けものフレンズパビリオン ~ 銀の聖フレンズ ~   作:塞翁が馬

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北斗有情破顔拳

 ここはけものフレンズパビリオン。不思議な石『ピカピカ』の力により、野生の動物が可愛い女の子に擬人化…通称『フレンズ』達を見学したり、時には一緒に遊んだりして楽しむ観光地だ。

 

 人の姿をしながらも、元の動物の身体的、行動的な特徴を残すフレンズは観客らの知的好奇心をくすぐるにはうってつけの存在であり、また、基本的にフレンズは元の動物の種類を問わず、明るく優しく人当たりの良い者達ばかりなので、そういう意味でもフレンズ達は大人気だ。

 

 こうして、登場してから瞬く間に一大興行となったけものフレンズパビリオン。パビリオンで働くスタッフ達も、フレンズ達の体調管理に彼女達が楽しめる様な遊び道具、そして彼女達が好む食べ物…『ジャパリまんじゅう』を開発し、そして発展させていった。

 

 ところが、そんなけものフレンズパビリオンの内部において、ある日一つの問題が発覚する。フレンズの一人…その儚げな見た目と、その見た目に似合わないパワフル(色々な意味で)な歌声に定評のあるフレンズ『トキ』が最近めっきり姿を現さないと、観客達から声が挙がっていたのだ。

 

 まだクレームという程の声ではないが、各フレンズには一定のファン層がいる。当然、トキにもこのファン層はいるので、このままではいずれクレームの域に達するのは目に見えている。

 

 何より、野生のトキは絶滅種という事もあり、スタッフの中にも常日頃からトキを案じている者達は一定数いるのだ。そんな彼等、彼女等がトキの姿を見なくなって、心配しない筈がない。

 

 かくして、広大なパビリオン内を捜索するためのチーム…『トキ捜索隊』が結成される事となる。

 

 

 

 

 

「…ここにもいない。くそっ、何処に行ったんだよトキ…!」

 

 とある森林エリアにおいて、重装備をした人物が悪態を吐きながら周囲の探索を行っていた。顔を含む全身を着衣で防護している為、顔や体格はよく分からないが、背格好や声色からどうやら少年の様だ。

 

「落ち着いてケンくん。探索に必要なのは諦めない根気と、些細な事も見逃さない集中力よ」

 

 その後ろから、違う人物が少年に声を掛ける。ケンくんと呼ばれた少年よりほんの少し背が高いが、同じ防護服を着ていても明らかに少年より体格が細く、声色も高く細くあり、そして分厚い着衣の上からでも分かる大きな胸元を見る限り、女性なのは間違いないだろう。

 

「まあ、今の状況だと、あらゆる所を歩き回る体力も必要ね」

 

「分かってるって優里恵(ユリエ)さん! 何事も常に冷静に…だろ?」

 

「そうそう。…とはいえ、フレンズといえど一目ぼれしちゃった女の子の事だから、やっぱり気が気じゃないかしら? ふふっ」

 

「な、ちょ、いや、それは、ゆ、優里恵さんっ!!」

 

 何気ない会話からの唐突な優里恵と呼ばれた女性の言葉に、少年…ケンは声だけでもあからさまに分かるほどに酷く狼狽しながら、女性…優里恵の名前を大声で叫ぶ。

 

「冗談よ。焦りはやる気持ちは十分に分かるけど、各エリアに捜索員は派遣されているのだから、私達は私達に割り振られた範囲を徹底的に捜索しましょう」

 

「…全く! あんまりからかわないでくれよ、もう!」

 

 クスクスと笑いながら探索を再開した優里恵に、ケンも怒りをあらわにしながら探索を再開しようとする。とはいえ、会話前のケンが放っていた焦燥感はだいぶ薄れている。恐らくこれが、ケンを狼狽させる様な事を言った優里恵の狙いだったのだろう。だが、

 

「だ、誰か助けて…っ!!」

 

 二人の探索は、突如響き渡る助けを呼ぶ声に中断させられる。そして、二人は一瞬視線を合わせると、脱兎の如く声のした方向へ駆けだした。

 

 

 

 

 

 声のした方へ移動した二人。そこには、一人の幼女と二つの謎の真っ黒い生物。そして、幼女を庇うかのように、幼女を背に隠した一人の少女が胡坐をかいたまま謎の真っ黒い生物と相対していた。

 

「…トキ!!?」「………こんな所にいたのね」

 

 その、幼女を庇っている儚げな雰囲気の少女を見た瞬間、ケンは少女の名前を大声で叫び、優里恵も一瞬だけ安堵の表情を見せ、しかしすぐに強張らせる。

 

「ケンくん、トキの援護に回るわよ。あのセルリアン、何だか雰囲気がいつもと違うわ…」

 

 そう言って、一つ目で真っ黒い球体にモヒカンのような毛が生えた生物…セルリアンを凝視しながら、背中に担いでいた独特な形の銃を構える。そして、優里恵の声にケンも「応ッ!!」と威勢の良い返事をし、同じく背負っていた銃を構えた。

 

 しかし、そうやって二人が場に突入をしようとした直前に、セルリアンは何の躊躇もなく未だ胡坐をかいているトキに向かって、左右から挟み撃ちの形で襲い掛かったのだ!

 

「なっ…!? フレンズに向かって躊躇いなく襲い掛かるなんて…!?」

 

「トキっ、危ないっ!!」

 

 セルリアンの奇襲に驚愕の表情を見せる優里恵と、警告を発するケン。しかし、次の瞬間…。

 

「はあっ!」

 

 気合一閃! といった感じの裂帛の声を発するトキ。と、同時にトキの身体からオーラのような物が一気に噴出した。

 

「へっ!?」「なっ!?」「「!!?」」「あ、あわわわ…っ!」

 

 ケンと優里恵、そしてトキの背中に隠れている幼女、更には今まさにトキに襲い掛かろうとしたセルリアン二匹も、トキの突然の行動に驚き身体を止めてしまう。

 

 そんな中、トキは両腕をゆっくりと上げ、その側面を左右から襲い掛かってきたセルリアンに向ける。次瞬、腕から発射された光線の様な物が二匹のセルリアンの身体の中心を貫いた!

 

「―――北斗(ほくと)有情破顔拳(うじょうはがんけん)。せめて痛みを知らず、安らかに逝くがよい…」

 

 謎の光線を受けたにもかかわらず、目に見えるダメージが無い事に戸惑っている様子を見せるセルリアンに向かって喋りかけるトキ。

 

「優里恵さん、あれっ!」

 

 最初に異変に気付いたのはケンだった。その指差す方向に優里恵も視線を向ける。

 

 その先には、先ほどまで綺麗な球体だった二匹のセルリアンの内、片方の身体が明らかに物理や骨格を無視したありえない方向へと身体が曲がっている…という衝撃的な光景が広がっていた。

 

 そして、間を置かずにもう一匹の方のセルリアンの身体もあらぬ方向へと。最初の一匹目が下半分、二匹目は上半分の身体が無茶苦茶になっていく。だというのに…。

 

「―――わ、笑っている…!?」

 

 二匹のセルリアンのひとつしか無い目は、明らかに愉悦の形を浮かべていた。信じられない事だが、その瞳には痛みや恐怖といった感情は一切感じられない。その事実に戦慄する優里恵。

 

 程なくして、二匹のセルリアンは身体の内側から爆裂し、そして霧散してしまった。

 

「…さあ、もう大丈夫だ」

 

 そう言って、自分の背後に隠れていた幼女を、胡坐をかいている自分の太ももに座らせるトキ。

 

「あ…ありがとう、トキお姉ちゃん…」

 

「む………。お、お姉ちゃん……か…。この姿では致し方ないのかもしれん…」

 

 まだ少し怯えを残しながらも、トキに礼を言う幼女。対して、トキは笑みを浮かべながら幼女の頭を優しく撫でるのだが、何故かその笑みは少し戸惑いを感じている様に見える。

 

「…さて、そこの二人もそろそろ出てきたらどうだ?」

 

 そうやって、幼女をあやしながらも微かな警戒の感情を乗せた言葉を発するトキ。どうやら、少し前からケンと優里恵が場を覗いていたのはバレていた様だ。

 

「探したんだぞトキ! 今までどこに行ってたんだよっ!?」

 

「どうやら事なきを得た様ね。さて、早速連絡しないと…」

 

 トキの言葉を受け、茂みから脱しトキに駆け寄るケンと優里恵。ケンはトキが今までどこにいたのか質問し、優里恵は懐から小型の通信機を取り出し連絡を開始する。

 

「………? お前たちは……」

 

 しかしトキの反応は鈍い。明らかに『知らない他人に馴れ馴れしく声を掛けられている』といった様子だ。

 

「何言ってんだよ、俺だよ俺! お前の主担当の北痘健太郎(ほくとうけんたろう)だよっ!」

 

「同じく、貴女の主担当である名霧籐優里恵(なむとうゆりえ)…ってそうか、この防護服かぶっているから、誰だかわからないのかも」

 

 そう言うや否や、服の顔の部分を外す優里恵。それに倣い、ケンも防護服を外す。

 

「どうだ!? これで分かっただろ!?」

 

「分かってもらわないと困るわ…あ、はい。こちら森林エリア探索チームのD班です。対象を発見いたしました。これから―――」

 

 己の顔を強調するケンと、仲間からの返信が来たのか小型通信機に応答する優里恵。しかし、二人の顔を見た瞬間、トキの表情が驚愕に見開かれた。

 

「…どうした、トキ?」

 

 目を限界まで見開き、ケンと優里恵を交互に凝視するトキに対し、ケンが怪訝そうに問う。そしてその直後、トキは大きく、しかし掠れた声で二つの名前を叫んだ。

 

「ケンシロウ……ユリア……っ!!?」




原作『けものフレンズ』なのに、小説の中で一番目に付く第一話に明確にフレンズを名乗れる奴が出てこないって、どういう事だ…。
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