ハグしよ?プリキュア 作:猫犬
果南たちが空間に入って少しした頃。沼津駅近くで化け物が出たという噂が内浦の方にまで届き、皆心配して善子の家に来ていた。
そして、ウッチーを闇落ちさせていた原因が魔法界に行ったこと、魔法界を救うために果南たちが追いかけて魔法界に行ったことが伝えられた。
「じゃぁ、私たちにできることは無いの?」
「ええ。私たちが空間の穴に入れば、私たち自身に何が起こるかわからないって。せめて果南たちみたいに変身でもできれば……」
「でも、ルカ君達みたいな子はもうこっちの世界にはいないんでしょ?」
「ええ。正確にはそこで寝ているウッチーがいるけど」
善子はベッドに寝かせているウッチーを見て言うが、残念ながら起きる気配はなく、たたき起こすわけにもいかないから、果南たちのもとに行く術が無かった。仮に起きたとしても行けるのは一人だけ。
だから、果南たちに任せるしかなく、このままでは何もできずにただただ時間が流れていくだけだった。
『んー』
すると、ウッチーが目を覚ます。ウッチーは周囲を見回すと七人を視界に入れる。
『ここは?』
「私の家よ。操られていたあなたが解放されたのはいいんだけど眠ってたから」
『なるほど、それは迷惑をかけたな』
「あれ?操られていたのに記憶はあるの?」
『ああ、一応な。それに眠りながらも君たちの会話は聞こえていた。だから、私は早急に戻らなくては』
「ちょっと待って。だったら私たちも連れて行って。向こうにいる二人の力になりたいの」
『そうか。良かろう、ついて来るがいい』
「え?意外とあっさり?でも、変身してないと危ないんじゃ?」
あっさり承諾したことで、七人はルカの話と違うことに首を傾げる。変身していない状態で入ったら危険だと聞いていたのに、まるでそれは問題ないかのような様子だった。
『そんなモノ、結界を張れば問題無い』
「「「「「「「え?」」」」」」」
~☆~
「てことがあって。空間の移動中にプリキュアになる人を決めることになって、ウッチーはその人の潜在能力が見れるとかで私が選ばれて。私は反対したんだけど、皆それで納得しちゃって……。みんなは結界でゆっくり移動してるから結界内にいる必要のない私が先に行くことになっちゃったの」
「そっか。だから、梨子ちゃんだけいきなり現れたんだ」
「でも、そのおかげで助かったよ」
『でも、二人はもう変身できないからまずいよね?実質戦えるのは梨子ちゃんだけだよ?』
『他に衣装は纏える?』
「ううん。まだこれしか」
状況は最悪だった。変身ができなくなった二人に、サポート系の能力の衣装しか纏えない梨子、いつ来るかわからないウッチー達。しかも六人は来ても何ができるかはわからない現状。
「直せないの?」
『ごめん、それは無理。それに、仮に直っても……』
「ルシファーに勝てる見込みがないよね」
「でも、このままじゃ魔法界が」
『わかってる。だけど、変身なしじゃ戦えないし。梨子ちゃん一人じゃそれこそね』
「でも、まだ何か方法はあるはず。だから、追いかけよう。待ってたら手遅れになりそうだし」
『わかった。一応直せないかやってはみるね』
方針を決めるとキュアフォンを返して果南たちはこの世界で一番偉い人のもとに行く。といっても、この世界には人はいないようだから、別の何かではあるが。時間はだいぶ経ってしまっているが、それでも何もしないでいるつもりはなく、ルカの先導のもと歩いたり、背に乗って飛んだりしてなんだかんだで一番偉い人の住む城にたどり着いたのだが……。
「間に合わなかったか」
城のあちこちに穴が開いており、何体かルシファーが作りだした動物と怪物が闊歩していた。偉い人とやらの無事を確認できないが、この惨状からいって望み薄そうだった。
「さて、ここからどうしたものか」
『直すならここの工房を利用するのが一番なんだけど……』
「あの量に見つからずに侵入するのは難しそうだよね」
「誰かが囮になる?」
「危ないから却下。それに、それだと梨子ちゃんが行くことになるよ?」
「だよね。となると、隠し通路とか無いの?」
『残念ながら、僕もセイも知らないよ。あるのかないのかすら』
「うーん、ここは王道の方法で行こう!」
「あっ、嫌な予感」
どこまで行ってもいい方法が浮かばない中、曜が何か思いついたようだった。そんな曜に対して果南は頬を掻くと、曜は考えを話し始めるのだった。
~☆~
「なんで気づかれないんだろ?」
「梨子ちゃん静かに」
「はぁー」
三人は慎重に歩いていた。ルカとセイはマスコットサイズになって果南と曜にくっついている。
梨子は今の状況に困惑を隠せないでいた。
三人は樽の中に入って慎重に歩き、誰かが来るたびにその場に止まって、ただの樽のふりをしてを繰り返していた。
何故だか効果はてきめんで、気付けば工房まであと少しの距離にまで来ていた。
そして、結局気づかれること無く工房にたどり着いたのだった。
工房の中は一切荒らされて無くて、完全に放置されているようだった。不幸中の幸いという事でルカ達は早速修理を始め、果南たちは誰も来ないか警戒する。
『だめだ。あの炎の熱で完全にダメになってる』
「なんで魔法界なのにこんな科学なもの使ってるんだろ?」
『科学の力も利用することで魔法をより使いやすくしようとしたのが仇になったね』
魔法界なのに、今三人の目の前で行われているのは科学のそれだった。キュアフォンを分解したり、組み立てたり。そんなわけで突っ込むも、それはそれのようで、もうそれが当たり前になっているようだった。
「科学の力使ってるんだったら予備とかないの?」
『無いね。元々僕たちが物質界に行くときに持たされていた物で、ここが占拠された以上他のは全部破壊されてると思う』
「残りは梨子ちゃんが持ってるそれだけってことか」
【なるほど。つまり、それを破壊すればおまえらの希望はついえるのだな】
「え?」
声が響いて声の方を向けば、いつの間にかルシファーがそこにいた。
「プリキュア、スタートアップ!」
梨子はルシファーを見るや即座に変身する。そして、先手必勝と空気を叩き、音の波を放つ。
しかし、わかっていた通りルシファーには効果がなく、ダメージは無さそうだった。
「逃げるよ!」
しかし、本当の目的は一瞬でも隙を作ることであり、ルシファーから逃げるように工房を出る。しかし、いたるところに敵がいる訳で悪い状況のままだった。
とにかく階段を登ったり、適当な角を曲がったりして逃げ惑い、
「こちらです!」
「わっ!」
途中で隠し扉からいきなり出てきた少女に引っ張られて果南たちは通路から消え、追っていた怪物たちは気づかずに素通りしていくのだった。
「ふぅ、助かった」
「うん」
「ありがとうございます」
三人はとりあえずの危機が去ってペタンと床に腰を下ろす。お礼を言って少女を見ると、どこからどう見ても人間の女の子に見えるが、足がなく綺麗なうろこに覆われた尾がそこにあった。
「「「人魚?」」」
『『姫様!』』
~☆~
場所は変わり、城の地下に果南たちは来ていた。城にいたであろう人々や近くにいた町人が逃げ込んだシェルター的な場所のようだった。
ルシファーが攻めてきた段階で放棄して身を隠していたらしかった。
「あなた方が向こうの世界の方々ですね」
「……はい」
「申し訳ありません。そして、ありがとうございます。私たちの問題に巻き込んでしまったことに対してお詫びすると共に、ウッチーを助けてくれたことに感謝します」
「ですが、そのせいで今の状況に……」
「いえ、それについては仕方ありません。何も知らない状態で巻き込まれ、ウッチーを助けてくれたと聞いていますから。それに、遅かれ早かれこうなっていたでしょう」
「あれ?どうしてウッチーが救われたって知ってるんですか?」
「あー!」
姫がウッチーの無事を知っている事に疑問を持つと、別の場所から聞き覚えのある声が聞こえてきて振り返る。そこには千歌がいて、その後ろには五人とウッチーもいた。
話を聞けば、こっちの世界に着くや、お城のそばだったから直接ここに来て、果南たちが来るのを待つことにしたらしかった。
で、今に至る。
「そっか、みんなもう着いてたんだ」
「うん。でも、良かった無事で。見当たらなかったときはもしかしてって思っちゃったよ」
「あー、割と危なかったよ」
ルシファーに負けて、ヤタガラスに襲われ、またルシファーに襲われ。思い返してもそうとうギリギリだった。
「それで、この後どうすればいいの?変身が私と曜はできなくなっちゃったけど」
「それは……いえ、私たちの世界の問題。これ以上あなた方を危険にさらすわけには」
「ルカ君たちと同じこと言ってるや。でも、ルシファーの口ぶりから言って、ここを征服したら私たちの世界に次は来ると思う」
『たしかにその可能性は高いね』
いつまでものんびりしていられないので、今後の話し合いに移る。城の地下ということは、いつかはここにいる事もばれるだろうし、それまでに何らかの方法を考えなければ、間違いなく次で全滅してしまう。
姫は果南たちをこれ以上巻き込むことに抵抗があったが、果南たちの住んでいる世界――物質界に攻め込まれる可能性もあるから、もう魔法界の問題とか気にしている意味は無い。
「変身できない件は、もう無理です。攻め込まれた時にキュアフォンは全て破壊され、残りはそちらの梨子さんが持つ物だけですから」
「はー、やっぱりか。そうなるとどうしたものか梨子ちゃんの攻撃が効かなかったし。私が使うってできる?」
「ええ。可能ですが……」
「果南ちゃん、曜ちゃんと二人がかりでやられちゃったから一人で行ったら……」
「……だよね。うーん、せめて弱点とかわかれば。というか、ルシファーは何処から出てきた訳?もともと私たちの世界にいたってことなの?」
「あー、それについては私からなんだけど」
梨子の持つキュアフォンを使えば果南でも変身できることが分かるも、今の状態では勝機は皆無で、果南はそもそもどうしてルシファーが現れたのかという点に疑問を持つ。
最初はウッチーに負の感情が蓄積して闇落ちしたものだとばかり思っていたから、もう訳が分からない。
そんな果南に、善子は申し訳なさそうに口を開き、全員の視線が善子に集まる。
「話を聞いて一つ分かったことがあるの。私が最初に開いた世界が魔法界で閉じたけどそれを利用されたんだと思う。確認だけど、ルシファーは自身の事を“世界を侵略する者”って言ったのよね?」
「うん、そうだけど」
「そう。ならやっぱり利用されたわね。口ぶりから言ってルシファーには世界を移動する力、ないしはそれを持つ協力者がいて、私たちの世界に来ていた。で、偶然閉じかけの魔法界に繋がる空間の穴を見つけて再接続され、ウッチーがこっちに来たタイミングで身体を乗っ取り、魔法界に侵入。あとはそこで暴れた」
「でも、どうして撤退したの?私たちは歯が立たなかったわけだからウッチーの身体を使わずにルシファー自身がやればすぐに終わったんじゃ?それに、わざわざ魔法界に行った理由は?」
【それではつまらぬだろう?遊んだだけだ。魔法界は強固な結界に護られていて行けなかったが、ちょうどあったから利用したまで。物質界などすぐに行けるからな。そして、これで終わりだな。残党もようやく見つけたぞ】
善子の仮説通りなら納得だが、その場合だと魔法界の危機の最初の原因は空間を繋いでしまった善子になる。今の状況で善子を責めても後の祭りだから誰も言わないが。
そして、曜の疑問に答えたのは、何処からか響くルシファーの声だった。しかし、辺りを見回してもルシファーの姿は見えない。
「嘘……」
ルビィが上を向いて信じられないものを見るかのような表情でつぶやき、みんなも上を向くと言葉を失った。
上は天井だったはずなのに、天井が無くなって外が見えていた。正確に言えば、城が何故か宙を浮き始め、そのせいで地下が見えるようになっていた。そして、城が隣の空き地に落ち、果南たちを包囲するように地面の淵で怪物たちがたくさん集まっていた。
「完全に囲まれてる……」
【そして、これで希望は潰えた】
「え?」
パリーンッ!
気づいた時にはリリーの隣にルシファーがいて、ルシファーが手を振るうと、キュアフォンが宙を舞い、そのまま砕け散る。一瞬の出来事で、誰一人反応することが出来ず、変身が解けた梨子はペタンとその場に座り込む。
【ついでだ】
ルカとセイが持っていた壊れたキュアフォンも完全に砕け散りどうやっても修復ができない状態になった。
これで、プリキュアの力を使う手段が完全に絶たれた。もうルシファーに対抗する手段も無くなり、この場は絶望に包まれる。
直後、周囲にいた怪物たちが襲いかかり始める。避難してきた人々は為す術無く襲われて倒れていく。果南たちはそれをただ見ている事しかできず、でも……
「やめろー!」
果南は叫ばずにはいられなかった。しかし、叫んだところで何も起こらない。そもそも、果南はキュアフォンが無ければ戦うことだってできない、ただの人間。だから、何もできない。
もしも、あの衣装を纏えればパンチとキックで怪物たちと戦える。
もしも、あのホイッスルがあれば、音の波で怪物たちを吹き飛ばせる。
自分にできることがあるとすれば……。
「きゃっ!」
「だめぇ!」
ルシファーが梨子に向かって炎の弾を放とうとしていて、果南はそこに飛びかかって方向を無理やり逸らした。ただ、一回分攻撃が逸れただけ。次うまくいく保証なんてどこにもない。
ルシファーは果南を掴むと投げ飛ばし、果南は地面を転がる。受け身を取ったことで怪我無く済む。
「きゃっ!」
【まだ希望を捨てぬか】
ルシファーはそう言って果南に手を向ける。変身もしていない果南じゃ回避なんてできるわけがない。
でも、なにもしないで死ぬくらいなら最後まで抗う。希望を捨てない。だから、何か方法が無いかと策を巡らせる。
【ならば消えよ】
そして、炎の弾が放たれる。
「「「「「果南ちゃん!」」」」」
「「果南!」」
「果南さん!」
「みんな!来ちゃダメ!」
その直前、八人が果南のもとに跳びこんで来て、九人に炎の弾が炸裂して爆発した。
『そんな……』
その光景をルカは見て、涙を浮かべる。変身もしていないただの人間の九人じゃ、今の攻撃で助かる術はない。
『果南ちゃん。みんなー!』
それでも、みんなが無事だと信じて大声で叫んだ。
「あれ?生きてる?」
「それに、どこも痛くない」
煙が晴れるとそこには何故か無傷の九人がいた。九人もどうして自分たちが怪我一つなく無事なのかわからず首を傾げる。
どうしてかわからず周りを見れば、九人とルシファーの間に九人を護るように九つの色違いの水晶が浮いていた。
「なんだろ?」
果南は首を傾げながら手を伸ばすと、果南の手に緑色の水晶が収まり、八人も手を伸ばすとそれぞれの手にイメージカラーの水晶が収まり、九つの水晶が輝き出す。
それと同時に頭の中にこの水晶の正体と知識が流れ込み、この水晶がなんなのか理解する。
【何をした!】
目の前で起きる謎の現象にルシファーは問う。
果南は水晶を握りしめて立ち上がると、みんなを見る。何が起きたかを果南は完全には理解できていない。
どうしていきなりこの水晶が現れたのか。
どうして、果南たち九人を選んだのか。
でも、わかっていることもあった。
「うーん、善子ちゃん的に言えば覚醒ってやつかな?行くよ、みんな!」
「うん!」
「了解!」
「はい!」
「うゆ!」
「ずら!」
「ええ!」
「ですね!」
「イエース!」
もうどうにもならないと思っていた、この絶望的状況をどうにかできる可能性が生まれた。
(ううん。できるかどうかじゃない。どうにかしてみせる!)
「「「「「「「「「プリキュア、スタートアップ!」」」」」」」」」
大ピンチからの覚醒。よくあるやつですね。
では、ノシ