Aクラスのリトルガールズ   作:エントロピー

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モブから昇格とか普通にあるから怖いんですよね。プロテクトポイント手に入れた金田は大物になる(確信)

橋本はテニス部のはずだけど神崎に部活やってないお前に……とか言われてたり、坂柳が以前掛けて知っているはずの綾小路の電話番号忘れてたり、たまに矛盾見つけると面白いです。

作品面白けりゃいいんだよって偉い人が。


目撃

 それは図った出来事ではなく、気まぐれに特別棟の理科室を訪れた日のこと。

 ただ気まぐれに強酸系の薬品でも手に入らないかと思っていただけなのだ。

 理科室の監視カメラをかいくぐり、薬品をちょろまかせないかと画策していたが、さすがにその辺は甘くないらしく教室内に死角はなかった。仕方なしにあらかじめ()()()()()()()()ノートを回収し、溜息交じりに帰路につこうとした。

 

 その時。

 

「んだともう一回言ってみろ!」

 

「あぁ……何度でも言ってやるよ須藤。テメェにゃレギュラーは相応しくねぇ。痛い目見たくなけりゃ、おとなしくバスケ部を辞めろ」

 

 そこには悪名高いCクラスの石崎を筆頭にした3人と、Dクラスの須藤とかいう生徒が対峙していた。

 ポキポキと関節を鳴らしている石崎の後ろで、バスケ部の部員とみられる生徒が須藤を煽っている。額に青筋を浮かべながらも多少の自制心はあるのか、今のところ須藤が手を出す様子はない。

 

「……へっ、あいにく今の俺は寛大でな。今のうちに尻尾を巻いて逃げ帰るなら見逃してやるよ。テメーら3人がかりだろうと、どうせ俺にゃ敵いやしねー。そうだろ石崎よぉ」

 

「言うじゃねえか。ならちょっと試してみようぜ? なぁ、オイ!」

 

 石崎が助走をつけながら右腕を引き、殴りかかろうとしたところであたしの興味が失せた。

 もはやどっちが勝つだろうとか、なんで争ってんのとか、そういう事情全てがどうでもいい。まぁどうでもいい面倒事に巻き込まれたくないのはたしかなので、せめて連中の視界に入らない様にそろりそろりと特別棟を降りるための階段へ向かうことにする。

 

「えっ……」

 

「おろっ?」

 

 そこにはどこかで見たような、しかし存在感が希薄な眼鏡をかけた女子生徒がいた。はてどこで見たんだっけ、と思考を巡らすも、答えが浮かぶわけでもない。相手が固まっているうちに軽く会釈と微笑みだけ添えて、そそくさとその場を後にする。

 何にせよ、あんなところでお誂え向きにカメラを構えてるような奴に関わってもいいことはない。

 帰宅後調べてみれば、彼女は佐倉というDクラスの生徒らしいということはわかったが、既視感の正体は未だわからずじまいだった。

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 

 7月初めのホームルームは、初夏も過ぎたとあってうだるような暑さの中、粛々と行われようとしていた。他クラスならいざ知れず、Aクラスには下敷きやらでパタパタやるような度胸持ちはいないようで、額に汗を垂らしながらも皆飄々とした表情で担任の真嶋の話を傾聴している。

 

「……以上が簡単な連絡事項だ。次に、今月のポイントの変動について発表する」

 

 Aクラス1004ポイント。

 

 驚きはない。喜びも落胆すらもない。なるべくしてなった結果に、感慨は起こらない。

 当然の規則順守、当然の学習態度、当然の学習成果。それらを誰かが縛るまでもなく、普通に達成できてしまう。いや、できて当然なのだ。だからこそ、Aクラスに選ばれたのが、ここにいる40人なのだ。

 

 むしろここであたしや有栖ちゃんをはじめとした数名が注目したのは、今まで0から変動する気配が微塵もなかったDクラスが、たかが87ポイントとはいえプラス収支を得ているということだった。

 そんな思考を先読みするかのように、真嶋は続けた。

 

「今回においては、中間テストを退学者ゼロで乗り切った1年へのささやかな贈り物として、各クラス最低100ポイント以上が支給されることになっていた」

 

 マイナス分のポイントは蓄積されない。そんなことが分かったところで、自分たちには無縁な話だ。Dクラスがクラスポイントを飛躍的に伸ばす方法を思いついたわけではない、と事情が垣間見えたところで、あたしも含めた大多数が興味を失い始めた。

 同時に、1004ポイントという自クラスの結果も、また違ったものになる。

 どうあっても、どう優秀な生徒が集まったところで、体調不良による欠席など、抗えないマイナスは生じてしまう。どこかしらで評価され、プラスに転じたのかと思えば、やはりできて当然の項目にプラスの評価をいちいち学校側は付けるわけではないということだ。

 

 慢性的なマイナスからの脱出。どこかでクラスポイントを増やす手段を見つけなければ、Aクラスであろうといずれジリ貧になろうというもの。Bクラス以下に寝首をかかれる様な、屈辱的な真似だけはしたくない。

 恐らく、定期テスト以外にもあるはずだ。クラスポイントを伸ばすことができるような、そんな機会が。

 

 そういうわけで、今あたしたちができることはいかに他クラスを谷底まで蹴落とすか、いかにクラスを纏め上げた状況にするか。この二点に尽きる。

 

 

「困ったにゃ~」

 

「困っているのは頭に荷重をかけられてる私なのですけどね、煌さん?」

 

 いつも通りというべきか、有栖ちゃんのベレー帽の上から、顎を乗せる形で小さな体躯を抱き締める。やっぱりいい匂いがした。

 

「だって有栖ちゃんたらますみんにかまけてばっかり。あたしとは遊びだったのっ?」

 

 少し頬を膨らませて抗議するも、橋本くんが指で突っつくという妨害により、ぽひ、と間抜けな音を出して終了してしまう。犯人の脛をテシテシと蹴ってやるも堪えた様子はなく、あたしの肩に掌を乗せて宥めてきた。

 

「まーまー小鳥遊。坂柳さんも暇じゃないんだよ。そんなに暇を持て余してるなら、俺がテニスの練習相手になってやるぜ?」

 

「えー。部活サボり常習犯の橋本くんたら、最近弱っちくて歯ごたえないからなぁ」

 

「あちゃ。サボってんのは事実だから、否定はできねーなぁ」

 

 軽薄な様子で苦笑してポリポリと後頭部を掻きながら、明後日の方向を向く。

 

「もったいないねぇ、あたしみたいに全国レベルで結果出してれば、美味しいpr褒賞も貰えたのに」

 

「てか、この学校で部活やるメリットなんてそれくらいっしょ。だからモチベ? なくなってんだよねー」

 

「そうでもないよ?」

 

 そこでようやく興味が出てきたのか、有栖ちゃんがあたしの眼を覗き込んでくる。ジト目っぽい可愛い。

 

「あら。それは興味がありますね。部活動での煌さんは、あまり存じ上げませんから」

 

 興味が引けたことに満足したあたしは、若干のドヤ顔で腕を組みながら部活動のメリットをお伝えしてやる。

 

「信頼できる()()ができるよ!」

 

「煌さんのお話に期待した私が間違いでしたか……」

 

 伏し目がちになりながら頭を撫でてくる。その横でくつくつと笑って小馬鹿にした顔で橋本くんが続けてくる。

 

「あー腹痛い。バッカ逆でしょ。成果でpr手に入るような環境だ。皆周囲を蹴落とそうって、あれこれするんだよ。他校ならともかくさ、この学校で部活とか正直冷え切ってるぜ」

 

「そうかもね」

 

「だろう?」

 

(この学校の()()()()部活なら、そうかもね?)

 

 あえてその先は言わずに、そわそわしてこちらを見やる人物を教えてやる。

 

「――でもほら、ああいう出会いは大切にしないと、ね? チカちゃんに頼まれちゃってさぁ」

 

 元土肥千佳子。元小鳥遊派でテニス部所属。

 何かと橋本くんに御執心――ということになっている。あたしの中で。

 

「……部活の繋がりは大事にしときたいじゃない?」

 

 そう言われると、うんざりした顔で橋本くんは彼女のもとに向かっていった。

 

 

 

「さて、と。で結局ますみんに何させてんのー? 有栖ちゃん」

 

「いえ、大したことではありませんよ。Dクラスにprが支給されてないと小耳に挟んだものですから、暇潰しがてら調査をお願いしたところです」

 

 ぷるぷる。小刻みに震えるあたしを面白げに観察しながら聞いてくる彼女は、さながら小悪魔か。いや、天使……! でもひとつ言いたい。

 

「やっぱり暇なんじゃない! もー!!」

 

 

 

 

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 神室真澄は坂柳の気まぐれな指示に淡々と従うべく、まずは手始めにとここ数日の間、Dクラスの教室周辺をそれとなくうろついてみることにしていた。とはいえ、よほどの用事でもなければ他クラスの人間が訪問するといった機会が希薄なこの校風である。神室とてあまり長居すれば目立ってしまうであろうことは承知の上だった。

 廊下にただ突っ立っているのは愚策だ。雑談相手の一人でもいれば紛れることもできるのだろうが、生憎とそんな相手はいないし、彼女にすればむしろ願い下げであった。

 だからというべきか、違和感が多少拭えないことはこの際置いて、放課後にのみDクラス内の会話だけが聞こえる廊下側絶好の位置で、待ち人がいるかのように読書をするふりをして壁に寄りかかるのがここ数日の彼女の習慣だ。

 

 成果も出ないしそろそろ別の方策を考えようかとしていたところ、そんな地味でも涙ぐましい彼女の努力は、ついに実ることになる。

 

「佐倉さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい? 須藤君の件なんだけど……」

 

「ごめんなさい……この後予定があるの……」

 

 軽井沢が女子の仲間を連れて平田を放課後のカラオケデートに誘う会話。男子グループの思春期特有の下品な会話。その他諸々。

 そういった雑音の中で行われた、何気ないそんな会話が不思議と神室の耳に入った。

 

「大切なことなの。須藤君が事件に巻き込まれたとき、もしかして佐倉さんその場にいたんじゃないかなって」

 

「し、知りません。私は、全然知らないですから……!」

 

 ついに教室からは雑音が消え、廊下の歩行人もなんだなんだと教室内を覗きはじめている。ここまでの状況ならば、自分一人野次馬のように覗いたところで目立つことにもならないと思った神室は、堂々と教室前側の入口から中を見ることにした。

 

 中では、神室ですら多少の面識ある櫛田と、佐倉と呼ばれた地味目な眼鏡の女子が言い争いとまではいかないが不自然な会話のやり取りをしていた。

 

(あの佐倉という女生徒……) 

 

 会話の内容すべては神室は把握していない。それでも佐倉がなにか隠し事をしているのだろうということくらいは神室にも察せられた。そして須藤という生徒がなにかをやらかして、教室全体が関心を持つような事件を引き起こしたのであろうことも。

 

(生徒間のトラブルでprを支給するタイミングが遅らされている……?)

 

「今から少しでいいの。お話、聞かせてもらえないかな……?」

 

「ど、どうしてですか……。私、何も……」

 

 露骨に逃げようとする会話。これ以上ここにいようと、もはや情報は得られそうにもない。

 

(ま、坂柳に探るように言われたpr未支給の原因は大体わかったことだし)

 

 そう自己完結した神室はようやくこの非生産的な活動とおさらばできるとばかりに、淡々と踵を返そうとした。

 しかしそこで、少し無視できない会話が聞こえてくる。

 

「待って、佐倉さ……」

 

「私は、知らないんです……。でも、事件があったっていう日、背の小さいポニーテールの女子生徒が特別棟から出てくるところなら見ました……」

 

 その人に聞いてくださいごめんなさいと口早に言うと、逃げようとする。その際、男子生徒とぶつかって何か一悶着あったようだが、教室前方の神室にはよく見えない。そうこうしていると、ついに佐倉は小走りで去って行った。

 

(それって……)

 

「あの根暗女の話を信じるにしてもよ、背の小さいポニーテールって。誰だよ。そいつをしらみつぶしに探せってのか」

 

「須藤君、あなたはもっと他のクラスにも興味を持ちなさい。ポニーテールだけならともかく、背の小さい女子生徒で、となるとだいぶ限られるわ」

 

「あー!」

 

 黒髪の女生徒の話を聞いて合点がいったとばかりに、一人の男子生徒が声を上げた。

 

「どうしたんだよ池」

 

「もしかして女子テニス部の妖精か!?」

 

 ふふぉっ。

 柄にもなく吹き出しそうになった神室は即座に口元を抑え、少し震えながらも周囲に気取られないよう必死で笑いを堪えた。

 あれが妖精……なんの冗談なのか。神室的には片腹大激痛というやつだが、内情を知らなければそう見えてしまうのが彼女というモノなのだ。

 

 

 

「その通りよ。Aクラス、小鳥遊煌さん。話を聞く価値はありそうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




橘元書記可愛いけど卒業しちゃうんだなぁ。
次年度後輩入ってきますけど、綾小路父の刺客からの即堕ち系後輩女子とか期待。

―追記―
誤字報告、ありがとうございます。どんなに気を付けても残ってるものですね。すみません。

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