皆様はこのミステリーを解けるかな?(何が?
日も沈み日中の喧騒は鳴りを潜め明かりの漏れる民家からは家族団らんの声が、酒場であろう建物からは仕事終わりであろうか男達の陽気な笑い声が聞こえてくる。
そんな町並みを背に2台の馬車が数人の護衛を連れ王都を出立した。
1台の馬車は豪華な装飾が施され権力者で有ることを物語っている。しかしもう1台の馬車は商人や冒険者などが使用している荷物を運搬している荷車よりはマシであろう風貌である。まるで前を行く馬車の荷物が載っているかのようだ。
「リットン様、本当に宜しいのですか?この様な時間からご自宅に戻られるのは少々危険なのではないでしょうか?」
先を走る馬車の中には男が2人、ローブを羽織ったマジックキャスターの男が不安を隠せず主へ伺いを立てている。
「問題は有るまい、毎年であればこの時期は稼ぎ手を失った愚民共が野盗などを結成していたが、今年は我が国、特に王都の兵士や民に被害は皆無。賊になるような者共は居まい…わが領土の兵を失ったのは痛手だがコレが手に入った事を考えればそれも惜しくは無い」
主であるリットンはお抱えのマジックキャスターの不安など気にも留めず、今日手に要れたばかりの
「ところで、お前に聞きたい、
「適正金額でありますか?そうですね…無効化できる回数は3回、そして無効化できる魔法の位は第五位階まで、そして見た事も無い見事な装飾…私個人としての見解は金貨三千枚…いえ、それでも足りないでしょうか」
金貨3000枚、その枚数は大貴族ですら即支払える枚数の粋を超えている。基より魔法無効という能力が一度きりだとしても金貨数百枚は下らない、それが三回。
そして何よりもの付加価値は『第五位階までの無効化』この内容は逸脱者であるマジックキャスター、フールーダ・パラダインの攻撃ですら無効にできると言う事を意味する。
「は!はは!やはりそれ程の価値があったか、予想道理だ!お前が国宝クラスと言った瞬間にそれなりの価値は予想はしたが…まさかそれ程とは!」
自身が手に入れたマジックアイテムの価値を再確認し破顔する。
「で、では何故あの時金貨300枚と仰られたのですか?正直仰られた金貨の枚数に驚いてしまったのですが」
そうあの時マジックキャスターが驚いたのは国宝級だと言ったにもかかわらず、リットンの提示した金額は金貨300枚まで。吹っ掛けた金額にしても流石にどうかしていると思ってしまったのだ。
「ん?そんなの簡単だ、あの男は自分の手にしている物が国宝級だと言われたのに何の驚きも見せなかった、それは価値を知っている者か理解出来ていない愚か者のどちらかだ。そして国宝級のアイテムを城の中でしか生活していない姫…小娘にくれてやると言うのだぞ?ならば答えは1つ。価値を理解できない愚か者だと言う事だ」
あの瞬間リットンはレオンがどれ程の
「な、なるほど。流石はリットン伯爵様、その様なお考えがあっての事だったとは考えもしませんでした」
「はっはっは!コレが知者というものだ!しかし…私の後ろをついて回ることしか脳が無い者だと思っていたが、あの男もたまには使えるものだな」
リットンは自分達の後ろを付いて来ているみすぼらしい馬車に乗る男の事を考える、事実リットンはレオンの要求であったメイドに関しては金貨一枚も係わっていない。言うなればタダ同然でブレスレットを手に入れた様なものだ。
「ふん…少しはあのみすぼらしい馬車では無くもっと良い馬車を借り、買うことができるだけの資金くらい出してやっても良いかも知れんな」
他の大貴族達より一歩上に立てるであろうブレスレットを眺め、手に入れる切っ掛けを作った男にも何か褒美でも与えることを考えるのだった。
しかし良い事ばかり続かないのがこの世の摂理である、馬車の中に居る3人には当然気付く事が出来ず。周囲を護衛する兵士4人もこれから起こる惨劇など知る由も無かった。
「くそが!なぜこの俺の妾を奪われたと言うのにあのブレスレットが俺の手元に無いんだ!あれ程の…金貨数百枚の価値の物が有れば我が家とて大貴族に名を連ねる事も出来るかも知れないと言うのに!あー!くそが!」
今日はリットン伯爵が王都へ出向くと聞き、なにかおこぼれでも良いから少しでも良い思いが出来ないか、そして若い
「俺のモノが無くなっただけで何も手に入ってないではないか!帰りは馬車まで違うなんて!くそ!六大貴族だからといって好き勝手しやがって!覚えておけよ!いつかお前よりのし上って見下してやる!…あ?馬車が止まった?」
イーノが乗っている馬車の内装は外観同様設備が整っておらず、車輪の振動は直接伝わってくるような物だ。故に大きい石に乗り上げれば中に乗っているイーノが宙に浮くこともある。
「何をやっている!早く出さないか!」
苛立ちを隠そうともせず中から馬車の御者へ怒鳴り散らすも返答が一向に聞こえない。
「なんだ?何か有ったのか?もしや野盗か!?お!おい!護衛の者は何をやっている!私を守れ!」
馬車の中からでは外の様子は窺えない。いや、そもそも確認出来たとしてもこの男は自身で確認するような事などしないだろう。
馬車が止まりイーノは不安に駆られるが馬車の扉が軋む音を上げゆっくりと開く、そこには王国の鎧を着ているが黒い外装を纏った男が立っていた。
イーノは護衛の兵にこの様な見た目の男が居たか考えるが、そもそも護衛の兵など気にして見ていなかった為、思い出すことが出来なかった。
しかし、目の前に立っている男は王国の鎧を着ている、ならば貴族で有る自分より格下の者であると判断する。
「おい!貴様!誰の許しを得てこの俺の前に立っている!何故馬車が止まったのだ!?早く説明せよ!」
イーノの言葉に答えるように鎧を着た男は腰に刺していた剣を抜いた、その刀身は返り血で赤黒く輝いていた。
「ひ!?な、何をしている!?俺は貴族だぞ!お前達のような兵士が冗談で剣を向けて良い相手じゃないんだぞ!?」
威勢よく兵士へ向かって吠えるも逃げ場を求め後ずさるもここは馬車の中、扉は1つしかない、後ろに下がった所でもう早逃げ場など無かった。
「やめ、来るな、来るな!」
目の前の男が剣を構え喉元へ突き刺す。場所が狭い室内だが振り被らず自身の勢いを乗せた突きにイーノの首は成すすべなく下へ落ちて行った。
「何が起こった…なぜ馬車が止まったと言うのに御者も護衛の兵も何も言って来ない」
前を走っていた馬車の中でも違和感に気付きマジックキャスターの後ろに隠れるリットン、マジックキャスターの男にとっても今の状況はけっしていい状況ではない。
本来マジックキャスターは前衛が居て相手との距離をとった状態での戦闘を主に得意とする、これほど狭い室内で、それも相手との距離や位置が不明な状態では下手に魔法を発動することなど出来ない。
「くそ!何がどうなっている!おい!早く周囲を確認して…いや!やはり私の元から離れるな!まだここは王都からそれ程離れてはいないはずだ!何か異変があれば見回りをしている兵士や冒険者が気付くかも知れん!」
王都から近ければ確かに異変を察知して兵士達が駆けつけてくる可能性も有るだろう。しかし、それは王都の兵士達から確認できたらと言う事でも有る。既に日は落ちて静寂と暗闇が周囲を覆いつくしてしまっている。
「リットン様、周囲を確認しなくてはこの状況は打破出来ないかと思いますが」
「ばかもの!もし賊が我々を出てくるのを扉の前で待っていたらどうするのだ!」
「しかし…「リットン伯爵!お怪我はありませんか!?」ここだ!我々は無事だ!」
「失礼致します!」
そう言って扉を開け入ってきたのはフードを深く被った王国兵だった、外装や中に見える鎧には所々返り血が付いている。
「此方へどうぞ、賊によって馬が殺されており護衛の者も殺されてしまいましたが、私が何とか追い払ったので今の内に王都へと帰還しましょう!」
「よ、よし!よくやった!では追っ手が来る前に逃げるとしよう!」
「で、ですがリットン様!イーノ様は!?」
「知ったことか!早くしなければ我々も殺されてしまうかも知れないのだぞ!?」
「残念ながらもう一台の馬車に乗られていたイーノ様はもう…」
兵士の言葉で全てを理解し2人は急いで馬車を降り王都の明かりが見える方角へと走る。
兵士が夜道を先導し走っているがマジックキャスターの男にはどうしても腑に落ちない事があった。
目の前の兵士は賊を追い払ったと言ったがそれにしては音が聞こえなさ過ぎたのだ、確かに馬や護衛の者が何者かによって殺されていたが、兵士4人、御者2人、そしてイーノの計7人を殺したと言うのに音が一切聞こえてこなかった、いくら六大貴族の乗る馬車と言っても周囲の音が聞こえない事等有り得ない。
マジックキャスターはリットンの近くへ寄り疑問を告げることにした。
「リットン様、やはりあの男どこかきな臭いのですが!?」
前を走る兵士が突然踵を返したかと思うと手に持っていた剣を投げつけてきた、咄嗟の出来事に判断が遅れ剣先はマジックキャスターの胸を貫いていた。
「あっが、お逃げください」
リットンには何が起こったのか分からなかった、突然前を走る兵士が振り返ったかと思えば横を走っていたマジックキャスターに剣が刺さり息絶えた。
何故自分がこの様な目にあわなくてはならないのか、今日は国王からエ・ランテルで失った兵の弔いとしての報酬を貰い、
「お、お前の望みは何だ?金か?金ならやるぞ?ほら!金貨が50枚は入っている!これだけあれば好きなだけ遊べるぞ!」
男の前に金貨の入った袋を投げ捨てる、男はその袋を拾いリットンの方へと歩き始める。
しかしリットンは金貨50枚を与えれば見逃してもらえると思ったのだろう、近付いて来る兵士に怯え元来た方向ではなく森の中へと逃げ出す。
「くそ!何故だ!?何故私がこんな目に合わねばならない!」
後ろを振り返らずただ闇雲に森の中を駆け抜ける、後ろから兵士が追ってきているのかなど分からない、だが何が何でも生き延びたかった、あの場所から逃げたかった。
「な!?ぎゃ!いつつ…は!?」
闇雲に前だけを見て走っていた為に足が絡まり勢い良く転倒してしまった。後ろを振り返るとそこには先程の兵士が剣を抜いて立っていた。
マジックキャスターの血だろうか、月明かりに照らされ剣先から血が滴り落ちるのが更に恐怖心を煽る。
「ひ!来るな!来るな!」
兵士はゆっくりと近付いて来る、死を覚悟し下半身が生暖かく濡れているのが分かる。
そんな時、遠くの方から声が聞こえてきた、偶然にも城門の上で見回りをしていた兵士が悲鳴に気付きやって来たのだ。
その声に気付いたのはリットンだけではなく、兵士も歩みを止め声の聞こえる方角を眺めていた。
「は、はは!これでお前もおしまいだな!おい!ここだ!私はここに居るぞ!助けてくれ!」
「っち」
リットン安堵し傲慢な態度に苛立ちを覚えたのか舌打ちをすると逃げるのではなく、手に持っていた剣を両手で頭上へと構えた。
咄嗟に頭を庇う為に両手を前に出すも、兵士は躊躇無く剣をリットンへと振り下ろした。
「ひ!…あ?ああ!腕が、腕がぁぁぁ!?」
振り下ろされた剣はリットンの左腕を切り落とした。
兵士は切り落とした左腕を拾い、腕についているブレスレットを外し奪い取って行く。
「まてぇ!それは、それは私のものだぁぁ!」
痛みに耐え地面にのたうちながらも兵士を見上げる。
そんなリットンに止めを刺すべく剣を振り被ろうとするも、救援にやって来たであろう兵士の足音や声が近づいてきた。
目の前の兵士は声のする方角を見ると流石に状況が悪くなってきたのかリットンの方を一瞥すると急いで森の奥へと走り去って行く。
その瞬間フードが捲り上がり男の素顔が月明かりに晒される事となった。
「な!?アイツは!そうか、そうか!覚えておけ!必ずこの苦しみは返してやるからな!」
王都から駆けつけた兵士達が見たのは傷口を押さえ不適に笑うリットン伯爵であった。
ミステリーなど無い!(こら
ああリットン伯爵、良い事はいつまでも続くものではないのです、ええ本当に。
リットン伯爵が見た兵士の正体とは一体!
もしかしたら次回で過去編が!ついに!ついに!
予定は未定…慈悲など無い!