でもAクラスで話を回すとなると現状どうしてもキャラが限られて話がワンパターンになることを危惧してたり。こういう回もあるよね、ということで必要経費としてご理解ください。
話が進んで無人島編で他クラスとの交戦になれば改善されてくるはず。
部活動の活動時間はどの部活も共通して22時まで。
テニス部に関しては顧問の教師はいない。時間管理は監視カメラによって行われ、それ以外のルールは、基本的に部活動ごと生徒の自主性に任せられている。
そうなると自然と部長の権限は非常に大きいものになる。部費の管理も部長の采配しだいだ。明らかに部活動の趣旨に合わない使い込みとなると流石に重い処分が下されるが、それでも理由さえつけられれば自由度の高い買い物ができるといえる。その分、
部費は4月頭の時点で、前部長から指名を受けていた生徒に振り込まれる。金額は学校に対する貢献度から部活動ごとに調整されており、女子テニスの場合は40万pr。正直少ない方だ。大半の部活動はもう一桁多い金額をもらっている。
そんな部活を部長として牽引しているのは3-Dに所属する生徒だった。
夕方の部室棟には、女子の姦しい練習風景があった。
「はーい! もっと声出していこー! そんなんじゃ男テニに舐められるよー!」
『はい!』
高育ー! の掛け声と共にコート4面の周りを走り、ファイ、オー! と掛け声を返す。
部活のランニングは勿論必要だと思う。ただ掛け声っているのかな? と思いながら適当に掛け声を出していると、ウチのクラスの沢田さんが野次ってきた。
「ほらほら小鳥遊、もっと声出しなよ。人数少ないこの部じゃ、サボってたら丸分かりなんだからね!」
これは単なる嫌味だ。部活は熱心にやるべきだという気持ちもないわけではないんだろうけど。
何より彼女、葛城くんのグループの子だし。
「ごめんごめん。声出しってさー、部の団結力上げるとか競技中に大きな声が出るようにするとかいっぱい効果はあるんだろうけど、ウチの部に関しては無駄なんじゃないっかなって思ってねー」
「無駄って何よ。分かってないよねー、小鳥遊さんは。そんなんだから坂柳にいいようにしてやられたんでしょ」
「あははっ。そういうことでいいんじゃなーい? でもまぁ、一つだけ言えることはあるよね」
「なによ」
「周りから見たらあたしたち、どっちもサボってるようにしか見えないだろうなーって」
部長は眼を光らせるとランニングを止めさせ、こちらに向かってきた。
「あなたたち、やる気あるの? ……罰として今日から三日間は22時近くまでみっちりやってもらうから」
「ちょっ、小鳥遊はともかくなんであたしまで!」
「文句があるなら聞くけど、罰は変わらないからね。それでも不服なら辞めなさい、別に
わーい居残りー。最悪だー。
「ほんっと最悪!」
時間は21時40分。この棟にはもうあたしと沢田さんに、部長の3人しかいない。
部長はスポーツ飲料を買いに自販機に向かった。自販機は棟の入り口にあるため、棟の中心部にある更衣室からは少しだけ距離がある。鬼の居ぬ間にというわけだろうか、彼女は鬱憤を晴らさずにはいられないらしい。
「アンタのせいだからね! 私何も悪くないのに……!」
ボブカットの髪をくしゃくしゃに振り乱してあたしを睨む。暫くすると怒りの対象が移ったのか、愚痴をこぼしだした。
「あの女もあの女よ……部長だからっていい気になってさ」
女子テニス部部長。4月当初に就任してからというもの、ある
「きっとテニスがなによりも好きなんだよー。じゃなかったらここまであたしたちに付き合わないって」
もう22時も近い。あたしと沢田さんがばっくれる可能性があるとはいえ、わざわざこんな夜遅くまで練習を見ていたというのは並々ならぬ情熱があるということだろう。
「は、どうだか。知ってる? あの女が部費を着服してるって噂。……知るはずもないか、あなたは葛城くんとは違ってそういったことに疎そうだもんね」
部費の着服は重罪だ。内容が悪質なら退学すら有り得る。
「部長になった途端、自分以外のクラスの3年を全員部から追い出しての独裁状態。ヤバい奴だとは思ってたけど、3年だろうとDクラスってのは野蛮な連中ね」
これは事実。彼女が部長になってから唯一といっていいトラブル。
体験入部の際に顔合わせもあった3年生の大半が、正式入部をした日にはいなくなっていた。
何かを勘ぐるなというのが無理な話か。
「証拠もないのにそこまで言わなくてもいいんじゃないかなー」
「なくてもわかるでしょ。球や清掃用具がボロボロになっても買い換えようとはしない。更衣室の空調が故障しても、修理する気配すらない。一体部費はどこに消えたのかしら?」
そうこう言ってるうちに、廊下から足音が聞こえてきた。部長が戻ってきたようだ。
彼女も流石に本人がいる前でそういう話をするつもりはないらしく、視線をあたしから外して黙った。
「今日遅くまでよく頑張ったね。はい、これ飲みなさい」
そういうとあたしたちに一本ずつスポーツドリンクを差し出してきた。
沢田さんはバツが悪そうにそれを受け取り、礼を言う。
「ぁ、りがとうございます」
「わーい! 部長大好きー!」
あたしが抱き着くと困った顔をして受け止めた。
「こうしてる分には可愛いんだけどねー……。まだ二日ある。 終わった気分に浸らないでよ」
「うへぇー。鬼ぃー」
「ほんと現金ね貴女は……」
暫く黙っていた沢田さんを見かねて、部長は言った。
「大丈夫よ。毒なんてはいってないから。ケチな私だって、財布さえ潤ってれば後輩を労りもするっての」
「それって月頭しか後輩は労わらないってことじゃないですか。部費もあるんだから、普段からケチらなければいいのに……」
その言葉にあっはっは、と返すと部長は手をひらひらさせて寮へと消えていった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
明くる日の昼休み。
コバンザメのように有栖ちゃんにくっついている男衆も、ここにはいない。
流石にこの男子禁制の雰囲気漂うカフェに来るのは憚られたということか。
まさに天国。やったね。
そういうわけで、今日は真澄ちゃんと有栖ちゃんの3人で昼の一時を楽しんでいる。
「煌さんとこうしてお茶をするのも二度目ですね」
「うんうん! 前はお茶って気分じゃなかったし、今回は昼休みだしで散々。次は放課後気兼ねなく話したいもんだねー」
「ふふっ。そうなるともっと人が欲しいですね。真澄さんは当然として、西さんと交流を深めるのも楽しそうです」
「にっしーも喜ぶよー。あの子ったら女子力が欲しいーって日頃から呟いてるのに、人見知りなもんだから中々そういう場所に顔出したいって自分から言えない子なんだ」
「……ねぇ。私帰っていい?」
なんとも気味の悪いものを見た、という表情で真澄ちゃんが早くもギブアップ宣言。
まだ飲み物に口すらつけていないというのに。
「駄目駄目ー、真澄ちゃんももっとはしゃごうよっ。せっかくの女子会、しかもここには天下の有栖ちゃんがいると来た。これはもう楽しむっきゃない!」
すごい勢いで舌打ちされた。
そんなに嫌か、まぁそれもそうか。
「そっかー。自分の弱み握ってる子と一緒にお茶しても楽しくないよねー」
「ちょっと。まさかコイツに話してないでしょうね」
「それはありませんのでご安心ください」
我関せずといった有栖ちゃんに不満そうな表情をしながらも、強くは出れない様子。
すごく……イイ。
「あーあ。あたしも真澄ちゃんみたいな子欲しいなぁ」
「……喧嘩売ってんの?」
眉間に皺を寄せてこっちを睥睨する真澄ちゃんに小さく笑いを返す。
にっしーとは別の方向性で弄り甲斐のある子だ。なるほど、こういうのもあるのか。
「こわーい。助けて有栖ちゃーん! 真澄ちゃんがいじめるのー」
わざとらしく抱き着くとそっと頭を撫でてきた。
無視されたがこれはこれで幸せ。
「真澄さんはあげられませんが……その代わりくらいはもう目星がついているのでは?」
「やははー、実はそうなんだ! いじめ甲斐がある気の強ーいのが一人、ね」
葛城くんが腐らせるには実にもったいない。
そして――駒に感情はいらない。
「アンタみたいな面倒くさいのに目をつけられた奴に心底同情するよ私は」
あたしのニヤケ顔を見て少し怯むと、真澄ちゃんは呆れた表情でそう言った。
気付けば、真澄ちゃんのコーヒーは一口も手を付けられることなく冷めてしまっていた。
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葛城くんが上手いこと運んだのか、Aクラスにはもはやクラスポイントを差し引かれるような行動を起こす人は一人もいなくなっていた。
ふと前の方を見れば、沢田さんが葛城くんに窘められている様子が見えた。大方、昨晩の部屋への戻りが遅かったことを派閥内の女子に密告され、そこからテニス部での出来事が明るみになったってところか。話の流れであたしのことにも言及したのか、こっちを二人で一瞥したので、小さく手を振っておく。
苦虫を噛み潰したような顔をされたが、これからのことを思うとあたしは頬が綻ぶのを止められなかった。
待っててね。今にあたしを見たら笑顔しか浮かべられないようにしてあげる。
そして放課後。部活はつつがなく終了。
21時を過ぎると昨日と同様にテニスコート棟には3人しかいなくなった。
「ふーっ、お疲れさん。あなたたち、清掃終わったらもう着替えていいよ」
「まだ22時解散には早いんじゃないですか?」
呆れたように沢田さんが言うと、部長は笑う。
「いーのいーの、そんなの私の匙加減だし。今日は二人ともよく集中してたわ。ご褒美にまたドリンク奢るよ! 待ってて」
遠慮の言葉を伝える前にたたたっ、と走られたため、引きとめようとしたあたしたちの手は空を切り、偶然触れ合った。
「あ……」
「あ。あの、さ……昨日は悪かったわよ」
「おおっとー? どういう風の吹き回しっ?」
「うっさいわね。葛城くんに言われたの。『たしかにお前が小鳥遊を窘めようとしたことは間違っていない。しかし、無用に煽るようなことはするな』ってね。それで思ったのよ。アンタはたしかに敵だけど、自分の派閥がなくなって気が気でないような人に言うような台詞じゃなかったなって。だから……もういいでしょっ」
いいんだよ謝らなくて。こっちはこれから、もっと酷いことをするんだからさぁ。
気分が白けるじゃない。
「いえいえ。こっちも上の空で部活に身が入って無かったしね。気にしないでよー」
「あっそ、じゃこの話は終わり。……にしても22時まで居残りってのも怖いわよね。ここってテニスコートに一つしか監視カメラがないから、変質者が潜んでてもおかしくないもの」
「そうだねー。元々人の出入りが少ないし、学校も付ける意義が薄いと思ったんだろうねー。校則が22時までになっているとはいえ、こんな遅くまで残ること想定してなかったんだろうなって」
そうこうしてると少し急いで買ってきたのか、辛そうにしている部長が戻ってきた。
「……はい。二人とも、いい雰囲気じゃない。少しは打ち解けた?」
「だ、誰がこんな奴と……そりゃまぁ、少しはマシになりましたけど……」
「やたっ。嬉しいなぁ、沢田さんからそんなこと言われるなんて。……そうだっ。仲直りの記念に、明日の居残りではゲームでもしようよー」
「ゲーム?」
「うんっ。まぁテニスの試合をするだけなんだけど……。勝った方の人の派閥に負けた方が入るように命令できるっていうのはどう?」
沢田さんは少し考えている様子だ。恐らく、葛城くんに相談すべきか迷っているんだろう。
ま、仮に今しようとしてもさせないんだけどね。
何が何でも、決断はこの場ですぐにしてもらう。
「アンタが今後、葛城くんの派閥に入ったとして……アンタの元派閥メンバーも付いてくるって認識でいいわけ?」
「もちろんだよー!」
「じゃあ、乗った。ここでアンタらは確実に潰しておかないと、面倒だしね」
話がまとまりそうになってきたところで、部長が口を挟んできた。
「あのさっ。もう遅いし、今日はこれで――」
「部長っ」
あたしは部長に笑顔を向けた。
「今日はありがとうございましたっ。お疲れ様ですっ!」
「……」
「お疲れ様ですっ!」
「……わかった。もう何も言わないよ。じゃあね」
そう言うと部長は駆け足で逃げるように寮へと去って行った。
「さて、と。そーだ。口約束だけじゃ不安だよねー。簡単にだけど、書面を作ろうかー」
書面の内容を簡単にまとめると、以下の通りだ。
=============================================
・試合中は主審を部長が行い、両者を含めた3名を除く第三者の介入は公平性を期すため原則認めない。
・試合の結果、勝者は敗者に対して以下の命令を行使することができる。
〇沢田恭美が勝利した場合:小鳥遊煌に対して、以降の葛城康平への妨害行為の一切を禁じ、協力関係の構築を強制させる。
〇小鳥遊煌が勝利した場合:沢田恭美に対して、以降の小鳥遊煌への妨害行為の一切を禁じ、協力関係の構築を強制させる。
※ここでいう妨害行為とは、直接的・間接的なものを問わずすべてを対象とし、契約履行の後違反が発覚した場合は即座に退学を勧告できる。このことは契約書へのサインを持って両者が同意しているものとする。
=============================================
「この書面はコピーの二部を私たちで一部ずつ共有。明日部長に原本の一部を渡して、立会人になってもらおー。もし勝敗について虚偽の申告をしても、部長の証言とカメラの映像が証拠になるよ」
「たしかに確認したわ」
「葛城くんに相談するのは自由だけど、彼はまずこんな試合にいい顔はしないだろーね。まっそこは沢田さんの裁量に任せるよー」
その後書面にサインを書いたあたしたちはコピーの二部を刷り、それぞれで保管した。原本に関しては明日部長に渡すということで、一時的にあたしが預かることになった。
そして試合の時は、訪れた。
「じゃあ二人とも。確認するよ? 試合は3セットマッチ。勝者は敗者に対して、自身の派閥への引き抜きを強制的に行える。オッケー?」
無言で、あたしたちは進めろと目線で訴えた。
「両者向かい合って。始めるわよ」
「フィッチ?」
「スムース」
沢田さんがラケットを回転させる。
やがてラケットが地面に倒れて止まり、沢田さんがエンドマークを見せてきた。
結果は……スムース。
「じゃ、あたしはこっちのコートをもらうよ」
「なら、サーブをさせてもらう」
「3セットマッチ、沢田トゥーサーブ・プレイ!」
ボールが高く投げ上げられ――次の瞬間。
ボールは風となって吹き抜けた。
「
「アンタが強いのは十分知ってる。でも、私は勝つから」
あたしはあえてその言葉には微笑で返し、次のサーブを促した。
先程と同様に打ち込まれるボール。眼でも捕えている。だが、
気付けば、状況は大きく変化していた。
「ゲーム沢田。ファーストゲーム」
「……なんのつもり」
思いっきり睨みつけるその視線には、侮蔑の色が濃く込められていた。
「んー?」
「アンタから仕掛けてきたゲームでしょ……真面目にやりなさいよ! なんなのコレは!」
「……ハンデ? っていえば満足なのかなっ」
「……ふっざけんな!」
「まーそうかっかしないでよー。今度はあたしがサーバーだね。いくよー……っと!」
手首の調節は重要だ。
スナップを聞かせてトスをする。
刹那。
思いっきり力を込めて打球する。すると、ボールはコートとは見当違いな方へと飛んでいった。
「あーらら。やっちゃったぁ」
「これもハンデってわけ?」
「違うよー。ほら、後ろを見て」
「は……――?」
そこには――
――無残に破壊された監視カメラの成れの果てがあった。
「茶番はここまで。じゃ、そろそろ本番と行きますか!」
このつまらない試合も、すぐに終わらせてやる。
次話で小鳥遊ちゃんのクズい部分をより明るみに出していく予定です。