けものフレンズパビリオン ~ 銀の聖フレンズ ~ 作:塞翁が馬
「セルリアンの大量発生!? ったく、なんだってこんな時に!?」
唐突に鳴り響いた警告に健太郎はしかめっ面で悪態を吐く。
「今は愚痴ってる時ではないわ、行くわよケン君!」
そんな健太郎を促しながら、優里恵は目の前の男性に軽く会釈をした後、急いで部屋を出て行った。
「何か、事件があったようだな」
健太郎と優里恵の二人が施設を移動している最中に声を掛けられる。二人が同時に声のした方へ振り替えると、そこには真剣な面持ちのトキと、不安そうな表情でトキと手をつないでいる幼女の姿があった。
「トキ! 丁度良かった、一緒にセルリアンを」
これは好機、とばかりにトキに手伝って貰おうとする健太郎だったが、その言葉を優里恵が健太郎の前に出ることで遮ってしまう。
「…優里恵さん?」
不可解そうに眉根を寄せる健太郎を気に留めず、優里恵は無表情に口を開いた。
「トキ、今は非常に危険な状態だからこの子と一緒に施設の中に隠れていて。いいわね?」
それだけ宣告すると、他の三人が口を挟む前に優里恵は施設の出口に向かって走り出してしまった。
「あ、ちょっと優里恵さん!!」
慌ててその後を追う健太郎。
「何でだ優里恵さん!? 今は一人でも仲間が多い方が…!」
「今のトキは私達の知っているトキではない。その上、情緒不安定な側面も見受けられたわ。残念だけど、とても戦場に立たせられる状態じゃない。それはケン君にも分かるでしょ?」
施設の外に飛び出し、目的地に向かって走り続ける優里恵に追いついた健太郎が非難めいた口調で問い質す。対する優里恵は、振り返らずに無表情な声色で返答した。
「それは…確かにそうだけど、でも…!」
「とにかく、今は目の前の問題を解決しましょう」
理解はできるが納得は出来ない、と言った感じの健太郎に、ここで初めて振り返った優里恵が息を切らしながらも健太郎に声を掛ける。その複雑そうな表情を見るに、優里恵は優里恵でいろいろと思うところがある様だ。
「…っ、わ、わかったよ…」
そういう優里恵の心境を察したらしい健太郎は、渋々と優里恵の言葉に従うのだった。
一方、優里恵と健太郎に置いて行かれたトキと幼女だったが、不意にトキが片膝を床につけ幼女と視線を合わせる。と、同時に幼女の肩に自分の手を置いた。
「俺も行って来る。あの二人だけに危険な事を任せる訳にはいかない。風呂という上質な物を使わせてくれた恩義もあるしな」
「え、で、でも…」
トキの言葉に、幼女は不安と悲しさがない交ぜになった表情を見せる。
「大丈夫だ。俺も、あの二人も必ず無事に戻ってくる。だから、少しの間だけ我慢してくれないか?」
「―――………う、うん」
トキの渾身の説得に、幼女は止むを得ず…と言った感じでぎこちなく首を縦に振る。
「すまない、出来るだけ早く戻る」
それだけ伝えると、トキは優里恵や健太郎を圧倒的に上回る信じられない速さで二人の後を追いかけ始めた。
「…な、なんだよこれ…」
現場に到着した優里恵と健太郎。しかし、予想をはるかに上回る現状に思わず声が漏れる健太郎。その理由はたった一つ。エリアを占拠しているセルリアンの数があまりにも異常な多さだったのだ。
これまでにもセルリアンが大量発生した事例はあったが、多くても二十数匹くらいだったのだ。しかし、今目の前にいるセルリアンの数は、目につくだけでもその倍以上はいる。エリア全体で言えば、下手をしたら百匹以上はいるかもしれない。
そして、綺麗に切りそろえられていたり、ツンツンに尖っているなどの微かな差異はあるものの、セルリアンたちは皆一様に頭にモヒカンの様な物を生やしていた。加えて、目付きも悪いうえにサングラスの様な物をかけているセルリアンもおり、総じて非常にガラが悪そうだ。
対してパビリオン側も、さばんなエリアは勿論違うエリアからもフレンズやスタッフが応援に駆け付け対処に当たっているらしいのだが、今までとは感じの違うセルリアンに苦戦を強いられている様だ。
「うみゃ~…。数が多すぎるよ~…」
「全くだ。さっさと終わらせてゴロゴロしたいんだけどねぇ…」
「サーバル! ライオン! 大丈夫か!?」
とにかく現状を確認しようと、近くにいた少女二人…サーバルとライオンに声を掛ける健太郎。その後を優里恵も追従する。
「あ! また違うスタッフの人達が来た! うん、私はまだまだいけるよ!!」
「ん…? おお、新しいスタッフの増援か? 丁度いい、サポートを頼むよ」
「…少なくともこの二人はまだ大丈夫そうね」「分かった、任せろ!」
そして、まだまだ笑顔を絶やさないサーバルの言葉に優里恵は安堵し、ライオンの要請に健太郎が即座に反応し、手に持っていた銃を一番近くにいたセルリアンに向けて発射した。
その銃弾は狙ったセルリアンに的確に命中し、次の瞬間今まで暴れまわっていたセルリアンは金縛りにあった様に全く動かなくなってしまった。ひとつだけある目が驚愕したようにキョロキョロと動き回っているのを見るに、本当に金縛りのような状態になっているのだろう。
「よーし、今だー! うみゃみゃみゃーーっ!!」
動けなくなったセルリアンに向かってサーバルが勢いよく駆け寄り、セルリアンの背中にあった僅かに膨らんでいる箇所を爪で思いっきり切り裂く。
すると、セルリアンはひときわ大きく目を見開きながらゆっくりと倒れ、程なくして光の粒子となり霧散してしまった。
「やった! さあ、どんどんとはりきって―――」
「サーバル! 後ろだっ!!」
セルリアンを倒して得意げになっていたサーバルだが、直後に飛ぶライオンの大声。見ると、いつの間にか三匹ものセルリアンに近寄られ、今まさにサーバルに襲い掛かろうとしていたのだ。
慌ててライオンは走り出し健太郎と優里恵も銃を構えたが、距離的にライオンは間に合いそうにない上に、健太郎と優里恵の銃も、位置関係上射線にサーバルがいるので咄嗟にセルリアンを狙う事が出来ない。
「っ…!」
思わず身構えてしまうサーバルだったが、次の瞬間、サーバルと三匹のセルリアンの間に一つの白い影が走った。
「北斗有情破顔拳」
という、唐突に聞こえた台詞と共に、三匹のセルリアンは極上の笑みから爆裂、霧散という最期を辿る。
全員が声のした方を見遣ると、そこにはエリアを占拠するセルリアンを見据えるトキの姿が…。
「良いか少女よ。戦いの場に身を置くのなら、いついかなる時でも油断をしてはいけない。油断は即、死につながってしまうからな」
「あ、うん…ありがとう…って、もしかして貴女トキ?」
サーバルに真剣な面持ちで注意を促すトキ。対するサーバルは、少し呆けた顔で礼を言い、そのすぐ後に目の前の相手がトキだと気づいたようだ。
「あ、ホントだトキだ! アンタ今までどこに行ってたの?」
「トキ、どうしてここに来たの!?」「施設で待ってろって言っただろ!?」
同じく目の前の相手がトキだと気づいたライオン、健太郎、優里恵の三人。ライオンこそ尋ねる口調が軽いが、健太郎と優里恵は明らかに狼狽している。
「話は後だ。とりあえず、ここにいる悪党どもを殲滅するぞ」
しかし、そんな健太郎と優里恵に一声だけ掛けてから、あろう事かトキはニ十匹近くはいるセルリアンの集団に向かって単独で近づいていく。
当然セルリアンたちは、やっちまえーっ!! とばかりにトキに迫りくる。だが、トキはそのセルリアンの集団の中を華麗に抜けていくのだ。その動きはまさしく、小川を流れる清流が如し。
そして、最後の一匹を抜けた後に、
「
と、静かに呟いた。すると、トキに襲い掛かったセルリアンたちは残らず爆裂し霧散してしまった。
「…へ? へ? い、今何かやったの?」「な、何かよく分かんないけど凄い…」
静かではあるがあまりに異常な光景に、サーバルとライオンは目を丸くしながら言葉を漏らし、健太郎と優里恵も驚きが大きすぎて声が出ない様だ。
一方、トキの方も己の身体を改めて確認していた。
「―――そうか。やけに体が軽いと感じていたが、この体は病になど侵されてはいないのだな。今ならば、更なる奥義を使えるやもしれん…」
「…トキっ!! 気を付けろっ!!!」
身体を隅々まで確認するトキだったが、不意に健太郎の怒声が飛ぶ。その怒声に反応しトキが視線を戻すと、エリアを占拠していたセルリアンたちが一斉にトキに向かってきていたのだ! 恐らく、今の戦いでこの場で一番脅威となるフレンズだとセルリアンたちに見られてしまったのだろう。
四方八方から肉薄される形になってしまっている為、トキに逃げ場はない。だというのにトキは慌てない。その場で少しだけ浮き上がり、両手を少し下向けに外に伸ばす。すると、その伸ばした手の先端からオーラの様な物が勢いよく噴出し、トキの左右に陣取っていたセルリアンは一瞬で消滅してしまった。
更に、その体勢のままトキは身体を一回転させる。必然、オーラも場を一回転する形となり、周囲360度を囲っていたセルリアンを、残さず薙ぎ払う形となった。
「
完全に異次元の戦闘を見せつけられ、健太郎、優里恵、サーバル、ライオンは勿論他にもいたフレンズやスタッフが呆然と佇む中、トキは奥義の名前を口にしながらゆっくりと地面に降り立つのだった。
病に侵されていない=全盛期のトキだからね。多少無茶苦茶でも仕方ないね。
北斗有情鴻翔波は北斗無双に出てきたトキの奥義です。そのあんまりな見た目の所為で、北斗有情ローリングバスターライフルとか滅茶苦茶言われてます。