だけでなく飛行能力すら失った《ワイバーン》のボロボロの背中を蹴って空に舞い上がり、今度は左脚に暴風を纏う。

 源義経の八艘跳びのように一機目の《ワイバーン》の背中から近くの二機目に跳び移り、左足で踏みつけた。

 一機目と同じ末路を辿る二機目の《ワイバーン》。

 

 そこでようやく、残りの《ワイバーン》部隊も俺という脅威の存在を認識したようだった。今更のように方向転換して武器を構え、俺に向かってくる。

 最初に機竜牙剣(ブレード)を構えて飛びかかって来た《ワイバーン》の前に、暴風の拳をただ翳す。

 結果、混乱のために視野狭窄に陥っていた敵は俺の拳に自ら飛び込んで行った。ガリガリと掘削機のように装甲を削られて墜ちて行く。

 

 視界に映る敵の数は二十機は居るが、この空戦戦闘に特化した《青龍》であれば問題にはならない。

 降り注ぐ機竜息銃(ブレスガン)の弾丸の雨を冗談のような機動で掻い潜り、縦横無尽に空域を飛び回りながら拳や蹴りを叩き込んで、一機ずつ無力化する。

 煌々と輝く月の下、俺はまるでダンスを踊るように、宙を駆けた。

 俺もアイツらのことを馬鹿に出来ないな。やはりこういう戦いの方が性に合っている。

 

 一度獲物と定めた相手は決して逃さず、餓狼のような闘争心で、武器一つ持たず己の拳と身一つで敵を狩り尽くす。

 それ故に、俺は『金狼』と呼ばれるのだ。

 

 数分もしない内に上空に陣取っていた敵部隊はその数を三分の一程度にまで減らしていた。

 生き残った三分の一も、俺たちの《ワイバーン》部隊に追いかけ回されている。

 ……そろそろだな。

 

『「ルーラー」より伝令。後少しで王都に到着する。王都に到着した時点で、王城前に陣取った味方からの砲撃が来る。弾丸の雨に身を晒したくなければ、さっさと離脱しろ!』

『『『了解!』』』

『『……了解』』

 

 いくつか不満そうな声もあったが、大体は俺の命令をすぐに聞き入れて、現在の戦闘域から離れて行った。

 そして、俺が予想した通り、俺たちが戦闘域から離れたぴったり一分後、マギアルカ率いるマルカファル王国軍所属の機竜使い(ドラグナイト)部隊による集中砲火が開始された。

 弾薬の補給など一切考えない砲弾の雨霰。徹底的なまでの蹂躙。その攻撃は、もはや『点』などではなく『面』攻撃だった。上空から俯瞰すれば、地面を光のカーテンが覆っているように見えるだろう。

 

『わざわざここまでご苦労じゃったなぁ。新しい商品を山ほど持ってきてくれた礼じゃ。たっぷりと受け取るがよい』

 

 特に圧倒的だったのが、マギアルカの特装型神装機竜《ヨルムンガンド》だった。

《ヨルムンガンド》は一度展開してしまえば容易には移動が出来ない代わりに、馬鹿みたいな火力と防御力を備えている。

 大砲と連射砲型になった七本の腕の内の二本で、たった一人で他を圧倒する撃墜スコアを積み重ねて行く。

 流石は現世界等級順位(ワールドランク)一位、この世界最強の機竜使い(ドラグナイト)だ。

 俺も頃合いを見て援護に入ろうと思ったが……必要なさそうだな。

 

 

 

 そして事実、俺が思った通り、これ以上俺たちが関与する必要はなかった。

 この、僅か五分後。『竜匪賊』は動員していた数十機の装甲機竜(ドラグライド)を全て失い、生き残った機竜使い(ドラグナイト)は王国軍の手によって全員例外なく捕縛された。

 対してこちら側の被害はほぼゼロ。損傷らしい損傷と言えば、ウチの隊員の一人が敵を追い立てる際に油断して機竜の腕を一本持って行かれたぐらいだ。

 何はともあれ、『竜匪賊』の襲撃で起こった王都防衛戦は、王国側の完全勝利という形で、幕を閉じたのである。

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