けものフレンズパビリオン ~ 銀の聖フレンズ ~ 作:塞翁が馬
「―――………す……すっごーい! トキってそんなに強かったんだー!!」
「いやー、助かったよ。これで思ったよりも早くゆっくりできるみたいだ。ありがとトキ」
少しの間、トキを含め周囲の者達は微動だにしなかったが、不意にサーバルは興奮気味に、ライオンも爽快そうな笑みを浮かべながらトキに歩み寄る。
それが契機だった。次の瞬間、他のスタッフやフレンズ達も一斉にトキに駆け寄り、単純にねぎらいの言葉を掛ける者から、サーバルと同じく興奮気味に今の戦いぶりや謎の格闘術に興味を示したり、今まで行方不明だったことからトキの身を案じるものまで様々だ。
「み、皆少し落ち着きなさい。その様に一偏に質問をされても答えられぬ」
そのあまりの熱気に流石のトキもすこしたじろってしまう。
「ほ、本当にあれだけいたセルリアンを一瞬で壊滅させちまった…」
「確かに、彼女は私達の知っているトキでは無いわね…」
いろいろな人達…と言っても、スタッフはあまり混じっておらず大体はフレンズ達だが…に囲まれ質問攻めにされ、困り果てているトキを見据えながら、健太郎と優里恵は複雑そうにその光景を見守るのだった。
高台に一つの影があった。
その影…姿形こそ人型ではあったが、纏っている雰囲気や見様によっては液体にも見えるその体は、間違いなくセルリアンのそれだ。
影は見下ろす。様々な仲間達に囲われ称えられ、困惑しているフレンズ…トキの姿をじっと見つめる。自分とそっくりな姿をしながら、自分とは対となる存在を。
不意に影は右手を己の胸に添え、左手を前に突き出した。その立ち姿はまるで歌手の様だ。
しかし、影から歌声が出る事は無かった。仕草から、懸命に声を出そうとしているのは窺えるのだが…。
やがて、影は諦めたように両手を下に降ろし、その場を飛び去ってしまった。その背中には、確かな悲哀の感情が浮かんでいた。
セルリアンの大群を掃討したトキだったが、その後すぐに施設への帰還を求められた。既にそれらしい報告を受けている健太郎や優里恵は勿論だが、どうやら他のスタッフ達も、今目の前にいるフレンズはトキであってトキではないと薄々感づいている様だ。
そして施設に帰還したトキに健太郎と優里恵は検査を受けて欲しいと懇願し、トキもこれを快諾した。トキ曰く、自分も何が起こっているのかよく把握できていないので、出来るだけ調べてもらいたい…との事だ。
こうして始まった検査だが、身体的には何ら異常は見当たらなかった。寧ろ、行方不明前と比べて身体能力は上がっているという結果が出ている。
次に色々な質疑応答が行われたのだが、その結果はスタッフ達を更に困惑させるものだった。
まず行方不明直前まで何をしていたのかと質問したのだが、対する答えは核により滅びた世界で懸命に生き抜いていたという、あんまりにもあんまりなトンデモな答えが返ってきたのだ。
当然、そんな物を真に受けるスタッフはいなかった(中には、真面目に答えてくれと怒ったスタッフもいた程)のだが、暴力が支配する世界、真水は何よりも貴重な物、物資不足により病気や怪我の治療すらままならない、という事を真顔で説くトキの姿には、感じ入る何かがあった。
また、この過程でトキに医学の知識がある事も判明した。その知識量はかなりの物で、医療専門のスタッフ達も舌を巻くほどであった。
とはいえ、そういう発見があったものの結果だけ言えば、どういう状況かは何もわからなかった…というのが正直なところだ。
だが、トキが見つかり一般の人である例の幼女にもそれを認識されている以上、このパビリオンという施設の存在意義としてトキという『フレンズ』は公開しなければいけない。
なので、調査は続行するが何が起こったか明確になるまでは『フレンズ』として振る舞って欲しい、とスタッフ達はトキに頼み込み、それをトキも承諾するのだった。
因みに、あの幼女は程なくして両親が迎えに来ていた。どうやら、両親の一瞬の隙を見てスタッフ同行でないと立ち入り禁止の区域に入り込んでしまい、ああなってしまった様だ。普段はこんなことにならない様にパビリオン側も注意をしていたのだが、トキ捜索隊にスタッフを割いてしまった影響で完全には現場全てを見れない状況になってしまっていたのだ。
翌日、トキはさばんなエリアを歩いていた。
「―――『フレンズ』…か」
周囲を見回しながら呟くトキ。その口調には困惑の色が見て取れる。
昨日、フレンズについて大まかな知識は健太郎と優里恵から聞かされている。曰く、野生の動物が少女の姿に変身したものであり、元の動物の特性に加え人の特性をも併せ持った存在であるらしい。
「俺は野生動物ではないのだが…」
と、少し首を傾げながら歩みを続けるトキ。と、トキの視線が木でできたブランコと、何故かそのブランコを吊るしている木の棒の上に座っている一人の少女を捉える。
「…あの少女は、確かサーバルと名乗っていたな」
そう言って一瞬考えた後、サーバルに近づいていくトキ。改めて挨拶をしておこうと考えたのだ。
「おはよう、サーバルさん」
「うみゃ? あ、トキだ! うん、おはよう!!」
トキに気付いたサーバルが、挨拶を返した後にブランコを吊るす木の棒から飛び降りる。そしてあっという間にトキの目の前に移動してきた。
(…成程、なかなかしなやかな動きだ。元は野生動物というのもあながち間違いではないかもしれん)
「トキ、昨日は凄かったねー! あれ一体何だったの? あ、今までどこに行ってたの? ずっと見なかったから心配してたんだよー! それと、昨日あの建物の中で何してたの? ケンサって言ってたけどケンサってなーに?」
サーバルの僅かな動きを見て感嘆するトキに、容赦なく質問を浴びせるサーバル。
「ひ、ひとつずつ答えていくから少し落ち着きなさい。まずは…っ!?」
瞳をキラキラと輝かせるサーバルに、トキは両手でサーバルを制しながら質問に答えようとした…のだが、その刹那トキは身を翻し、頭を庇うように右腕を上げた。
次の瞬間、トキの右腕に何者かの蹴りが炸裂した!
「防がれたのです…!」「博士の奇襲を防ぐとは…!」
左腕でサーバルを庇いながら、その突然の襲撃者を確認するトキ。どうやら相手は二人いるようで、二人してトキの咄嗟の行動に驚愕している様だ。
見た目はサーバルと同じか少し小さい位の少女。しかし、驚くべきは二人とも空中に制止しているのだ。小刻みに体が上下しているところから、浮いているというよりは飛んでいるという感じだ。
「何だお前達は? 突然こんなことを―――」
「あ、博士と助手だ! もー、イキナリ足蹴にするなんてやっちゃダメだよー」
警戒心を滲ませながら問い質そうとしたトキだったが、その後ろからサーバルが二人の襲撃者に話しかける。どうやら、この襲撃者たちとサーバルは既知の仲の様だ。
「ちょっと試してみただけなのです」「博士の奇襲を防いだこと、褒めてやるのです」
サーバルの非難に、しかし二人の襲撃者は涼しい顔をして受け流す。だが、慇懃無礼ながらもトキを褒めたその口調から、二人の襲撃者の中でトキの動きの評価は上々の様だ。
かく言うトキも、顔には出さなかったが内心驚いていた。攻撃範囲に入るまで、この襲撃者たちはトキに自分達の気配を悟らせなかったのだから。
(見事な気配遮断術だ。恐らくあの二人もフレンズとやらなのだろうが、これも野生動物のなせる業か…)
「それで、二人は何か用なの?」
トキが感心している中、サーバルが二人に尋ねる。
「お前には用は無いのです」「私達が用があるのはトキだけです」
しかし二人はそっけなくサーバルの質問を受け流し、視線をトキに移す。
「…俺に用だと?」
二人に見つめられ、身構えながら低い声色で問うトキ。突然背後から蹴りをお見舞いされるという行為をされた後なので、この反応も当然だろう。
しかし、二人はお構いなしにトキに詰め寄り、同時に口を開いた。
「昨日お前が見せたセルリアンを一蹴したアレに、コノハちゃん博士は興味津々なのです」「なので、その全てを我々に教えやがれなのです」
博士の一人称を調べたら、コノハちゃん博士…というのがありました。個人的に一番可愛いからこれを採用だ!