Aクラスのリトルガールズ   作:エントロピー

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小鳥遊ちゃんは基本的にクズです!


変化

時は過ぎ。

pr(プライベートポイント)が支給される月頭が訪れた。

この日の授業はすべて終わり、時は放課後。

多少の違いはあっても4月に支給された10万ポイントから数値が変動しているため、クラスの話題はそれでもちきり――

 

――ではなかった。

 

Aクラスはこの約一週間で大幅に情勢が変化したのだ。

今まで三つ巴で均衡を保っていたAクラスで、ある一つの派閥が吸収・合併という形で他の派閥に吸収された。

失脚したリーダーはさぞ失意の最中にいることだろう。誰もがそう思った。

しかし、それは見当違いである。なぜなら。

 

「有栖ちゃーん! 相変わらず可愛いねぇ!」

 

挨拶代わりの抱きつき攻撃(スキンシップ)

あたしは今、こうして有栖ちゃんを愛でることに忙しいからね!

 

「……少しはポイントにも関心を示してはいかがですか。あと変なところを触らない様に」

 

「変なところ……それはどこのことかなぁ? ぜひご教授をば。えへへー」

 

今のAクラスは、ここ最近のあたしが異常に有栖ちゃんに接触をしていることに関心が集まっている。

それもそうだろう。つい数日前には敵対する派閥のリーダー同士、剣呑な会話が絶えない関係だった二人が、こうして(ほぼ一方的にとはいえ)交友を深めているのだから。

 

「ねえ小鳥遊さんさぁ」

 

「なぁに橋本くん。あたしは今ちょー忙しいんだけど」

 

椅子に座る彼女の背後から軽く抱き着いて、ベレー帽に顎を軽く載せてみる。

とくに抗議はないようだ。ふふん、当然よね。

どうだと言わんばかりのドヤ顔で、彼を見た。

 

「キミ、一体何を企んでるのさ。先週の試合の後からどうにもおかしいよね。まさか……」

 

「ふふっ、橋本くん。好奇心を持つのは良いことですが、それは必ずしも良い結果を生むとは限りませんよ? ほら、好奇心は猫を殺すと言うではありませんか」

 

ね? とあざとく頭を傾ける有栖ちゃん。

お蔭でベレー帽がずれて、彼女の髪のいい香りがあたしの鼻腔を支配した。

 

「ねー。そーいうこと。分かったら邪魔しないでねっ」

 

しっしっ、とあっちいけというジェスチャーをすると、彼は舌打ちをして同じく坂柳派で彼女のボディーガード的な立ち位置にいる鬼頭くんの近くの席に座り、こちらを再び窺いだした。

 

「これでクラスも二つに絞られた。葛城くんの派閥も、彼の忠告不足でポイントを使い込んでしまって、早くも見限りだした人がいるね」

 

「ええ。ただ、貴女の派閥だった吉田くんにも、予想外の出費があったようですが」

 

「アレはどーしようもないでしょー」

 

やれやれと額に右手を当てながら吉田くんを見た。

どうやら葛城派筆頭の戸塚弥彦に事情を聴かれているらしい。

 

「おい吉田! なんだって監視カメラを壊すようなことしたんだ! 下手したらクラスポイントが大幅に差し引かれてたかもしれないんだぞ!」

 

「し、仕方ないだろ……。あんな中庭にも監視カメラがあるだなんて思わないし。壁に向かって投球の練習してたら、勢い余って手が滑っちゃったんだよ……」

 

校舎内のカメラはバンダルドーム式のカメラで、十分な耐久性を有していたはずだ。よほど球速が出ていたのだろう。

受け答えの覇気のなさに、戸塚くんは鬼の首を取ったとでもいいたげな表情を浮かべている。

 

「とにかく。お前は一連の流れを葛城さんに説明する必要が……」

 

「うるさいなぁ、真嶋先生が仰っていた通りだ。結局その件は俺と学校の間で話は済んでるんだから、お前も葛城も関係ないだろ……!」

 

話をこれ以上続けたくないのか、流れを打ち切るとそのまま教室を出るつもりのようだ。

それと、と前置きして振り返る吉田くんに、先程まで詰め寄っていた戸塚くんは気圧されていた。

 

「葛城は別に俺らのリーダーなんかじゃない。リーダーぶって行動を逐一報告させるような真似は止めてくれよな」

 

「小鳥遊の派閥はもう消滅したも同然だ! 今は内部で争ってる場合じゃないことくらいわかるだろう!」

 

その言葉に吉田君は、どの口がそれをほざくのか、と言いたげな失笑で返すと教室から出て行った。

 

 

 

「消滅、ねぇ」

 

とても心外だ。

あたしはただAクラスを纏める最短距離を選んだだけだというのに。

まぁ他人にどう思われようと構わない。最後にあたしが思い描く形に収まっていれば、些細な問題でしかない。

気付けば戸塚くんが気まずげにこちらをチラチラ見ていたため、満面の笑顔で返してあげた。

顔を逸らされた。なぜ。

 

「あそこでまごまごしてる戸塚くんの言い分はともかくさ。そろそろ立場をはっきりさせるべきなのは確かなんじゃない? 小鳥遊さん。坂柳さんに従うってんなら、相応の態度ってやつを見せてほしいもんだねー」

 

右肘をつきながら、小馬鹿にした表情で橋本くんがこちらを見ながら言った。

気付けば、まだ教室に残っている生徒たちも会話を止め、こちらをチラチラとみていた。

 

「んー、時と場所は考えて欲しかったなー……」

 

「答えになってないな。ま、たしかにお呼びじゃない方々はいますがね?」

 

その物言いに戸塚くんが噛みつこうとしたが、一人の男がそれを制した。

 

「弥彦、場所を変えよう。今日のポイントの増減について、皆で話し合いたいことがある。ここは少し……騒々しいしな」

 

「しかし葛城さん! 奴ら何をしでかすか……吉田の奴の話だってどこまで本当か、わかったもんじゃない!」

 

「問題ないさ。たしかに俺たちは互いに腹の中で何を考えているかわかったものではない。しかしクラスポイントはAクラス共有の財産だ。あいつらだって簡単にそれを吐き出すようなことを是とするわけではあるまい。その点に関しては信用してもいいんじゃないか」

 

クラスに懐が深い印象を与えるためか、意図は測りかねるが、クラス全体に演説をするかのように大仰に葛城くんは戸塚くんを説き伏せた。そしてあたしと有栖ちゃんそれぞれに視線を投げかけてくる。余計なことはするなよ、と。

 

「ふふっ」

 

有栖ちゃんは眼を閉じて、小さく笑った。彼女なりの肯定だろうか。とにかく、それ以上の意思表示をする気はないようだ。そうなるとあたしも何らかの返事をしなければならない雰囲気だが。

ここは――

 

「……」

 

言葉はない。ニコニコと表情だけ貼り付けて葛城くんに顔を向けた。

 

「……行くぞ弥彦」

 

「は、はいっ!」

 

葛城くんの一声に、戸塚君を始めとした葛城派は教室を出て行った。

 

……まったく、何が信用なんだか。

結局のところ、彼は有栖ちゃんはおろか、あたしだって全く信用していない。

ここで教室を離れたのも、単なるパフォーマンス。何よりも優先してクラスのことを考えているように見せることで、あたしと有栖ちゃんよりもクラスを導くにふさわしい人物がここにいるぞ、とアピールしたわけだ。

 

気に入らないなぁ。

 

ときに、身長が180cmある彼からしたら、150cm以下のあたしや有栖ちゃんを見るには、どうしても上から下に見下ろす形になる。まぁ身長差は仕方ない。いつもはさして気にしていないのだけど。

今日は距離があった。別に身長差なんて関係ない。

会話の節々、単純に雰囲気が見下していた。

 

 

――たかが駒程度が見下さないでよ、■すぞ。

 

 

 

「――さん。おーい小鳥遊さーん」

 

「はっ。有栖ちゃんの抱き心地が良すぎて気絶してましたっ……!」

 

不覚。すぐさま有栖ちゃんから離れ、よろよろと自分の席に着席した。

 

「あら。もうよろしいのですか? ようやくほどよい暖かさに慣れてきたところでしたのに」

 

なんだこの可愛い生物。

クスクスと笑う彼女の後ろには頭に青筋を浮かべた橋本くんの姿が。

 

あ。すっかり忘れてた。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

あたし以下旧小鳥遊派が坂柳派に加わるに当たり、橋本くんとあたしがした契約はこうだ。

 

・5月中に葛城派から人員を2人引き抜き、坂柳派へ入れる手引きをする。

・毎月5万prをあたしから有栖ちゃんに振り込む。紙面による拘束はとくに行わないが、違反した場合は即背信行為として判断する。

 

正直温い。穴だらけだ。

しかし当の有栖ちゃんは別にこれだけでいいと判断しているため、橋本くんも強くは出れなかった。

今月分の支払いは既に済ませた。今は好物のスペシャル定食を食べ、()()()()西春香(にしはるか)ことにっしーと世間話をしているところだ。

 

「うんうん。ショッピングに勤しんだ後はコレに限るよねぇ」

 

以前から欲しかった服の数々。数着ではあるが手に入れることができてホクホク気分。

 

「きらりん、そんな無駄遣いしちゃっていいの……? ()()()()はまだ内緒なんだよね……?」

 

「にっしーは心配しすぎ。5万pr払いはするけど、あたしの稼ぎが他にあるなんてことはたぶん有栖ちゃんも承知の上なんだよ。その方法はともかくとしてね」

 

有栖ちゃんにとってもあたしにとっても、こんな契約はお遊びでしかない。

ただ、橋本くんや鬼頭くんのような純粋に有栖ちゃんを崇拝している人から見れば、ほんの約一週間前には別の派閥を率いていた人間がどの面を下げて有栖ちゃんとイチャコラしてんだこらー、って話。

だからこれは必要なこと。

 

あたしは目線を手元のカードへと移す。

 

304853pr。

――()()は使いようだよね。

 

「さぁ、早速やりますかぁ! ……テニスを!」

 

にっしーは困ったように笑った。

 

 

 

この学校においてテニスコートはある種聖域だ。

野球やサッカー、バスケなどといった、よりメジャーなスポーツにグラウンドや体育館は占有されており、その他の部活は各々別の区画を用意されて活動している。

中でもテニスコートに関しては生徒が試合に集中できるよう、試合観戦にわざわざ訪れようとでもしなければ生徒の目には決して触れることがない屋内にある。こんな場所だからこそ、先日の試合で目立った顔ぶれはすぐに見つかったというわけ。

この学校では、橋本くんが所属する男子テニス部と比較して、女子テニス部の規模は贔屓目に見ても小さい。

しかし、規模とは関係なく平等に、男子テニス部と女子テニス部にはそれぞれテニスコート専用の棟が一つずつ与えられている。コートは4面。若干持て余し気味だと言っていい。

空調が完備されているため、窓ガラスはない。完全に外からの視界はシャットアウトされているわけだ。

 

 

あたしはこの場所が好き。

雑音はないし、好きな作業(テニス)に没頭できるし、挙げてしまえば利点は語り尽くせないが――

 

――何より、色々と()()がいいからね。




7.5巻の軽井沢最高。
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