Fate/EXTRA in wave   作:-Yamato-

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第10話 生徒会発足

 二階掲示板では多くの生徒たちで賑わっていた。

 もちろん、そのほとんどはNPCで彼らの関心事は期末考査の順位表だ。そのほかに、今月の行事予定や学校新聞などが掲示されている。

 その中に白く素っ気ない紙が一枚張り出されている。そこには二人の名前が記されていた。

 

 『衛宮 士郎』

 『岸波 白野』

 

 それが、初戦の対戦カードだった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

「———っ」

 

 少女が、喉を詰まらせたように小さく呻いていた。

 

「大丈夫か、岸波」

 

 軽く肩を叩きながら声を掛けると、その肩が小動物のように小さく震える。

 脅えているのに、彼女は目を逸らさずに俺を見上げた。

 だが、言葉を発しない。何を言っていいか分からない様子で真っ直ぐに俺を見るばかり。

 

「まぁ、そういう訳なんだけどさ」

 

 対戦相手となってしまった彼女に俺自身も掛けるべき言葉が思いつくわけでもなく後ろ頭を掻きながら場をつなぐ。

 

「まさか、こういうことになるなんて思ってもみなかったんだが。それでも、丁度いいかもしれない」

 

 岸波は俺の言葉をキョトンとした表情のまま聞いている。

 

「なぁ、岸波はこの聖杯戦争をどう思ってる?」

 

 その言葉に、岸波はうつむいて考え込む。

 そして、唐突に巻き込まれて混乱していること。戦う意味も意義も見いだすこともできず、望みや指標もない中で戦わなければならない不安を言葉少なに漏らす。

 

「なら、もしもこの聖杯戦争に不正がある、としたらどうする?」

 

 岸波が目を見開く。

 そして、なにかを言おうとするが。

 

「おや、岸波さんにエミヤくんじゃないですか」

 

 白々しいほど清々しく、間に割って入った少年。

 

「ああ、なるほど。初戦はお二人になったんですね」

 

 レオがチラリと視線を投げた先にある掲示板。そこに張り出されている紙を見る。

 そして、二人に一歩近づく。

 

——その話は、ここでしない方がいいようですよ。NPCたちが見ています。

 

 レオのひそめた言葉に反応しそうになる岸波の腕をレオが掴む。

 

——何を知っている。

 

 同じく声をひそめレオに耳打ちする。

 

「ここでは少し騒がしいですから、場所を変えましょうか」

 

 半ば俺たちを引きずるようにしてレオが歩き出した。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 ついた先には、目を三角につり上げている遠坂がいた。

 正確に表現するならば、俺たちの姿を見て遠坂は表情を思いっきり不機嫌なモノへと変えたのだ。

 彼女の隣にいるラニはといえば、無表情でたたずんでいる。何を考えているか読めないのがちょっと怖い。

 

「エミヤくん?」

「はい」

 

 遠坂の呼びかけに思わず直立不動で返事をする。

 

「掲示板を見に行くついでに岸波さんを連れてきてと、言ったわよね?」

「おう」

 

 返事をする俺の隣で自分の名前が出たことに驚いて、自身を指さす岸波。

 

「ずいぶんと虫の居所が悪いようですね」

 

 全く邪気はありません、と言う顔で微笑むレオ。

 

「よりにもよって、なんでコイツを連れてくるのよ!!!」

 

 レオを指さし遠坂が俺に詰め寄る。

 

「まぁまぁ、エミヤくんも悪気はなかったようですから」

「ちょっと待て。俺をここまで引っ張ってきたのはむしろそっちだろう」

 

 仲裁に入るフリをして、遠坂の怒りの矛先が自分に向かないよう予防線を張るレオに抗議の声をあげる。

 

助けを求めて脇を見る

 晴天の空の下のどかに花壇の花が揺れる中、ラニはこの騒動が収まるのを静かに待つ。言い方を変えれば、無関係な第三者的立場を取った、ということか。

 

 その隣の岸波は、口論に入る隙を見失ったようで困ったように眉をへの字に寄せている。

 

つまりは、助けなど期待できそうもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、来てしまっからには仕方ないわね。どうやら、おおよその話も把握しているようだし」

 

 騒動は、遠坂が矛を収める形で終結した。

 笑顔で受け流すレオに我関せずのラニと現実逃避を始めた岸波という状況の中では、徹底抗戦しても馬鹿らしいという結論に達した遠坂だった。

 

「ごきげんよう、岸波さん。あなたにお伺いしたいことがあるのです」

 

 前に進み出たのは、騒動が終わるのを静かに待っていたラニ。

 

「貴方を照らす星は、一体どこにあるのですか? 聖杯戦争に参加するマスターの中で貴方の星だけが雲にかかったように読めません。そして、それはこの聖杯戦争の真意ととてもよく似ているのです。答えてください、貴方はなんなのですか?」

 

 ラニの質問に戸惑いを隠せない岸波は返答に窮している。

 

「おや、ラニさんは岸波さんに興味を持ったのですね」

 

 その様子を面白そうに眺めているレオ。

 

「あら、それならレオは誰に興味があってここに来たのよ」

「もちろん、皆さんに。聖杯戦争の参加者の中でも特に輝く貴方たちを見たいと思うのは当然の事」

 

 歯の浮くような台詞を恥ずかしげもなくレオは口にする。

 

「けれど、そうですね。あえて、誰をと問われるのならば」

 

 レオの視線が俺に向かう。

 

「兄さんが驚いていました。エミヤシロウが聖杯戦争に参戦するなんて、と」

 

 見上げるレオの視線、そこから目を逸らしてはならない。

 

「魔術師殺しとして名を馳せていながら、聖杯戦争に参加していることもそうですが、僕が貴方を気に掛ける理由は他にあります」

 

 この件について隠し事をするつもりがないのか、レオは話を続ける。

 

「エミヤシロウは自身の裡から生まれる願望はない。だから、聖杯に掛ける望みはないはずだというのが兄さんの分析です」

 

 俺には返事が出来ない。今の俺に聖杯に掛ける望みはない。けれど、エミヤシロウがどうであったかはわからない。

 

「聖杯に掛ける望みのない者が、どんな願いをかけて戦いに参加するのか興味があります」

「他人の望みに興味を持つなんてらしくないじゃない」

「そうかもしれません」

 

 遠坂の言葉をレオはすんなりと認めた。

 

「もっとも、エミヤシロウを見るためにここに来たのか、と問われると違うんですけれどね。聖杯戦争の異常が本当ならば、西欧財閥として是正するべきだと考えたから、ここにいるんです」

「つまり、自分たちの都合のいいように聖杯戦争そのものをコントロールしようということかしら?」

「それも、いいかもしれませんね」

 

 レオは不敵な笑みを浮かべた。

 

「あなたね……」

 

 遠坂は苛立ちを隠さずにレオを睨み付ける。

 

「ここで僕が貴方の問いに対して肯定することも否定することも無意味でしょう。大事なのは、僕が疑念を持ったという事実です」

「くっ」

 

 反論できず、遠坂が呻く。

 

「ふん、貴方がこっちに来るということは、少なくとも背後からやられる心配を少しは軽減できるし。せいぜい、利用させてもらうわよ」

「何か策はあるのか?」

 

 俺の問いに、遠坂は腰に手を当てさわやかな笑顔をみせて。

 

「ないわよ。そんなもの」

 

 きっぱり断言する。

 

「ちゃんと考えているわ。でも、情報が足りない。ということで、ラニの方は何かわかった?」

 

 岸波を見ていたラニへと話を振る。

 

「やはり彼女の星は隠されていてうまく読めません。ただ、彼女から聖杯戦争の真意へと辿るのは不可能だということはわかりました。彼女と真意は繋がっていません」

 

 強引に連れてこられた岸波は訳が分からないという顔をしていた。

 

「つまり月の聖杯戦争、ひいてはムーンセルにはすでに誰かの意志が介入していて、その誰さんが望むように結果を誘導している可能性があるということなのよ。その望みに叶わなければ、例え聖杯戦争の勝者であっても聖杯は手に入らない可能性が高いわね」

 

 そんな岸波に対して、簡単にではあるが遠坂が聖杯戦争の裏にある疑念、あるいはその真意とも呼べるものについて説明をする。

 

「望みを叶える聖杯が、望みに叶わなければ手に入らない、なんとも皮肉な話です」

 

 まるでトンチの効いた小話を面白がるように笑うレオだが、その目は笑っていない。

 

「なんにせよ、こうして何かしらの真意があると気がついたのです。『ある』と推察できるのであれば、対抗策を打つことができます」

 

 ここで、一拍間を置いてレオはこの場に集う者の顔を見る。それは誰もが彼を注目せざるをえない絶妙なタイミングだった。

 

「ここに、聖杯戦争対策本部の設立を宣言します」

 

 レオがよく通る声音で宣誓を本部発足を告げる。

 

「なんであんたが仕切っているのよ」

 

 すぐさまツッコミを入れる遠坂。

 

「何か問題でも? ああ、名称が少々ありきたりでしたか。では、せっかく舞台が学校なのですから生徒会執行部とでもしましょうか」

「誰が、そんなことを問題にしてるってのよ!」

「それでは、遠坂さんには副会長をお願いします」

「人の話を聞けぇ!」

 

 すっかりレオに遊ばれてしまっている遠坂は噛みつかんばかりの様子だ。対して遊んでいるレオは最高の笑顔である。

 

「待ってください、レオ」

 

 そんなレオを諫めるタイミングで会話に入ったラニ。

 

「彼女を副会長にというのならば、私は会計を任されたい」

 

 いつものように無表情、無感動なラニがしたたかに自己主張を始める。

 

「ちょっと待ちなさい! あんたも論点おかしいから!」

 

 遠坂が叫び倒す。

 

「レオ、あんなに楽しそうに」

 

 なぜか息子を見守る母親のような感想を呟くガウェイン。

 

「いや、まぁ、楽しいのならそれはそれでいいんだろうけど」

 

 わりと悲惨な事態になりかねない状況ではあるのだが、非凡な彼らの手にかかってしまえばこれもまた一つの乗り越えるべき試練にしかすぎない。しかも、彼らはそこに楽しむという余裕さえ持っている。

 

 あるいは、余裕のない状況にみせないことが人を率いる上で重要な要素の一つであると理解しているゆえかもしれないが。

 

「なんだか、巻き込んで悪かったな」

 

 そんな彼らのやり取りに呆然としている岸波に声をかける。

 

彼女は首を横に振り彼女は巻き込まれたというのなら、最初から巻き込まれているのだから今更だと話す。

 

 口数の少ない少女だが、決して無愛想ではない。記憶がない、というのもあるだろうが常に周囲の様子に気を配り、情報を収集しようと努めているようだ。

 

 ただ、岸波からは現実感というものが感じられない。もしかしたら、彼女は夢でも見ているような気分なのかもしれない。聖杯戦争に参加した理由も目的も思い出せないままに巻き込まれた彼女にとってその感覚は仕方がない。

 

 そんなフワフワとした足下も定まらないような状況では勝てる戦いはないと言われるかもしれない。それは、生きていることさえも実感できないほどの弱さだ。彼女はとても弱い。

 

 けれど俺は、彼女がとても強く見えた。

 彼女の前へと進もうとする強さは目立たたず、わかりにくい。

それは、ともすれば当たり前のことだからだ。当たり前のことをどんなときでも実行できる強さは、彼女の弱ささえ強さへと変えてしまうだろう。

 

 そして、その強さに彼女のサーヴァントも気がついているはず。あいつがそんな尊い強さを見逃すはずがない。

 

「さて、熱心に岸波さんを見つめているエミヤくん」

 

レオのツッコミどころしかないセリフ。

 

「待て。その前置詞は誤解を生むと思うぞ」

「事実をありのままに表現しただけですが、何か問題でも?」

 

 誤解を生むとわかりきっている上に、問題が生じることも把握しての発言だ。実際、隣のセイバーの視線は尖っている気がする。士郎的には、『そういう意味だったのか!?』と言わんばかりの様相で距離を取り出す岸波にも勘弁して欲しいという感想を持つ。

 

 余計な波紋を生む一石を投じてくれた元凶は、期待に満ちた眼差しを向けてくれる。この西欧財閥の当主様は出歯亀指向があるらしい。

 始めて会った時のあの王たる威厳はどこにいってしまったのか。

 

「岸波さんの方はエミヤくんってどうなのよ」

 

 遠坂の方も目を輝かせて岸波に迫る。

 

「星に問いかけてみますか?」

 

 遠坂とは反対側から淡々と、しかし積極的に恋占いを提案するのはラニ。

 二人に挟まれオロオロと戸惑うばかりの岸波。

 

「いや、ホント、やめてくれ。このままだと、殺される」

 

 具体的には、岸波のサーヴァントに。

 

「仕方がないですね。本題に戻りましょうか」

 

 肩をすくめて、まるで借りを作ったように言うレオ。しかし、この話題から逃れられるなら何でもいい。背中に流した冷や汗が引いていく思いで息をつく。

 

「それでは、衛宮くんはこの中で誰が好みなのですか?」

 

 だがレオからは引いた汗が倍以上になって戻ってくるような質問が更に投げかけられた。

 

「ちょっと待て、レオ。ここはそんなことを話す場なのか!?」

「恋バナ、というのは人間の信頼関係を円滑にする上で有効だと聞きましたが?」

「誰だ、そんな間違った知識を与えた奴は!!」

 

 むしろ、逆である。

 ラニは興味がない風を装っているが、耳はこちらを向けている。彼女とのつきあいが短いため、何をしてくるか読めないという怖さがある。

 遠坂は完全に面白がって答えを待っている。面白がっているが、その応え如何によっては直接的な手段に出てくる可能性は否定できない。

 岸波は、難しい顔で士郎を睨む。おそらく、下手な答えを言うなということだろう。下手な答えは、彼女のサーヴァントによって血を見る結果を招くことになる。

 セイバーは、笑顔だ。セイバーの笑顔がこれほど恐怖を呼び起こすのは初めてだ。

 

「そ、それを言うならレオはどうなんだよ」

「いやだな、いたらもうモノにしていますよ」

 

 にっこりと笑って、当たり前のことを聞かないでくださいとばかりのレオ。

 

「あ、うん。そうだな」

 

 一番、怖いのはレオだった。

 

 

 

 

 

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