だが後悔はしていない。
仕立て屋から出てご主人様のお屋敷まで帰ってきました、でも私は初めて来たからやって来たの方が正しいのかな?
お屋敷まで来る道中荷物を持とうとすると『ん?子供がそんな気を使わなくていいぞ』と言って何も持たせてはくれませんでした、私メイドとして雇われたんじゃ…
でもお屋敷について門の前に立つと小さい声で。
『悪いんだが俺の腕を掴んでくれるか?分からないだろうけどこの屋敷には番犬?んー番犬でいいのか?まあいいか。まあそんなこんなで取り合えずお前が襲われない様にするには俺にくっ付いておくのが1番なんだ』
門の内側は雑草が沢山生えていて手入れが行き渡っていない屋敷だと言う事が見て分かります。町から大分離れていたので買い手が付かなかったのでしょうか。
ご主人様は番犬?がいると仰られていましたが右を見ても左を見てみても動物の姿は見えません、草で姿が見えないだけなのでしょうか。でも『自分と供に居ないと襲われる』…私はやはりこの屋敷の中から出ることは許されないんですね。
屋敷の中は庭の手入れが成っていない状況と違いある程度は屋敷を引き渡す前に掃除をしていたのだろうか、目に付くところに埃が溜まっている様子は見受けられない。
「さて、思いの外買い物に時間が掛かってしまったな、すまないが適当に室内を掃除しておいてくれ」
「え?」
レオンの発言にツアレは目を丸くする、誰も居ない屋敷にメイドとして引き取られた自分を連れて来たのだ、掃除など後回し―いや、掃除など元より方便で自分を抱く事が目的なのだと思っていた。少なくともイーノには自分を村から連れて帰った日は屋敷に入ったと同時に襲われた。
「あ、あの、ご主人様、本当にお掃除で宜しいんでしょうか?」
「ああ、自分が寝起きする部屋でも掃除しておくと良い、あー部屋は自分の好みで選んでくれて良いぞ?俺の部屋は後で決めるから」
部屋を選んで掃除しておけ、ツアレは目の前の男が何を言っているのか分からなかった。ツアレはこの屋敷、レオンに連れて来られたのは自分を好きに弄ぶ為だけにイーノから買われたとばかり思っていた。
しかし。
(このご主人様は本当に私をメイドとして買われた?もしかして…とても優しいご主人様なのかな?)
「掃除の道具は買ってきた物の中に有るから適当にやってくれ、何か分からない事が有ったら俺は厨房でいるから声を掛けてくれ」
「は、はい!分かりました!」
(優しいご主人様かもしれない、もしかして…ご主人様は私をイーノ様から救ってくださった?…でも)
レオンは伝えることは伝えたのであろう、買い物袋をもって屋敷の奥へと消えて行った。
(ご主人様の目が、どうしても…怖い)
ツアレは1階を掃除し2階へ移動しようと階段を上っていると後ろから声が掛かった。
「あーツアレ、食事が出来たからリビングに来るといい」
「え?」
ツアレはどれだけの時間も掃除をしては居ない、レオンに言われていた通りリビングの掃除を軽く行い、2階に上がって主の部屋となるであろう部屋を見て掃除するつもりだったのだが。
「食事、ですか?」
「思いの外食事の準備が早く出来てな、腹も減ってきただろ。温かいうちに食べると良い」
何故メイドの自分ではなく主であるレオンが料理しているのだろう、そんな疑問を口にする前にレオンはリビングの奥へ歩いていった。
ツアレがリビングの扉を開けると食欲をそそる香りが漂ってきた、机の上には今まで生きて来た中で見た事も無い料理が並びレオンがリビングの奥から新しい料理を運んでいた。
「ご、ご主人様!?料理でしたら私が運びます!」
「ん?気にするな、これで最後だ。そんな事より椅子に座って食べるといい」
「そんな…そ、それに食事でしたら私が…」
「なんだ、ツアレは料理が出来たのか?なら今度は作って貰うとしよう。なに、今日は料理人としての
ツアレの料理は村娘が作る家庭的な料理だ、目の前に並べられている見た事も無い豪華な料理に匹敵出来る筈も無い。このレベルと同じ料理を出せと言われたら、と考えるツアレは苦笑する。
「ほら、冷める前に食べ「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」
突如屋敷に悲鳴が響く。
「ひっ!?」
屋敷に響く悲鳴は苦痛に苦しむ声色であった。悲鳴に驚いたツアレは身を強張らせリビングの中を見渡す、しかしリビングの中は何の変化も無くレオンがツアレの方を向いて立っているだけだった。
しかしレオンの方を向いたツアレは力が抜け尻餅を付いてしまう。
ツアレが見た主は先程まで気を掛けてくれていると感じていた主ではなかった。
そこに立っていたのは瞳の輝きが消えた主。
「あ、ああ…」
そんなツアレを気にもとめず。
「なに、お前が恐れる事はない。屋敷に鼠が入り込んだだけだ、気にせず食事でもしているといい」
レオンは玄関へ向かって歩いて行く、その顔は薄ら笑いを浮かべていた。
屋敷に消えた男女を見送ってどれだけ時間が経っただろうか、周囲は薄暗くなり幻術によって姿が見えなくなっている男、ロッソは行動を開始する。
幻術によって姿を消せると言っても、それは姿を消せるだけで気配や音までは消せない。よって行動するときは周辺の状況などを確認して行動する必要があった。
「これだけ暗くなってくればよほどの事じゃないと俺を認識できるやつは居ないだろう」
ニヤつく笑みを隠さずに、幻術によって周囲からは見えてはいないが。屋敷の門を僅かに開け侵入を開始する。
「さーどの部屋でお楽しみなんですかねーどんなプレイしてるんですかねー」
当初の任務の事など忘れ下賎な笑みを浮かべ屋敷の窓を見渡しながら散策を開始する。
もし下賎な感情など無く任務を真面目にこなしていれば、オリハルコン級冒険者チームの実力者として周囲を気にして行動していた事だろう。
しかし、ロッソは目の前の建物にしか意識が向いていなかったが故に周囲の草が倒れていく事に気がつかない。自身の足音は日々の経験でたたない様に出来ている、だが、それでも僅かながら発生してしまう。しかし、草が倒れ近づいてくる何かの物音は一切聞こえてこなかった。
「んー2階の窓からは明かりが見えないな、1階でお楽しみなのか…ん?」
突如右腕が動かなくなる、腕の方へ顔を向けると手首は見えるが、肩下から手首までは何も見えなかった。
「え、な、!?ぎゃああああああ!!??」
突然右腕がロッソ自身の頭上よりも高い位置に『持っていかれる』、その瞬間右腕に感じた事のないほどの痛みが走る。
頭上より高く上がった右腕から血が流れ出し血しぶきがロッソの顔へ飛び散る。
「がぁああああ!?いてぇぇ!!なんだよ!?あぁああ!!!」
謎の痛みに悶えながらも右腕の見えない部分へ左手で触れるが何か大きな物で挟まれている事を理解する。
「なんなんだよぉ!?くそ!くそがぁぁぁぁ!」
必死に暴れながらも見えない何かを叩き外そうとするが、硬い何かを叩いている感覚は有るがソレが外れる様子は無い。
「がぁぁ!!あぁぁ!いてぇぇ!!「品の無い悲鳴だな」あぁぁ!?」
ロッソは話し掛けて来た人物、レオンが屋敷の扉から出てきたことに気付いていなかった、いや幾らオリハルコン級冒険者だと言っても腕が鋭い何かと万力で挟まれたような力で押しつぶされれば周囲を気にする余裕など無いのだろう。
「これは!お前が仕掛けたトラップかぁぁぁ!!!」
「トラップ…そうだな、まあトラップの一種になるんだろうな」
痛みに悶えるロッソを前にゆっくり考えるレオン、だがレオンが現れてもロッソを襲う痛みは緩むことは無い。
「これをはずせ!はやく!」
「ん?なぜ?お前は俺が城を出てからずっと後を付け回していたじゃないか、何故そんなストーカーを逃してやらねば成らない?」
「お前、気付いていたのか!?」
「アレでばれないとでも?あの程度じゃ俺からは普通に丸見えだぞ」
ロッソは驚愕し顔色が悪くなる、自身の幻術が見破れたことなど一度も無かったのだ、それがこの男には丸見えだった?そんな事ありえるのか?
「なぜ、そんな、どうやって…」
「アイテムを使っているからな、姿を隠したいならカーディナルぐらいすることだ」
そういうとレオンは右手の指を鳴らす。
ロッソは自身の首後ろに生暖かい息が当たるのが分かった、右腕の痛みを原因を知るべく目を向けるとそこにあったのは赤黒い毛に覆われた巨大な獣に噛み付かれている右腕だった。
「な!なんだこいつわぁぁぁ!?ひ!?顔が!顔が2つ!?2匹!?」
「あぁ、余りやかましいと憲兵が寄ってくるかもしれないな
「お!おい!レオン・D・ファンション!この獣に腕を離すように言え!早く!」
「なんだ、俺の名前を知ってたのか、なぜストーカーのお前を助けるようなことをしなくちゃならない?」
「お、俺は!オリハルコン級冒険者!朱の雫のメンバーだ!国王の命でお前をつけていた!今なら水に流してやる!だから!早く!!」
最早自身が何を口走っているのか分かって居ないのだろう、この状況であれば敵であるレオンに所属、依頼主の事を言うなど本来であれば有ってはならないことだ。
「なんだ、最近のこそ泥は国王の遣いだ何ていうのが流行っているのか?普通に考えてみればあやしすぎるだろ?」
「違う!嘘じゃない!」
「どうやって信じ…どうした?食事をしておけと言った筈だが?」
レオンは扉の方へ振り向くと扉を開け怯えるツアレが居た、その顔は青白くなり恐怖で全身が震えているのが見て分かる。
「ツアレ、怖いのであればこんな所へ来てはいけない」
「は、はい、ご、ごめん、な、な、さい」
恐怖でまともに言葉を喋る事もできないのだろう。立っている事が奇跡とも思えるほどだ。
「はぁ、カーディナル、
そう言うとツアレを抱きかかえると屋敷の中へと戻っていった。
「おい!まて!俺を助け!?いがぎゃぁぁぁ!?」
カーディナルにとってロッソの発言は耐え難い物なのだろう、歯軋りする様に顎を動かすと牙が深く入り込み傷口が広がり激痛がロッソを襲う。
「やめ!助け!!!」
外から聞こえる悲鳴を無視し抱かかえたツアレをリビングの椅子へと座らせる。
しかし恐怖からなのか体の震えが止まる様子は無い、レオンはしゃがみ込みツアレの顔を覗き込む。しかしツアレはレオンを見ようとはしない。
「どうした、何故出てきたんだ?怖かったんだろ?」
「ご、ごめん、なさい」
「もうこそ泥もカーディナルも居ない、怖くないぞ?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「落ち着け、なにが怖いんだ?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「っち」
レオンはツアレの反応が変わらないことに苛立ちを覚える、最初は賊に、次はカーディナルに怯えていたのかと思ったが屋敷の中に入れても怯えが収まらないのでは話にならない。
「たく、
今までの震えが落ち着きレオンの方へと顔を向ける。
「どうした?何が怖いんだ?屋敷の中には賊も
「いえ、確かに賊も、獣も怖かったんですが、私が1番怖いと思ったのは別です」
「ん?それなら何が怖いんだ?」
レオンは考える、賊とカーディナルが怖くないと成れば他に何を怖がるモノが有るのだろう、屋敷の中にお化けでも出たのだろうか。
「それは、レオン様の目が怖いのです」
「―――」
レオンにとって何よりも予想しなかった返答であった。
怖い?自分が?なぜ?今までの行動で怖がらせる事があっただろうか?
「俺の…目が怖い?」
「はい、レオン様の私を見る目が怖いんです」
「それは…こそ泥を前にしていたからか?それとも俺が男だからか?」
「いえ、賊を前にする前よりも、それに下品な目をしていた貴族達などとは違います」
分からない、ツアレが何を言っているのか分からない。
「じゃあ何が怖いんだ?」
「レオン様は、屋敷に来るまで違和感を感じていました、でも、先程分かりました。それは、私を見ているときの目が、まるで人間では無い様に感じました」
人間ではない…汗が噴き出すのがわかる、それ以上の言葉を聴きたくない。
「どう、いうふうに?」
「まるでバケモノが人間を見ているように感じます」
ツアレの言葉が心の奥底に染込んでいくのが分かる。
「バケモノ…バケモノ…そうか、バケモノか」
レオンは立ち上がり天を仰ぐ、その顔は狂喜に満ち溢れていた。
「ふ、ふふふ!ははは!バケモノ!なるほど!なるほど!!俺は人間を辞めていたと言う事か!」
レオンは人間の見た目をしている。
「カルネ村でゴブリンやオーガを殺して罪悪感が無かったのはモンスターだったからではなく!」
ユグドラシルから転移し、自身の育てたキャラクター。レオン・D・ファンションがただ強かったのではなく。
「俺が今まで人間を殺して罪悪感を覚えなかったのはそういう事か!」
レオン・D・ファンションが人の見た目をしているだけに過ぎなかった。
「ラナーを助けるために男共と住人が死んでも罪悪感が無かったのは助ける為だったからでは無く!」
『レオン・D・ファンション』それは
「帝国の兵を惨殺しても!戦争だったから仕方なかったでは無く!俺が人間である事を棄ててしまったからだったと言う事か!!」
人の見た目をしていても所詮それはただ『人の形をしているだけ』
「く、くくはははは!そうか俺は名実共にバケモノだったと言う事か!」
そうレオン・D・ファンションは、異形種である。
「こいつは傑作だ!ツアレ!俺が怖いか!」
「はい」
「そうか、ではどうすれば俺は怖くない?俺はどうすれば人間に戻れる…いや『人間を演じる』事ができる?」
ツアレは考える、人間を演じるなど考えたことが無い。
「…笑ってくださればいいと思います」
「笑う?俺は笑ったりしているぞ?」
「心から笑われていないように感じました」
「心から笑う…ああ、そういえば戦争が終わってから心のどこかですれ違う連中、話す連中をゴミの様に思ってたな」
レオンの相手を見る時、無意識だが2つの感情あった『興味が無いモノ』『自分の所有物』
「そうか、今のままじゃエンリに怖がられちまうな、モモンガ君にも引かれちまうかもしれないな」
レオンは笑うその笑顔は満面に喜悦の色を浮かべていた。
「なら俺は道化になろう、俺は幻影の王、幻とは偽りのモノ、ならば俺は全てを騙そう。この俺ですら騙してしまおう、あぁ常に笑い続けよう」
「だからツアレ、俺を恐れるな、俺を見て笑え」
「はい、分かりました」
「お前は俺の
今回のお話はレオンさんに転機?が訪れるお話でした。
レオンさんが今後どう変わっていくのか、お楽しみに。
アインズ様との絡みが書けなくて辛いので過去変は後数話で終わらせます。
早かったら5話以内には終わるかな?終わったらいいなー