……何か、欠けた夢を見ていた。
目を開ける。
白いカーテンに囲われたパイプベッドの上で寝ていた。
違和感を覚えて上体を起こす。
「やれやれ、ようやくのお目覚めか。ずいぶんとのんびりしたものだな」
赤い人影が唐突に現れた。
彼は、アーチャー。
私のサーヴァント。
「体の調子はどうだ?」
体は、少し重だるいけれどなんともない。
そうだ。
あのあと、どうなったのだろう。
彼は、助かったのか?
「君は、サーヴァントを召喚し本選参加資格を得た」
アーチャーは、私の質問から外れた答えを返す。
はぐらかしているのか?
「はぐらかす? 私が、君を? 出会ったばかりのサーヴァントだ。信用できないのはいたしかたないかもしれんが、君を誑かすつもりはない」
アーチャーの様子に嘘は見えない。
でも、言い回しがおかしい。
出会ったばかり、とはどういう意味か。
「どういう意味もなにも、言葉通りだ。先の予選で、君が私を呼んだ。そこからの付き合いだ。『出会ったばかり』という表現になるだろう」
何を言っているんだろう、アーチャーは。
一回戦のモラトリアムも終わり、私たちは……?
あれ?
何を調べようとしていたんだっけ?
さっきまで、はっきりと覚えていたことが、どんどん薄れて曖昧になっていく。
「大丈夫ですか?」
カーテンをめくり、桜が入ってきた。
「あまり、大丈夫ではなさそうた。マスターの記憶に混乱がみられる」
私の変わりにアーチャーが桜に答えているのを聞きながら考え込む。
誰かと一緒に誰かへ立ち向かっていた。
つい先ほどまで、ちゃんと分かっていたのに手の平から砂が零れ落ちた行くように曖昧になっていく。
絶対に忘れてはいけないことのはずなのに。
「そうですね。少し休んだ方がいいかもしれません」
桜の細い指が、私の額に触れる。
「岸波さんは、予選中に酷い損傷を受け再構築されました。そのため、メモリーの再生が上手くいっていないのでしょう。人は、睡眠を取ることでメモリーの整理を行いますが、それはここでも同じです。だから」
その言葉のうちにも、目蓋が勝手に落ちていく。
だめ…………
それは、言葉になったか。
ここで、眠れば残っていた記憶の欠片も全て忘れてしまう。
けれど、抗えない睡魔が私を包む。
これで、私はあの人のことを忘れてしまうだろう。
だから、せめてこの心に刻んだことは残そう。
どんなときだって、私は前に進むと。
────光あれ。
眠る間際に白衣の男の言葉を聞いた。
ここから、終局へと至る物語が始まる。