Aクラスのリトルガールズ   作:エントロピー

7 / 8
お久しぶりです。
よう実ももうすぐ一年終わりますねぇ。10巻で消えた彼に黙祷。
君のことはきっと3月くらいまでは忘れない。

11巻かは分かりませんが櫛田退学はまあ既定路線でしょう、もったいない人材だけど現状マイナスでしかないもんね。みーちゃんが平田とくっつくかとか気になるー。


弱点

 

 

 

 櫛田桔梗と言う生徒は、その内面はともかくとしてコミュニケーション能力と言う観点においてはAクラスの人間にも引けを取らないだろう。これはクラスメイトから聞こえてくる噂だけでも判断できる評価だ。もっとも、彼女の本当の顔に薄々でも気付いているような人間は、そうそういないみたいだけど。

 

 人というのは、他人との間に無意識で『壁』というものを形成しているとあたしは思う。心理的なパーソナルスペースってやつだ。

 人はそれぞれその壁の厚さは異なり、その厚さ――いわゆる距離感というものを適切に量りながら接し合うことでことで人間関係を円滑に回していく。

 櫛田さんはその()というものを上手に避けてくる。そして懐に入られた人間は彼女に抱き込まれてしまうわけだ。とはいえ彼女と仲良くなれない人間は、それこそ最初から人との関わりを放棄しているような人間か、彼女の()()を知ってしまった人間くらいではないだろうか。

 そんな彼女の才能は極度の人見知りなにっしーにすら遺憾なく発揮されていた。

 

「実は二人とももっと早く仲良くなりたかったの。他クラスにも友達作ろうって頑張っていっぱい友達はできたけど、小鳥遊さんや西さんに会う機会が不思議となくって……」

 

 勉強している内容のどこそこが難しいだとか、カフェのおすすめメニューだとか、暫くの間取り留めのない雑談をしていたが、櫛田さんは眉をハの字に曲げて、そう切り出した。

 

「ご、ごめんなさい……私あんまりお友達ができないのは自覚してるくらい人見知りで……他クラスの人と話すのも、初めてで……。でも……櫛田さんは話しやすい人で、良かったです」

 

 消え入りそうになりながらも、にっしーは櫛田さんへの好意を隠そうともしない言葉を紡いでいる。びくびくとして挙動不審な彼女を見ても、櫛田さんは怪訝な反応一つも見せずに謝辞を述べている。

 

「にしてもさ、自分で言うのもなんだけどあたし結構Aクラスじゃ有名だと思ってたんだけどなー色々と」

 

「小鳥遊さんのこと、実は結構知ってたんだよ? ただ、私が遠慮しちゃってたっていうか……Aクラスの人たちと話すときにちょっと前はその……よく耳に入ってきてたし」

 

 困ったようにカップに入ったスプーンをくるくると掻きまぜながら言う彼女に、からからと笑ってやる。

 

「あっはは。たしかに忙しかった時期もあったねっ。でも今は有栖ちゃんがいるからだいぶ落ち着いてるよ」

 

「そういえば坂柳さんと小鳥遊さんってよく一緒にいるよね。お二人は仲がいいんだ?」

 

 ニコニコと微笑む櫛田さんは見る人が見れば聖母の微笑の様だったろう。

 しかし、あたしにはそれが獲物を狡猾に狙う捕食生物に見える。太古の昔、霊長類にとって外敵に見せる表情といえば威嚇、つまり牙をむき出しにした、笑みにも似たものだったという。笑顔は人間関係を潤滑にするために欠かせないものだが、ときに笑みは内心の感情を隠す仮面となるのだ。

 結局のところ、根っこの部分が似通っているこの女が考えていることは大体わかってしまう。同族嫌悪とでもいっていいだろうか。しかし、その感情を表に出すことはない。ただ笑顔という仮面を差し出せば、捕食者は満足するのだろうから。

 しかしまあ、逆もまたしかり。彼女にもあたしのどす黒い部分の一欠けらでも感じ取れたに違いない。

 

「仲が良いどころじゃないよ、一心同体だねっ。そうだなあ……有栖ちゃんがいなくなったらあたし――()()()()()()()()、どうにかなってしまうに違いないよー」

 

「それは、そっか。……なんか、軽々しく聞いちゃってごめんね」

 

 つまりだ。こいつは、ただあたしの弱みとやらを知りたいだけだろうから、適当に満足してもらえばいい。

 人間なんて、ほんと単純なものだ。結局自分が一番かわいい。だから自己保身のために必要とあらば人は人を褒めちぎれるし、時に裏切ることだってできる。

 そうだ。弱み。あたしにとっての弱み。そんなもの――

 

 

 

 

 

『ありがとう! キミは命の恩人だ!』

 

 

 

     『被害者は決して少なくない。でも、小鳥遊君のおかげで、こんなにも助かった命が――』

 

 

 

 

『今までごめんなさい。あなたのこと誤解してた――』

 

  

 

      『小鳥遊煌さん。彼女は本校の誇りで――』

 

 

 

『さすが小鳥遊さんだ!』

 

 

       『素晴らしい』

 

 

『さすが――』

 

 

 

                『人でなし』

 

 

 

 

「――かなしさん? 小鳥遊さーん?」

 

「大丈夫きらりん? 顔色悪いよ?」

 

「……ぁ。ご、ごめん。ぼーっとしてた」

 

 頭をよぎった光景を振り払うように、すっかり冷めてしまった飲み物を流し込む。

 

「ううん。結構話し込んじゃったもんね。今日のところはお開きにして、またお話ししようよ」

 

 そういうと端末を取りだし、連絡先の交換を申し込んできた。勿論断る理由もないため、にっし―を含めたグルチャを作っておく。

 解散をするなり、にべなくにっしーに別れを告げ、あたしはある場所に脇目も振らず向かった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 放課後の校舎は思っていたより閑散とはしていなかった。

 教室で駄弁っている男子グループ、部活動に励む生徒たち、そんな中を縫うように通り抜けると、やがて職員室にたどり着くことができた。あまり人目に付かずに済ませたかったのだが、仕方がない。思い立ったらすぐ行動だ。

 

「失礼しまーす」

 

 ノックの後入室をすると、一瞬視線が自分に集中するのがわかる。

 教師という職業の多忙さを考えれば当然ではあるが、職員室にいない教師はほとんどおらず、当然1年を受け持つ4人の教師もその例には漏れなかった。

 

「1年Aクラスの小鳥遊ですっ。真嶋センセ、少々お話したいことがあるのですが、少々お時間を頂けませんでしょうかー」

 

「……いいだろう。こちらに掛けなさい」

 

「できれば部屋を移したいでーす!」

 

「個室の用意、か。お前の話はそれに値するものなのだろうな?」

 

「思春期のか弱い女子が、センセに相談したいって言ってるんですよー? そう言わず汲んでくださいよぉ」

 

 よよよ、とわざとらしく媚びてみるも、なお難色を示す真嶋に、星之宮が口を出してくる。

 

「ねぇねぇ小鳥遊さん、だったかなぁ? 良かったら女性同士、私が話を聞いてあげちゃってもいいわよ?」

 

「えー。どうしよっかなー。Aクラスの問題はAクラス内でって、思ったんだけどなぁー? 真嶋センセがダメなら頼りになりそーな星之宮センセに色々相談した方がいいかもなぁー?」

 

 チラッチラッ。

 そうすると余計に話が拗れることを嫌ったのか、小さく溜息を吐くと付いてくるようジェスチャーを送ってきた。

 ニッコリと付いて行こうとすると、星之宮も付いてこようとする。

 

「お前は付いてくるな」

 

「えー。こういうときは第三者の女性も同伴した方が、後々面倒にならないっていうじゃない」

 

「センセ」

 

「どうしたの? 小鳥遊さん」

 

「これはAクラスの問題ですので、お引き取りを」

 

 一瞬だけ驚いた表情を浮かべると、星之宮は少し笑い、「そう」とだけ返し、おとなしく去っていった。

 

 

 真嶋に連れられて辿りついた先は会議室だった。

 些か二人で話すには広すぎる環境。意図を視線で問いかけると、つまらなさそうに答えを返してきた。

 

「この学校でカメラのような記録媒体が設置されていない場所は限られている。かといって職員室に隣接するような環境も、お前にとっては好ましくないんだろう?」

 

「あれ? あたしがセンセを嵌めようと――さっきのBクラスのセンセが言ったみたいな面倒事起こそうとしてる、とか考えないの?」

 

「お前たち生徒が考えている以上に、この学校の教師は生徒の事情を把握している。成績だけじゃない、人間性・社交性から過去の生活態度すらもだ」

 

 カシャリとパイプ椅子を引くと、座るよう促してくる。

 

「そういったものを総合してだ。お前がこんな杜撰な手順でわざわざ教師を脅そうとはして来ないことくらいは分かる」

 

「さっすが。すべてお見通しってわけ」

 

「いいから本題に入ったらどうだ」

 

「はいはい。っていっても、あたしの話ってのはまさに今のことに関係あるんですけどね?」

 

 椅子に腰かけ、真嶋と対面する。続けろ、と視線で促されたので、仕方なしに目元に垂れた毛先を弄りながら話す。

 

「『この学校で、prで手に入らないものはない』。真嶋センセは以前そう仰られてたわけですけど」

 

「ああ、そうだ」

 

「あたしが提示するものを手に入れるには、一体いくら必要なんだろうなって」

 

「なんだ、そんなことで呼び立てたのか」

 

 隠しもせず大きな溜息を吐かれる。

 

「まあ慌てないで。それで――他人の過去とか。さっき先生が言ったような一生徒の個人情報全てを買い取るとしたら、一体いくらで売ってくれるんです?」

 

 空気が変わったと感じたのは、気のせいではないだろう。

 

 何でもprで手に入るとは言うが、全ての物に明確なレートが設定されているとは到底考えにくい。教師の裁量次第で変わる物と、あらかじめ明確に定められた基準があるものの2パターンがあるはずだ。

 

 例えば防犯カメラの汚損・破損。これは分かりやすい。校舎などの備品が損失したならば、それをprで賠償させる、といったところか。他クラスへの編入2000万pr。これも不動のものだろう。

 これに対して価値に対するpr設定を明確にするのが困難なもの。

 例えばテストの点数や、生徒の情報。点数はテストの内容や試験内容によって1点の価値が大きく変動するはず、個人情報もしかりのはずだ。こういったものは教師の裁量で変わってくると想像できる。

 

 ならば――真嶋は生徒一人の情報に一体いくらの価値を見出しているのだろう? その価格はまさか全員一律なのか? それを確かめることが第一歩。

 

「誰の情報を手に入れたいんだ?」

 

「あら。生徒如何によっては、価格が変動するということでしょうか。それはちょっと、配慮に欠けてないでしょーか?」

 

 それだと著しく価格設定が高い生徒は、それなりの秘密を抱えていると言っているとか、邪推されても仕方がなくなる。

 

「いや、個人的な興味だとも。もちろん、誰であろうと変わらんよ。それはたとえ坂柳でも例外ではない」

 

 学校の権力者の娘であっても例外ではないということ。

 

「なるほど。誰、かぁ……そうだなー。じゃあDクラスの櫛田さんということにしておきましょっか」

 

「……わかった。まぁ今のお前に用意できる額ではないと思うが。生徒の個人情報の流出。それが公になれば学校の信用は当然地に落ちる。そういったものも鑑みて、額は……700万prだ」

 

「なんだ――やっす」

 

「なんだと?」

 

 暗に、用意できるのか? と訴えて身を浮かせてくる。

 

「ああいえ、さすがにあたしでもその額を今すぐにはポンと出せませんともっ」

 

 でもね。

 

 

「700万pr()()でこの先、あたしの情報売られちゃ、困るんですよねー」

 

 

 だから。

 

「セーンセ。いくら払えば個人情報の設定額を8億prまで吊りあげてくれますか? もちろん、先生方全員の共通認識にする前提で」

 

 8億も払える状況なら、普通はクラス全員でA卒業やら、豪遊やらに費やすだろう。それに、そんなポイントの移動があれば当然、記録に残って目立つ。教師しか知りえない情報を生徒が知っていたなら、それは教師がprを経ないようなルール無視の漏洩を起こしていることになる。

 そんなことを連中がするはずもないだろう。

 

 真嶋は暫く面食らった様子だったが、少し逡巡して答えた。

 

「過去に個人情報を買おうとしたやつは10名ほどいた。実際に買ったのはストーカー容疑で補導され最終的に退学処分になった1人だけだが……」

 

 それにしても、と前置きする。

 

「それほどまでに本来需要がない項目なのだ。お前の言うように価格設定を下げるのではなく、『上げる』のならば、可能だろう。しかし、教師陣全体の共通認識として議題に上げ、納得させるとなると……100万prは出してもらうことになる」

 

「わかりました。――ちょーっと待ってね」

 

 用意していた額よりほんの少し多かったため、テニス部の部長から日頃の部活貢献に対する()()()をいただくことにした。

 

「もしもし? じゃー30万prよろしくねっ。マジリスペクトっす!」

 

 敬礼。

 

 

 数日後。個人情報に対する価格がひっそりと変わったが、それを気にする生徒はいなかった。怪訝に思う教師はいても、咎めようと思うものもまた、いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




言い訳はしません。書きたいときに書く!それだけ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。