ぶっちゃけヒロインで一番好きなのはダントツで軽井沢なのです。坂柳も勿論可愛いんですがね!
三者鼎立という言葉がある。
三国鼎立なら、あるいは三国志を少し齧った知識さえ持っていればああ、と思う人もいるだろう。簡単に言えば3すくみの状態で均衡が保たれている状況のことだ。
有体に言えば、そう。Aクラスはいま、三者鼎立の様相を呈していた。
特徴的なのはその華奢な体格と可憐な容姿。そして人を寄せ付けるカリスマ性。何よりも目立つのは身体的な理由で使用している杖。本来身体が不自由なことをこの上なく示すそれも、男性ひいては女性でさえ庇護欲をかきたてられる要素と化している。
Aクラスを纏め上げている一人で、その思考は容姿とは裏腹に攻撃的だ。
こちらもまたAクラスを象徴する一人だが、坂柳有栖とは対照的に慎重な行動をとる。そのため彼女とは衝突する場面も多い。
大柄かつスキンヘッドという容姿で人を恐怖させてしまうと思いきや、その言動は紳士的。少々傲慢な面が見え隠れすることもあるが、こちらも人を寄せ付けるカリスマ性に富んでいると言える。
ではもう一人。このクラスの3すくみを作り出しているのはいったい誰なのか。
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4月某日。テニスコートにて。
「小鳥遊さーん! やっちゃえー!」
「まっかせてよ!」
ラケットで打ち返すインパクトの瞬間、この一時こそがなによりも楽しい。
小気味のいい音を相手のコートに叩き込み、あたしはクラスメイトの女子にブンブンと手を振った。
「ゲームセット! アンドマッチウォンバイ小鳥遊!」
主審のコールも終わったので、あたしは応援に来てくれていた二人のクラスメイトのもとへ駆け寄る。
ポニーテールに結った独特の髪はクセがあり、纏めた髪の毛先は後ろで軽くカールさせていた。
オトナの女子を演出しようと髪型には気を使ってきたつもりだが、中学の時の同級生の客観的感想に基づくと私の場合はどうにも147cmという低身長が邪魔をして意図した効果は得られていないらしい。
しかし自身が気に入っている髪型を第三者の意見でおいそれと変えるのもプライドが許さなかった。
そんなあたしの髪は走ることで左右にピョコピョコと跳ねる。いまの高揚感を表すように。
「やっはー。ちょっと噛み応え足りなかったかなーって」
そういうと興奮した様子で二人は言葉を並べてきた。
「見てたよっ。私じゃ目で追うので精いっぱいだったけど、よく打てるよねー」
「煌すっごい! 男子にストレートで勝っちゃうなんて!」
「いやぁそれほどでも……あるかなぁ?」
「なぁにそれ! 感じ悪いぞぉ! このこの!」
キャイキャイと持て囃してくるのも悪い気分ではないため、暫く相槌を返しながら勝利と優越の気分に浸った。
だが、著しく気分を害した人間もいるらしい。
「クソッ!」
「っ……」
叩きつけられたラケットの2・3回跳ねる様に、二人は少し萎縮した様子だ。
そんなのがちょっとだけ面白くない私は対戦相手だった彼だけに聞こえるよう、近くで告げた。
「あーっ、橋本くん駄目だよー。ラケットが可哀想じゃん」
「お前なんかにっ……!」
「こういう小さな積み重ねが、あなたが御執心の方の評価ってやつも落としてるってわからないかな。あたしにとってはどーでもいいけど」
元々この試合は、単なるテニス部員同士の練習試合ではなかった。
もちろん、傍から見ればそのようにしか映らないだろうが、一部の――入学したてで殺気立っている今のAクラスの人間には特別な意味を持っている。
この世は力が全て。
それは単純な暴力の話ではなく、学力・コミュニケーション力・情報収集力・運動能力等々……様々な場面においてどれだけ秀でているかが個々の人物への評価へとつながっていくのだ。
優秀な人材が集まりやすいAクラスにおいては特に、それらは全体の人心を掌握するにあたって重要な要素だと言える。
この学校は実力がものを言うなんてことは、よほどの能天気者でない限りこのAクラスにいて察せられない者はいない。たとえ今が入学から三週間経過した時期だとしてもだ。
だからこそ、集団を纏め上げるリーダーの選定に皆躍起になっている。
そんな情勢でグループが3分割されている中、その内2グループの中心人物二人がテニスの試合を行うとする。
そうなるとそれは単なるクラスメイト同士のお遊戯なんて捉え方はされない。
グループ間の闘争という形を小さいながらも形成し、ある種の格付けがなされてしまうものなのだ。ギャラリーからしたら無意識のうちに。
当然力以外にも判断材料はある。内面――つまり性格だ。同じくらい優秀な人間がいたとして、性格が悪い人間といい人間、どちらを選ぶか。議論するまでもない。だから、ここであからさまに橋本くんを煽り、周囲に性格の悪さを露わにするのは自らの評価を下げてしまうようなものだ。
だから――あたしはこうする。
膝をついている彼の前に徐に手を差し出すと、
「今日は楽しかったよ! 橋本くんのプレイスタイル面白いんだもん、びっくりしちゃった。今度はお友達も連れてきて欲しいなー。今日の試合は記憶に残る名勝負だったからさ、見せられなかったのが残念で」
ああ、本当に面白かった。
必死にボールに追いすがって右へ左へ奔走してなお、惨めに敗北する彼の姿はとても滑稽だったから。
「お前っ――」
「あら。もう終わってましたか」
コツコツと杖をつき、数人を周囲に侍らせてその人物は唐突に現れた。
「こんにちは、小鳥遊さん。その様子だと結果は聞くまでもないようですね」
坂柳有栖だ。
自分の派閥の人間が他派閥の人間とテニスをするというから、単なる好奇心で見に来ました、と言わんばかりの雰囲気だ。
だがこの少女はそんな理由でホイホイ物事に顔を出すなんてことはしない。当然なにか別の用件があるんだろう、恐らくはあたしに。
「やっはろー、坂柳さん。随分大所帯だねぇ」
「ふふっ。お邪魔かは思いましたが、御存じのとおり私はこの有様で。皆さんにはことあるごとにご迷惑をおかけして心苦しい限りですが、寄り添ってサポートすると言って下さった親切心を無下にもできないですから」
それにしても、と一呼吸おいて彼女は私の後ろを面白そうに一瞥した。
「あなたも大概に
さっきまで応援していた女子二人は私の体をかばうように両隣に寄り添っていた。
ふと軽く後ろを確認すれば、応援席で待機させていた男子5人がいつでもそれなりの対応ができるよう様子をうかがっている。
「そう見える?」
「クラスメイトが仲睦まじいのは喜ばしいことです。わざわざ否定することもないでしょう」
一瞬――それは何時間にも感じられるほどだったが、視線が交錯した。
そしてそのつながりは坂柳さんから一方的に打ち切られ、話の流れは変遷した。
いままで黙りこくっていた橋本くんが口を開いたのだ。
「も、申し訳ございません! 俺――」
「橋本くん」
それ以上余計なことを言うな、というプレッシャー。
それを発することができるのは彼女のカリスマゆえか、とにかく橋本くんはヒュッと喉から出そうになった言葉を押し留め、目の前の支配者の宣告を待った。
「小鳥遊さんに言うことがあるのでは? 一緒に試合を作り上げた友人が、手を差し伸べてくれたのです。たとえ内心で感謝の気持ちに溢れていたとしても、言葉にしなければ伝わりませんよ」
橋本くんはその言葉に普段の冷静さを取り戻したのか、青褪めた顔に表情という名の仮面をかぶせた。
周りから見たら爽やかな笑顔、だがその内心はさぞ腸が煮えくり返っていることだろう。
「はい。――いやぁ小鳥遊さんたらつえーわ。完敗完敗。でもま、お蔭で勉強になったっつーの? 遠慮なく技術は盗ませてもらうとしますよ。今日は良い試合をさせてくれてサンキューね」
「いえいえー。こちらこそ」
周囲からパラパラと両者を称える拍手が起こり、やがてその観客もゲームが終了したことで興味が失せたのか一人また一人と解散していく。
暫く待てば、もうこの場にいるのは坂柳さんが連れてきた人たちと、私の用意した人たちだけだった。
「気付いてましたか?」
ふと坂柳さんが問いかけてきた。
「んー? あたしにはさっぱりだぁ。やけに照明がピカピカと反射してた人を見たくらいで」
「身体的特徴を話のタネにするのは、あまり褒められたものではありません。彼の場合は事情もあるようですし」
クスクスと笑って窘めてくる。言わんとしていることは間違ってないようだ。
「いくら観客席が集団で紛れていてもアレは目立つよー。戸塚くんに任せればよかったのにねぇ」
「彼は自分の目で確かめたかったのでしょう。貴女がどれだけ
「あたし個人の考えで言えばどうでもいいんだけど、こうも毎回ギスギスしてると考え物だなぁ」
この三週間、クラスがおおよそ三等分されると状況が今のようになるまで、さほど時間はかからなかった。
Aクラス同士で試合やら何かをするたび、評価を気にして行動をすることが習慣化されてしまっている。
「今度はあたしが聞くけど、坂柳さんは葛城くん以外の観客について気付いてた?」
「ふふっ。あんなに情熱的な視線を向けていたら嫌でも気付くというものです」
目ぼしいところで言えばBクラスの神崎隆二と一之瀬帆波、Cクラスの龍園翔。
Dクラスに関してはいわゆるクラスのカースト上位と思われる平田洋介や軽井沢恵や櫛田桔梗といった顔ぶれは見当たらなかったため、そういう情報戦はまだ行える状況にないと判断している。最も、Dクラスの生徒がいなかったという確証はない。いたとしても流石にこの時期で学年全員の顔と名前を一致させて記憶するほどの優秀さはあたしにはないし。
ただ、あまりよろしくない状況だ。
BクラスとCクラスは察したことだろう、今のAクラスが内紛に注力していることを。
まぁ葛城くんがどうなるかは知らないが、坂柳さんは易々と足元をすくわれるような人ではない。
とはいえ、他クラス全てが団結してAクラスに攻勢をかけてくるという事態はできるだけ避けたい。
そのためには弱みを見せてはいけない。
Aクラスに纏まりを生み出すことで、付け入る隙をなくす。
「やっぱりAクラスには纏まりが必要なんじゃないかな。リーダーは、一人でいい」
「奇遇ですね、私もそう思っていました。だからこそ、今のAクラスの状況がある」
あたしたちはどちらからともなく嗤った。
――あたしの名前は
自己評価的にはちょっと背が低くてスポーツと勉強が得意なだけの一般的女子高生。
紆余曲折あって、Aクラスで派閥を作って楽しくやってます!
目標はクラスの皆と
誠心誠意、頑張ります!
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部活動:テニス部
評価
学力:A
知性:C
判断力:B+
身体能力:A-
協調性:B-
面接官のコメント
明るい印象を受ける生徒で、中学時代の成績は文武両道を体現している。
一見これと言った欠点は見当たらないように見えるが、本人の自己評価は著しく低く、物事を客観的に捕えるのが苦手なように見受けられる。反面、中学時代に事件が起こった際は彼女の的確な指揮によって大事に至らず済んだという証言もあり、一概に評価を下すことを控えて知性はCで保留とする。
教師のコメント
Aクラスを牽引するに値する生徒だと評価したい。しかしその思考にはどこか危ういところがあり、目的達成のためには手段を選ばない節がある。今後の人格的な成長に期待する。また、中学時代の彼女の生活について、改めて調査を実施するべきだと提案する。
こんなのでも読んでくれる人が一人でもいれば、細々と続けていきたいなぁ。