オーバーロード~死の王と幻影の王~   作:ミズナラ

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予定通りにはいかないね!
何でだろう?

是非も無いネ!


10話

 ラナーは帝国から帰ってくると王が起床するタイミングに部屋を訪ねていた。

「お父様、おはようございます」

 王はラナーが医者の下を尋ねた日から食事を摂るようになり、日に日に健康になっていくのが嬉しくてたまらなかった。そんな娘が朝早くに自分の元を尋ねてくるなど今まで無かった事で不思議ではあったが嬉しかった。

「おお、ラナーおはよう。やはりラナーは元気に笑っているのが一番だな。しかし朝から私の部屋に来るなど珍しい、いったいどうしたのだ?」

 あの日、ラナーを乗せた馬車が襲われていた、と言う報告があった時はあまりのショックに倒れてしまいそうだった。しかしその知らせを聞き城下の方を見えないと分かっていても探してしまうのは親としての本能だろう、城下は霧に覆われ何かが見えるような状態ではなかったが、その光は唐突に現れた。王城より離れた場所より3本の稲妻が大地から空へと上っていったのだ。

 ラナーの捜索隊を編成させ、娘の無事を祈っていると本人がひょっこり帰ってきたから驚きであった。驚く王を他所にラナーは事のあらましを話し出した。

『お父様ただいま帰りました、お父様聞いてください!馬車に乗ってお医者様のもとから帰っていたら怖い男の人達に連れ去られてしまったんですけどレオン様に助けていただいたんです!あ、レオン様こちらが私のお父様です♪』

 見た事がないほど豪華な装飾の施された槍を背負った男に抱きかかえられ嬉しそうに自身に起こった出来事を話していくラナーに驚いた、医者の下へ見送った時は力なく虚無を見ているような目をしていた。しかしそれがどうだ、賊に連れ去られたと言っている当の本人は今までに見た事もない笑顔で話しかけてくるではないか。

 ラナーを抱かかえている男も呆れているのか驚いているのかは分からないが顔が引きつっていた。

 そのような事があってからラナーは自身を助け出した男、レオンを慕い自身の護衛に仕えさせてしまった。しかしそれからのラナーは笑わなかった日々をどこかに置いてきたのかと思ってしまうほど楽しそうに笑うようになった。

「今日はお父様にお願いが有って参りました」

「ふむ、一体どの様な事かな?無理なお願いで無ければいいが…」

 時にラナーは周りが理解できない事を言って周囲を困らせてしまうことが有る、元気になってきている娘のお願いは出来るだけ叶えたいと思ってしまう。

「とても楽しい夢を見たんです。気がつくとそこは見た事もない町でした、一人ぼっちでとても不安だったんですけど目の前に小さな妖精さんが現れて、お父様やお兄様達が御泊りになられていた宿まで案内してくださったんです。その宿では皆さんがとても楽しそうに笑顔でお食事をされダンスも踊られていました」

「それはすばらしい夢だね」

 王は考えた、楽しそうに笑顔で食事をする。家族が揃って楽しそうに食事が出来たのはいつだろう。いや、そもそも家族が揃って笑顔で食事をした事など有っただろうか。

 ラナーがそのような夢を見たのはラナーが寂しい思いをさせてしまっている自分に責任が有るのかもしれない。

「はい、だからその町に行って妖精さんとまたお会いしたいんです」

「妖精に会いたいとはまた難しい事を思いついたものだな、第一その町は夢の中に出てきた町だろう?」

「いいえお父様、妖精さんにその町の名前を聞いてみたんです。そしたら実際に在る町だったんです!それも王国領なんです!これは運命だと思いませんかお父様!」

 なんと現実じみた夢なのだろう、しかし王国領であれば多少の外泊は許可して上げれるかもしれない。

「それは嬉しい事だな、王国領であれば護衛を付ける事を条件に許可してもいいぞ?」

 妖精など存在しない、だがそんな事をこれほど楽しそうに話す子供に言える筈が無い。ましてラナーの容態は回復に向かっている最中だ。

「本当ですかお父様!?ラナーは嬉しいです!有難うございます!」

 外泊の許可が下りてよほど嬉しかったのだろう、ラナーはベッドに腰掛けている王に抱きついた。

「これこれ、王女だと言うのにおてんばが過ぎるぞ?」

 注意してはいるが父親として嬉しいのだろう王は破顔した。

「それでその町の名前はなんと言うんだ?」

「妖精さんが教えてくださった町は、エ・ランテルという名前だそうです」

 

 

 

 

 

 ラナーが王にお願いをしてから二日後、エ・ランテルの町はかつて無いほど慌しかった。それは仕方の無い事だろう、例年通りであればこの時期は周辺の村から男達が徴兵され王国と帝国の戦争に向けて準備が行われるはずなのだ。しかし、今年はいつもより徴兵される民の数が少ないようだ。噂では今年は戦争が起こらないから貴族や国が徴兵しない、帝国が攻めてくるのを止めた、等と言われている。

 では戦争と無縁の年になりそうな城塞都市がなぜ慌しくなっているのか。その理由はエ・ランテルに到着した200人の兵士と2台の豪華な装飾が施された馬車が理由であった。

 

「しかしまあ、よくエ・ランテルへの外泊許可が下りたものだな。普通じゃありえないだろ」

 馬車の中には動きやすそうな衣装でとても護衛とは思えない服装のレオンとラナーが乗っていた。レオンはラフな格好だが着ている衣装や装備はユグドラシル時代の物で神器級(ゴッズ)伝説級(レジェンド)の装備で固められている。

「そうですか?お父様にすこーし我侭を言ったら許可して頂けましたよ?」

「すこーしねぇ…毎年戦争が起きている都市に大事な愛娘を行かせるもんかね?まあ例年の戦争が行われる時期より少し早い、と言えば早問題ないのかもしれないけどさ」

 もしかすると王自身も今年は戦争が起きない、などと考えているのかもしれない。

「はい、それでも納得はして頂けませんでしたが、『偶然』六大貴族のリットン伯爵が護衛にと兵を貸して下さったのでお父様も納得されました」

 偶然ラナーがエ・ランテルに行きたいと言っているのを聞きつけたリットン伯爵が王に。

『私の兵を護衛に就けますので許可してあげてはいかがでしょうか?』

 と申し出たので最低限の護衛を付ける事を条件に許可が下りたのだ。

「まあ『偶然』伯爵が兵を貸し出してくれたってのが凄いね」

「はいリットン伯爵には感謝しないといけませんね♪」

 ラナーの笑顔とは対称的にレオンは苦笑していた。帝国から帰ってきた僅かな間でどうやって六大貴族の1人を都合よく動かしたのか。

 リットン伯爵からすれば第三王女であるラナーに恩を売ったつもりなのだろう。自身の勢力の拡大のためならば如何いった話にも食いつくのかもしれない。

 

エ・ランテル最高級宿屋『黄金の輝き亭』に着くとラナーのもとに都市長を名乗る男がやってきた。

「これはこれは、ラナー王女様この様な所までよくお越しくださいました。私は国王陛下よりこのエ・ランテルの都市長に推薦していただきましたパナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイヤと申します。ぜひともお見知りおきください」

「都市長様、わざわざ有難うございます。第三王女のラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフです、ラナーと及びください」

 その笑顔を見れば全ての者が破顔するであろう、眩い光に包まれているかのような笑顔で挨拶をするラナーの後ろに立つ男にパナソレイは違和感を覚える。

「それではラナー王女様、と呼ばせていただきます。ところで、そちらの男性はラナー王女様の護衛の方でしょうか?見たところ鎧などはお召しになれていないようですが」

(見たところ身に着けている衣服はとても仕立てがいい物だとは思うが、護衛の者が鎧も着ないというのは如何なものか。もしやラナー王女様の)

 パナソレイは笑顔で尋ねているがその笑顔の下では男が危険な人物なのか、如何いった者なのか観察していく。

「こちらは私の護衛を勤めてくださっているレオン・D・ファンション様です」

(レオン・D…なるほど!ラナー王女様を賊から救ったと噂される旅人か)

「お初にお目にかかります都市長殿、この度ラナー王女様の護衛を勤めさせていただいております、レオン・D・ファンションと申します。どうぞ宜しくお願いします」

 レオンはラナーの笑顔とは違いさわやかな笑顔でパナソレイに手を差し出す。

「まさかラナー王女様を救ったと言われる戦士殿にお会いできるとは思ってもいませんでした。そのような方が護衛に就かれているのでしたらエ・ランテルにいる間は心配ございませんな。こちらこそ宜しくお願いします」

 差し出された手を笑顔で握り返し握手をする。

「ところでラナー王女様は何ゆえエ・ランテルに?」

 例年であれば戦争の準備をしている様な時期になぜ城塞都市(エ・ランテル)に来たのか。視察のために王国から派遣されたのではないかと危惧したがそれなら10歳の子供を派遣する事はないだろう。護衛の者が視察者でラナー王女はお飾りかと考えもしたがつい最近ラナー王女の護衛として召し使えた者にそのような役は与えないだろう。ではいったい何の用があって来たというのか。

「実は夢を見たんです」

「夢?ですか」

 パナソレイは目の前の王女が言葉の意味が分からなかった。

「お父様やお兄様達が皆笑顔になってご飯を食べる夢を」

「それはすばらしい夢だったのですね」

 王族とも在ればこの様な年齢であれ様々なしがらみ等も有るのだろう。そんな家族の団欒が王女にはとても羨ましかったのかもしれない。

「その夢に出てきて私達を笑顔にしてくださった妖精さんを探しに来ました」

「ようせい、ですか?」

「はい!」

 パナソレイは目の前にいる王女の言葉がますます分からなくなった。

(妖精?さがす?この王女は何を言っているんだ?レオンという男の顔も引きつっているではないか。…王女の我侭に振り回されているだけなのか?まあこの年頃の子供であれば意味の分からない事を言ったりもするのかも知れないな)

「そうですか、ではラナー王女様が妖精を見つけれる事を私も祈っております」

 子供の我侭でエ・ランテルにやって来たのだろうと考える事にした。

(まあ護衛の兵も200人程度だと報告が来ているから本当に観光と言う事なのかもしれないな)

 

 部屋には先ほどまで沢山の人間が出入りしていたが今はラナーとレオンだけになっていた。

 パナソレイが帰った後も宿屋のオーナーや商人を名乗る人間が入れ替わりで挨拶をしにきた。到着したのが昼過ぎだったのだが、挨拶の波が引けた頃は夕暮れ時になってしまっていた。

「つ、疲れた…なにアレ、王族って観光しに行くだけで半日つぶれるものなの?」

「お疲れ様でした、王族が自分達の住む都市に来たとなれば体裁や今後のコネ作りを求めて挨拶に行くのは仕方のないことなのかもしれませんね。レオン様はああいった事にはなれていませんでしたか?」

「ラナー様に会うまでしていた仕事柄人間を相手にするのは慣れていたけど…ここまで長時間もかしこまった態度でいたことは無かったなー。つかれたよー」

 レオンは椅子にもたれかかり手足を力なく投げ出していた。

「そうなんですか?笑顔で対応されていたのでレオン様はてっきり貴族の出なのかとばかり思ってしまいました」

 レオンが終始ラナーの横で笑顔だった理由は至極簡単だ。『意地』この言葉に尽きる、ラナーの護衛として出て来ているのだから自分の態度1つでラナーの評価が下がってしまえば悔しいからだ。

「そんないいとこの出身じゃないですよ、ただ他の人より運を持っていたってだけさ。まあアレだよ俺って万能で天才だからな、ラナー様の為なら笑顔で対応しますよ」

 実際のところ肉体的疲労に関しては一切問題ないのだ、リング・オブ・サステナンスなどの装備によって疲れは無い…が。精神的な疲労は装備やアイテムでは補ってもらえないのだ。

「それにしても何人かは失礼な方がいましたね!レオン様を『何処の馬の骨か分からない人物』だとか『素性の知れない者だから一緒にいることはお勧めしない』とか、1番失礼だったのは『その様な者より私の部下の方が強いので滞在される間お貸ししましょうか?』だなんて!レオン様の強さを知らないから適当な事ばかり言って。本当に失礼な方々です!」

 どうにかラナーに取り入りたい者達からすれば突然現れ護衛を勤めているレオンが気に入らないのだ。しかしレオンを下に見た発言をするたびにラナーに怒られ自身の評価を下げるだけの行動になってしまっていたのだが。

「いや、あいつ等の意見も少しは正しいと思うよ?『何処の馬の骨か分からない』とか完全に的を射ているじゃん。ラナー様は俺を信用しすぎなんだよ?普通は怪しんで護衛に雇わないからね?いや、国王も俺雇っちゃ駄目だろ」

 普通であれば賊とグルなのか、帝国のスパイでは。などと怪しくて手元に置く事などありえないのだ。

「そんな事は有りません、レオン様は私を助けてくださったじゃないですか。私はそれだけで十分信頼できます♪」

「あーこの会話何回もしたな…はいはい、その信頼を嬉しく思いますよ」

 レオンは過去にしたやり取りを思い出し両手を上げ参ったと言わんばかりに首を横に振った。

「はい、お慕いしています♪」

「それは違う捉え方されちゃうから他の人がいるところでは言わないでね!?」

 

 

 

 翌日ラナーはレオンと2人で馬車に乗ってエ・ランテルを散策していた。

「あれがエ・ランテルで一番の薬師と言われているバレアレ薬品店らしいです♪」

「ふーん…」

 レオンにとってこの世界のポーションに魅力を感じないのだ、自身が大量に所持している下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)にすら劣るポーションなど興味など無い。

「もう!レオン様、私とお出かけするのはそんなにつまらないですか!」

 先ほどからラナーが声を掛けてくるのに対しレオンは生返事しか返していない。どこかつまらないといった態度であった。

「ん?あーごめんごめん、ラナー様とのお出掛けがつまらない訳じゃないよ?ただ」

「ただ?」

「昨日から移動するのが馬車ばっかりでそれに飽きてきたんだよ」

 お出かけといってもラナーが普通に歩いて回るわけではない、それこそエ・ランテルの人通りを第三王女が歩いているとなれば騒ぎの元だ。レオンの気疲れがますます酷くなってしまう。

「ですから2人でこっそり歩いて見て回りましょうと言ってるじゃないですか」

「無茶言わないでくださいお姫様、それこそ大騒ぎになって観光どころじゃなくなってしまいますから。俺がストレスで死んでしまいます」

 レオンはもう1つ気になっている事を声を抑えながら口にした。

「それにしても遅くないか?帝国兵(連中)の移動速度がどれ程かは分からないけど、予定ではそろそろ戦争をするカッツェ平野?の周辺まで来ているんじゃないのか?時期的に戦争が近づいているなら兵が数人は待機してるはずだろ?その兵から何の連絡が無いってのはおかしくないか?」

 レオン達が帝都から持ち帰った情報では今日の朝の時点でエ・ランテル近くのカッツェ平野まで来ている計算なのだが。

「エ・ランテルの住人が平和すぎる、と言う事ですね?」

 誰も慌てている様子が無い、噂の通り『戦争など起こらない』といった様子だ。

(レオン様はお気づきになられていないようですが、私達がエ・ランテルに来た事によってあの噂は信憑性を高めてしまっているんですよ?『第三王女であるラナー様が観光で来られたと言う事は、今年は戦争が起こらない』今人々はそう話しているでしょうね)

「んーもしかして…すでにカッツェ平野を抜けているのか?兵はやられてしまった?もしくは買収された?」

 レオン達を乗せた馬車が戦争など起こらないと信じ、笑顔に溢れた人々の間をゆっくり走っているとそれは突如鳴り響いた。

 都市に鳴り響く大きな鐘の音色、それは笑顔に溢れていた人々の心を震わせるには十分すぎた。

 次第に鐘の音に混じり人々の不安の声が言葉が混ざり始め、それを肯定する言葉が聞こえてしまった。

 

「帝国軍がそこまで攻めてきたぞぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 馬車の中にまで聞こえてきたその言葉にレオンは顔を歪めた。

「ようやくおでましか」

 その顔に浮かんでいたのは不敵な笑み。

 

 ラナーはせせら笑うレオンを恐れることはない。

(あぁ、やっとレオン様の力を見る事が出来るんですね)

 レオンからは見る事のできない角度でラナーはこれから起こる出来事に期待し破顔する。

 

都市は不安に満ち溢れ始めているが、馬車の中は異様な空気が満ち溢れ始めていた。




沢山の人が挨拶に来られたら精神もたないと思いません?


え?前回の後書きで次回戦争がって言った?

んーおかしいね!


次回は10年前に起こった戦争のお話だよ?

1話にまとめてる時間が無かっただけ。なんてこと無いんだからね!?
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