冒険って…始まるまで大変なんですね!
ほんの一瞬で見ていた景色が変わる、先程まで王都の冒険者組合に居たというのにレオンの手を掴んだと思えば既に周りは見慣れない街並みだ。
「エ・ランテルの冒険者組合に堂々と来れる貴方の度胸がすごいと思うわ」
「ん?そうか?」
彼は私の心配など露知らず、エ・ランテルの住人の視線など気にも留めていない。
「ラキュースは
「カッツェ平野での依頼では拠点として利用した事は何度か有るけど、私は基本的に王都周辺での依頼が多いからエ・ランテルに来る事はそこまで無いわね」
至極当然な事だ、王都から距離があるのだからわざわざ
自分達アダマンタイト級冒険者が必要だと判断された時だけ出向けば良いのなのだから。
「そういう貴方は如何なの?まあ
「まあこっそり来た事は何度かあるかな?それに来ても基本長居はしないな」
『長居はしない』理由は恐らくだが分かる。10年前の戦争が原因なのだらろう。
「ここがエ・ランテルの冒険者組合か、建物は王都の組合とそこまで違いはないんだな」
「それはそうよ、組合の建物なんて何処も同じようなものよ?組合の雰囲気というのは様々だとは思うけど」
組合の中に入ると視線が自分に集まってくるのが分かる、驚きの声が聞こえてくる。最近は王都の冒険者組合では少なくなってきた反応だ。
王国には2組のアダマンタイト級冒険者のチームがあるけど、そのどちらも王都を拠点に活動しているものね。初めて
「あんれー?居ない…おかしいな」
「まだ来てないだけじゃないかしら?」
「いや、時間はきっちり守る人だから間違いなく来てるはず。俺の方が登録で手間取って待たせてる側の人間だ」
「依頼を受けて先に出発してるんじゃないの?」
「あー待たせ過ぎたから可能性は有るな。俺ならすぐ追いついてくると思うだろうし、ちょっと受付で聞いてくるわ」
レオンが受付へ行き1人になると周囲の話し声もよく聞こえてくる。
『アレがアダマンタイト級冒険者…やっぱり雰囲気が違うな』
『蒼の薔薇のリーダー、話には聞いていたけど本当に美人だな』
『どうしてエ・ランテルなんかに?』
『そらーお前…なんでだろ?』
『一緒に居た男の護衛じゃないのか?カッパーのプレート着けてたみたいだし』
『カッパーの冒険者がアダマンタイト級冒険者に護衛を頼むって…そんなのありか?よっぽどの金持ちじゃないと無理だろ』
『あー貴族のボンボンが冒険者になったからそのおもりって事か?』
『けっ、貴族様の遊びって事かよ』
(随分な言われようね、確かに貴族が良いように思われていないのも事実。だけど勝手な憶測だけで悪評を立てられるのも腹立たしいし、一言言って来ようかしら)
その声の主に一言文句を言いに行こうとするとラキュースの前に1人の男が現れた。
「これはこれは、アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』のラキュースさん。今日は如何なさいましたか?」
「あら、アインザックさん」
ラキュースに声をかけてきた男の名は『プルトン・アインザック』エ・ランテルの冒険者組合の組合長。
彼がラキュースに近付くと噂話をしていた者達が一斉に口を閉じた。アインザックとラキュースがどの様な会話をするのか聞き耳をたてる為ではない、彼らにとって噂話よりも冒険者組合長であるアインザックに目を付けられる方が問題なのだ。
「今日は友人の付き添いで来ただけです、蒼の薔薇としての依頼できたわけではありません」
「付き添い?何か困難な依頼内容でも来ていたのかな?アダマンタイト級冒険者を同行させるような依頼は聞いてはいないが…」
「そんな大袈裟なことでは無いです。今日冒険者になった友人のお目付役の様なものです」
(成る程、ラキュースさんは元々貴族の出身。なら友人とは言っているが何処かの貴族かも知れんな、お目付役と言うのも実際のところはその貴族が死なない様に護衛することが目的なのかも知れんな)
「それはそれは、アダマンタイト級冒険者から直々に教えを受けれるなど…羨ましい限りですな」
(王都の組合では無くわざわざエ・ランテルまでやって来たのは貴族としての面子を保つためか。王都周辺で怪我をしたりしたら噂がすぐさま広がる恐れがある。それにラキュースさんに護衛をして貰ったと言うことを隠すためだろう)
アインザックはラキュースの連れて来た人物への危険度を心の中で上げて行く。相手が本当に貴族なら注意が必要だ、下手に怪我を負って組合に難癖を付けられる恐れがある。全ての貴族がそうであるとは言わないが貴族とは曲者揃いだと言う事だ。
「いやー本当に依頼を受けて出発した後だったわ」
2人が話をしていると肩を落としレオンが近づいてくる、アインザックは目の前の男を観察し始める。貴族の顔を多く知っているわけでは無いが何処かで見たことがある気がするのだ。
身に付けているローブはとてもでは無いがカッパーの冒険者が身に付けている様なものでは無く、少なくともオリハルコンやミスリルの冒険者が身に付けている程の作りをしている。腰にはローブで隠れどの様な形状の物かは判断できないが4本の剣が確認できる。
「あら、置いてけぼりね。それよりもレオン挨拶を、こちらエ・ランテルの冒険者組合長のプルトン・アインザックさんよ」
「なんと、これは大変失礼しました。本日より冒険者に成ったばかりのひよっ子ですがどうぞお見知り置きを。名をレオン・D・ファンションと申します」
レオンが名乗ると周囲のざわつきが一層大きくなった、このエ・ランテルでその名を知らない者など居ないと言っても過言でも無い。10年前の戦争、あの出来事は未だに語り継がれている。
それは良くも悪くも。
「レオン・D・ファンション…まさか第三王女様の!?こ、これは『エ・ランテルの英雄』殿とお会い出来るなど思ってもおりませんでした」
「エ・ランテルの英雄ねぇ…その様な大層な肩書きを頂けるような男では無いですよ。何より今の私はカッパーの冒険者です、1人の冒険者として扱って頂けると嬉しいです。色々とご教授頂きたいのですが友人を待たせておりますのでこれで失礼します」
そう言うとラキュースの腕を取り入口へと向かう、レオンの発言や行動に周囲のざわつきが落ち着く様子は無い。カッパーの冒険者がアダマンタイト級冒険者を連れて来ただけでなく、カッパーの冒険者が第三王女お抱えの護衛であり、その護衛は10年前に起こったバハルス帝国の侵略を止めた英雄なのだ。周囲が驚くのも仕方のない事だろう。
「ちょ、ちょっと!?友人がどこに行ったのか分かっているの?そもそも今から追いかけて間に合うの?」
「なんでも薬師の人から名指しの依頼を受けたらしいんだわ、んで目的地の場所も聞いたからさくっと追いかけて合流するぞ」
2人が組合を出て行った後に残されたのは様々な憶測の声、『護衛を辞めたのか?』『王女様の命令なのか?』『ラキュースとはどの様な関係なのか?』『英雄と呼ばれているのにカッパーの冒険者なのか?』『友人って一体誰だ?』組合の中が熱気に包まれつつあるがそこはアインザックによって収まるだろう。
「あれが噂に聞く『エ・ランテルの英雄』か…いや…『エ・ランテルのー』」
お話を読まれて、ラキュースさんとレオンさん一緒に居る時点でレオンさんの顔知っている人が気付くだろ?って思う方いらっしゃると思いますが…有名人の横で立っていると意外と気付かれません。
ええ、本当に気付かれないものなんです。