ここまで、読んで下さりありがとうございました。
ここからは、後書きがわりに一人称ゆえに書けなかった裏事情やこの作品そのものについてつらつらと書いていきたいと思います。
思い付くままに一発書きしているので、乱文乱筆のほどご容赦ください。
●どんでん返し
まずは、アーチャーのネタばらしより先に士郎の正体に気がついた方には、心よりの称賛を送りたいと思います。
小説情報から士郎が介入しているよと提示して罠を張っていましたからね。
実は、介入していたのはセイバーのみだったというわけです。
すっかり騙されたという方、ありがとうございます。たった一言で前提を覆されるという驚きを提供することを目標に書いていましたから、お一人でもそのように楽しんでいただけた方がいてくれるなら、作者冥利に尽きるというものです。
●『衛宮士郎』がいない理由
この作品を、書き始めた切っ掛けは「士郎が介入したらどうなるか」ではなく「なぜ、士郎はエクストラの舞台にいないのか」かにあります。
答えとして提示したものは、作品を読んでいただければ分かるように、士郎というパーソナリティーがいると問題そのものの解決に向かってしまうため、聖杯戦争のルールから外れて動いてしまうからということでした。
同じ士郎でもアーチャーはムーンセルのサーヴァントとして括られているため、ここまで暴走はできません。
(ただし、強い絆を結べばムーンセルよりもマスターを優先するように……)
士郎も本来ならNPCとしてムーンセルにがんじがらめにされているはずですが、ムーンセルに依らない再起動をしたことで、その軛を放たれたバグになったということです。
*ムーンセルに依らない再起動の手順*
士郎が串刺し公にぶっさされる。
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士郎のAIが破損。生存本能がデータとして持っていた令呪を起動。
↓
セイバーを呼ぶ。
↓
セイバーが来たことで、士郎のデータの奥に埋め込まれていたアヴァロンが活性化
↓
アヴァロンで士郎をほとんど一から再構成する。
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あくまでも自分の中での辻褄合わせなので、苦情は受け付けません。
士郎である限り、正義の味方として行動しようとし、その結果として自己の生存が危うくなるほどの損傷を受ける可能性は、聖杯戦争の最中ともなれば非常に高くなります。そうすると、上記の手順で再起動のする率も高いため『衛宮士郎』というNPCは今回の件を持って凍結されてしまったというわけです。
●士郎の記憶とセイバーの記憶の食い違い
ムーンセルでは、世界のあらゆる可能性を記録しています。
NPCである士郎は高校生時代に起こりうるあらゆる可能性を記録として所持している状態でした。
そのため、記憶が矛盾し噛み合わないことになっています。例えば自分が敗退した記憶と、勝ち残ったという記憶。これを記録として認識するAIであれば問題はありません。
しかし、バグを起こしている士郎は記憶として認識してしまいます。矛盾した記憶は混乱をもたらし、自我の崩壊さえ招きかねません。だから無理に記録へアクセスしようとすると頭痛という危険を知らせるシグナルがなるというわけです。
士郎が、どのルートから来ているのかを気にする感想が寄せられていましたが、正解はどのルートも全てを知ってはいるが、どのルートも辿っていないAI士郎というわけです。
士郎の能力についてですが、わりと無力です。作中で強化の魔術を使っていましたが、あれはコードキャストです。士郎が魔術と誤認しているだけです。だから、遠坂も「今のは、コードキャストとどう違うの?」となるわけです。
投影は、使えると浪漫がありますよね。
世界の異常を感知してる描写を何度も繰り返していたのは、士郎版のCCC編を書こうかなと思っていた名残です。
聖杯戦争の裏の真意があることに気がつけないとルートが分岐します。
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生徒会結成せずに岸波と一回戦。
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士郎が岸波を倒す
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校舎に帰還直後、暴走したAIであるBBに襲われる
↓
BBから撤退するため士郎が感覚を開く。泡沫の世界を破り、ムーンセルの裏側へ落ちる。
↓
旧校舎にはレオ、ユリウス、ガウェイン、キアラ、桜など、CCCのメンバーとともに、男性の岸波白野がいる。岸波のサーヴァントは赤セイバー。
↓
表に戻るには、BBを倒さなければならない。BBのそばには謎のマスターとサーヴァントがいる。
マスターは仮面を被り、無感動で時々ノイズが走っているため、まともに認識できない。サーヴァントは半分焼け焦げている。仮面のマスターのことをBBは「私の宝物」と呼ぶ
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「私の宝物」が壊れてしまっていること、直すために大量のリソースが必要でそのために旧校舎の人たちには糧になってもらうことや、逃げるならサクラ迷宮があるよ。もちろん、罠を用意して待ってます。ということを語るBB。
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さてさて、男性の岸波白野は何者なのか?
壊れた「私の宝物」とは?
BBの真意は?
CCCの時間軸よりかなり早く裏に落ちたことにより、展開は変わるのか?
バグを起こしているAIの士郎に対抗する術はあるのか?
なんて、お話になるかもしれませんでした。
ボンヤリ考えていたことを軽くプロットにして触りだけ書いてみたけど、このルートにしなくて正解でしたね。
長くなる。CCCのシナリオ集の資料が絶対に必要になるのに、まだ出揃っていない。
何より、エクストラの舞台に何故士郎がいないのかという主題がこの話の作りでは書けません。
ちなみにセイバーは、Fateルートで士郎がセイバーを令呪で呼ぶところから来ているという設定です。
令呪で、時空間をねじ曲げて飛んでる最中の寄り道、刹那の夢ですね。もとの世界に戻った直後ならばセイバーもまだ、夢の内容を覚えていたかもしれません。しかし、そのあとすぐに緊迫した状況になるので、よそ事に気を回す余裕もなく、そうこうするうちに忘れてしまいます。
そんなわけでセイバーは、冬木の聖杯戦争の序盤も序盤の存在です。なので、士郎には真名を明かしていないし宝具も使っていない、まして冬木の聖杯の真実も知らない状態でした。
●リンと士郎の関係
原作であるFate/EXTRAに準拠しています。
運命の腐れ縁です。
ただ、リンにとっては同い年の士郎というのはとても新鮮なので、彼で遊んでます。
例えば、士郎がリンを庇ってお腹に大穴を開けたあと。
お腹の穴は桜のパッチを当てるまでもなくアヴァロンで塞がってます。が、士郎をからかうのと諌める目的でその事実を黙っています。
●生徒会
学校、生徒の集まり、発足人がレオとなれば、必然的に生徒会です。ちなみにガウェインはじいやで借金取り立て人。詳しくはFate/EXTRA CCCをプレイしてください。
●言峰綺礼
NPCですが、今回の士郎の顛末は彼にとっては愉悦でした。
士郎のバグをムーンセルに曖昧に報告。その情報に白衣の男が踊らされてるのを見て楽しみ、士郎が聖杯戦争の是正も出来ずに消えるのを想像して美味しいワインを飲んでます。
たぶん。
●侵入プログラム
言峰綺礼の曖昧な報告のせいで士郎がバグを起こしたNPCなのか、NPCの皮を被った聖杯戦争の参加者なのか判断つかない白衣の男。
当然、士郎の動きを監視します。
士郎は地上のサーヴァントを連れているのでおいそれと手を出せないので一計を案じます。
月の聖杯戦争のシステムを利用し決戦場にまで降りてくるようにする。
決戦場では、必ずサーヴァントが戦わなければなりません。天上のサーヴァントが戦いを挑むなら、当然セイバーも打ってでる必要がある。
セイバーを引き離せば、あとは如何様にもできます。
そして士郎も飛んで火に入るとばかりに侵入プログラムを走らせる。
そこに介入して、士郎がNPCなのかPCなのかを判断するプログラムを打ち込みます。
そばにいた岸波がNPCだとばれなかった理由は、調査の対象が士郎だったからです。この時、ちゃんと調べてれば岸波がNPCだと分かっていたはずです。
●白衣の男の正体と目的は
彼の正体は、もちろん欠片……ではなく平和男さんです。
二次創作でネタばらしするものでもないので、これも原作をやってみてください。
もしくは、アニメを見ましょう
●なぜ、対戦相手に岸波を選んだか。
白衣の男にしてみれば、岸波は自分の望みに叶う人材ではなさそうでかつ優勝争いにも絡まない、士郎のそばにいた平凡な参加者なので選んでいます。
どうなっても構わない、ということですね。
しかし、今回の一件で平和男に目をつけられることになりました。
●この話のあとはどうなるのか
もちろん、そのままFate/EXTRAが始まります。
士郎がいたという痕跡は一切ありません。皆の記憶から削除されています。
ただ、欠けた夢を見た少女だけが彼の残してくれた思いを魂に刻みこみました。
岸波白野はタイプムーンの主人公らしく、異常性を秘めています。どんなときでも諦めず前に進むという異常性。それを刻んだのが、士郎だったという妄想の産物がこの二次創作でした。
さて、最後に衛宮士郎がいる予選会場の様子を蛇足とわかりつつ書いてみたいと思います。
岸波白野が作中で士郎というのは会話したこともあるといっているのは、この辺りのシーンのことです。
読みたいと思う方は、このままお進みください。
いつも通りのルーチンワーク。
朝の持ち物検査のために、生徒会長たる柳洞一成が校門に立ちいつものように挨拶をする。
「おはよう、衛宮。気持ちのいい朝で大変結構」
「ああ、そうだな。一正」
そんな短い会話を交わし、校門をくぐる。
「いよっ! バカスパナ」
「おはよう、衛宮くん」
「衛宮某、今日は新人が取材に行っても構わないか?」
新聞部のトリオが約束を取り付けに来る。
朝早くからのテンションの高さは流石と言うべきか。
「私をタイガーと呼ぶなぁ!!!」
トラが教壇で吠える。
いつも通り。
満ち足りた日々。ここでは、つらいことも苦しいこともない。
ただ、規定されたルーチンをこなしていくだけ。
それが当たり前。
聖杯戦争が始まるまで続く永遠。
「衛宮くん帰らずの生徒の噂、聞いた?」
クラスメイトの一人に話しかけられる。
彼女の名前は、岸波白野。
どこにでもいそうな、特別には見えない少女。
茶色の長い髪を揺らし、小首をかしげる様子は小動物のように愛らしい。
「遅くまで学校に残っていると姿を消してしまうっていう話だろ」
俺はそう詳しい情報を持っていないため、さしたる話はできない。
「バカだな、白野は。衛宮なんかに聞いても、たいしたことがわかるわけないだろ」
芝居がかった仕草で髪をかき上げながら会話に割って入ってきたのは、間桐慎二。嫌みな口調だが、これは彼の味のようなものなので腹を立てる必要はない。
そして、彼は彼の取り巻きの少女たちから聞いた話をまるで自分の手柄のように話し出す。
曰く。夜遅く残っていた子が跡形もなく消える。
曰く。誰もいない廊下で女の子の楽しげな笑い声が聞こえる。
曰く。構内を白衣の誰かが徘徊している。
曰く。屋上に派手な赤い少女の幽霊が出没する。
曰く。
曰く。
曰く。
この学校の違和感や矛盾を噂として収拾した話は止めどなく。
それを真剣な表情で聞き、律儀に一つ一つ頷き返す白野は人がいいと言うべきか。
「———白野。間に合わなくなるぞ」
そんな白野に向けてかけた言葉に、彼女は驚き顔を上げる。何かを聞きたそうな顔をするが、それに答えずその場を立ち去った。