けものフレンズパビリオン ~ 銀の聖フレンズ ~   作:塞翁が馬

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生きる意志

 明らかに様子がおかしいトキの絞り出したような声に、暫く場が固まる。が、

 

「…ケンシロウ? ユリア? 誰だそれ?」

 

 怪訝そうに眉を寄せながらのケン…健太郎の問いに、トキはハッと我を取り戻す。

 

「あ、いや…。す、すまない。貴方達があまりにも弟とその婚約者に似ていたものなので、つい…」

 

「トキに弟だって? 優里恵さん、そんなのいましたっけ?」

 

「…いえ、いる筈が無いわ。もしいたら、今頃大ニュースになっているわよ」

 

 申し訳なさそうに謝るトキだったが、続くトキの言葉に健太郎は訝しみながら優里恵に尋ね、その優里恵も腕を組みながらハッキリと否定の言葉を口にする。

 

『―――状況、及び添付画像を確認しました。対象の探索、お疲れ様です。詳細を確認するようにと本部から指示が出ていますので、トキと救出した女児一名を施設まで誘導してください』

 

 中々話が噛み合わず微妙な空気となっていた場だったが、不意に優里恵の持っていた小型の通信機から機械音声が鳴り響く。

 

「…とりあえずここで話していても埒があかないから、一旦施設に帰還しましょうか。それに―――」

 

 小型通信機を持ちながらそう宣言する優里恵。と、同時にトキの全身をじっくりと見つめる。

 

「トキ、貴女体中泥だらけじゃない。音信不通だった間に何があったのかは分からないけど、仮にも女の子なんだから身だしなみは綺麗にした方が良いわよ?」

 

「あはは、トキお姉ちゃん泥だらけー!」

 

 からかうような笑みを見せる優里恵に、トキの太ももに座っていた幼女も楽しそうに笑いながら、その泥だらけなトキの身体に自分の身体をくっつける。

 

「お? 何だ君、トキの事好きなのか?」

 

「うん、大好きー! 特にトキお姉ちゃんのお歌が好きー!!」

 

「え゛っ!?」「まあ…!?」

 

 幼女の行動を見て何気なく聞いたという感じの健太郎の問いだったが、対する幼女の答えに健太郎のみならず優里恵までもが頓狂な声を上げる。

 

「皆がひざまずくあの滅茶苦茶なお歌は憧れるよねっ! ふははは~! 制圧前進あるのみ~!!」

 

「…何ていうか、凄い子だな。つか、何処でそんな言葉を…?」「将来有望ね、色々な意味で」

 

 空を指差しながらハイテンションにはしゃぎまくる幼女に、健太郎も優里恵も引き攣り気味の笑いを見せる。

 

「…分かった。俺も色々と情報が欲しかったところだ。貴方達について行こう」

 

 そして、多少変な方向ではあったが和やかな雰囲気に包まれた場に触発されたのか、トキも穏やかな笑みを見せながら、幼女を抱きゆっくりと立ち上がる。

 

 こうして、健太郎と優里恵の先導の下、四人は施設なる場所へと移動するのだった。

 

 

 

 

 

 程なくして施設へ着いた四人。そこでトキはまず風呂に入る事を進められた。

 

「ふ、風呂だと…!? い、いや、水は貴重なのだ。そのような贅沢な使い方はせずとも、俺は少しの水で体を洗えれればそれで」

 

「何を訳の分からない事言ってんだ。ほら、これ二人分と予備のバスタオル」

 

「わー、トキお姉ちゃんと一緒にお風呂だーっ!!」

 

「という訳でこの子の世話はお願いねトキ。私達は今から本部に報告に行って来るから」

 

 風呂に激しい拒絶反応を見せたトキだったが、有無を言わさず三枚のバスタオルと幼女を押し付けられ、風呂場前の脱衣所へ半ば強引に押し込められてしまった。

 

「トキお姉ちゃん、早く入ろ―よー!」

 

 凄い速さで素っ裸になり、風呂場への扉を開けながらトキを誘う幼女。仕方なさそうに身に付けていた服…と思しきものに手を付けるトキだったが、不意にその手がピタリと止まる。と、同時に何かをブツブツと呟き始める。

 

 気になった幼女がその声を聞き取ろうとトキに近づくと、

 

「…じょ、女性の服を脱がす…? いやいや、理由はどうあれ無抵抗の女性の服を脱がすのは倫理的に問題が…とは言え脱がなければ風呂には入れぬ…い、一体どうすれば…?」

 

 どうやら『服を脱ぐ』という行為に抵抗を感じている様だ。

 

「もーっ! ほら、トキお姉ちゃん早くー!」

 

「あ、こ、こら、待ちなさいっ!!」

 

 我慢の限界を迎えた幼女に腕を引っ張られるという事態に陥り、結局トキは渋々服を全て脱ぎ風呂場へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 軽く体を洗い流した後、なみなみとお湯が張った湯船に身体を浸けるトキ。その表情は感慨に満ちている。

 

「…久しく忘れていた。風呂とはここまで気持ち良いものだったのだな」

 

 という感想が思わず口から漏れてしまう程に、気持ちよさそうに浸かっている。

 

「―――ねえ、トキお姉ちゃん」

 

 その時、一緒に風呂に浸かっていた幼女が唐突にトキに向かって口を開いた。

 

「ん、どうした?」

 

「なんだかね、今のトキお姉ちゃん、私の知っているトキお姉ちゃんとちょっと違う様な気がするの」

 

 遠慮がちに、しかしはっきりと尋ねる幼女。

 

「…確かに、残念だが恐らく俺は君の知っている『トキお姉ちゃん』ではない」

 

「そうなの? じゃあ、本物の『トキお姉ちゃん』は何処にいるの?」

 

「分からない。いつの間にかこうなっていた、としか。…そう、確かに俺はあの時死んだはずだ」

 

 目をつむりながらしみじみと呟くトキ。どうやらその胸中には様々な思いが渦巻いている様だ。しかし、そうやって物思いに耽る時間は時間は長くは続かなかった。

 

 不意に体に走る軽い衝撃。見ると、幼女がトキの身体にがっちりとしがみついていたのだ。

 

「やだー! 本物の『トキお姉ちゃん』も今のトキお姉ちゃんも死んじゃやだーっ!!」

 

 涙目になりながら必死に上目遣いで訴えてくる幼女。その懸命な姿に、一瞬呆気に取られていたトキだったが、すぐに優しく笑いながら幼女の頭に手を置いた。

 

「そうだな。理由や過程は分からんが、今俺は生きてここにいる。ならば、生きよう…最後の最後まで」

 

 決意の瞳で語るトキ。それは、常にトキから感じる儚さを感じながらも、それに勝るとも劣らない力強さをも感じさせる、不思議な言葉だった。

 

 

 

 

 

 一方、とある部屋。そこには健太郎と優里恵、そしてもう一人男性が机を挟んで二人の体面に座っていた。

 

「…と、まあこんな所なんだよね」

 

 その男性は綺麗に整えられた己の髭を忙しなくいじり、咥えていたキセルを頻繁にくゆらせながら歯切れが悪そうに口を開く。

 

「じゃあ……じゃあ、今風呂に入っているあのトキは一体何なんですかっ!?」

 

「何…と聞かれても現時点じゃ何なんだろう? としか答えられないね」

 

「っ、そんな悠長な…!」

 

「落ち着いてケン君」

 

 男性の煮え切らない態度に激昂する健太郎だったが、それを優里恵が制する。

 

「…少なくとも、今お風呂に入っているトキは、私達の知っているトキではない、という事ですね?」

 

「恐らくそうだろうね。何故なら、本物のトキは既にセルリアンに取り込まれてしまっていたからね」

 

 優里恵の確認に、男性は机の上に置いてあった四角く黒い枠にはまったレンズの様な物に視線を落とす。それはひどく傷つき、今にも壊れてしまいそうなほどだった。

 

「他の森林探索チームが見つけてきたこれ…。救難信号すら出せない程に壊されているけど、これは確かにラッキービーストの端末だ。そして、断続的且つ極めて画質は悪いがトキがセルリアンに取り込まれる映像も記録されている。まず間違いないね」

 

「当然、このラッキービーストを破壊したのも…」

 

 口調こそ疑問形で発した優里恵だが、その目には確信の光が宿っている。そして、それに応える様に男性もゆっくりと頷いた。

 

「でも、分かりません。そもそもセルリアンが今までに自分から襲い掛かってくるなんて事がありませんでした。人間やラッキービーストにはピカピカ…ではなく、サンドスターの影響がないからか、そもそも眼中になかったようですし、唯一サンドスターの影響を受けているフレンズ達に至っては、唯一セルリアンを滅ぼせる種族という事もあって、狩られそうになって反撃に出る事はあっても自発的に動くなんていう例は無かった…筈です」

 

「そう、その筈…何だよなぁ」

 

 難しい顔で考え込んでしまう優里恵に、健太郎も困り顔で自分の後ろ頭を撫でる。二人とも思い出しているのだ、先ほど幼女に…そしてトキに躊躇いなく襲い掛かった二匹のセルリアンを。

 

 そして、映像内のセルリアンもトキに好戦的に挑んでいた。

 

「これは、もしかしたら由々しき事態の前兆かもしれないね…」

 

 そう言って、男性も背もたれに思い切り体重を乗せながら、眉根を寄せ大きなため息を吐く。

 

 と、次の瞬間けたたましい警告音が施設全体に鳴り響いた!

 

『緊急事態発生、緊急事態発生。さばんなエリアに置いて、特異な姿のセルリアンが大量に発生しました。全スタッフは直ちに武装し、現場のフレンズ達の援護に回ってください』

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