笛の音が聞こえたのでモモンガ達は村の中央へとやってきた。アインズとしてはデスナイトとの繋がりで今の状況は何となくだが掴めていた。
レベル35程度のモンスターにここまで苦戦するものなのだろうか?この村を襲った兵が極端に弱いことも想定できるが、レオンが先ほど一般兵はこの程度だと言っていた事から推測できるのはどの国も一般兵と呼ばれる連中はデスナイト一体ですらまともに相手が出来ないほど脆弱だということだ。
だが逆に考えれば一般兵ではなく将軍クラスなどは一般兵とは比べ物にならないほど強者である可能性だ、国がどれほどの強者を保有しているかは分からないが国と戦争をすることになった場合アインズはナザリックを守ることが出来るのだろうか、今の状況では詳しい戦力差が分からないが注意しておくのが得策だろう。
アインズはレオンの後姿を見ながら今やるべきことを考える。
(なぜかレオンさんは兵の力を理解している様子だった…こっちの世界に来てまだ三日だというのにレオンさんは早くもこの世界の状況を理解したというのか?やっぱりレオンさんに状況の共有をしてもらわないとな)
「いたいた、村人は一箇所に纏められてるみたいだな。兵士もここから見えるのは7人か、デスナイトとアルカディアに襲われてそれだけ残ってたらまだ運がよかったほうだな、聞きたいこともあるし全滅して無くてよかった。」
「レオンさん1つ聞きたいのですが、この世界はアンデットの自分が普通に接しても問題ないのでしょうか?」
「あー村の連中は俺の友人だって言えば何とか納得してくれそうだけど流石に骨は見えない様にした方が良いかも知れないね。てかアインズ君なんで今更そんな事聞くの?さっきも全身鎧のこと詳しく知らなかったみたいだし…何処か遠くのここら辺じゃない国に転移してたの?」
レオンとしても先ほどからのアインズとの会話に違和感を覚えていたのだ、周辺国家の名前を理解していない、一般兵の強さを理解していない、この世界での異形種の見た目でのめんどくささを。
これではまるで――
「どういうことですか?私達はナザリック大墳墓ごとこの森の奥に転移してきたばかりですよ、レオンさんも3日前にナザリックの中に転移して来たばかりじゃないんですか?」
レオンはアインズの言葉に頭を抱えていた。まさに自分が予想した言葉が返ってきたようだった。
「まじかーやっぱりそういう事か…うわーまじかよ」
「いかがなさいましたレオン様?」
レオンは1人状況が理解出来たようだが、アインズとアルベドは置いてけぼりだ。
「レオンさんどういう「モモンガ君!」は、はい!」
「モモンガ君じゃなかった、アインズ君取りあえずこの村の問題を片付けてからお互いの情報を交換しよう。そして俺の方が話すことが多いことが分かったから、それについても色々教えよう、だからまずは骨の部分を隠してくれるかな?」
アインズはまだ状況が理解できないがまずは村の問題を片付けるのは同感だ、村を助けてやら無いと落ち着いて話も出来ないだろう。それにレオンはこの村と交流があるような口ぶりでもあったのだから友人としてはなんとしても村を救ってやらなくてはという気持ちにもなる。
「そうですね、では顔はこれでも着けておきますか」
そういうとアインズは空間に手を入れある種呪われた仮面『嫉妬マスク』を取り出した。
「嫉妬マスクって…なんか他にチョイス無かった?俺あんまりそれに良い思い出無いんだけど」
「なに言ってるんですか?レオンさんはギルドの中でも数少ない非所有者じゃないですか。いやだなー所有してない方が良い思い出無いとか冗談止めてくださいよ」
「それだよ!たっちさんの持ってない理由と俺の持ってない理由が違うのは何回も言ってるでしょ!?クリスマスが終わってからログインしてみたらいきなり悪者扱いだったの今でも覚えてるんだからね!?」
『嫉妬マスク』それは非リア充の証…クリスマスにリアルで誰とも過ごせなかった者が手に入れることが出来るある意味名誉あるアイテム…特に仮面自体に効果があるわけではないが。持っていない者は一定時間ユグドラシルにログインしていなかったという証明になるのだ。
アインズはもちろん所有しているが、レオンは所有していないのだ。だがアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーリア充代表のたっちみーは当然家族と過ごすためログインしていなかったのだが。
「毎年クリスマスは仕事だって毎回言ってるでしょ!?リア充相手にシェイカー振って商売してたよ!」
レオンのリアルでの職業はバーテンダーなのだ、クリスマスなどのイベントは稼ぎ時であり当然仕事など休めないのだ。
だが仕事が終わってログインしてみたらマスクの持っていない者としてマスク所有メンバーから色々言われたのだ。
「いやーそれを誰も証明できないので真実は分からないですよね」
アインズは笑いながらマスクを着けガンレットも取り出し着けていく。
「ひっでー…だからそのマスク良い思い出無いんだよ」
レオンも苦笑いをしつつ村へと歩き始める、立ち止まり話している間に生き残っていた兵士の数が3人まで減っていたのだ。
「あ、やばいなこのままじゃ全滅されちゃう。アインズ君早く行こう『
レオンは慌てつつ『
上空から見て分かったのは兵士だった物が奇妙な形をして転がっていたり真っ二つになり地面に黒いシミを作り転がっているのと所々地面が焦げている場所が有る事だ、切られたり転がっている遺体はデスナイトが遊んだ跡だろう、焦げた跡はアルカディアが炎のブレスで燃やしたのだろう。
アインズは惨劇の中空に来るとできるだけ威厳のある声で指示を出す。
「デスナイトよご苦労、そこまでだ」
「アルカディアももういいぞよくやった」
デスナイト達に指示が出て動きが止まったことによって兵たちは一瞬希望を持ったがアインズ達を見て喜びは絶望へ変わって言ったのだった。
「さて、諸君はじめまして、まだ戦いたいというのであれば構わないが…投降するのであればその態度はいかがなものかな?」
アインズが問い掛けると兵士たちは一斉に剣を地面へと投げ捨てた。
「ふむ、素直でよろしい。レオンさん如何しますか?」
「そうだな、どこかに縛り付けておくのが一番だろうけど。デスナイトが見ていたら逃げる気をなくすだろから。アインズ君悪いんだけど適当に尋問しといてもらえるかな?俺は向こうに集まってる村人の中にエンリたちの両親がいるか確認するつ
いでに村長と話してくるよ」
そう言い残してレオンは村人のほうへ歩いていった。たしかにこの村の者と顔見知りのレオンが話しをする方が無駄な手間が省けるのだ。ならこの連中から色々と聞き出すのはアインズの仕事だろう。詳しく聞いたところでまだアインズには分からない事が多すぎるが。
「さて、お前たちは何処の所属なのかな?」
アインズの問いに対して兵士たちはお互い顔を見合す、まず命乞いをするべきなのか、それとも素直に聞かれたことを話すべきなのだろうか。
「もちろん嘘をつくのであれば待っているのは死だがな」
「い、いいます。本当の事を言います!」
アインズが軽く脅すだけで震えているのカチカチと全身鎧のこすれる音が聞こえてくる。
「じ、自分たちはスレイン法国の兵です」
(スレイン法国ってまた知らない国の名前じゃないか、レオンさんは紋章がなんとか帝国のだろうて言ってたけど、スレイン法国の偽装だったって事でいいのかな?)
「ふむ、その紋章は帝国の物だと思ったが?」
「国の命令で帝国の鎧で騒ぎを起こす様に言われていました。本当です!」
「なるほど、まあこの状況でお前たちが嘘をつくメリットが見当たらないな。いいだろうここで大人しく動かなければ助かるだろう。だがもし少しでも逃げるような素振りをみせたら」
アインズはそう言ってデスナイトを見る、兵士達はその意味が分かったのだろう。項垂れながら地面へと座り込んだ。
(やれやれ演技も疲れるな、でも兵達の正体も分かったしレオンさんに伝えておくとするか)
レオンの方へ向かうと1人の男性と話しをしていた、見たところ40台のにも見えるのであの男が先ほどの姉妹の父親という可能性もあるがレオンの顔には哀傷が漂っているようにも感じられた。
「レオンさん如何しました?」
アインズがレオンに近づき声を掛けると村人の視線がアインズへと向けられる、その視線には様々な感情が入り乱れていた。その顔にも恐怖、驚愕などの感情が多く見て取れた。先ほどまで自分達を襲っていた兵達を惨殺したデスナイトに指示をしていたのだ、ならば今目の前に現れた謎の人物に恐れを抱くのは弱者として必然の行為なのだろう。
「ああ、アインズ君。村長、村のみんな、紹介するよ俺がずっと探していた友人のアインズ・ウール・ゴウンだ、彼に手伝って貰いながら兵を倒していたんだ」
村人はまだ安心しきった様子ではないがレオンの友人という言葉を聴いて薄っすらと安どの表情を浮かべていた。少なくとも素性の知れない強者から、自分達の知っている人物の友人へと認識が変わったのだろう、アインズへの恐怖はまだ有るだろうが村を救ってくれた恩人程度には思ってもらえるだろう。
「皆さん始めまして、レオンさんから紹介がありましたアインズ・ウール・ゴウンと言います」
「このたびは村を救っていただき有難うございます」
「いえいえ、私はレオンさんのお手伝いをしたまでですよ」
「取り合えず村長、いったんエンリ達をむかえに言ってくるよ。まだ森に残してきているから、色々話したいこともあるから後で話そう」
「分かりました…」
アインズとレオンは2人並んで森のほうへと歩き始め座り込んでいる兵を見る。
「アルベドよデスナイトと共にこの兵達を見張っておけ」
「は!畏まりました」
森のほうへと歩いているがレオンの足は何処と無く重そうだった。何処と無く横顔は姉妹に会うのが気鬱になっている様だった。
「…レオンさんあの姉妹を連れてくるのでしたら私が行ってきましょうか?骸骨の顔を見られているので記憶操作が有効なら口止めをしておこうと思うので」
「いや、大丈夫俺も行くよ…そうだね、記憶操作は問題なく行えるから念のために最初からその仮面を被っていた事にしよう」
「………」
「………」
2人の間に重い空気が漂う。姉妹の近くまでレオンもアインズも言葉を発しなかった、レオンは何かを考えている様子でアインズも空気を読み何と声を掛けるべきか決めかねていたのだ。
「さっき集まっていた村人の中にはエンリ達の両親は見付からなくてね…何人かに聞いてみたら殺されるのを目撃したと言う人物が居て…エンリの両親、エモット家は俺が大分前から交流が…贔屓にしていた家族でね…」
「そうですか…なら復活させるのはどうですか?手元にアイテムが無いのでしたら私の持っている『
アインズとしてはこの世界でユグドラシルのアイテムが手に入るか分からない現状での使用は躊躇われるが友人の為ならば惜しくはない。
「蘇生も考えたんだけどね…村人に見られているのが問題なんだ、誰にも見られていなければ蘇生して上げたいんだが」
2人だけ蘇生した場合当然不満が発生するのだ、数十人単位で人が死んだのであれば1人を復活させた場合他の亡くなった人も復活させなくてはならない。そうしなかったら復活させた者の家族は今後この村で暮しにくくなるだろう、他の者達からの不満や嫉妬などはなくなることは無いだろうから。
「まあエンリ達にはできるだけ支援をしていくつもりだよ、色々考えも有るから」
「なら出来る限りお手伝いしますよ」
(アンデットになって人の死と言うものが遠く感じているんだろうか、レオンさんの話を聞いていても余り悲しいと言う感情が無い。会った事も無い人物と言うこともあるんだろうけど兵達を殺しても何も思わなかったという事はやはり外見だけでなく心まで人間を辞めてしまったのだろうか)
その後エンリ達を村に連れて帰り村長に被害の状況を聞いていると葬儀があるとの事なので村長達と別れアインズとレオンは少し離れた場所で状況の共有を始めていた。
「レオンさんは本当に葬儀に出なくてよかったんですか?」
「さすがに沢山の村人がなくなったんだ、部外者の俺は離れておくよ。人が少なくなった位に行ってくるよ…それよりもアインズ君は俺に聞きたいことが沢山あるんじゃないのかな?」
その通りだ、アインズからするとレオンは異常なのだ、言動などは今までと変わりは無いがそうではない。3日にこの世界に転移して来たとしては有り得ないほどに情報を持っているのだ。それはまるで転移する前からこの世界の情報を持っていたかのようだった。
「ええ、教えてくれますかこの世界について、この状況について」
「いいよ、まずは何が知りたい?沢山あっても知りたい順番があるだろ?」
「ではまず第1にここはやはりユグドラシルではないのですね?」
「答えはイエスだここは俺達の知っているユグドラシルと言うMMORPGの世界ではない」
「では第2になぜレオンさんは私達と違う場所に転移したんでしょうか?」
「恐らくだけど俺はユグドラシルのサービス終了の時に指輪で転移したことが関係していると思っているんだ、だから転移した時にただ1人ナザリックから弾き出された原因だと考えた、これはさっきアインズ君がアルベドを連れて来て今までの会話から確証になった感じだけどね」
アインズはなるほどと思う、確かに指輪で転移した瞬間に転移が発生したとしたら軸や座標などがズレたと仮定してもおかしくは無い。
「では第3に…なぜレオンさんはそれほど情報を持っているのですか?元いた世界で既ににこの世界の情報を知っていたんですか?」
「その質問に答える前に俺からも聞きたい事があるんだ…モモンガ君、君は冒険をしたいと思わないか?あの頃のように未知を探求したいと思わないかい?」
あの頃、未知…確かにユグドラシルでは何もない状況でギルドのメンバー達と手探りに冒険していた、そしてそれはかけがえの無い思い出だ。だがこの世界で無知である事は大丈夫なのだろうか。不安だが同時に未知の冒険と言うのは確かに心躍る言葉では有る。
「確かに現状で何も知らないと言うのはとても不安ですが冒険と言うのはしてみたいと思います、またあの時の様な冒険が出来るのであればやってみたいです」
「君ならそういうと思ったよ、なら俺が君に教えるのは俺の知っている情報全てではなく最低限にしておこう。と言ってもこの世界について全て理解している訳ではないんだけどね。」
レオンは嬉しそうにしながらアインズと向き合った。返ってくる返答が分かっていたように。
「では質問の答え合わせだ。俺は元いた世界ではこの世界のことなんてこれっぽっちも知らなかった。ではなぜ俺がこの世界のことを知っていたのか?答えは至極簡単なことさ、アインズ君は『俺達は3日前に転移して来た』と言ったね?それは違う、君達は3日前にこの世界に来たかもしれないが。俺は『10年前』にこの世界に転移してきたんだよ」
「は?」
「簡単なことだっただろ?10年も先に転移していれば3日前に来た人より情報が多くて当たり前だと言うことさ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!そんな事がありえるんですか!?」
アインズは信じられなかった、自分が何処か別の世界に転移したという事だけでもあり得ないのに、ただ1人だけさらに10年前に転移したなんてもう理解がついていかない。
「現に今までのアインズ君との会話で分かったのはそういう事なんだよ、不思議なこともあるものだね」
レオンはそういうものだよと笑っていた、もはや本人は納得しているようだった。
「ええ…そんな感じで良いんですか」
「良いんだよ、また会えることが出来たんだから、それだけで俺はよかったんだよ」
その後アインズはレオンからこの村『カルネ村』の位置を教えてもらったり周辺の国の名前や都市などの情報を教えてもらった。
「そろそろナザリックに帰りますか。レオンさんも戻ってこられるんですよね?」
「あーその事なんだけどね、ナザリックに戻りたいには戻りたいんだけど…」
レオンが言いよどんでいると村長が数人の村人を連れ申し訳なさそうに歩いてきた。なにか厄介ごとがまた出来たと言わんばかりの雰囲気だった。
「レオン様、この村に騎士風の者達が近づいているらしく…勝手なお願いで申し訳ないのですが」
「んーあーはいはい、良いよ対処しましょ。アインズ君は如何する?下がっとく?」
流石にこの村に直接関係の無いアインズにこれ以上迷惑を掛けるのは気が引けるのだろう。レオンが困った顔をしながら尋ねる。
「いえいえ、かまいませんよ。ここまで来たら最後までお手伝いしますよ。では村長殿の家に生き残った村人を集めて下さい。村長殿は私達と一緒に村の入り口でその集団を待つという形でどうでしょうか」
「んじゃそれで行きましょう、村の皆に連絡してもらえる?村長は今から俺達と行きますか」
アインズの提案を受け村人が走って掛けて行った、先ほど襲撃を受けたばかりだろうか顔は怯えていたが行動は早かった、悲劇は繰り返したくないのだろう。
アインズたちが村の入り口に着くとレオンはなにやら小さい声でつぶやき始めた。
「レオンさん何をしているんですか?」
「いや、クリュプトンのスキル使って能力をペロロンチーノに切り替えたんだよ、そんでスキル『
『
「さてと、何処の所属かな?……げ!?マジか!?」
レオンはスキルを発動したとたん落ち着きが無くなった、予想していなかった集団だったのだろうか。それとも自分達よりも強者だと言うのだろうか。
「どうしたんですかレオンさん!まさかそれほどの強者だったんですか!?」
アインズの言葉に村長は震え上がっていた、まさかこの村は今度こそ本当に滅ぼされてしまうのではないかと。こんな所でたっているべきではなく、急いでこの場から逃げるべきではと考え始めた。
「いや、違うんだ。何て言えばいいかな、取り合えず強さはまったく問題ないよ。俺たちが負ける要素は無いくらいなんだけど…個人的な理由で今あの集団に会うわけにはいかないんだよね」
「では本気で戦う必要は無いんですね?」
「そんな必要はないよ、彼の場合は俺達と戦闘になることは絶対に無いから安心して」
戦闘にならないという言葉を聞いた村長の顔から不安が和らいでいった、だが戦闘にならないというのは如何いうことなのだろうか、そしてレオンが会えない理由とはいったい。
「んーーー…よし!村長、俺は今日この村に来ていない。そしてこの村を救ったのはたまたま居合わせた旅人のアインズ・ウール・ゴウンさん達。そしてアインズ君は俺と友人では無く顔見知りでも無い。この設定でいこう、拒否は認めません!以上!」
レオンは村長の家に隠れとくから。と言い残して転移で消えていった。
アインズと村長はあっけに取られていたが、レオンが居なくなった以上言われたと通りにするしかないのだろう。幸い戦闘になることは無いとの事だ。なら相手がどの様な人物なのかじっくり観察するとしよう。